借地上の建物の賃貸・譲渡と地主の承諾の要否について弁護士が解説

借地人は、借地上に建物を建てて土地を利用していくことになりますが、場合によっては、借地上の建物を第三者に売却したり、賃貸をする必要が生じることがあります。このような場合、地主の承諾なく借地人が独断で建物の賃貸および譲渡を行うことができるのでしょうか。具体的な状況によって地主の承諾の要否が異なってきますので、しっかりと押さえておくことが大切です。

今回は、借地上の建物の賃貸・譲渡と地主の承諾の要否について、わかりやすく解説します。

1、借地上の建物の賃貸と賃借権の転貸

借地上の建物を賃貸では、地主の承諾が必要になるのでしょうか。

(1)借地の転貸には地主の承諾が必要

借地契約は、売買のように1回きりの取引ではなく、何十年にもわたって継続する契約になります。このような継続的契約では、地主と借地人との間の信頼関係が基礎にありますので、勝手に借地を第三者に転貸されてしまうと、思わぬ不利益を被るリスクがあります。

そのため、借地の転貸にあたっては、原則として地主の承諾が必要で、地主に無断で借地の転貸をしてしまうと、借地契約の解除事由にあたります。

(2)建物を賃貸する場合は地主の承諾は不要

では、借地上の建物を賃貸する際に、地主の承諾が必要なのでしょうか。建物が賃貸されるとその敷地である借地も建物の賃借人が使うことになりますので、外見上は借地の転貸と同じように見えることから問題となります。

しかし、借地上の建物を賃貸する際には、地主の承諾は不要と考えられています。なぜなら、借地上の建物は、借地人の所有物であり、本来自由に使用収益することができ、借地人所有の建物を賃貸して収益を上げたとしても、借地契約の目的に反するものではないからです。

そのため、地主は、建物の賃借人がどのような人物であるか不安を抱いたり、見ず知らずの第三者に土地を利用されるのが嫌だとしても、建物の賃貸を拒んだり、借地契約を解除することはできません。

(3)借地条件の内容には注意が必要

借地上の建物の賃貸借は、土地の賃貸借ではありませんので、上記のとおり地主の承諾は不要です。しかし、借地契約の借地条件との関係では、建物の賃貸が制限される場合もありますので注意が必要です。

すなわち、借地条件が「自己使用の居宅に限る」とされていた場合において、借地上の建物を第三者に賃貸すると借地条件に違反する可能性があります。このようなケースで建物を賃貸する場合は、地主と協議をし、借地条件についての変更の承諾を得るか、裁判所に借地条件変更の裁判を起こす必要があります。

2、借地上の建物の譲渡と賃借権の譲渡

借地上の建物の譲渡の際、地主の承諾が必要になるのでしょうか。

(1)借地権の譲渡には地主の承諾が必要

借地権を譲渡すると、土地を利用する権利が借地人から第三者に移転します。既に説明したとおり、借地契約は、地主と借地人との信頼関係を基礎にする契約ですので、見ず知らずの第三者に借地権が移転してしまうと、地主に対して不測の損害が生じるおそれがあります。

そのため、借地権の転貸と同様に借地権の譲渡に関しても、原則として地主の承諾が必要になります。地主の承諾を得ることなく無断で借地権を譲渡してしまうと、借地契約の解除事由に該当しますので注意が必要です。

(2)借地上の建物の譲渡でも地主の承諾必要

では、借地上の建物の譲渡に承諾は必要なのでしょうか。借地上の建物の賃貸であれば地主の承諾が不要ですので、それとの関係で問題となります。

この点、借地上の建物を譲渡した場合には、特段の定めがない限り、借地権も借地上の建物の従たる権利として、買主に移転します。そのため、建物を譲渡する場合も承諾が必要です。借地上の建物の賃貸と譲渡では、地主の承諾の要否が異なりますので注意が必要です。

地主に無断で借地上の建物を譲渡してしまうと、借地権の解除事由となります。しかし、借地契約が当事者間の信頼関係を基礎にする契約であることから、直ちに解除ができるわけではなく、信頼関係を破壊するといえる事情がある場合に借地権の解除が可能となります。たとえば、借地人が同居の孫に対して、借地上の建物を贈与したようなケースであれば、地主に対して特段の不利益を与えるものではありませんので、信頼関係が破壊されたとはいえず、借地契約の解除までは認められないでしょう。

