借地上の建物は建て替えられる?建て替えの条件や承諾料について解説

借地上の建物は、借地人の所有物ですので自由に建て替えをすることができるのが原則です。しかし、ほとんどの借地契約では、建て替え禁止特約が設けられていますので、事前に地主の承諾をもらわなければ建物の建て替えをすることができません。

地主から承諾が得られない場合には、裁判所に申立てをすることで地主の承諾に代わる許可をしてくれる可能性がありますので、この手続きを利用するとよいでしょう。

今回は、借地上の建物の建て替えをする際の条件や地主に支払う承諾料について、わかりやすく解説します。

1、地主の承諾があれば建て替えは可能

建物が老朽化した場合は、建物の建て替えを検討することになりますが、借地上の建物の場合でも建て替えをすることができるのでしょうか。

(1)建て替え禁止特約があるときは地主の承諾が必要

借地契約では、ほとんどのケースで建て替え禁止特約が設けられています。このような特約がある場合には、借地人は、自由に建物の建て替えをすることができず、建て替えにあたって地主の承諾を得る必要があります。

このような特約がなければ、原則として、借地人が自由に建物の建て替えを行うことができますが、以下の2つのケースでは、建て替えが制限されることがあります。

①更新後の建て替えの場合

借地権が更新された場合の期間は、原則として20年または10年であり、決して長くはありません。借地権の残存期間内だけ存続する建物を再築することはできますが、短期間存続する建物を建てるのは実際上困難ですので、ほとんどのケースでは、残存期間を超えた建物の建て替えとなります。

このように借地契約の更新後に残存期間を超えて存続する建物の建て替えをするときは、建て替え禁止特約がなかったとしても、地主の承諾が必要になります。

②借地条件の変更が伴う建て替えの場合

借地条件の変更とは、「居住用から事業用」、「木造から鉄骨造」など借地契約で定められた条件とは異なる建物を建築することをいいます。

このような借地条件の変更を伴う建て替えをする場合には、建て替え禁止特約がなかったとしても、地主の承諾が必要になります。

(2)地主の承諾があっても建て替えができないケース

建て替え禁止特約があったとしても、地主の承諾があれば、建物の建て替えは可能です。しかし、以下のようなケースでは、地主の承諾があったとしても、建物の建て替えをすることはできません。

①既存不適格建築物

既存不適格建築物とは、建物の建築当時は法令の基準を満たしていたものの、その後の法改正により法令の基準を満たさない状態になった建物のことをいいます。

既存不適格建築物は、建ぺい率や容積率が法令の基準をオーバーしているものが多く、そのままでは建て替えが認められません。建物の建て替えをする際には、現在の法令の基準を満たした形で建て替える必要があります。

②接道義務を満たさない建物

建築基準法では、幅4m以上の道路に敷地が2m以上接していなければならないと定められています。これを「接道義務」といいます。

接道義務を満たしていない借地の場合、そもそも建て替えをすることができませんので注意が必要です。

2、地主の許可が得られなかった場合の対処法

建て替え禁止特約が設けられていて、地主からの承諾も得られない場合には、借地非訟手続きにより、裁判所から地主の承諾に代わる許可をもらうことができます。

(1)借地非訟手続きとは

借地非訟手続きとは、借地借家法で定められている借地に関する紛争を扱う特別な裁判手続きです。一般的な民事訴訟とは異なり、非公開の手続きで行われるのが特徴で、不動産の鑑定が必要になったとしても、当事者が費用を負担する必要はありません。

借地のトラブルで多いのが、建て替えや借地権の譲渡について地主が承諾してくれないという問題です。借地人と地主との協議により解決するのが基本ですが、地主によっては不当に高額な承諾料を要求するなど当事者だけでは解決できない問題もあります。そのような場合には、借地非訟手続きにより裁判所が地主の承諾に代わる許可を出してくれれば、地主の承諾がなくても建物の建て替えや借地権の譲渡を行うことができます。

なお、借地非訟手続きを利用できる事件には、以下のような種類があります。
・借地条件の変更(借地借家法17条1項)
・増改築の許可(借地借家法17条2項)
・借地契約の更新後の建物再築の許可(借地借家法18条1項)
・賃借権の譲渡等の許可(借地借家法19条1項)
・建物競売等に係る賃借権の譲渡等の許可(借地借家法20条1項)
・建物および土地賃借権の譲受等の命令(借地借家法19条3項)

