仲介業者が不動産売買や賃貸借に関与して、契約の成立に至った場合には、仲介報酬が支払われます。しかし、仲介業者に委託して、物件や顧客の紹介を受けた委託者が仲介業者を排除して、直接相手との契約を行ってしまうことがあります。このような契約を「直接取引」といいます。
仲介業者にとっては、仲介報酬は主要な収入源の一つですので、直接取引により仲介報酬を請求する機会が失われてしまうと、大きな損失となります。仲介業者を排除して直接取引が行われた場合でも仲介報酬を請求することができるのでしょうか。
今回は、仲介業者を排除して直接取引が行われた場合における仲介報酬請求の可否について、わかりやすく解説します。
目次
直接取引とは、仲介業者が当事者の一方または双方から不動産売買などの仲介の委託を受け、顧客や物件を紹介し成約に向けて尽力していたところ、委託者が仲介業者を排除して相手方と直接交渉をし、契約を成立させることをいいます。
不動産の売買や賃貸借をしようとしても、売主・買主または貸主・借主は、取引相手や物件を探す手段がありませんので、一般的には仲介業者に依頼して取引相手や物件を探してもらうことになります。仲介業者は、集客・宣伝のための広告を利用したり、独自の人脈やネットワークを駆使して取引相手や物件を探すことができますので、個人で探すよりもスムーズに希望の物件や取引相手に出会うことができます。
このような仲介業者を依頼して契約の成立に至ったときは、仲介業者に仲介報酬の支払いが必要になります。しかし、不動産売買では、対象物件の価格を基準に3~5%の仲介報酬が発生しますので、高額な仲介報酬の支払いを回避する手段として、しばしば仲介業者を排除した直接取引が行われることがあります。
直接取引が行われてしまうと、それまで時間と労力をかけて行ってきた仲介業務がすべて無駄になってしまいますので、仲介業者としては、直接取引があった場合にも仲介報酬を請求できるかどうかが問題となります。
仲介業者が媒介契約書を締結している場合、媒介業者は、媒介契約書の直接取引条項に基づいて仲介報酬を請求することができます。
しかし、直接取引の事案では、媒介業者が媒介契約書を締結しないまま仲介業務を行うことが多いため、媒介契約の成否が問題となります。
媒介契約の成立にあたって媒介契約書の作成は不可欠な要素ではありませんので、媒介契約書がなくても仲介契約の成立を立証することは可能です。ただし、媒介契約書の不存在は、媒介契約の不成立を基礎づける要素になり得るため、以下のような取引の経緯や媒介契約の成立を基礎づける事実を主張立証していく必要があります。
直接取引では、委託者が仲介業者を「排除」したといえるかが特に問題となります。
直接取引における排除には、主に以下の2つのパターンが考えられます。
・委託者が媒介契約期間中に仲介業者を介さず、直接相手方と契約交渉を行い、売買契約を締結する
・委託者が仲介業者との媒介契約を解除または更新拒否し、その後、相手方と直接契約交渉を行い、売買契約を締結する
仲介業者が委託者に対して、報酬請求できるのは、委託者が正当な理由なく仲介業者を排除したといえなければなりません。不当な排除であるかどうかは、仲介業者が排除された時期、排除された時期までの仲介業者の媒介活動の内容・進捗状況、委託者が相手方と直接取引をした動機・事情などを総合考慮して判断することになります。
直接取引で媒介報酬を請求するためには、委託者による直接取引がなければ、仲介業者の媒介活動により売買契約が成立していたであろうという因果関係があることが必要です。
媒介業務と契約成立との間に因果関係があるかどうかは、以下のような委託者が仲介業者の提供した媒介活動の成果を利用したことが一つの判断要素となります。
・媒介業者から取引相手の紹介を受けた
・媒介業者から取引物件に関する情報提供を受けた
・直接取引における契約内容が仲介業者の媒介活動により調整された内容とほぼ同一
・直接取引で利用された契約書や重要事項説明書が仲介業者の作成したものとほぼ同一
直接取引を理由として媒介報酬を請求する法律構成としては、以下の3つの構成が考えられます。
民法130条1項に基づき報酬請求をする場合には、条件成就の擬制により報酬請求を行いますので、報酬額の合意がある場合には、約定報酬全額を請求することができます。他方、商法512条や媒介契約約款に基づき報酬請求をする場合には、「相当な報酬」を請求することになりますので、直接取引の時期、仲介業者を排除した経緯、仲介業者の媒介活動の内容などを踏まえて、金額を決めていきます。
直接取引を理由に仲介業者が委託者に仲介報酬を請求できるのは、委託者が仲介業者を不当に排除して直接取引を行ったといえる場合です。委託者による仲介業者の排除に正当な理由がある場合には、仲介業者は委託者に対して、仲介報酬を請求することはできません。
仲介業者の排除に正当な理由が認められるケースとしては、以下のケースが挙げられます。
・仲介業者が売買物件に抵当権や仮登記が設定されていることを登記事項証明書により調査することを怠り、物件を紹介したケース(仲介業者の注意義務違反)
・買主から委託を受けた仲介業者が委託者に対して、売主が提示する売却価格以上の金額を提示したケース(仲介業者の信義誠実義務違反)
直接取引における仲介報酬請求の可否については、以下の4つのポイントを踏まえて判断する必要があります。
・仲介契約の成否
・当事者が仲介業者を排除したといえるか
・媒介業務と契約成立との間の因果関係
・仲介報酬の算定
これらを判断する際には法的知識と経験が不可欠となりますので、仲介業者だけでは正確に判断することが難しいといえます。ダーウィン法律事務所では、不動産業界に特化したサービスを提供しており、不動産トラブルを解決に導いた豊富な経験と実績があります。そのため、直接取引があった場合に仲介業者が仲介報酬を請求できるかどうかについても、適切に判断することが可能です。
直接取引を理由として仲介報酬を請求するためには、まずは委託者との間で交渉を行う必要があります。しかし、仲介業者を排除してあえて直接取引を選択した委託者が素直に報酬請求に応じてくれるとは限らず、交渉が難航するケースも少なくありません。また、仲介業者が本来の不動産仲介業務に加えて、不慣れな交渉も行わなければならないのは大きな負担となり、本業に支障が出てしまう可能性もあります。
弁護士に依頼をすれば、委託者との交渉をすべて弁護士に任せることができますので、仲介業者の負担は大幅に軽減します。弁護士が窓口になって交渉することで、相手も素直に支払いに応じてくれる可能性が高くなりますので、委託者との交渉は、専門家である弁護士に任せるのがおすすめです。
委託者と話し合いを行っても、仲介報酬の支払いに応じてくれないときは、最終的に裁判所に訴訟を提起する必要があります。
弁護士に依頼をしていれば、委託者との交渉から裁判、強制執行の手続きまですべて対応できますので、最後まで安心して任せることができます。
仲介業者にとって仲介報酬は、主要な収入源の一つとなります。直接取引により仲介報酬を請求する機会が奪われてしまうと、大きな損害となるでしょう。
仲介業者が媒介契約書を締結している場合、媒介業者は、媒介契約書の直接取引条項に基づいて仲介報酬を請求することができますが、媒介契約書がない場合でも媒介契約の成立を立証できれば、仲介報酬を請求できる可能性があります。
直接取引における仲介報酬請求の可否の判断にあたっては、専門的知識が不可欠となりますので、まずはダーウィン法律事務所までお気軽にご相談ください。
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