基礎の施工不良と契約不適合責任について弁護士が解説

建物の基礎は、建物を支える重要な構造体です。そのため、建物の基礎に施工不良があった場合、建物が傾斜・倒壊したり、基礎や壁面に亀裂が入るなどのトラブルが生じることも少なくありません。このような基礎の施工不良が原因でトラブルが発生した場合、買主は、売主に対して契約不適合責任を追及できる可能性があります。
今回は、基礎の施工不良があった場合の契約不適合責任についてわかりやすく解説します。

1、基礎の役割

建物の基礎には、どのような役割があるのでしょうか。基礎の施工不良を理解する前提として、基本的な基礎の仕組みと役割について説明します。

(1)そもそも基礎とは

基礎とは、建築物に作用する荷重および外力を支持し、地盤に伝える最下部の構造物をいいます。広い意味では、地業(じぎょう)という、基礎スラブの下部に設けられる捨てコンクリート、割栗石、砕石などの部分も含めて基礎と呼ぶこともあります。
このような基礎は、主に「直接基礎」と「杭基礎」の2つに大別することができます。

①直接基礎

直接基礎とは、建物に作用する荷重を基礎底盤から直接地盤に伝達する形式の基礎の総称です。直接基礎には、以下のような種類のものが含まれます。
・フーチング基礎(独立基礎、布基礎)
・べた基礎

②杭基礎

杭基礎とは、基盤底盤からの荷重を、杭を介して地盤に伝える基礎のことをいい、地盤が軟弱で直接基礎では建物を支えられない場合に用いられる基礎形式です。杭基礎には、以下のような種類のものが含まれます。
・摩擦杭
・支持杭

(2)基礎にはどのような役割がある?

建物の基礎は、長期荷重と短期荷重を組み合わせた合計荷重が屋根、壁、梁、柱を介して安全に地盤に伝達する役割を担うものになります。
長期荷重……固定荷重(建物自体の重量)、積載荷重(荷物などの使用時に発生する荷重)、積雪荷重(雪の重さ)
短期荷重……風圧力(風が建築物に与える力)、地震力(地震時に建物に加わる水平力)
なお、基礎の下部に広がって設けられる構造体部分を基礎スラブ(底盤、フーチング、ベースなど)といい、上部構造の荷重を分散して地盤に伝達するために必要な面積を確保するための重要な構造部分です。

2、基礎の施工不良とは

建物の基礎の施工不良には、どのようなものがあるのでしょうか。以下では、代表的な基礎の施工不良の例を説明します。

(1)基礎の沈下

基礎の沈下には、場所によって沈下量が異なる「不同沈下」と沈下量が一様な「等沈下」があります。基礎が不同沈下した場合、上部構造の傾き、基礎や外壁・内壁などのひび割れ、建具の開閉不良などのさまざまな不具合現象が生じます。等沈下の場合、上部構造への影響は少ないですが、設備配管の接続不良などの不具合現象が生じることもあります。
このような基礎の沈下が生じた場合、以下の原因が考えられます。
・不均一な軟弱地盤
・擁壁の変位
・地盤改良設計不良
・地盤改良施工不良
・切盛土敷地
・近隣掘削工事

(2)かぶり厚さ不足

かぶり厚さとは、鉄筋コンクリート内の鉄筋表面から、これを覆っているコンクリート表面までの距離をいいます。かぶり厚さが小さいと、鉄筋コンクリートの構造耐力、耐火性、耐久性を低下させるおそれがありますので、一定のかぶり厚さを確保する必要があります。
このようなかぶり厚さが不足すると、年月の経過によりコンクリートの中性化や腐食性物質の浸透等をもたらし、それにより鉄筋が発錆・腐食して膨らみ、コンクリートにひび割れが生じる原因となります。

(3)ひび割れ

基礎のひび割れとは、基礎のコンクリートに部分的な亀裂が発生することをいいます。
コンクリートは、その性質上、乾燥収縮によるひび割れが生じるのは避けられませんので、一定程度のひび割れが生じるのは許容範囲といえます。
しかし、ひび割れの程度が大きい場合は、建物の基礎の美観を損ねるだけでなく、漏水が発生し、鉄筋が腐食して耐久性に問題が生じることがあります。また、過大なひび割れが生じると、荷重を安全に支持し、地盤に伝達するという基本的な機能が損なわれるおそれもあります。
このような基礎のひび割れは、地震や不同沈下などの外部作用力により生じることがありますが、それ以外にもコンクリートの性質、使用材料、施工不良などが原因で生じることもあります。

(4)コンクリートの強度不足

建物の基礎に用いられるコンクリートは、一般的に設計基準強度が21N/㎟または24 N/㎟のものが用いられますので、コンクリートの調合計画ミスが原因でコンクリートの強度不足が生じることは少ないといえます。
しかし、コンクリート打設時に過料に水を混入し、または降雨時にコンクリートを打設したことにより水セメント比が高くなったような場合には、十分な強度が発現しないこともあります。また、コンクリート打設時の締固めが不十分だと、コンクリートの空隙比が高くなり、十分な強度が発現しない原因となります。
コンクリートの強度不足が生じると、ひび割れや欠損が生じることがあります。

