震災で建物が滅失すると借地権はどうなる?滅失後の対処法などを解説

借地権は、建物の所有目的で土地を借りる権利です。借地契約の存続期間は、長期間におよぶため、契約期間中に建物の老朽化などにより建物が滅失してしまうこともあります。このような場合、借地権の効力にはどのような影響が生じるのでしょうか。
また、近年、地震などの災害が増えてきていますが、大規模災害により建物が滅失した場合、借地人は、特別な法律による保護を受けられる可能性もあります。
今回は、震災で建物が滅失した場合の借地権への影響と建物滅失後の対処法について、わかりやすく解説します。

1、借地上の建物が滅失すると借地権はどうなる?


弁護士
荒川 香遥
借地上の建物が滅失してしまった場合、借地権にはどのような影響が生じるのでしょうか。

(1)建物の滅失とは

建物の滅失とは、建物としての効用を喪失した状態をいいます。たとえば、建物が崩落している場合は滅失にあたりますが、建物が一応建っている状態であっても日常使用に耐え得る状態に修繕することが難しい状態だと滅失といえるでしょう。

(2)建物が滅失しても借地権は消滅しない

借地権は、建物所有の目的で土地を借りる権利ですので、その目的である建物が滅失すると借地権も消滅するように思えます。
しかし、実際には借地上の建物が滅失したとしても、借地権が消滅することはありません。借地借家法では、借地上の建物が滅失したとしても、借地人が任意に建物を建築してよいことを前提とした規定が設けられているのがその根拠です。
ただし、建物の滅失は、借地権の効力に影響はないとしても、後述するような借地権の対抗力に影響を及ぼしますので、その点には注意が必要です。

(3)滅失後に再建築することも可能

借地上の建物が滅失した場合、建物を再築できるかどうかは、借地契約が当初の存続期間内であるか、更新後であるかによって対応が異なってきます。

①当初の存続期間内の再築の場合

当初の存続期間内は、借地契約で予定されている範囲において、借地人が土地を利用することを当然の前提としています。そのため、建物が滅失したとしても、当初の存続期間内であれば、再築は可能です。
この場合、地主の承諾があれば、承諾日または再築日のいずれか早い日から20年間、借地権の期間が延長されます(借地借家法7条1項)。他方、地主の承諾がなくても、借地人からの通知に対して異議がなければ承諾があったものとみなされ、同様に借地権の期間が延長されます(借地借家法7条2項)。

②更新後の再築の場合

借地契約を更新後に建物が滅失し、再築する場合には、原則として、地主の承諾がなければ建物の再築をすることはできません。
地主の承諾が得られない場合には、裁判所から地主の承諾に代わる許可を得ることで、建物の再築が可能になりますが、そのためには借地非訟の手続きが必要になります。

2、建物滅失後の暫定的対抗力の制度


弁護士
荒川 香遥
借地上の建物が滅失しても借地権は、消滅することはありませんが、借地権の対抗力が失われてしまいます。借地借家法では、借地権の対抗力が失われて不利益を被る借地人を保護するために、建物の滅失後の暫定的対抗力の制度を定めています。

(1)建物滅失により対抗力が消滅

借地権は、借地権の登記をしていなかったとしても、借地上の建物の登記をしていれば第三者に対抗することができます。これを借地権の対抗力といいます。
借地権に対抗力が認められれば、地主が第三者に土地を売却したとしても、新たな土地の所有者に対して、借地権があることを主張することが可能です。
しかし、借地上の建物が滅失してしまうと、建物の登記が残っていたとしても無効ですので、借地権の対抗力が失われてしまいます。

(2)土地上に一定の事項を掲示することで対抗力が生じる

借地上の建物が滅失してしまった場合には、原則として、借地権の対抗力が失われてしまいますが、これでは建物を再築しようとする借地人にとって大きな不利益が生じるおそれがあります。
そこで、借地借家法では、このような借地人の不利益を救済する目的で、暫定的対抗力の制度を設けています。暫定的対抗力の制度とは、借地上の建物が滅失してしまったとしても、

を土地上の見やすい場所に掲示したときは、借地上の建物の登記と同様の対抗力を有するという制度です。ただし、暫定的対抗力の制度は、建物滅失から2年を経過すると消滅してしまいますので、借地人はその前に建物を再築して、建物の登記を行う必要があります。

