A-5.重要事項説明と宅建業者の説明義務の程度

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本サイトの別のページにおいて、不動産売買契約における重要事項説明書の役割等について解説させていただきました。重要事項説明書において説明が求められる事項等についての詳細は、そちらのページを御確認いただければと思いますが、重要事項説明書で説明が求められる範囲は広範囲にわたっています。
一方で、重要事項説明書によって適切な説明がなされなかった場合には、民事上の賠償責任だけでなく、業務停止命令や免許取消の処分を受ける可能性があります。
ですから、重要事項説明書において説明が求められる内容や、その程度等については正確に理解しておく必要があるのです。
そこで、今回は、重要事項説明について、宅建業者が果たすべき説明義務の内容について解説させていただきます。

1.いつ、だれが重要事項説明書を用いた説明を行うか

まず、重要事項説明書の内容を確認する前に、その説明書を用いた説明がいつの段階で、そして誰によって求められるのかについて確認しましょう。

宅地建物取引業法

第35条1項
宅地建物取引業者は、宅地若しくは建物の売買、交換若しくは貸借の相手方若しくは代理を依頼した者又は宅地建物取引業者が行う媒介に係る売買、交換若しくは貸借の各当事者…に対して、その者が取得し、又は借りようとしている宅地又は建物に関し、その売買、交換又は貸借の契約が成立するまでの間に、宅地建物取引士をして、少なくとも次に掲げる事項について、これらの事項を記載した書面…を交付して説明をさせなければならない。

このように、当然のことではありますが、「契約が成立するまでの間」に重要事項説明書を用いた説明が求められますので、契約成立後に補充して説明をしても、同項の要求を満たしたことになりませんし、この説明は、「宅地建物取引士」によってなされなければならず、他の従業員等による説明に代替させることはできません。

2.重要事項説明書の内容

(1)重点を置くべきポイントは事案毎に異なる

重要事項説明書において説明が求められる事項については、宅地建物取引業法第35条1項等に具体的に列挙されています。この点については、こちらで解説させていただいておりますので、ご確認いただければと思います。

法35条1項だけでも14号まで説明すべき内容が列挙されていますので、説明すべき対象は少なくありません。一方で、建物の工事が完了していない場合についての規定(5号)や建物の区分所有権についての規定(6号)等、売買対象となる不動産が特定の種類の場合にのみ説明を求めているものも含まれていますし、登記名義人や所有者の氏名等の情報(1号)についての説明は複雑なものにはならないように思います。
そこで、説明の際には、売買契約の当事者に十分に理解させる必要性が高いポイントについてメリハリをつけて行うことが求められます。
そして、複雑なものにならないのではないかとお伝えした登記名義人等の情報についても、登記名義人と所有者が異なる場合には、既に売買契約の当事者がその事を把握しているとしても、十分な説明が求められることになるでしょうから、重要事項説明書を用いて説明する際に重点を置くべき箇所は、事案毎に判断する必要があります。

(2)問題となることが多い事項

買主が不動産を購入した後、当該不動産の再建築を予定しているような場合、敷地と道路の関係について、正確な説明が求められます。
例えば、道路の幅員や接道の長さ等によって、建築基準法上の制限が適用される可能性(2号)について十分に説明する必要がありますし、道路の幅員について説明する際には、建築基準法上の道路幅員の他にも、実際に現地で計測を行った結果である現況道路幅員や、行政が管理している公道の幅員である認定道路幅員等があることから、異なる数字を説明する必要があり、買主がこの点を理解できるように、必要に応じた説明が求められるのです。

(3)法第35条等に列挙されているもの以外の内容の説明

以上のとおり、法第35条1項の中で説明が求められている内容との関係においても、事案毎にその重要性を判断する必要があります。
そして、重要事項説明書において説明が求められる内容は、同項において説明が求められている事項に限られません。法第35条1項も「少なくとも次に掲げる事項」について説明が必須である旨を定めているのであって、同項で定めていない事項については説明が不要であることを定めている訳ではないのです。
この点は、法第47条の規定からも明らかです。

宅地建物取引業法

第47条
 宅地建物取引業者は、その業務に関して、宅地建物取引業者の相手方等に対し、次に掲げる行為をしてはならない。
1号 宅地若しくは建物の売買…の契約の締結について…その契約の申込みの撤回若しくは解除…を妨げるため、次のいずれかに該当する事項について、故意に事実を告げず、又は不実のことを告げる行為
イ 第35条第1項各号又は第2項各号に掲げる事項
ロ 第35条の2各号に掲げる事項
ハ 第37条第1項各号又は第2項各号(第1号を除く。)に掲げる事項
ニ イからハまでに掲げるもののほか、宅地若しくは建物の所在、規模、形質、現在若しくは将来の利用の制限、環境、交通等の利便、代金、借賃等の対価の額若しくは支払方法その他の取引条件又は当該宅地建物取引業者若しくは取引の関係者の資力若しくは信用に関する事項であって、宅地建物取引業者の相手方等の判断に重要な影響を及ぼすこととなるもの

