不動産売買契約の瑕疵と契約不適合の認定基準

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不動産売買契約を締結し、不動産が引き渡された後、不動産に欠陥が見つかったことを理由に、買主から契約の解除や損害賠償を求められることがある点については、「瑕疵担保責任と解除」というコラムで解説させていただきました。瑕疵担保責任(契約不適合責任)という責任の性質や、この責任を理由に買主が請求できる権利等については、そちらのページを御確認ください。
今回は、どのような場合に瑕疵担保責任(契約不適合責任)が認められてしまうことになるのかについて、具体例と共に解説させていただきます。

1.瑕疵とは何か

瑕疵とは、取引対象となっている不動産が有する欠陥を意味する言葉です。この点について、改正前民法第570条は、「隠れた瑕疵」だけを瑕疵担保責任の対象としていました。それは、欠陥を有する不動産であっても、そのことを認識した上で取引を望む方は多くいらっしゃるでしょうし、その欠陥の存在が売買代金に反映されているようであれば、適切な取引ということができ、事後的に解除や損害賠償を認める必要がないからです。
ですから、瑕疵担保責任において問題となる「瑕疵」とは、買主が認識していなかった不動産の欠陥を意味するものと言えます。
改正民法第562条1項は、「種類、品質又は数量に関して契約の内容に適合しないものであるとき」と定めていますが、契約の内容は、売買契約当時の契約当事者の意思を反映するものになりますから、欠陥を認識した上で契約が成立している場合には、基本的にはその欠陥を理由に契約不適合との結論は導かれないことになります。
瑕疵担保責任(契約不適合責任)の成立範囲は、契約内容と契約の目的物である不動産の関係によって判断されることとなり、この点については民法の改正によって大きな変更はありません。

2.物理的瑕疵

(1)瑕疵(契約不適合性)の判断要素

上述したとおり、「(隠れた)瑕疵」とは不動産が有する欠陥をそのまま意味するものではありません。契約当事者の認識にも左右されますし、実際にその欠陥が買主にとってどの程度の意味を持つものなのかによっても変わってきます。したがって、その欠陥の程度だけではなく、売買契約がどのような目的によって締結されたのか、売買契約の際にどのような説明がなされたのか、そして社会通念や一般常識に照らして、解除や損害賠償等を認めるほどの欠陥と言えるのかどうかによって判断されることになります。
瑕疵(契約不適合)と一言に言っても、引き渡された不動産のどの部分に買主が不満を持つのかは多種多様です。
そこで、まずは分かりやすい物理的な欠陥が不動産に認められる場合について、裁判例等を確認してみましょう。

(2)建物の物理的瑕疵(契約不適合性)

建物との関係においては、買主が実際にその建物に居住することなどが予定されているため、その安全性にかかわる欠陥については、瑕疵担保責任(契約不適合責任)が認められやすいものと言えます。
特に、建物の構造自体に関する欠陥については、売買契約当時の買主には認識できていなかったことが多いものといえ、地盤等の問題で建物が沈下・傾斜していることなどを理由に瑕疵担保責任を認めた裁判例は珍しくありません(京都地判平成12年10月16日等)。
また、我が国では地震による被害が極めて多く、建築基準法第20条も「建築物は…地震その他の震動及び衝撃に対して安全な構造のものとして、次の各号に掲げる建築物の区分に応じ、それぞれ当該各号に定める基準に適合するものでなければならない。」としており、建築基準法施行令の中でその具体的な水準も定められていますので、建物の耐震基準を理由に瑕疵担保責任を追及するような裁判例も散見されます。
この点については、東京地判平成18年7月24日(平成14年(ワ)第19329号)が新築の建物との関係で「現況建物の強度が売買当時の建築基準法の要求する強度を満たしていないことは瑕疵であるということができる」と判示している一方で、中古物件との関係においては、東京高判平成14年6月26日は、法律上の基準を満たしていなかった点について、「厳密な調査を行えば上記の基準に合致しない建物が多数存在することは衆目の一致するところ」と述べた上で、「本件建物が通常の中古住宅取引市場において上記程度の価格の経済的価値を有することが認められ、これを…耐震性能の点のみから全面的に不当ということはできない」として、瑕疵担保責任を否定しています。
つまり、法令の基準に違反していても、そのことが直ちに瑕疵には結びつかないということになります。瑕疵担保責任を契約不適合責任と改めた改正民法は、契約当事者の意向を重視することを強調しているように解されますから、法令違反に関する買主や売主の認識が重視されることになるものと思われます。
他にも、建物の物理的瑕疵としては、雨漏り等の問題や遮音性・遮熱性等も問題となり得ます。このような、問題については、より一層、契約成立時の買主の認識等がより一層重要になるものといえます。

