宅建業者に対する監督処分とは?監督処分への対処法について解説

不動産の売買や仲介といった取引を扱う不動産業者のことを宅建業者といいます。宅建業者は、国土交通大臣または都道府県知事による免許を受け、業務を行うことになりますが、不動産取引にあたって違法または不正な行為があった場合には、監督官庁による監督処分を受ける可能性があります。

監督処分には、免許停止処分という重い処分も含まれていますので、宅建業者としては、行政庁から事情聴取があった場合には、適切な対応が求められます。

今回は、宅建業者に対する監督処分の内容と監督処分への対処法などについて、わかりやすく解説します。

1、宅建業者に対する監督処分とは?


弁護士
荒川 香遥
宅建業者に対しては、国土交通大臣や都道府県知事により監督処分が行われる可能性があります。以下では、宅建業者に対する監督処分の意義について簡単に説明します。

不動産の売買や仲介といった取引を業として行うためには、宅建業法に基づく免許を受けなければなりません。免許を受けた宅建業者は、宅建業を営むことが可能になりますが、それと同時に宅建業法が定めるさまざまな規制を遵守する義務が課されます。

宅建業者が取り扱う不動産は、取引価格が高額になりますので、宅建業者による違法行為や不正行為があると、取引関係者に莫大な損害が生じるおそれがあります。そのため、宅建業法では、宅地建物の取引が公正に行われ、取引関係者が安心して取引ができるようにするために、監督官庁に宅建業者への監督権限を与えています。

監督処分とは、監督官庁が宅建業者に対して行う処分のうち拘束力がある処分をいいます。監督処分の詳しい内容や監督処分以外の行政処分の内容については、以下で詳しく説明します。

2、監督処分の種類


弁護士
荒川 香遥
監督官庁により行われる監督処分にはどのような内容があるのでしょうか。以下で詳しくみていきましょう。

(1)指示処分

宅建業者が以下のような行為をした場合には、免許権者である国土交通大臣または都道府県知事は、宅建業者に対して、必要な指示をすることができます。このような処分を「指示処分」といいます。
・業務に関して取引関係者に損害を与えたとき、または損害を与えるおそれが大きいとき
・業務に関して取引の公正を害する行為をしたとき、または取引の公正を害するおそれが大きいとき
・業務に関して他の法令に違反し、宅建業者として不適当であると認められるとき
・宅建業者の責めに帰すべき事由により宅地建物取引士が処分を受けたとき
・宅建業法の規定に違反したとき
・特定住宅瑕疵担保責任の履行の確報等に関する法律11条などに違反したとき

指示処分を受けた宅建業者がこれに従わない場合には、後述する業務停止処分免許取消処分の対象になる可能性があります。そのため、監督官庁から指示処分を受けたときは、その内容に従わなければなりません。

(2)業務停止処分

免許権者である国土交通大臣または都道府県知事は、宅建業者に対して、1年以内の期間を定めて、業務の全部または一部の停止を命じることができます。このような処分を「業務停止処分」といいます。

業務停止処分の対象となる主な行為としては、以下のような行為が挙げられます。なお、国土交通省では、宅建業者の違反行為に対する監督処分の基準を公表しており、違反行為ごとの標準的な業務停止期間を定めています。

宅建業者が業務停止処分に従わない場合、必要的免許取消処分の対象となり、免許が取り消されてしまいます。

また、業務停止命令に違反した場合には、3年以下の懲役もしくは300万円以下の罰金またはこれらの併科という刑事処分の対象にもなります。刑事罰は、行為者だけでなく、法人に対しては1億円以下の罰金、個人事業主に対しては300万円以下の罰金が科されます。

(3)免許取消処分

宅建業者に宅建業法上の一定の事由がある場合には、免許権者である国土交通大臣または都道府県知事により免許が取り消されることがあります。このような処分を「免許取消処分」といいます。

免許取消処分には、必ず免許を取り消さなければならない「必要的取消処分」と裁量により免許を取り消すことができる「裁量的取消処分」の2つがあります。このうち、必要的取消処分事由に該当するものとしては、以下の事由が挙げられます。

宅建業者が免許を取り消されたにもかかわらず、宅建業を営むと無免許営業となりますので、行為者には、3年以下の懲役もしくは300万円以下の罰金またはこれらの併科という刑事処分の対象になります。また、法人には1億円以下の罰金、個人事業主には300万円以下の罰金が科されます。

3、監督処分以外の行政処分


弁護士
荒川 香遥
監督処分は、拘束力のある処分でしたが、監督官庁による処分には、監督処分以外も以下のようなものがあります。

(1)指導・助言・勧告

国土交通大臣または都道府県知事は、宅建業の適正な運営を確保し、または宅建業の健全な発達を図るために必要な指導・助言・勧告をすることができます。監督処分とは異なり、指導・助言・勧告は、宅建業者の任意の協力により宅建業法が定める目的を達成しようとするものになります。

