供託とは?地主が借地の地代を受け取らない場合の対処法を解説

地主から土地を借りる際には、地代の支払いが必要になります。当初は、お互いに合意した地代の金額であったとしても、時間の経過とともに相場からかけ離れた金額になることもあります。そのような場合には、地主から地代の増額を求められます。

地主との交渉では、地代の金額に折り合いが付かず、地主が地代を受け取ってくれないという場合には、「供託」という手段により、地代の支払いを行うことができます。地代の未払いが続くと、借地契約を解除されるリスクもありますので、供託の利用も検討する必要があります。

今回は、地主が借地の地代を受け取らない場合における供託の手続きについて、わかりやすく解説します。

1、供託とは?|借地契約で供託が必要になる3つのケース


弁護士
荒川 香遥
供託とはどのような制度なのでしょうか。以下では、供託の概要と借地契約で供託が必要になる3つのケースについて説明します。

(1)供託とは

供託とは、金銭などを国家機関である供託所に提出し、供託所がその財産を債権者などに取得させることで法律上一定の目的を達成できる制度です。供託には、主に、以下の5つの種類があります。

このうち、借地の地代に関するトラブルでは、「弁済供託」という手段が用いられます。

弁済供託とは、債務者が債権者に対して、弁済すべき金銭その他の物を供託所に寄託することをいいます。借地人には、地主に対する賃料支払い義務がありますが、有効な弁済供託があれば、借地人の賃料債務は消滅し、債務不履行の責任を問われることはありません。

(2)借地契約で供託が必要になる3つのケース

借地契約で供託が必要になるケースとしては、主に以下の3つのケースが考えられます。

①地主による地代を受け取ってくれないケース

借地人が地代の支払いをしようとしたにもかかわらず、地主がその受領を拒んだケースが挙げられます。

たとえば、地主から地代の増額請求があったものの、借地人との間で金額の折り合いがつかない場合で、借地人から従来の地代の支払いがあったときに地主がそれを拒否するようなケースです。

これは、借地契約で供託が必要になる代表的なケースといえます。

②地主が行方不明になってしまったケース

地主が行方不明であったり、不在だったときは、借地人は、地代の支払いを行うことができません。このままでは地代の不払いを理由に借地契約を解除される可能性もありますので、弁済供託により地代を供託することができます。

③地主が死亡して誰に支払えばよいかわからないケース

借地契約は、長期間の契約になりますので、その間に地主が死亡してしまうことも少なくありません。地主が死亡したとしても借地契約は存続しますので、借地人は、地主の相続人に対して、地代の支払いをしなければなりません。

しかし、地主が死亡してその相続人が誰であるかがわからなければ、借地人は地代の支払いを行うことができません。また、地主の相続人がわかっていたとしても、複数の相続人から地代の支払い請求をうけると、誰に支払えばよいかわからないこともあります。

このようなケースでは、弁済供託を利用して、地代の支払いを行うことができます。

2、借地の地代を供託する手続き


弁護士
荒川 香遥
借地の地代を供託する場合には、以下のような手続きを行う必要があります。

(1)供託の要件

借地の地代は、本来は借地人から地主に対して支払われるものですので、借地人の意向だけで自由に供託ができるわけではありません。弁済供託を行うためには、以下のような供託原因が存在することが必要です。

①受領拒否

受領拒否とは、債務の本旨に従った弁済の提供をしたにもかかわらず、債権者からその受領を拒否されたことをいいます。具体的には、以下のようなケースがこれにあたります。

・地代の支払日に地主に地代を持参したものの、地代の値上げや土地の明渡要求などの理由で受領を拒否された

・地主との間で争いが生じており、あらかじめ地代の受領を拒否されているため、地代を持参しても受け取ってくれないことが明らか

②受領不能

受領不能とは、債権者が弁済を受領することができないことをいいます。具体的には、以下のようなケースがこれにあたります。

・地震により交通機関がストップしており、地主が約束の場所に来ることができない

・地主が行方不明になっているため、地主の自宅で地代を支払えない

・地主が制限行為能力者(未成年、被後見人)にあたる

③債権者不確知

債権者不確知とは、債権者が誰であるかがわからず、そのことについて弁済者に過失がないことをいいます。具体的には、以下のようなケースがこれにあたります。

・地主が死亡して誰が相続人になるかがわからない

・誰が債権者であるかについて現在係争中

(2)供託を行う場所

弁済供託は、債務の履行地にある供託所(法務局)で行わなければなりません。

借地契約において、借地の地代を地主に直接持参して支払う内容になっている場合には、地主の住所地にある供託所で行い、地主が借地人の自宅で来て支払う内容になっている場合には、借地人の住所地にある供託所で行います。