(3)掲示すべき事項とは

暫定的対抗力の制度では、どのような事項を掲示する必要があるのでしょうか。以下では、掲示すべき具体的な内容を説明します。

①建物特定に必要な事項

建物特定に必要な事項とは、建物登記の表示事項としての以下の内容になります。

②滅失があった日

暫定的対抗力の効力は、建物の滅失日から2年間になりますので、起算点を明らかにするために建物の滅失日の掲示が必要になります。

③建物を新たに築造する旨

暫定的対抗力の制度は、建物の再築の意欲がある借地人を保護する制度です。そのため、新たに建物を築造する旨を掲示する必要があります。

3、大規模災害による建物滅失の場合の特例


弁護士
荒川 香遥
借地上の建物が大規模災害により滅失した場合には、「大規模な災害の被災地における借地借家に関する特別措置法」(被災地借地借家法)により、特別な保護を受けられる可能性があります。

(1)借地契約の解約の申し入れ

被災地借地借家法が適用される特定大規模災害は、政令によって指定されます。
借地人は、政令の施行日から起算して1年間は、地主に対して、借地契約の解約の申し入れをすることができます。そして、解約の申し入れから3か月を経過すると借地権は消滅します。

(2)対抗力の特例

借地上の建物が滅失した場合には、原則として、借地権の対抗力は失われます。
しかし、被災地借地借家法が適用される場合、政令の施行日から起算して6か月を経過する日までは、借地権に対抗力の特例が認められます。
また、借地上の見やすい場所に
・建物を特定するために必要な事項
・建物を新たに築造する旨
を掲示すれば、政令施行日から起算して3年間、借地権の対抗力が認められます。

(3)借地権の譲渡・転貸について地主の承諾に代わる許可

地主が借地権の譲渡・転貸を承諾しない場合、裁判所は、借地人の申立てにより、借地権の譲渡・転貸について地主の承諾に代わる許可を与えることができます。この許可の申立てができるのは、被災地借地借家法の適用を定めた政令の施行日から起算して1年間です。

4、借地権の対抗力に関する裁判例の紹介


弁護士
荒川 香遥
借地上の建物が滅失した場合、借地権の対抗力をめぐってトラブルが生じるケースがあります。以下では、借地権の対抗力が問題になった裁判例を紹介します。

(1)東京地裁平成27年2月27日判決

この事案は、旧所有者の相続人(妻)から土地の持分の一部の贈与を受けた新所有者(夫)が借地人の対抗力の欠缺を主張した事案です。
裁判所は、以下の理由から新所有者には、借地人の対抗力の欠缺を主張する正当な利益を有しておらず、借地人に対抗できないと判断しました。
・従前より旧所有者と借地人との争いを認識して関与していたこと
・土地の取得は、売却のために所有者と交渉できるようにすることが目的であり、独立した所有者として土地の権利を取得し行使する意図がなかった
・取得した持分が極めて少なかった

(2)東京高裁平成21年5月14日判決

この事案は、Yの借地権の取得時効完成後に土地を強制競売により取得したXが登記の欠缺を主張した事案です。
裁判所は、以下のような理由から、Xは背信的悪意者に該当するとして、Yに対抗することができないと判断しました。
・競売事件記録上から借地権の取得時効を認定し得る占有がされてきた事実を認識することができること
・本件土地が通路として利用され、水道管などが埋設されており、借地人Yの建物の使用に不可欠なものであること
・係争中であるにもかかわらず、土地を封鎖するといった実力行使をしていること

5、まとめ


弁護士
荒川 香遥
当事務所までお気軽にご相談ください。

震災などで借地上の建物が滅失したとしても、借地権が消滅することはありません。しかし、借地上に登記した建物があることが借地権の対抗要件になりますので、建物が滅失してしまうと借地権の対抗力が失われてしまいます。そのような場合には、一定の事項を借地上に掲示することで、暫定的な対抗力が認められますので、建物の再築を予定している方は、早めに掲示を行うようにしましょう。
借地上の建物が滅失すると、借地権の対抗要件や再築にあたっての地主の承諾をめぐってトラブルになる可能性があります。そのようなトラブルに巻き込まれてしまった場合には、早めに弁護士に相談するのがおすすめです。ダーウィン法律事務所では、借地などの不動産に関する案件の取り扱いに力を入れております。不動産トラブルでお困りの方は、当事務所までお気軽にご相談ください。

この記事を監修した弁護士

荒川香遥
  • 弁護士法人 ダーウィン法律事務所 代表弁護士

    荒川 香遥

    ■東京弁護士会
    ■不動産法学会

    相続、不動産、宗教法務に深く精通しております。全国的にも珍しい公正証書遺言の無効判決を獲得するなど、相続案件について豊富な経験を有しております。また、自身も僧籍を有し、宗教法人法務にも精通しておりますので、相続の周辺業務であるお墓に関する問題も専門的に対応可能です。

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