基礎のクラックは瑕疵?クラックが発生した場合のリスクと対処法を解説

建物の基礎にクラックが見つかると、「このままで大丈夫だろうか」と不安になる方も少なくありません。建物の基礎は、建物を下から支える重要な部分になりますので、その部分に欠陥や不具合があれば不安になるのも仕方ありません。

基礎のクラックの中には、建物を支える構造体にまで影響を及ぼすものもありますので、クラックを発見した場合には早めに対処することが大切です。売主や施工業者に責任があるものに関しては、契約不適合責任に基づく責任追及も検討する必要があります。

今回は、基礎のクラックが発生した場合のリスクとその対処法について、わかりやすく解説します。

1、基礎のクラックとは

そもそも基礎のクラックとはどのようなものなのでしょうか。以下では、基礎のクラックの種類と原因について説明します。

(1)基礎に生じるクラックの種類

基礎のクラックとは、基礎のコンクリートに生じるひび割れのこといいます。基礎のクラックには、主に以下の2種類があります。

①ヘアークラック

ヘアークラックとは、幅0.3mm未満、深さ4mm未満のクラックです。髪の毛のように細かいひび割れであることから「ヘアークラック」と呼ばれています。

ヘアークラックは、美観上の問題であり、強度に悪影響を与えるものではありません。

②構造クラック

構造クラックとは、幅0.3mm以上、深さ4mm以上のクラックです。構造クラックは、ひび割れがコンクリートの内部の鉄筋まで達しているケースが多いため、放置していると深刻なトラブルになる危険性があります。

(2)基礎のクラックが生じる原因

基礎にクラックが生じる原因には、主に以下の6つがあります。

①経年劣化

コンクリートは、吸水性の高い素材ですので、雨や二酸化炭素に長期間さらされると、コンクリート内部のカルシウム化合物が中性化してしまいます。基礎内部の鉄筋は、コンクリートがアルカリ性であるから保護されていましたが、中性化により錆びが生じ、膨張することによりクラックが発生します。

②乾燥収縮

コンクリート内部の水分が乾燥により蒸発すると、基礎のコンクリートが収縮してしまいます。建物の基礎は固定されていて、収縮による力に耐えられませんので、それによりクラックが発生します。

③施工不良

建物の基礎の施工にあたり、かぶり厚の不足やコンクリートの水分量の誤りなどの施工不良があると、コンクリートが適切な強度を保つことができず、クラックが発生してしまいます。

④地盤の問題

軟弱地盤に基礎を作る場合には、地盤改良工事などが必要になります。適切な地盤改良工事が行われていないと、不同沈下が起こり、基礎にかかる建物荷重がズレることにより、クラックが生じることがあります。

⑤地震

大きな地震が起きた後は、基礎にクラックが生じることがあります。

2、基礎クラックを放置することによるリスク

基礎のクラックを放置すると、以下のようなリスクが生じます。

(1)爆裂現象

基礎に構造クラックが生じたまま放置していると、雨水が基礎内部の鉄筋にまで達することがあります。鉄筋が雨水に触れると、錆びを生じ、錆びた鉄筋は体積が増加します。基礎内部で鉄筋が膨張していくとコンクリートを内部から押し出して破壊してしまいます。これを「爆裂現象」といいます。

爆裂現象によりコンクリートが剥がれると、その部分からさらに雨水が侵入し、腐食が進んでしまいます。

(2)耐震性の低下

雨水により基礎内部の腐食が進んでいくと、コンクリート本来の強度を保つことができなくなります。そうなると小さな地震であっても、十分な耐震性を発揮することができず、建物の傾きや最悪のケースでは建物の倒壊を招く危険もあります。

(3)不同沈下の発生

基礎のクラックが地盤の問題によって生じた場合には、そのまま放置していると不同沈下が進み、建物の傾きや建物の倒壊を招く危険があります。地盤に問題がある場合は、地盤の補強や家の立て直しが必要になることもあります。

3、基礎のクラックには契約不適合責任の追及を検討

基礎のクラックが生じた場合には、売主に対する契約不適合責任の追及を検討しましょう。

(1)契約不適合責任とは

契約不適合責任とは、引き渡された目的物に種類・品質・数量に関し、契約内容との不適合がある場合に、目的物を引き渡した売主に生じる責任をいいます。

以前は、「瑕疵担保責任」と呼ばれていたものが、令和2年4月1日施行の改正民法により「契約不適合責任」という名称に変更になりました。

契約不適合責任を追及する場合には、引き渡された目的物が契約内容と適合していない状態であることが必要です。契約内容との適合性については、まずは、契約書の記載内容、契約の性質、契約の目的、契約の締結に至る経緯などからどのような契約内容であったのかを特定します。そして、実際に引き渡された目的物が特定した契約内容と適合しているのかを判断していくことにあります。

