土地の契約不適合責任とは?実際の裁判例に基づき弁護士が解説

購入した土地に不具合があると、予定していた建築物を建てることができず、土地を購入した目的を達成することができません。このような土地や地盤の不具合が生じた場合には、土地を売却した売主の責任を追及できる可能性があります。その際には、土地や地盤の不具合に関して、裁判所がどのような判断をしているかを押さえておくことが大切です。

今回は、土地の契約不適合責任と実際の裁判例についてわかりやすく解説します。

1、土地や地盤の不具合とは

土地や地盤に生じる不具合としては、主に以下のものが挙げられます。

(1)地盤沈下(軟弱地盤)

地盤沈下とは、以下のような原因により地面が沈む現象をいいます。

建物重量による圧密沈下 建物の重量によって地盤の中の間隙水が押し出され、体積が減少することにより地盤沈下が生じる
地下水の過剰摂取 地下水を過剰に汲み上げることにより地下水位が低下し、間隙水が吸い出され、体積が減少することにより地盤沈下が生じる
盛土の転圧不足 盛土の転圧が不十分な軟弱層が、その重量により沈下する

 

このような地盤沈下が生じると、地盤または建物に以下のような不具合現象が発生します。
・地表面の陥没、亀裂など
・地下埋設物(給排水管、ガス管、排水桝など)の損傷
・外構(土間コンクリート、ブロック塀など)や建物基礎のひび割れ
・建物の不同沈下
・建物の雨漏り

(2)液状化現象

液状化現象とは、大地震が起きた際、砂質地盤において水や砂が噴出して液状化する現象をいいます。液状化現象が生じると、構造物(建物、橋梁など)が傾斜または転倒したり、地中の構造物(下水管など)が浮き上がったりします。

このような液状化現象は、砂の粒子の間隙で水が飽和状態にある場合、地震によりその安定性が崩れ、粒子間に働いていた力が粒子から間隙水に伝わり、水とともに砂を噴出させ、地盤面が液状化することにより生じます。

(3)土壌汚染

土壌汚染は、悪臭などの生活環境の悪化のほか、土壌に重金属、揮発性有機化合物などの有害物質が含まれている場合には、人の健康被害を発生させるおそれがあります。

以下のような土地を購入する際には、土壌汚染の可能性がありますので注意が必要です。
・工場跡地で以前に有害物質を使用していた
・住宅地の造成前に産業廃棄物が投棄されていた
・農用地においてカドミウムを使用していた

(4)地中障害物

地中に建築のための障害物が埋まっているときは、それが古墳や遺跡などの歴史的文化財であれば、長期にわたる調査により建築計画が頓挫する可能性があります。また、従前の建物の基礎や杭などであれば、その除去費用や工事期間などが余計にかかりますので、建築計画に支障が生じる可能性があります。

2、土地や地盤の不具合には契約不適合責任を追及

上記のような土地や地盤に不具合があった場合には、土地を売却した売主の契約不適合責任を追及することが考えられます。

(1)契約不適合責任とは

 

契約不適合責任とは、契約に基づいて引き渡された目的物に、種類、品質、数量に関して契約内容との不適合がある場合において、目的物を引き渡した側が負う責任のことをいいます。

契約不適合責任は、以前は、「瑕疵担保責任」と呼ばれていましたが、2020年の民法改正により、瑕疵担保責任から契約不適合責任に名称が変更されました。それに伴い、隠れた瑕疵ではなく、契約内容に適合しているかが責任追及にあたっての判断のポイントになります。

(2)責任追及の4つの方法

目的物が契約内容に適合しない場合、以下のような手段により買主は、売主の責任を追及することができます。

①追完請求

追完請求とは、契約内容に適合しない目的物を引き渡されたときに、契約内容に適合するように目的物の修補、代替物の引渡し、不足分の引渡しを求めることをいいます。

なお、追完請求権は、民法改正により、新たに創設された責任追及の手段になります。

②代金減額請求

代金減額請求とは、契約内容に適合しない目的物を引き渡されたときに、不適合の程度に応じて契約代金の減額を求めることをいいます。

代金減額請求をする場合、まずは、相当期間を定めた履行の追完の催告を行います。そして、その期間内に履行の追完がない場合に代金の減額を求めることができます。ただし、履行の追完が不能または履行の追完を拒絶する意思が明確であるときは、無催告で代金減額請求を行うことができます。

なお、代金減額請求権も民法改正により、新たに創設された責任追及の手段になります。

③損害賠償請求

契約内容に適合しない目的物を引き渡されたことにより、損害が発生した場合には、売主に対して損害賠償請求をすることができます。損害賠償請求は、債務不履行の一般原則に基づいて行われますので、契約不適合が売主の責めに帰すべきものであることが必要になります。

④契約の解除

契約内容に適合しない目的物を引き渡された場合には、債務不履行の一般原則に基づいて契約の解除をすることができます。

3、土地や地盤の不具合に関する裁判例の紹介

土地や地盤に不具合が生じた場合には、どのように売主の責任が問われることになるのでしょうか。以下では、土地や地盤の不具合に関する実際の裁判例を紹介します。

(1)地盤沈下(軟弱地盤)に関する裁判例

地盤沈下や軟弱地盤が契約不適合にあたるかどうかは、土地の売買契約や宅地造成の請負契約において問題になります。裁判例では、契約不適合の有無について、地盤または建物の沈下状況、ひび割れの程度、地質、N値、地歴、土地造成、建物建築の経緯、売買代金など諸般の事情に基づいて判断しています。