(5)地業の施工不良

地業とは、基礎スラブの下部に設けられる捨てコンクリート、割栗石、砕石などの部分の工事をいい、その目的は、土工事による地盤のゆるみを固めることや捨てコンクリートの下地を造ることなどにあります。
地業の未施工や施工不良などがあると、建物に作用する荷重が基礎から地盤に適切に伝わらなくなり、建物の不同沈下を発生させる原因となります。このような地業の施工不良は、地盤に適した地業選択の誤りなどの人為的な要因が主な原因となります。

3、基礎の施工不良には契約不適合責任を追及

上記のような基礎の施工不良が明らかになった場合には、売主に対する契約不適合責任の追及を検討します。

(1)契約不適合責任とは

契約不適合責任とは、引き渡された目的物が、種類、品質または数量に関して契約内容に適合しないものであるときに、売買契約の売主に発生する責任です。契約不適合責任は、売買以外の有償契約にも準用されていますので、請負契約などでも契約不適合責任は発生します。
不動産に関しては、種類、数量の不適合が生じるケースはほとんどありませんので、主に「品質」が問題となります。そして、契約不適合か否かについては、契約当事者の合意や契約の趣旨に照らして、目的物がその種類のものとして、
・通常予定されていた品質を欠くか
・特別に予定されていた品質を欠くか
という観点から検討することになります。

(2)責任追及の4つの方法

建物の基礎に施工不良があり、契約内容に適合していないといえる場合には、以下の4つの方法により、売主の責任を追及することができます。

①追完請求

追完請求とは、不具合の修繕、設備の取り換えなど目的物の修補・代替物の引き渡し・不足分の引き渡しにより履行の追完を求める方法です。
建物の基礎に施工不良があった場合、建築途中であれば、建築を一旦ストップして、基礎の補修ややり直しを求めることができます。

②代金減額請求

代金減額請求とは、不具合の程度に応じて、売買代金の減額を求める方法です。
建物の基礎に施工不良があった場合には、相当期間を定めて追完の催告を行い、その期間内に追完がなければ代金減額請求をすることができます。ただし、催告に意味がない場合(追完履行不能、追完拒絶、催告しても追完の見込みがない場合など)には、催告をすることなく代金減額請求が可能です。

③損害賠償請求

建物の基礎の施工不良により買主に損害が発生した場合には、売主に対して損害賠償請求をすることができます。この場合の損害賠償請求は、債務不履行による損害賠償請求ですので、売主の帰責事由が必要になります。

④契約の解除

契約不適合の内容が軽微でない場合には、契約を解除することもできます。
建物の基礎は、建物を支える重要な構造体ですので、施工不良の内容によっては、軽微なものとはいえず、契約の解除が認められるケースも少なくないでしょう。

4、基礎の施工不良に関する裁判例の紹介

以下では、建物の基礎の施工不良に関する裁判例を紹介します。

(1)コンクリートのかぶり厚さ不足に関する裁判例(仙台高裁平成23年9月16日判決)

この事案では、基礎の鉄筋下部のかぶり厚さ不足、基礎の厚さ不足、コールドジョイント、根入れ深さ不足、鉄筋の露出といった瑕疵が生じていました。
裁判所は、鉄筋のかぶり厚さの不足により建物強度に不足が生じることはないものの、長期的にコンクリートの中性化、鉄筋の発錆を生じさせるおそれがあり、かぶり厚さや基礎の厚さの不足の程度が大きいことから、建物の基本的な安全性を損なう瑕疵であると判断しています。

(2)基礎のひび割れに関する裁判例(大阪地裁平成11年2月8日判決)

この事案では、売買契約当時にはなかった土間コンクリート、壁面、基礎などのクラックが契約締結後9か月後から発生するようになりました。
裁判所は、クラックの原因は、土地の造成時の地盤改良工事の際の転圧不足による地盤沈下および施工上の不備にあると認定し、これを原因としてクラックが発生した本件不動産は、居宅として通常有すべき性状を備えていないものとして瑕疵があると判断しました。

(3)コンクリートの強度不足に関する裁判例(名古屋地裁岡崎支部平成14年2月26日判決)

鉄筋造3階建ての基礎コンクリート強度が問題となった事案について、裁判所は、基礎コンクリート強度の平均値が設計基準強度の210㎏/㎠を大きく下回っており、建築基準法、公庫融資基準および設計図の基準に違反して安全性を保持し得ない構造の瑕疵である建物だと判断しました。

5、まとめ

建物の基礎は、建物を支える重要な構造体ですので、基礎の施工不良により、沈下、ひび割れ、強度不足などが生じると、建物の安全性を害する重大な欠陥になるおそれがあります。このような基礎の施工不良が発生した場合には、売主に対して契約不適合責任を追及できる可能性がありますので、まずは弁護士に相談することをおすすめします。ダーウィン法律事務所では、不動産トラブルの取り扱いに力を入れています。不動産についてお悩みがある方は、当事務所までお気軽にご相談ください。

この記事を監修した弁護士

荒川香遥
  • 弁護士法人 ダーウィン法律事務所 代表弁護士

    荒川 香遥

    ■東京弁護士会
    ■不動産法学会

    相続、不動産、宗教法務に深く精通しております。全国的にも珍しい公正証書遺言の無効判決を獲得するなど、相続案件について豊富な経験を有しております。また、自身も僧籍を有し、宗教法人法務にも精通しておりますので、相続の周辺業務であるお墓に関する問題も専門的に対応可能です。

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