(3)土地の物理的瑕疵(契約不適合性)

土地の物理的瑕疵としてイメージしやすいのは地盤の問題ではないでしょうか。建物を建築することを目的として土地の取引が行われることがほとんどでしょうから、事後的に建物を建築できないことが判明した場合、瑕疵担保責任(契約不適合責任)の問題に繋がり易いものといえます。
地盤の脆弱性については、ボーリング調査等によって地盤状況を確認し、その地盤状況を前提に、建物を建築するにあたって別個の工事が必要だと認められる場合には、瑕疵担保責任(契約不適合責任)が認められる場合が多いように考えられます。
しかしながら、上述したとおり、あくまでも売買契約の当事者の認識が問題となりますので、客観的な土地の状況だけで瑕疵(契約不適合性)が認定されることはありません。それは、脆弱な地盤であっても工事等を行うことで建物を建築することは可能な訳ですから、その負担を買主に負担させるべきだと判断されるケースもあり得るからです。
例えば、東京地判平成20年9月18日(平成19年(ワ)第18229号)は、宅地として売買契約が締結されている土地の地耐力が、一般の戸建住宅に要求される基準を下回っていることを認めつつも、「本件土地の地耐力に関する具体的な表示又はこれを保証する旨の記載は存在せず…本件土地上に建物を建築するに際して地盤の改良工事を要しないことが、本件契約の前提となっていたということはできない」として、低い地耐力を瑕疵として認めませんでした。
このような考え方は、土地に多数の埋設物が存在するような場合や土壌が汚染されている場合にも妥当します。基本的には、更なる工事が必要となるような場合には、瑕疵(契約不適合)として認められることが多いように思いますが、東京地判平成24年5月30日(平成21年(ワ)第22895号)は、環境基本法が定める環境基準を超える汚染物質が含まれていたことを認めながらも、買主が売買契約の際にガソリンスタンドとして本件土地を利用することを予定していたことから、そのような利用が妨げられていないことなどを理由に、瑕疵担保責任は否定しています。
以上のように、契約の対象となっている不動産が有する欠陥の程度は同程度であったとしても、その契約時に売買当事者が有していた認識等によって、瑕疵(契約不適合)として認められるかどうかは変わり得るのです。

3.心理的瑕疵

(1)心理的瑕疵(契約不適合性)とは

不動産が有する欠陥の内容は、物理的に判断できるものだけではありません。物理的な欠陥はなくとも、心理的な嫌悪感等を与える事実関係が事後的に発覚した場合、そのことを理由に瑕疵担保責任(契約不適合責任)が認められることもあり得るのです。
心理的欠陥として考えられるものの典型例は、所謂事故物件と呼ばれるものです。過去に、その土地で人が自殺する等していた場合、その土地を使うことについての心理的な嫌悪感が生じるからです。一方で、このような心理的な嫌悪感は、物理的欠陥と異なり客観的なものではなく、嫌悪感の有無や程度は買主の主観によるところが大きいものといえます。
したがって、心理的欠陥が瑕疵(契約不適合)となるかどうかについては、通常の一般人の感覚や社会常識に照らして、瑕疵と認める程の嫌悪感が生じるかどうかということに加え、売買契約当時の契約者の認識や交渉経緯に照らして判断されることになります。

