不動産売買契約書と重要事項説明書のポイント解説

法律相談カテゴリー
A.売買契約(契約書・瑕疵・仲介・解除etc)

不動産に関する取引が行われる際には、実際に不動産の売買契約が締結されるまでに、買主及び売主の双方が様々な情報収集や交渉等を行っています。
そして、その集大成として売買契約を締結することになる訳ですから、その契約書の内容に不備がないようにする必要がありますし、不動産売買契約を締結する際には、重要事項説明書による説明が求められます。

一般的に不動産売買契約は、大きな金額が伴うものであるため、事後的なトラブルをできる限り防ぎ、トラブルが起きてしまった場合にも、不測の損害を被らないように、最大限の注意を払う必要があります。
そこで、不動産売買契約書には過不足なく契約の内容を定める必要がありますし、重要事項説明書も同様に、説明が求められる事項をカバーしている必要があります。
紛争になった際に、最も重要となる2つの書面になりますので、今回は売買契約書及び重要事項説明書について解説をさせていただきます。

1.重要事項説明書とは何か

(1)重要事項説明書が不可欠なものとされている理由

重要事項説明書とは、その名前が示すとおり、不動産売買契約の内容について、重要だと考えられる事項を説明する書面です。そして、この書面は、売主が買主に対して作成するのではなく、不動産売買についての専門家である宅建業者から宅地建物取引士によって作成されるものです。
つまり、不動産売買契約の専門家が、素人である売主や買主が売買契約の内容を正確に理解するために作成する書面であり、十分な知識をもたない契約当事者が不測の損害を被ることがないように、法律がその書面の作成を求めているのです(宅地建物取引業法第35条)。

(2)宅建業者の責任

十分な知識を持たない方であっても、安心して不動産売買契約を締結できるように、法律が宅建業者に作成を求めている書面ですから、宅建業者がその責任を十分に果たさなかった場合には、重大なペナルティが課されることになります。

宅地建物取引業法

第35条
1項 宅地建物取引業者は、宅地若しくは建物の売買…の各当事者…に対して、その者が取得し…ようとしている宅地又は建物に関し、その売買…の契約が成立するまでの間に、宅地建物取引士をして、少なくとも次に掲げる事項について、これらの事項を記載した書面…を交付して説明をさせなければならない。

第65条
2項 国土交通大臣又は都道府県知事は、その免許を受けた宅地建物取引業者が次の各号のいずれかに該当する場合においては、当該宅地建物取引業者に対し、1年以内の期間を定めて、その業務の全部又は一部の停止を命ずることができる。
2号 …第35条第1項から第3項まで…の規定に違反したとき。

第66条
1項 国土交通大臣又は都道府県知事は、その免許を受けた宅地建物取引業者が次の各号のいずれかに該当する場合においては、当該免許を取り消さなければならない。
9号 前条第2項各号のいずれかに該当し情状が特に重いとき…

つまり、重要事項説明書によって説明すべき内容を説明できなかった場合等には、業務停止命令を受ける可能性があるばかりでなく、その内容が悪質な場合には、免許を取り消されることさえあるのです。
また、このような行政処分だけでなく、重要事項説明書による説明が誤っていたことなどによって、不動産売買契約の当事者に損害が生じてしまった場合、宅建業者に賠償責任が認められることもありますし、もともと高額な取引であることが多いので、その金額は高額なものとなってしまいます。

2.重要事項説明書の内容

(1)法律上の定め

では、具体的に、重要事項説明書では、どのような内容についての記載が求められるのでしょうか。基本的な内容については、法律で定められていますので、しっかりと確認しておく必要があります。

宅地建物取引業法

第35条1項
1号 当該宅地又は建物の上に存する登記された権利の種類及び内容並びに登記名義人又は登記簿の表題部に記録された所有者の氏名…

2号 都市計画法、建築基準法その他の法令に基づく制限で契約内容の別…に応じて政令で定めるものに関する事項の概要

3号 当該契約が建物の貸借の契約以外のものであるときは、私道に関する負担に関する事項

4号 飲用水、電気及びガスの供給並びに排水のための施設の整備の状況(これらの施設が整備されていない場合においては、その整備の見通し及びその整備についての特別の負担に関する事項)

5号 当該宅地又は建物が宅地の造成又は建築に関する工事の完了前のものであるときは、その完了時における形状、構造その他国土交通省令・内閣府令で定める事項

6号 当該建物が建物の区分所有等に関する法律(昭和三十七年法律第六十九号)第2条第1項に規定する区分所有権の目的であるものであるときは、当該建物を所有するための一棟の建物の敷地に関する権利の種類及び内容、同条第四項に規定する共用部分に関する規約の定めその他の一棟の建物又はその敷地…に関する権利及びこれらの管理又は使用に関する事項で契約内容の別に応じて国土交通省令・内閣府令で定めるもの