つまり、法第35条等で列挙されている事項に加えて、「関係者の資力若しくは信用に関する事項」の内、重要なものについては、その説明を省く事で、宅地建物取引業法に違反してしまうことになるのです。
例えば、法第35条1項の中にも、第7号、第10号、第11号等、金銭に関する事項について定められていますが、代金の支払期日等、同項で説明事項とされていない内容も多く残されています。
売買契約書において記載される事項等もありますが、そのことを理由に重要事項説明書による説明を省略するのではなく、当事者の重要な関心事になり得る内容については、重要事項説明書による説明に含ませておくのが賢明だと言えるでしょう。

3.重要事項説明書による説明の程度

(1)未調査であることを説明すれば足りる場合も

説明すべき対象を正しく把握できた後は、その対象となるものについて、どこまでの説明が求められるのかが問題となります。そして、この説明の程度という点においても、事案毎に差異があり得るのです。
例えば、売買の目的物となっている土地及び建物の現況について、一見して明らかな問題がある場合には、売主からその点について特段の説明を受けていなくても、何らかの問題が生じている旨を説明する必要はあるものと解されますが、その目的物に隠れた瑕疵が存在しているようなケースにおいて、隠れた瑕疵を全て見つけ出して説明を行うまでの必要はありません。
公的機関による検査が実施されている場合には、その結果を前提として説明を行えば足り、そのような検査が行われていない場合には、検査が行われていない旨を説明すれば足ります。つまり、買主側に、そのようなリスクを有する不動産であることを十分に認識させることができれば、説明義務は十分に果たしているものといえるのです。
宅建業者には説明義務が課されており、その説明義務を果たす前提として、一定の調査義務も課されているものと言えます。しかしながら、その調査義務は、宅建業者の不動産取引に関する専門性によって認められるものですから、宅建業者に専門性が認められない不動産の瑕疵等についてまで必ず調査しなければいけないという訳ではないのです。

(2)専門分野については調査も求められる

以上のように、宅建業者の専門性とは無関係な内容については、宅建業者が調査をしなければならないという訳ではありませんが、その専門性の範囲内のものについては調査を行った上で説明を行う必要があります。
建築基準法との関係における建て替えの可否等については、宅建業者の専門分野になりますから、未調査である旨を説明するだけでは足りず、調査結果を十分に説明しなければなりません。
また、建築基準法等の国の法律だけでなく、特定の地域に存在する不動産との関係では、その土地の属する地方自治体の条例等による制限がある場合も考えられます。この場合も、問題となる条例の存在や、当該条例がその不動産に与える影響等について説明する必要があります。
しかしながら、その条例の内容全体を当事者に理解させるまでの必要はありませんから、条例の内容を説明する必要はなく、関係のない部分については、条例の条文を添付資料として添付するだけで足りることが多いでしょう。

(3)認識している事項については説明が求められる

このように、重要事項説明書の中で説明が求められる内容の中でも、宅建業者が調査を行ってまで正確な説明を行う必要があるかどうかについては差異があるのです。
一方で、宅建業者の専門外の事項であっても、売主側等から何らかの問題がある旨の報告を受けている場合には、そのことを敢えて秘匿することは許されません。当事者等から情報提供を受けている場合には、その内容についても正確に説明をする必要があります。
この点については、宅建業者として売買契約の当事者等と接する過程で入手した全ての情報を説明する必要がある訳ではありませんから、情報の取捨選択が重要になります。
例えば、心理的瑕疵として問題となることの多い、事故物件の扱いがあります。極めて近い時期に、売買の対象となっている不動産において自殺者が出ている場合は、その内容について説明する必要があることは分かり易いように思います。一方で、かなり昔に自殺者が出ていたという情報について、必ず説明しなければならないかというと、悩ましいところがあります。それは、自殺者が利用していた建物であるのか、当該建物が既に取り壊されているのか等、多くの事情を総合的に考慮して判断されることになります。
とはいえ、特定の時間が経過すれば、説明義務の範囲から外されるといった明確な基準がある訳では無いので、心理的瑕疵に関する事項については、基本的に説明事項の範囲内であるものと考えた方がいいでしょう。

4.まとめ

以上のように、重要事項説明書において説明が求められる内容は多岐にわたりますし、法律上で具体的に列挙されている内容だけにとどまりません。
一方で、その全ての内容について、宅建業者によって正確な調査が求められている訳でもなく、宅建業者の専門性の範囲内の事項について調査した内容に加えて、売買契約が締結されるまでの間に明らかとなった事項について説明すれば足ります。
重要事項説明書に関するトラブルは、不動産に関するトラブルの中で占める割合が非常に多いものといえます。逆に言えば、この点について適切な説明を行う事ができていれば、不要なトラブルを避けることができます。
重要事項説明書による説明さえ済んでしまえば、不動産売買取引に関する手続の終結は目の前ですから、定型文で済ますことなく、事案毎の特質を踏まえた上で臨んでいただければと思います。

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