3、法人化と賃借権の譲渡

個人事業主である借地人が法人化した場合、借地権が個人から法人に移転しますが、そのような場合でも地主の承諾が必要になるのでしょうか。

(1)法人化と賃借権の譲渡との関係

借地上の建物を譲渡する際には、原則として地主の承諾が必要になります。では、個人事業で使用していた建物を法人化にあたって譲渡した場合には、地主の承諾が必要になるのでしょうか。

個人事業主が法人化した場合には、実態としては変化がないため、地主の承諾が必要ないようにも思えます。しかし、判例では、個人の借主と法人との間には賃借権の譲渡が成立し、地主の承諾を必要としています(最高裁昭和46年11月4日判決)。法人化により実態が変わらないとしても、個人と法人とでは法人格が異なる以上、形式的に判断して借地権が譲渡されたといえる場合には、地主の承諾が必要になります。

(2)法人化による譲渡と借地契約の解除

個人事業主が法人化した場合でも、原則として地主の承諾が必要になりますが、無断で借地権の譲渡があったとしても、それだけで直ちに借地契約が解除されるわけではありません。

法人化による借地権譲渡の事案でも、信頼関係が破壊されたといえる事情がなければ借地契約を解除することはできません。たとえば、個人事業から法人になったとしても、同一の営業を継続し、建物の使用状況に変更がないような事案であれば、信頼関係が破壊されたとはいえず、借地契約の解除は認められないでしょう。

4、借地上の建物の担保設定と賃借権譲渡

借地上の建物に担保(譲渡担保)を設定する場合には、地主の承諾が必要になるのでしょうか。

(1)譲渡担保と賃借権譲渡との関係

譲渡担保や買戻特約付売買などは、形式的に所有権の移転がなされるものの、実態としては担保権設定が目的である契約です。このような担保権を借地上の建物に設定する場合には、地主の承諾が必要になるのでしょうか。借地上の建物の譲渡では、地主の承諾が必要になるため問題となります。

このような譲渡担保契約では、担保権設定後も借地人が建物および借地を使用し、賃料を負担しているのが通常です。そのため、担保権設定時に借地権の譲渡があったとするのは実態とかけ離れているといえますので、このような形式の担保権の設定は、借地権の譲渡または転貸にあたらないと考えられています。

(2)譲渡担保の実行時には地主の承諾が必要

上記のように譲渡担保権の「設定時」には、地主の承諾は必要ありませんが、譲渡担保の「実行時」には地主の承諾が必要になりますので注意が必要です。

そのため、譲渡担保権が実行される前に地主と協議をして、あらかじめ借地権の譲渡についての承諾を得ておかなければなりません。地主が任意に承諾してくれればよいですが、地主に不利になるおそれがないにもかかわらず承諾してくれない場合は、裁判所に地主の承諾に代わる許可を求めることができます。

5、まとめ

借地権の譲渡または転貸にあたっては、原則として地主の承諾が必要になります。しかし、借地上の建物の賃貸をする場合には、事実上建物の賃借人が借地を利用することになったとしても、借地人の承諾は不要です。

このように状況に応じて地主の承諾が必要になるケースが異なってきますので、判断に迷われるときは、一度弁護士に相談するのがおすすめです。ダーウィン法律事務所では、借地などの不動産に関する案件の取り扱いに力を入れております。不動産トラブルでお困りの方は、当事務所までお気軽にご相談ください。

この記事を監修した弁護士

荒川香遥
  • 弁護士法人 ダーウィン法律事務所 代表弁護士

    荒川 香遥

    ■東京弁護士会
    ■不動産法学会

    相続、不動産、宗教法務に深く精通しております。全国的にも珍しい公正証書遺言の無効判決を獲得するなど、相続案件について豊富な経験を有しております。また、自身も僧籍を有し、宗教法人法務にも精通しておりますので、相続の周辺業務であるお墓に関する問題も専門的に対応可能です。

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