指導・助言・勧告は、指示処分の対象となり得る行為のうち、違法性や不当性の程度が低い行為に対して、指示処分に代わり行われています。

(2)報告・検査

国土交通大臣または都道府県知事は、宅建業の適正な運営を確保するために必要があると認められるときは、宅建業者に対し、業務についての必要な報告を求めたり、事務所への立ち入りや帳簿、書類その他業務に関係のある物件を検査させることができます。

監督官庁による報告や検査を正当な理由なく拒否すると、指示処分や業務停止処分などの監督処分の対象になります。また、虚偽の報告や検査を妨げた場合には、50万円以下の罰金に処せられます。

4、監督処分の流れ


弁護士
荒川 香遥
監督官庁による監督処分はどのような流れで行われるのでしょうか。以下では、監督処分の流れをみていきましょう。

(1)報告・立ち入りなどによる調査

監督官庁は、宅建業者との取引相手からの苦情申し立てや相談を端緒として、宅建業者の違法または不正の疑いのある行為を把握します。

このような違法または不正の疑いのある行為を把握したときは、取引関係者への事情聴取や宅建業者への報告・立入検査などを実施して、違法または不正行為の有無を確認します。

(2)聴聞手続き

調査の結果、宅建業者による違法または不正行為が確認された場合には、監督処分を検討していくことになります。その際には、監督処分に先立って宅建業者に対して聴聞という意見陳述の機会を与えなければなりません。

聴聞を行う場合には、聴聞期日の1週間前まで以下の内容が記載された聴聞通知が送られてきます。

(3)処分の公表

監督官庁が宅建業者に対して、監督処分を行った場合には、ホームページ上で処分年月日、宅建業者の商号、主たる事務所の所在地、処分内容、処分理由などが公表されます。

なお、宅建業者は、監督処分に不服がある場合には、以下のような方法により不服申し立てを行うことができます。
・処分があったことを知った日の翌日から6か月以内に処分取消訴訟の提起
・処分があったことを知った日の翌日から3か月以内に審査請求の申立て

5、行政庁からの事情聴取があった場合の対処法


弁護士
荒川 香遥
行政庁から違法または不正行為の疑いがあるとして事情聴取を求められた場合には、監督処分が下される可能性もありますので、適切な対応が必要になります。宅建業者が行うべき対応としては、以下のようなものが挙げられます。

(1)事実の確認

行政庁から事情聴取の求めがあったときは、すぐに該当の不動産取引を担当した社員から事実確認を行うようにしましょう。

その際には、社員からの口頭説明だけでなく、実際の取引で用いられて契約書や重要事項説明書など客観的な資料の提出を求めて事実確認を行うことが大切です。

(2)原因究明と再発防止策の策定

事実確認の結果、監督処分の対象となる行為が確認できた場合には、その原因を究明して、再発防止に向けた対策を講じていかなければなりません。

具体的な再発防止策については、それぞれの宅建業者によって異なりますが、代表的なものとしては、以下のようなものがあります。

(3)示談

監督処分の対象となる事実により取引相手に損害が生じている場合には、取引相手と連絡をとり、示談の手続きを進めていかなければなりません。

早期に取引相手との間で示談を成立させることができれば、監督官庁による重い監督処分を回避できる可能性もあります。

(4)行政庁への説明

宅建業者は、上記の対応を踏まえて、行政庁への説明を行います。説明すべき内容としては、宅建業者側が認識している事実、問題の原因、再発防止策、示談の進行状況などです。

6、まとめ


弁護士
荒川 香遥
監督官庁から監督処分を受けると、その内容が公表されてしまいますので、宅建業者の経営に大きな影響を及ぼします。そのため、監督官庁から事情聴取の求めがあったときはすぐに弁護士に相談するようにしましょう。

宅建業者に対する監督処分には、指示処分・業務停止処分・免許取消処分という3つの種類があります。宅建業法に反する違法または不正な行為があった場合には、これらの監督処分が行われる可能性がありますので、普段から十分に気を付けて取引を進めることが大切です。

監督処分のリスクを少しでも減らすには、法的側面からサポートしてくれる顧問弁護士の利用がおすすめです。ダーウィン法律事務所では、不動産業界に特化したサービスを提供していますので、監督処分に関するトラブルにも適切に対応することが可能です。監督官庁から事情聴取の求めがあったときは、すぐにダーウィン法律事務所までご相談ください。

この記事を監修した弁護士

荒川香遥
  • 弁護士法人 ダーウィン法律事務所 代表弁護士

    荒川 香遥

    ■東京弁護士会
    ■不動産法学会

    相続、不動産、宗教法務に深く精通しております。全国的にも珍しい公正証書遺言の無効判決を獲得するなど、相続案件について豊富な経験を有しております。また、自身も僧籍を有し、宗教法人法務にも精通しておりますので、相続の周辺業務であるお墓に関する問題も専門的に対応可能です。

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