不動産売買において仲介業者が負うべき法的責任とは?

土地や建物を購入する際には、個人間で売買を行うケースもありますが、ほとんどのケースでは、不動産仲介業者を間に入れて取引を行います。不動産仲介業者を利用することで仲介手数料の負担が生じてしまいますが、不動産売買契約書や重要事項説明書の作成などの面倒な手続きを任せることができます。

このような不動産仲介業者が関与した物件に瑕疵や不具合があった場合には、不動産仲介業者に対して、何らかの責任追及を行うことができるのでしょうか。

今回は、不動産売買において契約内容との不適合が生じた場合に、仲介業者が負うべき法的責任についてわかりやすく解説します。

1、不動産仲介業者とは?

不動産仲介業者とは、不動産の売買または賃貸をする際に、売主と買主または貸主と借主の仲介役として、不動産の売買契約や賃貸借契約の成立に向けたサポートを行う業者です。

不動産売買において不動産仲介業者が行うサポートとしては、主に以下のようなものが挙げられます。
・広告販売活動により買主を探す
・物件の法律的調査
・不動産売買契約書および重要事項説明書の作成
・宅地建物取引士による物件説明および契約の立ち会い
・住宅ローンの手続きのサポート
・物件の引渡しの立ち会い

不動産の売買は、個人間で行うことも可能ですが、不動産売買においては法律上さまざまな規制が存在していますので、知識や経験のない当事者同士での売買ではトラブルが生じるリスクがあります。そのため、一般的には、不動産仲介業者を間に入れて、不動産売買の取引を進めていきます。

2、不動産仲介業者が負うべき法的責任とは?

不動産仲介業者が関与して購入した物件に何らかの不具合や瑕疵があった場合には、不動産仲介業者に対して、法的責任を追及することができるのでしょうか。

(1)契約不適合責任は負わない

購入した物件に瑕疵や不具合があった場合には、契約不適合責任を追及するという方法があります。契約不適合責任とは、以前は「瑕疵担保責任」と呼ばれていたものであり、引き渡された目的物について、種類、品質、数量が契約内容に適合しないときに売主が負うべき責任です。

しかし、不動産の売買における契約不適合責任は、買主が売主に対して請求するものですので、契約の当事者ではない不動産仲介業者は、契約不適合責任を負うことはありません。不動産仲介業者は、あくまでも売主と買主の間に入って契約成立に向けたサポートを行う立場に過ぎませんので、不動産仲介業者に対して、契約不適合責任を追及することはできません。

(2)仲介業者には説明義務違反が生じ得る

仲介契約は、民法上の準委任契約にあたりますので、仲介業者は、委託を受けた相手に対して、仲介契約の本旨に従い、善良なる管理者としての注意を払い、仲介事務を処理する義務を負っています。また、委託を受けていない人に対しても、信義則上の善管注意義務を負うと考えられています。

そのため、不動産売買におけるトラブルが発生した場合には、仲介業者の善管注意義務違反が問われることになりますが、より具体的にいうと調査義務違反や説明義務違反という形で責任を問われることになります。

(3)仲介業者の説明義務違反の例

不動産仲介業者の説明義務違反が問題になるのは、さまざまな場面がありますが、代表的なものとしては、以下のケースが挙げられます。

①物件調査・説明に関する責任

不動産仲介業者には、宅地建物取引業法で明示された事項以外にも当事者が意思決定をする際に重要となる事項については説明・告知する義務があります。

しかし、売買目的物の物的状況や隠れた瑕疵の存否・内容についてまで調査する義務まではありませんので、不動産仲介業者が瑕疵の存在を知っていた、または瑕疵が存在することを疑わせるような事情があるなどの特段の事情がない限りは、目的物に瑕疵や不具合があったとしても、説明義務違反とはなりません。

②法令調査・説明に関する責任

不動産仲介業者は、宅地建物取引業法で明示された法令以外にも、物件の利用目的に影響を生じる可能性のある法令や条例なども調査し、説明する義務があります。そのため、不動産仲介業者の調査、説明が不十分であったために、売買目的物に法律的瑕疵があることを知らずに購入してしまった買主は、不動産仲介業者に対して、調査義務違反または説明義務違反を理由とする責任追及を行うことができます。