【仙台高裁平成12年10月25日判決】

裁判所は、造成宅地が備えるべき耐震性について、以下のように判断しました。
・購入当時本件宅地およびその周辺の当該地域で発生した地震の回数、頻度、震度等からみて、将来、当該地域で通常発生することが経験的に予測できる程度の強さの地震について、買主の購入の際の合理的意思に反しない程度の強さの地震に対しては、これに耐えうる程度の耐震性を備えておくことが要求されるべきである。

そして、本件宅地は、耐震性に関して通常有すべき品質、性能を欠いていたといえることから、売主の瑕疵担保責任を認めています。

(2)ガラ等の異物混入に関する裁判例

地中にガラ等の異物が混入している場合、地盤が沈下して建物の安全性に支障が生じる可能性はありますが、裁判例では、異物が混入しているというだけで直ちに地盤の瑕疵にあたるとは判断していません。

【東京地裁平成16年5月27日判決】

この裁判例では、地盤沈下が生じていなくても、ガラと空隙で構成された不均質な地盤は、建物の地盤として致命的な欠陥があるとして、建設業者の不法行為責任を認めています。

【東京地裁平成17年2月23日判決】

 

この裁判例では、原告が被告に発注した宅地造成工事について、盛土に竹木が混入したり、泥岩やコンクリートガラが戻し材として用いられていても、造成宅地としての瑕疵は認められないと判断しています。

その主な理由としては、以下の点が挙げられています。
・埋め戻し工事については監理者の管理を経て、土木事務所の検査を受け検査済み証の交付を受けている
・埋め戻し工事完成後は、5~10cm程度地盤沈下が生じることが当初から予定されていたこと
・造成工事が完了して5年以上経過しているものの、既に売却され建築されている造成宅地について買主から地盤沈下の苦情が寄せられている形跡はない
・若干の地盤沈下が生じても、当初の想定を超える地盤沈下が生じて宅地として使用できなくなっているとまでは認められない

(3)液状化現象に関する裁判例

【東京地裁平成16年2月12日判決】

この裁判例では、廃棄物処理施設の建設用地として購入した土地が海岸付近の埋め立て地であり、液状化の可能性があるとしても瑕疵があるとは認められず、売主の瑕疵担保責任(契約不適合責任)は否定されました。

その理由としては、そもそも海岸付近の埋立地には液状化の可能性があり、構造物を建設するにあたっては、一定の液状化対策を講じることが必要になることは当然予想されるため、本件土地が海岸付近の埋立地として通常有すべき性能を欠くとはいえないという点が挙げられています。

(4)土壌汚染に関する裁判例

【東京地裁平成18年9月5日判決】

この裁判例では、環境基準等の各基準値を超える含有量の汚染物質を検出した土地は、売買代金との等価性が損なわれているため、土地の瑕疵が存在すると判断しています。

その理由として、汚染土地の利用方法は、おのずから制限されるため、汚染されていない土地に比べて経済的効用は当然低下すること、汚染されていない土地と同様の効用を獲得するためには、土壌浄化等のために買主が費用支出を強いられるという点が挙げられています。

【東京地裁平成24年9月27日判決】

この裁判例では、工場跡地の売買契約において土壌中のアスベストの含有について売主の瑕疵担保責任(契約不適合責任)が否定されています。

その理由としては、以下の点が挙げられています。
・アスベストを含有する土壌については、売買契約当時法令上の規制はなかった
・本件売買で求められていた性能は、土壌汚染対策法および環境確保条例が定める有害物質が基準値以下であることであった
・本件土地に含有されていたアスベストが土壌に含まれることに起因して人の健康に係る被害を生ずるおそれがある限度を超えて含まれていたとはいえない

(5)地中障害物に関する裁判例

裁判例では、地中障害物として、建築物の基礎、杭、配管、岩塊、廃棄物などが存在した事案があります。地中にガラ等の異物が混入している事例では、建築物の安全性を理由としては、瑕疵該当性が認められない場合でも、建築工事に支障をきたすような場合は、地中障害物として瑕疵と認められることもあります。

【東京地裁平成20年7月8日判決】

この裁判例では、土地建物の売買において、土地中に埋設物および汚染土壌が存在したとして、瑕疵担保責任に基づく損害賠償および説明義務違反の債務不履行に基づく損害賠償請求が認められています。

その理由として、地中埋設物が産業廃棄物であるか否かに関わらず、その存在そのものが建物建築の基礎工事に支障を生じさせることが明らかであり、これを瑕疵でないということはできないという点が挙げられています。

4、まとめ

土地や地盤に不具合があると、予定していた建築物を建てることができず、建築計画に大きな支障が生じてしまいます。土地や地盤の不具合が契約内容として想定されていた者でない場合には、土地の売主に対して契約不適合責任を追及できる可能性があります。

売主に対して、契約不適合責任をお考えの方は、弁護士のサポートが必要になりますので、まずは弁護士に相談することをおすすめします。ダーウィン法律事務所では、不動産トラブルの取り扱いに力を入れています。不動産についてお悩みがある方は、当事務所までお気軽にご相談ください。

この記事を監修した弁護士

荒川香遥
  • 弁護士法人 ダーウィン法律事務所 代表弁護士

    荒川 香遥

    ■東京弁護士会
    ■不動産法学会

    相続、不動産、宗教法務に深く精通しております。全国的にも珍しい公正証書遺言の無効判決を獲得するなど、相続案件について豊富な経験を有しております。また、自身も僧籍を有し、宗教法人法務にも精通しておりますので、相続の周辺業務であるお墓に関する問題も専門的に対応可能です。

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