(3)供託をする際に必要なもの

弁済供託をする際には、以下の書類などが必要になります。

 

(4)供託の流れ

供託の手続きは、以下のような流れで行います。

①申請書の用紙に必要事項を記入

まずは、供託所に備え付けられている申請書の用紙に必要事項を記入し、供託者の住所氏名欄に押印したものを2通作成します。

②供託所に提出

申請書を作成が完了したら、その他の必要書類とともに供託所に提出します。

申請書のうち1通には、供託番号が記載され、申請者に交付されます。

③債権者に供託通知の送付

申請書の提出が無事完了すると、供託官により金銭等の供託物の受け入れ手続きに入ります。その後、供託物の受け入れ手続きが完了すると債権者に対して、供託通知が送付されます。

3、借地の地代に関する争いを解決する方法


弁護士
荒川 香遥
地代を供託することで地代の不払いによる債務不履行は回避することができます。しかし、あくまでも暫定的な措置ですので、地代の金額に関して争いがある場合には、以下のような方法で解決することができます。

(1)地主と借地権者との話し合い

地主との間で地代の金額に関して争いが生じた場合、まずは地主と借地権者との話し合いによってトラブルを解決します。地主側の増額をしたいという理由や経緯、借地人側の増額に応じられない理由などをお互いに話し合って、納得いく結論を見出すようにしましょう。

なお、話し合いにより地代の金額が決まるまでの間は、借地人は、自分が相当だと思う地代を弁済供託することで債務不履行を回避することができます。

(2)調停の申立て

当事者同士の話し合いで解決できない場合には、法的手続きにより地代の金額を決めることになります。地代に関する争いについては、調停前置主義がとられていますので、まずは簡易裁判所に民事調停の申立てをする必要があります。

民事調停では、借地の紛争に詳しい専門家が調停委員として関与しますので、当事者だけで話し合いをするよりもスムーズな解決が期待できます。

(3)地代等増減額請求訴訟の提起

調停が不成立になった場合には、訴訟を提起して、裁判所により地代の増額の可否を判断してもらう必要があります。

裁判の結果、地主の増額請求が認められると、増額請求時に遡って地代の増額が認められますので、借地人は未払い分の差額を支払わなければなりません。

4、借地に関するトラブルでお困りの方は弁護士に相談を


弁護士
荒川 香遥
借地に関するトラブルでお困りの方は、弁護士に相談することをおすすめします。

(1)弁済供託が可能なケースが判断してもらえる

地代の金額に争いがあるというだけでは、弁済供託の手続きを利用することができません。弁済供託は、受領拒否・受領不能・債権者不確知のうちいずれかの供託原因が存在する必要があります。

供託原因の有無は、法的判断が必要になりますので、まずは弁護士にご相談ください。弁護士が具体的な状況を踏まえて供託が可能であるかどうかを判断します。

(2)地主との交渉を任せることができる

地代の金額に争いがある場合には、まずは地主との話し合いが必要になります。

しかし、当事者同士で話し合いをするのは、お互いに感情的になってしまうこともあり、冷静な話し合いが難しいこともあります。弁護士であれば、法的観点から借地人側の正当性を地主に伝えることができますので、お互いに合意の上で円満に解決に至る可能性が高くなります。

ご自身で対応するのが難しいと感じた場合には、すぐに弁護士に相談するようにしましょう。

5、まとめ


弁護士
荒川 香遥
当事務所までお気軽にご相談ください。

借地人は、地代を弁済供託することで、地代の不払いによる債務不履行責任を免れることができますので、非常に便利な制度です。しかし、弁済供託をするには、供託原因が必要になりますので、どんなときでも弁済供託が認められるというわけではありません。

供託原因の有無については、専門家である弁護士による判断が必要になりますので、まずは借地問題に詳しい弁護士に相談することをおすすめします。ダーウィン法律事務所では、借地などの不動産に関する案件の取り扱いに力を入れております。不動産トラブルでお困りの方は、当事務所までお気軽にご相談ください。

この記事を監修した弁護士

荒川香遥
  • 弁護士法人 ダーウィン法律事務所 代表弁護士

    荒川 香遥

    ■東京弁護士会
    ■不動産法学会

    相続、不動産、宗教法務に深く精通しております。全国的にも珍しい公正証書遺言の無効判決を獲得するなど、相続案件について豊富な経験を有しております。また、自身も僧籍を有し、宗教法人法務にも精通しておりますので、相続の周辺業務であるお墓に関する問題も専門的に対応可能です。

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