なお、改正民法の契約不適合責任が適用されるのは、令和2年4月1日以降に締結された売買契約が対象となります。それ以前に締結された売買契約に関しては、改正前民法の瑕疵担保責任の規定が適用されますので注意が必要です。

(2)責任追及の4つの手段

契約不適合責任を追及する手段には、以下の4つの種類があります。そのうち、追完請求および代金減額請求は、民法改正により新たに導入されたものになります。

①追完請求

追完請求とは、目的物の修補、代替物の引渡しまたは不足分の引渡し請求など契約内容に適合するように履行の追完を求めることをいいます。

売主には、売買契約の内容に適合した目的物を引き渡す法律上の義務がありますので、目的物に不具合があるなら、買主は目的物を修補せよという修補請求ができますし、代わりのものに替えて欲しければ代物請求もできます。また、目的物に数量不足があるなら買主は不足分の引渡し請求も可能です。

ただし、契約内容との不適合が売主ではなく買主の責めに帰すべき事由による場合には、追完請求をすることはできません。

②代金減額請求

代金減額請求とは、目的物が契約の内容に適合しない場合、その不適合の程度に応じて代金の減額を求めることをいいます。

権利行使の方法としては、買主は、相当の期間を定めて修補請求などの追完を催告し、その期間内に追完がなされないときは、不適合の程度に応じて代金減額請求ができます。追完が不能な場合などのケースでは、無催告で権利を行使することも可能です。

なお、追完請求と同様に、契約内容との不適合が売主ではなく買主の責めに帰すべき事由による場合には、代金減額請求をすることはできません。

③損害賠償請求

目的物が契約の内容に適合しないことで買主に損害が生じた場合には、買主は、売主に対し、損害賠償請求が可能です。この場合の損害賠償請求は、債務不履行の一般原則によることになりますので、売主に帰責事由があることが必要になります。

④契約の解除

目的物が契約の内容に適合しないときは、買主は、まずは相当期間を定めて追完の催告をし、その期間内に不適合が是正されない場合には、契約を解除することができます。飼い主が催告をしても、売買契約の目的を達するのに足りる履行がされる見込みがないことが明らかであるときは、無催告で解除することもできます。

4、契約不適合責任を追及する方法

売主に対して契約不適合責任を追及する場合には、以下のような方法で進めていくのが一般的です。

(1)売主との話し合い

まずは、契約内容に適合しない目的物を引き渡した売主との間で話し合いを進めていきます。契約不適合責任には期間制限がありますので、不適合を知ったときから1年以内に売主に対してその旨の通知をする必要があります。修補請求など具体的な話し合いを始める前に、必ず、内容証明郵便で不適合の通知を行っておくようにしましょう。

なお、売主との話し合いの結果、解決の合意に至った場合には、合意書を作成し、合意した内容を書面に残しておいてください。

(2)ADRの利用

売主との話し合いでは解決しない場合には、ADRを利用するのも有効な解決方法となります。ADRとは、「Alternative Dispute Resolution」の略で、裁判外紛争処理と呼ばれる裁判によらない紛争解決方法です。ADRでは、専門的な知見を反映して、紛争の実情に即した迅速な解決を図ることができるという特徴があります。
不動産の紛争に関しては、以下のようなADRがあります。
・国民生活センター紛争解決委員会
・指定住宅紛争処理機関
・ADR法により認証された民間ADR期間
・不動産適正取引推進機構による特定紛争処理事業

(3)訴訟提起

話し合いやADRでは、当事者の合意がなければ解決することができません。納得いく解決方法の提案がなく、お互いに合意に至らない場合には、最終的に裁判所に訴訟提起を行うことになります。

裁判になれば非常に複雑な手続きとなり、専門的知識も必要になりますので、一人で対応するのではなく、専門家である弁護士のサポートを受けながら進めていくようにしましょう。

5、まとめ

建物の基礎にクラックが発生した場合には、基礎内部に雨水の侵入を招き、錆びた鉄筋による膨張でコンクリートが破壊されるリスクがあります。そのため、クラックを発見した場合には、すぐに対応することが大切です。売主に対して契約不適合責任を追及するのであれば、クラックの発見から1年以内に通知をしなければならないなど、非常にタイトなスケジュールとなりますので、まずは専門家である弁護士に相談することをおすすめします。

ダーウィン法律事務所では、不動産トラブルの解決に力を入れています。不動産についてお悩みがある方は、当事務所までお気軽にご相談ください。

この記事を監修した弁護士

荒川香遥
  • 弁護士法人 ダーウィン法律事務所 代表弁護士

    荒川 香遥

    ■東京弁護士会
    ■不動産法学会

    相続、不動産、宗教法務に深く精通しております。全国的にも珍しい公正証書遺言の無効判決を獲得するなど、相続案件について豊富な経験を有しております。また、自身も僧籍を有し、宗教法人法務にも精通しておりますので、相続の周辺業務であるお墓に関する問題も専門的に対応可能です。

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