(2)借地非訟手続きの流れ

借地非訟手続きは、以下のような流れで進んでいきます。

①申立て

借地非訟事件の管轄は、借地権の目的である土地を管轄する地方裁判所になります。申立人は、以下の書類を準備して、借地非訟手続きの申立てを行います。
・申立書
・資格証明書(申立人または相手方が法人の場合)
・土地および建物の固定資産評価証明書
・現場の住宅地図
・賃貸借契約書
申立てから、1か月~1か月半後の日が第1回目の審問期日として指定されるのが一般的です。

②審問期日

審問期日では、裁判官が申立人および相手方からの意見の聴取を行います。争いがある事件では、1か月に1回のペースで審問期日が重ねられていきます。審問期日の途中で、話し合いによる解決を希望する場合には、裁判官により和解の手続きが進められます。

③鑑定委員会の意見聴取

借地非訟手続きでは、裁判所が決定をする際には、原則として鑑定委員会の意見を聞かなければなりません。鑑定委員会は、専門的知識を有する弁護士、不動産鑑定士、建築士などのなかから選ばれるのが一般的です。鑑定委員は、不動産の鑑定などを行うことになりますが、鑑定員に要する費用はすべて国が負担しますので、当事者が負担する費用はありません。

④和解または決定

裁判所は、当事者の主張立証が終了した時点で手続きを終了し、それまでの主張立証を踏まえて、決定をすることになります。

なお、裁判所の決定に不服があるときは、決定書を受け取ってから2週間以内に即時抗告という不服申し立ての手続きをとることができます。

3、借地上の建物の建て替えにあたっては承諾料が必要になる

借地上の建物を建て替える場合には、地主に対して承諾料の支払いが必要になります。

(1)建て替えの承諾料とは

地主との交渉により建て替えの承諾を求める際には、地主から承諾を得る条件として承諾料の支払いを要求されることがあります。法的な根拠はありませんが、借地上の建物の建て替えにより地主にも不利益が生じることになりますので、一般的に承諾料の支払いが必要とされています。

また、借地非訟手続きにより、裁判所に地主の承諾に代わる許可決定を求める際にも、裁判所が財産上の給付命令として借地人に承諾料の支払いを命じるのが一般的です。

このように借地上の建物の建て替えにあたっては、地主に対して承諾料の支払いが必要になると覚えておきましょう。

(2)承諾料の相場

地主に支払う承諾料については、地主との協議によって取り決めるのが基本です。その際には承諾料の相場を把握しておくことで、スムーズな取り決めが可能となります。

建物の建て替えの場合の承諾料の相場は、更地価格の3~5%が相場となります。建て替えにあたり借地契約の条件変更も伴うようなケースでは、更地価格の10%が承諾料の相場になることもあります。

地主から不当に高い承諾料を要求されたときは、その金額で合意するのではなく、裁判所の借地非訟手続きを利用するとよいでしょう。借地非訟手続きを利用すれば、鑑定委員会により適正な承諾料を定めてもらうことができます。

4、期間満了または建物の朽廃が近いときの注意点

借地契約の期間満了が近くなっていたとしても、そのことを理由に地主の承諾に代わる許可が否定されるわけではありません。しかし、借地契約の期間満了が近づいている状況で建て替えが認められると、地主は、建て替えがなければ更新拒絶できたはずなのに、更新拒絶が否定されてしまうといった不利益が生じてしまいます。そのため、借地契約の期間満了が近いときに借地非訟の申立てがあった事案については、更新拒絶の当否も踏まえて、地主の承諾に代わる許可の決定をするかどうかが判断されることになります。

これは、建物の朽廃が近いときも同様です。

5、まとめ

建て替え禁止特約が設けられている場合、借地上の建物を建て替えるには、地主の承諾が必要になります。地主の承諾が得られないような場合には、裁判所に借地非訟の申立てをして地主の承諾に代わる許可の決定を求めることができます。ただし、この場合でも地主に対して承諾料の支払いが必要になりますので注意が必要です。
借地をめぐる地主との交渉や借地非訟の申立てにあたっては、専門家である弁護士のサポートが不可欠となります。借地上の建物の建て替えをお考えの方は、まずは、弁護士に相談することをおすすめします。

ダーウィン法律事務所では、借地などの不動産案件の取り扱いに力を入れています。不動産に関するトラブルでお困りの方は、当事務所までお気軽にご相談ください。

この記事を監修した弁護士

荒川香遥
  • 弁護士法人 ダーウィン法律事務所 代表弁護士

    荒川 香遥

    ■東京弁護士会
    ■不動産法学会

    相続、不動産、宗教法務に深く精通しております。全国的にも珍しい公正証書遺言の無効判決を獲得するなど、相続案件について豊富な経験を有しております。また、自身も僧籍を有し、宗教法人法務にも精通しておりますので、相続の周辺業務であるお墓に関する問題も専門的に対応可能です。

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