不動産賃貸借契約で地代・賃料の増減請求をするときのポイント

法律相談カテゴリー
B.賃貸借契約(仲介・賃貸管理・借地etc)
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賃貸仲介・媒介 賃貸管理 不動産オーナー 

賃料が不相当となった場合において,当事者が合意の上,賃料額を改定することは自由です。これに対し,当事者の一方が賃料の改定を希望し,もう一方がこれを望まない場合や,改定することについては合意しているものの,改定後の額について合意が出来ない場合には,賃料増減の交渉を行い,これで決着しない場合には当事者の一方が裁判所に対して賃料増減請求をすることになります。
今回のコラムでは,賃料増減請求の行使方法や,これにまつわる論点について解説いたします。

1 賃料増減請求権の意義と法的性質

借地借家法には,11条(地代等増減請求権)と32条(借賃増減請求権)に関する定めがあります。これらの規定に基づく賃料増減請求権は,従前の賃料が不相当となった時に行使することができるものとされています(大判昭17.2.27)。
賃料を決定した際に想定していなかった経済事情の変動により,従前の賃料が不相当になった場合に行使されることが想定されており,賃料を決定した時から不相当であったとしても,それを理由に増減請求をすることは出来ないものとされています。
借地や借家の賃料が不相当となった場合において,当事者が合意の上で賃料額を改定することは自由です。
したがって,現行の賃料が不相当と考えられる水準になった場合において,まずは賃貸人と賃借人との間で賃料増減に関する交渉がおこなわれることになります。
弁護士が交渉を行う場合には,調停や訴訟に至った場合に裁判所の目から見て賃料増減請求が通るか否かについてある程度見通しを持ちながら行うことになります。
この賃料増減請求権の規定は,当事者が合意によって排除することのできない強行法規されています(最判昭31.5.15民集10巻5号496頁ほか)。
また,判例は賃料増額請求権の法的性質はいわゆる形成権であると判断しており,請求者の一方的意思表示によって効力が生じ,増減請求に理由がある場合には,これにより賃料は相当額に増額または減額されるものとされています。

2 賃料増減請求権の行使

⑴ 期間の経過の要否

従前の賃料が決定した後に,期間をあけることなく賃料増額請求をすることが認められるか否かが問題となりうるところですが,判例は,賃料増減請求権は賃料が不相当となったときに行使できるのであって,従前の賃料決定時から相当の期間経過を要しないとしています(最判平3.11.29)。
ただし,比較的長期間継続することが前提とされる賃貸借契約については安定性も求められるところであり,また,賃料は短期的な将来予測をある程度織り込んで決定されるものであることから,相当な事情変動がないにも関わらず,たとえば1年に何回も増減請求を行う場合には,権利の濫用として認められない可能性があります。

⑵ 事前協議の要否

賃貸借契約書の中に,将来の賃料は当事者が協議して定めるという趣旨の規定がある場合において,当事者が予め協議を経ずに,または協議を尽くすことなく訴訟提起した場合に,賃料増減の意思表示が無効となるかどうかが争われた例があります。
この点について判例は,「賃料増減請求の規定(旧借地法12条1項)は強行法規であるから,(中略)当事者間に協議が成立しない限り賃料増減請求をすることができないと解することは出来ない。」としています(最判昭56.4.20民集35巻3号656頁)。
ただし,実務的には,協議条項が定められていて,かつ協議を妨げる事情もない場合には,何の通知もなく唐突に書面で増減額通知を送りつける前に協議を行うことが望ましいといえます。

⑶  特約がある場合

ア 不増額特約
賃料を一定期間増額しない旨の特約がある場合には,その定めに従うことになります(借地借家法11条1項ただし書,32条1項ただし書)。
裁判例には,地代は3年ごとに協議の上決定するとの条項について,3年間は増額しないとの特約と解したものがあります(東京地判平5.8.30判時1504号97頁・判タ871号225頁)。
ただし,定められた一定の期間中に著しい経済変動等があり,賃料が著しく不相当になった場合には,事情変更に伴い特約を存続させることが信義則に反するものとして当該特約は効力を失うものと解すべきでしょう(大判昭4.6.10参照)

イ 自動増減特約
賃料を自動的に増減額する特約に関して,判例では,その改訂基準が法(借地借家法11条,32条)の規定する経済事情等の変動等を示す指標に基づく相当なものであればその効力が認められるものとされています(最判平15.6.12民集57巻6号595頁)。
なお,有効な自動増減額特約がある場合でも,同特約によって賃料額を定めることが法の趣旨に照らして不相当なものとなった場合には,同特約の適用を争う当事者は,もはや同特約に拘束されず,賃料増減額請求をすることができます(前掲最判平15.6.12民集57巻6号595頁)。

ウ 地代不減額特約
判例では,地代不減額特約があっても,減額請求権は排除されないものとされています(最判平16.6.29裁判集民214号595頁)。

エ 定期建物賃貸借の場合
定期建物賃貸借の場合,賃料増減額請求権を排除する賃料改定特約も有効であるとされています(借地借家法38条7項)。

3 賃料増減請求権行使の方法

賃料増額請求権は,当事者の一方が他方に対して,賃料を相当額に増減する旨の意思表示をすれば足り,必ずしも具体的に額を明示する必要はありません。
増減額の意思表示が相手方に到達すれば,賃料は相当額に増減され,増減の幅に争いがあれば最終的には裁判所が相当額を決定することになります。
裁判所の役割は,すでになされた増減する旨の意思表示によって客観的に定まっている相当額を確認することになりますので,訴訟形態は賃料額確認訴訟ということなります。
訴額は1か月あたりの増減額×(増減額の始期から訴え提起までの月数+12)ですので,金額的には地方裁判所で審理されることがほとんどです。地方裁判所において,代理人として対応することができるのは弁護士だけで,他の士業にはできません。
調停前置(民事調停法24条の2第1項)とされており,賃料確認訴訟の前に必ず調停を挟まなければなりません。調停を経ないで訴訟が提起されると,裁判所は事件を調停に付すことになります(同条2項)。

4 賃料増減請求の要件

借地借家法が定める賃料増減額請求の要件としては,地代については①土地に対する租税その他の公課の増減により,②土地の価格の上昇若しくは低下その他の経済事情の変動により,又は③近傍類似の土地の地代等に比較して,賃料が不相当となったことを挙げています(借地借家法11条1項)。
また,家賃については,①土地若しくは建物に対する租税その他の負担の増減により、②土地若しくは建物の価格の上昇若しくは低下その他の経済事情の変動により、又は③近傍同種の建物の借賃に比較して,賃料が不相当となったことを挙げています(同法32条1項)。
裁判所における相当賃料の算定方法としては,様々な事情を考慮するために不動産鑑定士等による鑑定がなされることが多い。

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