借地借家法では、借地人を保護する観点からさまざまな制度が設けられています。しかし、一時使用目的の借地権であった場合には、借地借家法による保護規定が適用されません。そのため、地主の方が近い将来土地の利用を予定しているという場合、一時的に土地を第三者に賃貸する際に一時使用目的の借地権が利用されることがあります。
しかし、一時使用目的の借地権であるかは、単に期間だけではなく、目的や動機などさまざまな事情を考慮して判断しますので、その点を踏まえて契約を行うことが大切です。
今回は、一時使用目的の借地権とは何か、地主側および借地人側からみたメリット・デメリットについてわかりやすく解説します。
目次
一時使用目的の借地権とは、マンション建設中の現場事務所など一時的な使用が目的であることが明らかに認められる借地権のことをいいます。
一般的な借地権では、存続期間が30年とされており、30年よりも短い存続期間を定めたとしてもそのような合意は無効となり、借地権の期間は30年になってしまいます。また、借地契約の更新拒絶にあたっては正当事由が必要になるなど、借地借家法では、借地権者を保護する観点からさまざまな制度が設けられています。
しかし、もともと一時的に土地を利用する目的しかないにもかかわらず、このような手厚い保護をするのは取引の実態にそぐわないケースもあります。そこで、一時使用目的の借地権については、以下のような借地借家法の保護規定を適用しないこととされています。
・借地権の存続期間(借地借家法3条)
・借地権の更新後の期間(借地借家法4条)
・借地契約の更新請求等(借地借家法5条)
・借地契約の更新拒絶の要件(借地借家法6条)
・建物の再築による借地権の期間の延長(借地借家法7条)
・借地契約の更新後の建物の滅失による解約等(借地借家法8条)
・建物買取請求権(借地借家法13条)
・借地条件の変更及び増改築の許可(借地借家法17条)
・借地契約の更新後の建物の再築の許可(借地借家法18条)
・定期借地権(借地借家法22条)
・事業用定期借地権等(借地借家法23条)
・建物譲渡特約付借地権(借地借家法24条)
一時使用目的の借地権にはどのようなメリット・デメリットがあるのでしょうか。以下では、地主側および借地人側からみた一時使用目的の借地権のメリット・デメリットについて説明します。
地主側からみた一時使用目的の借地権のメリット・デメリットとしては、以下のようなものが挙げられます。
地主側としては、契約期間を自由に決めることができるというメリットがあります。一般的な借地権では、契約期間が最低でも30年とされていますので、地主にとっては大きな負担になります。一時使用目的の借地権であれば、短期間の借地契約の設定が可能ですので、長期間の契約に拘束されることはありません。
また、一時使用目的の借地権であれば、解約にあたって正当事由が必要ありませんので、地主において土地を使う事情が生じたとしても、柔軟に対応することができます。
一時使用目的の借地権だと借地人側から自由に借地契約の解約ができてしまいますので、当初想定していた収益が見込めない可能性があります。また、一時使用目的の借地権は、借地借家法の保護規定が適用されないことから、借地人に不利な契約になりますので、地代が相場よりも安くなる傾向があります。
借地人側からみた一時使用目的の借地権のメリット・デメリットとしては、以下のようなものが挙げられます。
マンション建設中の現場事務所などは、マンションの建築が完了した後は取り壊してしまいますので、長期間の借地契約はそもそも不要です。一時使用目的の借地権であれば短期間の借地契約を締結することができますので、借地人側からも自由な契約期間を設定できるという点は、メリットになります。
また、地代が相場に比べて安くなるという点も費用負担を抑えることができますので、借地人のメリットといえるでしょう。
一時使用目的の借地権だと借地借家法による保護規定が適用されませんので、突然、地主から立ち退きを求められてしまうおそれがあります。地主から解約の申し入れがあったとしてもそれを拒否することができないという点は借地人側のデメリットといえるでしょう。
一時使用目的の借地権を設定する際には、以下の点に注意が必要です。
一時使用目的の借地権は、「一時使用のために借地権を設定したことが明らかな場合」(借地借家法25条)に認められます。そのため、契約書には、土地の一時使用目的であることを明記しておくことが必要になります。
ただし、抽象的に一時使用の目的であることを記載するだけでは不十分であり、
・土地の利用目的の具体的な記載
・建物の種類、構造、規模、用途の記載
・短期の賃貸借期間
などを記載する必要があります。たとえば、建物の種類として「仮設建物、プレハブ」などを記載していた場合には、一時使用目的であることが推認されますが、反対に建物の構造が堅固な建物であった場合には、一時使用目的を否定する事情となります。
なお、権利金、敷金、保証金の授受をしないことも一時使用目的の借地権であることを推認する事情になりますので、これらの金銭を授受しない場合には記載する必要があります。
借地契約の期間が短いことは、借地権が一時使用目的であることを推認させる重要な要素となります。
どのくらいの期間であればよいかは、一時使用目的との関係で決まりますので一概に決めることはできませんが、少なくとも借地借家法が定める存続期間よりも短い契約期間であることが必要です。たとえば、5年程度の期間であれば、一時使用目的の借地権であると判断されやすいでしょう。
一時使用目的の借地権であったとしても、借地契約の期間の延長が必要にある場合もあります。契約を更新したからといって、一時使用目的の借地権であることが否定されるわけではありませんが、目的達成に必要かつ合理的な期間を超えて更新を繰り返している場合には、一時使用目的の借地権とは認められません。
そのため、一時使用目的の借地契約を設定する際には、自動更新条項を設定するのではなく、「貸主、借主協議の上、本契約を更新することができる」としておくべきでしょう。
以下では、一時使用目的の賃借権に関する裁判例を紹介します。
貸主、借主間の建物収去土地明け渡し請求事件についての裁判上の和解において成立した賃貸借契約という特別事情においては、貸主、借主間において期間の点について借地法の適用を受けるべき契約を締結する意思はなかったとして、期間を10年とした裁判上の和解による賃貸借契約であっても一時使用目的の借地権であると認定しました。
公正証書に期間を2年とする一時使用の賃貸借契約である明記されているものの、借主は、輸入自動車販売業として営業用建物を築造し、締約交渉の過程において継続的更新を強く希望しており、貸主においてもそのような事情を知って契約を締結していました。また、貸主が継続的更新を強く希望したのに対して、貸主が特段拒絶せずその後2回にわたり契約の更新に応じていました。さらに、貸主は、更新の都度借主に対して、賃料増額の意思表示をしているなどの事実から本件賃貸借の2年という期間は、賃料据え置き期間の意味を有しており一時使用目的の賃貸借とはいえないと判断されました。
賃貸借契約書に作業場および資材置き場としての一時使用目的のものであることが明記され、土地上には仮設建物のみが建築され、権利金、敷金などの賃料以外の金銭授受がなされていないなど事情のもとにおいては、存続期間を1年とする土地賃貸借契約が15年間にわたり更新されてきたとしても、なお一時使用の目的を維持していると判断されました。
マンション建設中の現場事務所などでは、一時使用目的の借地契約が利用されることがあります。一時使用目的の借地契約は、地主側および借地人側の双方にとってメリットのある契約ですが、借地借家法による借地人保護規定が適用されないため、思わぬ不利益を被るおそれもあります。
地主から突然明け渡しを請求されたとしても、一時使用目的の借地権であることを否定する事情がある場合には、明け渡しを拒否できる可能性もありますのでまずは弁護士に相談することをおすすめします。ダーウィン法律事務所では、借地などの不動産に関する案件の取り扱いに力を入れております。不動産トラブルでお困りの方は、当事務所までお気軽にご相談ください。
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