③その他の事項に関する調査・説明に関する責任

環境的瑕疵や心理的瑕疵に関する事項についても、取引に及ぼす影響の程度、取引当事者の主観などを考慮して、不動産仲介業者の調査義務および説明義務の内容になることがあります。

一律に明確な基準を示すことはできませんが、このような事項により契約不適合となる事態が生じた場合には、売主への契約不適合責任だけではなく、仲介業者への調査義務・説明義務違反に基づく法的責任を追及することができます。

3、不動産の仲介業者の法的責任を肯定した裁判例

以下では、不動産の仲介業者の法的責任を肯定した裁判例を紹介します。

(1)東京地裁平成19年6月26日判決

買主は、土地に3階建ての建物を建築する予定で借地権付き建物を購入しました。買主は、既存建物を取り壊して、3階建ての建物を建築しようとしたところ、法令上は3階建ての建物の建築は可能でしたが、地主の承諾が得られず、近隣住民からの反対があったため、2階建ての建物にせざるを得ませんでした。そこで、買主は、不動産の売買契約を仲介した仲介業者に対して、損害賠償を求める訴訟を提起しました。

裁判所は、仲介業者が同じ地主の土地で同様の紛争を経験していたなどの特段の事情があることから、仲介業者の説明義務違反を認定し、買主の請求を認めました。

(2)大阪高裁平成16年12月2日判決

買主は、居住目的で土地および建物を購入しました。その後買主は、建物を訪れたところ、隣人から「子どもがうるさい」、「売主と同様に追い出してやる」などと言われたため、その建物への居住を断念せざるを得ませんでした。そこで、買主は、不動産の売買を仲介した仲介業者に対して、損害賠償を求める訴訟を提起しました。

裁判所は、仲介業者は上記のような事実があることを認識した場合には、そのような事実を説明する義務があるとして、仲介業者の説明義務違反を認定し、買主の請求を認めました。

4、不動産の仲介業者の法的責任を否定した裁判例

以下では、不動産の仲介業者の法的責任を否定した裁判例を紹介します。

(1)東京地裁平成19年3月26日判決

土地を購入した買主が、購入した土地中に建物の基礎と思われる地中障害物を発見したことから、仲介業者に対して、調査義務違反を理由とした損害賠償請求を行いました。

裁判所は、仲介業者がその事実を知らず、容易に知り得たものとはいえないことから、地中障害物について調査すべき格別の義務を負うといえないとして、仲介業者の説明義務を否定しました。

(2)東京地裁平成18年12月6日判決

賃貸マンションの階下の部屋で半年以上前に自然死による死者がいたにもかかわらず、賃貸借契約締結時にその事実を告知しなかったとして、賃貸マンションの借主が仲介業者に対して、損害賠償を求める訴訟を提起しました。

裁判所は、マンション内での自然死は、社会通念上、賃貸物件に関する嫌悪すべき歴史的背景などに起因する心理的瑕疵には該当しないとして、仲介業者の説明義務を否定しました。

5、まとめ

不動産の売買契約に不動産仲介業者が関与していた場合には、売主に対する契約不適合責任の追及だけではなく、不動産仲介業者に対する調査義務違反・説明義務違反に基づく損害賠償請求が認められる可能性があります。

ただし、不動産仲介業者の法的責任が認められるかどうかは、個別具体的な事案によって異なってきますので、まずは弁護士に相談することをおすすめします。ダーウィン法律事務所では、不動産トラブルの取り扱いに力を入れています。不動産についてお悩みがある方は、当事務所までお気軽にご相談ください。

この記事を監修した弁護士

荒川香遥
  • 弁護士法人 ダーウィン法律事務所 代表弁護士

    荒川 香遥

    ■東京弁護士会
    ■不動産法学会

    相続、不動産、宗教法務に深く精通しております。全国的にも珍しい公正証書遺言の無効判決を獲得するなど、相続案件について豊富な経験を有しております。また、自身も僧籍を有し、宗教法人法務にも精通しておりますので、相続の周辺業務であるお墓に関する問題も専門的に対応可能です。

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