(2)自殺事件の有無

事故物件と聞いた時に、まず頭によぎるのは、過去の居住者等による自殺ではないかと思います。しかしながら、そのような事実が一般的に心理的欠陥にあたると直ちにいえるわけではありません。
この点について、福岡地決平成2年10月2日(昭和62年(ケ)第345号)は、「自殺があったそのことが当該物件にとって一般的に嫌悪すべき歴史的背景であるとか、自殺によって当該物件の交換価値が直ちに損なわれるものであるとかいうことは、とうてい客観的な法的価値判断というに値するものではない。」と判示しています。
この福岡地方裁判所の事案は、上述したような一般論に加えて、「今もなお、近隣の住民が上記自殺について遍く知悉しており…山間の田園地帯であり、必ずしも開放的な立地条件であるとはいえず、これらの諸環境からして、この後も、近隣のうわさが絶えることは簡単には期待し難い…上記自殺があったところに居住しているとの話題や指摘が人々によって繰り返され、これが居住者の耳に届く状態が永く付きまとうであろうことは容易に予測できる」という事実を認めた上で、過去の居住者が自殺した旨の事実を、人の居住用建物の交換価値が減少する事実として認めました。
そこで、瑕疵(契約不適合)と認めるためには、過去に居住者が自殺していたという事実だけでなく、その事実がどう扱われ、買主がどのような影響を受けることになるのかという点も踏まえて判断する必要があるのです。
自殺事件との関係で重視される事実としては、まず自殺者が出た時期を挙げることができます。30年前の自殺事件と数カ月前に起きた自殺事件では、不動産の心理的欠陥としての評価が大きく違うのはイメージしやすいかと思います。
他には、買主の利用目的に着目している裁判例も散見されます。例えば、永住目的で不動産を購入した場合、自殺者が出た場所を終の棲家とすることについての心理的嫌悪感は大きなものといえ、瑕疵(契約不適合)と認められる可能性が高まる一方で、投資目的で購入した場合には、その不動産としての価値を損なわせるほどの影響があるかどうかによって判断されることになります。

4.その他の瑕疵(契約不適合)

自殺事件についてだけ取り上げましたが、心理的欠陥として認められる内容は、自殺事件だけではありません。放火等、犯罪行為が行われたというような事情であっても、心理的欠陥として瑕疵(契約不適合)と判断されることもあり得ます。
また、人の生死にかかわらない事情であっても、例えば、過去に風俗営業が営まれていたことが心理的瑕疵として認められたケースも存在します。
他に、不動産自体の欠陥ではなくとも、その周囲の環境との関係で瑕疵(契約不適合)が認められる場合も考えられます。
例えば、周囲に暴力団事務所が存在していたなどの事情で、契約が解除されたケース等は少なくありませんし、騒音や景観等の問題についても、瑕疵(契約不適合)の問題になることがあるのです。

5.まとめ

以上のように、客観的に欠陥と評価することが容易そうな物理的な問題であっても、当事者の認識や売買契約に至るまでの交渉経緯との関係で、瑕疵(契約不適合)といえるかどうかは一律に決まる訳ではありません。
そして、瑕疵(契約不適合)と判断されたものの中には、心理的な欠陥や、不動産自体ではなく周囲の環境を理由とするものもあります。
瑕疵担保責任が問題となった事例の中で、売主等もそのような事情を認識していなかったケースは珍しくありません。したがって、事後的に欠陥が発覚するリスクを全てなくすということは困難です。
しかしながら、瑕疵担保責任(契約不適合責任)を追及されるリスクを減少させることはできます。買主の意向等を正確に聴取し、その意向に沿った点について十分な調査や説明を行うことが肝要といえるでしょう。

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