6号の2 当該建物が既存の建物であるときは、次に掲げる事項

イ 建物状況調査…を実施しているかどうか、及びこれを実施している場合におけるその結果の概要

ロ 設計図書、点検記録その他の建物の建築及び維持保全の状況に関する 書類で国土交通省令で定めるものの保存の状況

7号 代金、交換差金及び借賃以外に授受される金銭の額及び当該金銭の授受の目的

8号 契約の解除に関する事項

9号 損害賠償額の予定又は違約金に関する事項

10号 第41条第1項に規定する手付金等を受領しようとする場合における同条又は第41条の2の規定による措置の概要

11号 支払金又は預り金…を受領しようとする場合において、同号の規定による保証の措置その他国土交通省令・内閣府令で定める保全措置を講ずるかどうか、及びその措置を講ずる場合におけるその措置の概要

12号 代金又は交換差金に関する金銭の貸借のあっせんの内容及び当該あっせんに係る金銭の貸借が成立しないときの措置

13号 当該宅地又は建物が種類又は品質に関して契約の内容に適合しない場合におけるその不適合を担保すべき責任の履行に関し保証保険契約の締結その他の措置で国土交通省令・内閣府令で定めるものを講ずるかどうか、及びその措置を講ずる場合におけるその措置の概要

14号 その他宅地建物取引業者の相手方等の利益の保護の必要性及び契約内容の別を勘案して、次のイ又はロに掲げる場合の区分に応じ、それぞれ当該イ又はロに定める命令で定める事項

イ 事業を営む場合以外の場合において宅地又は建物を買い、又は借りよ うとする個人である宅地建物取引業者の相手方等の利益の保護に資する事項を定める場合 国土交通省令・内閣府令

ロ イに規定する事項以外の事項を定める場合 国土交通省令

を用いる場合などについては、更なる説明が必要である旨を法律は定めています。

(2)具体的に説明が求められる基準

また、上述したように、重要事項説明書は、不動産売買契約の素人である契約当事者に、その契約内容を正確に理解させるために作成するものですから、難しい内容を難しいまま説明するのでは意味がありません。
さらに、法律が説明を求めているのは、一般的に不動産売買契約において重大な関心事だと考えられている内容に過ぎず、不動産売買契約を締結する動機は、買主や売主にとって区々ですから、一般的には重要な事項ではないと考えられている内容であっても、個別の不動産売買契約によっては、丁寧な説明が求められる内容と扱うべきものもあり得るのです。
このように、重要事項説明書を用いた説明は、非常に重要なものとして位置づけられておりますが、過度な責任を宅建業者に課することがないように、国土交通省はガイドラインを定めています。
また、同省HP(https://www.mlit.go.jp/totikensangyo/const/1_6_bt_000268.html)では、重要事項説明書の様式例についても公開しており、参考になるものと考えられます。
なお、不動産売買契約の当事者に説明をするといっても、宅建業者は不動産売買契約等の取引の専門家であるに過ぎず、その不動産の瑕疵等についても直ちに判断できるという訳ではありません。内容によっては、他の専門家による調査をしなければ判明しない事項もあります。
買主としても、全ての内容について詳細な説明を求めている訳では無く、リスクは承知の上で購入することもあります。ですから、全ての事項について完璧な説明が求められる訳ではなく、ハッキリとした説明ができない部分については、不明である旨を説明すれば足りる場合もあるのです。このような場合は、買主等に、リスクを十分に理解させることが目的となると言えるでしょう。

3.重要事項説明書を作成する際の注意点

まず、重要事項説明書において、不動産売買契約の内容を説明するにあたっては、適切な資料に基づいて行う必要があります。
例えば、東京地判昭和59年2月24日の裁判例は、不動産賃貸借の事案ではありますが「一か月前に被告(貸主)から受領した本件店舗の登記簿謄本を過信し、本件店舗の権利関係の再調査をせず、そのため、本件店舗の真の所有者…に気付かず、同被告が本件店舗の権利者であることを前提として物件説明書を作成し、これを信頼した原告に本件賃貸借契約等を仲介したものということができる…したがって、被告会社の本件仲介行為には、過失(義務違反)があるといえるから、原告に対し、これによって被った損害を賠償する責任を負う。」と判示しています。
既に調査済みであっても、重要事項説明書を作成する段階で変動している可能性のある事項については、再度調査を行うべきといえるでしょう。
また、極めて基本的なことですが、不動産売買契約の対象についても、正確に特定する必要があります。登記簿を確認するだけでは、未登記の建物についての扱いがハッキリしませんし、工作物として扱われている車庫等が存在する場合についても、買主が不動産と共に取得したものと解されるのか、売主が撤去しなければならないのかによって、事後的に紛争のもとになるおそれがあるのです。

4.重要事項説明書と売買契約書の差異

このように、重要事項説明書は実務上も法律上も極めて重要な書面と扱われており、不動産売買契約において重要な内容は基本的に網羅されていると言え、不動産売買契約書に記載される内容と重複する事項がほとんどです。契約書に記載すべき内容として、法律上に定められている内容を確認してみましょう。

宅地建物取引業法

第37条
1項 宅地建物取引業者は、宅地又は建物の売買又は交換に関し、自ら当事者として契約を締結したときはその相手方に、当事者を代理して契約を締結したときはその相手方及び代理を依頼した者に、その媒介により契約が成立したときは当該契約の各当事者に、遅滞なく、次に掲げる事項を記載した書面を交付しなければならない。

1号 当事者の氏名(法人にあつては、その名称)及び住所

2号 当該宅地の所在、地番その他当該宅地を特定するために必要な表示 又は当該建物の所在、種類、構造その他当該建物を特定するために必要な表示

2号の2 当該建物が既存の建物であるときは、建物の構造耐力上主要な 部分等の状況について当事者の双方が確認した事項

3号 代金又は交換差金の額並びにその支払の時期及び方法

4号 宅地又は建物の引渡しの時期

5号 移転登記の申請の時期

6号 代金及び交換差金以外の金銭の授受に関する定めがあるときは、そ の額並びに当該金銭の授受の時期及び目的

7号 契約の解除に関する定めがあるときは、その内容

8号 損害賠償額の予定又は違約金に関する定めがあるときは、その内容

9号 代金又は交換差金についての金銭の貸借のあつせんに関する定めがある場合においては、当該あつせんに係る金銭の貸借が成立しないときの措置

10号 天災その他不可抗力による損害の負担に関する定めがあるとき は、その内容

11号 当該宅地若しくは建物が種類若しくは品質に関して契約の内容に適合しない場合におけるその不適合を担保すべき責任又は当該責任の履行に関して講ずべき保証保険契約の締結その他の措置についての定めがあるときは、その内容

12号 当該宅地又は建物に係る租税その他の公課の負担に関する定めがあるときは、その内容

この条文は、契約書について、上述した内容が記載されている書面を交付することを求めているだけで、その内容についての説明については求めていません。
したがって、重要事項説明書と比較すると、法律が要求するハードルは低いように感じられます。
しかしながら、重要事項説明書は、不動産売買契約を締結する過程で、各当事者にその内容を正確に理解させるための手段に過ぎず、その不動産契約の内容については、契約書の定めによって定まることになりますし、事後的に紛争が発生した場合、最も基本的な証拠として契約書は扱われることになります。
ですから、重要事項説明書で説明した内容について、祖語のないようにしっかりと書面化しておき、事後的な紛争を防ぐ必要があるのです。

5.売買契約書を作成する際の注意点

このように、売買契約書を作成する際には、事後的に紛争が発生した際の証拠として用いることのできるように、重要事項説明書で説明した内容について、しっかりと書面化しておくことが望ましいものと言えます。
また、通常の場合、不動産売買契約書の作成日に、全ての代金が支払われ、不動産が買主に引き渡される訳ではありません。残代金の決済日等について定める必要がありますから、そのような期日についても明確に定める必要があります。不動産売買契約書の締結によって、不動産売買取引が全て終わる訳ではありませんから、その後の手続を円滑に行えるように工夫する必要があります。そのためには、各当事者の手続的な負担に考慮しつつ、可能な限り迅速に全ての手続を終えることができるような日程を設定する必要があるでしょう。
さらに、土地と共に建物を一緒に取引するような不動産売買契約については、建物の価格をどうするのかという点についても検討する必要があります。土地と併せた不動産全体の価格だけに気を取られていてはいけないのです。
それは、土地には消費税がかかりませんが、建物には消費税がかかります。建物の価格を安くして、土地の価格を高くすることで、消費税の金額を下げることが可能になるのです。一方で、建物価格については減価償却が可能ですから、当事者の意向を十分に斟酌して定める必要もありますし、あまりにも不合理な価格設定とした場合には税務署に否認される可能性もありますから、価格設定の合理性も必要となるのです。

6.まとめ

以上のように、重要事項説明書による説明と不動産売買契約の作成は、不動産売買取引において極めて重要な手続となりますし、法律によって、説明内容や記載内容が詳細に定められていますから、細心の注意を払って取り組む必要があります。
一方で、この手続を適切に行う事ができれば、不動産売買取引を円滑に終了させることができます。ですから、重要事項説明書による説明や売買契約書の作成について御心配なことがありましたら、悩みを放置して先に進めるのではなく、一度専門家に御相談されることをお勧めいたします。

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