不動産売買における契約不適合責任の免責特約の有効性と注意点を解説

購入した不動産に契約内容との不適合があった場合には、追完請求、代金減額請求、損害賠償請求、契約の解除といった契約不適合責任を追及することができます。しかし、このような契約不適合責任は、特約によって排除することができてしまいます。不動産の売買契約書などに契約不適合責任を免責する特約があった場合には、売主に対する契約不適合責任の追及が認められない可能性があります。

ただし、事案によっては契約不適合責任を免責する特約の効力が制限または無効になるものもありますので、正しく理解しておくことが大切です。
今回は、不動産売買における契約不適合責任の免責特約の有効性とその注意点についてわかりやすく解説します。

1、契約不適合責任の免責とは

契約不適合責任の免責とはどのようなものなのでしょうか。以下では、契約不適合責任の概要と契約不適合責任の免責について説明します。

(1)契約不適合責任とは

契約不適合責任の免責を理解するには、まずは契約不適合責任がどのようなものかを理解することが必要です。
契約不適合責任とは、契約で引き渡された目的物に種類・数量・品質に関し、契約内容との適合があった場合において、目的物を引き渡した側に生じる責任のことをいいます。売主が契約不適合責任を負う場合には、買主は、以下のような請求をすることが可能です。
・追完請求
・代金減額請求
・損害賠償請求
・契約の解除

以前は、「瑕疵担保責任」と呼ばれていましたが、令和2年4月1日から施行された改正民法によって「契約不適合責任」という名称へと改められました。

(2)契約不適合責任には免責の特約がある

契約不適合責任は、民法上の制度ですが、あくまでも任意規定とされています。そのため、契約自由の原則に基づき、契約不適合責任を免責する旨の特約を設けることも可能です。

不動産売買契約書に契約不適合責任を免責する旨の特約が設けられている場合には、原則として売主に対して契約不適合責任を追及することはできません。

実際の裁判例でも、売主が買主に対して免責条項の読み上げや免責条項を設けた理由を説明し、買主はその説明を受けた上で契約を締結したという事案において、契約不適合責任(瑕疵担保責任)の免責特約を有効と判断しています(東京地判平成7年12月8日)。

しかし、後述するように契約不適合責任を免責する旨の特約が設けられていても、特約の効力が制限または無効になるケースもありますので、すぐに諦めてしまうのは禁物です。

2、契約不適合責任の免責が認められないケース

契約不適合責任を免責する旨の特約が設けられていたとしても、以下のようなケースでは、免責が認められない可能性があります。

(1)消費者契約法が適用されるケース

売主が事業者、買主が消費者である場合には、消費者契約法が適用されます。

消費者契約法では、消費者に生じた損害の賠償責任の全部を免除する特約を無効とし(消費者契約法8条)、一部の免除であっても消費者の利益を一方的に害するものについては無効とされています(消費者契約法10条)。

そのため、消費者契約法が適用されるケースでは、契約不適合責任を免責とする特約は無効になる可能性があります。

(2)宅建業法が適用されるケース

売主が宅地建物取引業者、買主が宅地建物取引業者以外であった場合には、宅建業法が適用されます。

宅建業法では、契約不適合責任が目的物の引渡しから2年以上となる特約を設ける場合を除いて、民法よりも買主に不利になる特約を無効としています(宅建業法40条1項)。宅建業者は、不動産取引に関する豊富な知識と経験を有していますので、それ以外の人との間の取引では、買主に不利益が及ばないように法律により契約不適合責任の免責の効力が制限されています。

そのため、不動産売買契約書に契約不適合責任の全部を免責する条項が設けられていた場合には、無効と判断されます。

(3)売主が契約不適合を知りながら買主に告げなかったケース

契約不適合責任を免責する条項が設けられていたとしても、売主が故意に目的物の契約内容との不適合を告げなかった場合には、契約不適合責任の免責は認められません。
たとえば、中古住宅に雨漏りがあることを知りながら、買主にそのことを告げなかった場合には、買主は、売主に対して契約不適合責任を追及することが可能です。

(4)売主の行為により権利に関する不適合が生じたケース

売主の行為によって権利に関する契約内容との不適合が生じたケースでも、契約不適合責任を免責する特約は適用されません。

たとえば、売主が売買の目的物である建物に抵当権を設定して銀行から融資を受けたようなケースがこれにあたります。このようなケースでは、売主自ら契約不適合責任の状態をもたらしたといえますので、当然の結論といえます。

(5)新築物件を購入したケース

新築住宅の請負契約または売買契約では、品確法(住宅の品質確保の促進等に関する法律)が適用されます。

品確法では、新築住宅の構造耐力上主要な部分および雨水の侵入を防止する部分に関しては、引渡しから10年間の契約不適合責任が定められています。民法では引渡しから1年とされているのと比べると非常に長い期間契約不適合責任が認められています。

このような品確法の規定に反して、契約不適合責任の免責または制限をする条項については、無効になります。

3、契約不適合責任を免責する契約条項の例

契約不適合責任を追及する際には、まずは売買契約書で契約不適合責任の免責条項が設けられているかどうかを確認する必要があります。契約不適合責任の免責条項は、以下のような内容が記載されていますので、それと見比べて探してみるとよいでしょう。

(1)契約不適合責任をすべて免責する条項

契約不適合責任のすべてを免責する条項の例としては、以下のようなものがあります。

「売主は、買主に対し、本物件に関して契約不適合を理由とする追完、代金減額、損害賠償、契約解除などの責任を負わない」

(2)契約不適合責任による損害賠償額の上限を定める条項

契約不適合責任のうち損害賠償額の上限を定める条項の例としては、以下のようなものがあります。

「売主の買主に対する損害賠償責任は、契約不適合責任、債務不履行責任、その他請求原因の如何にかかわらず、金○○万円を超えないものとする」

(3)契約不適合責任の行使期間を制限する条項

契約不適合責任のうち行使期間を制限する条項の例としては、以下のようなものがあります。

「売主は、買主に対して、契約不適合責任を本物件の引き渡し時から〇か月以内に限り負う」

4、中古不動産を購入する際の注意点

中古不動産の購入をご検討中の方は、以下の点に注意が必要です。

(1)契約書の内容を精査する

中古不動産の購入にあたっては、売主や仲介業者から契約書と重要事項説明書の説明がなされます。契約書や重要事項説明書には、対象となる物件に関する重要な情報や買主の権利を制限する特約などが設けられていることがあります。

面倒だからと適当な確認をしてしまうと、重要な条項を見落としてしまうおそれがあります。不動産に関するトラブルは、損害額も大きくなり、生活にも大きな支障が生じる可能性があります。このようなトラブルを回避するためにも、一度持ち帰って契約内容を精査するなど契約の締結は慎重に進めることが重要です。

(2)免責内容や期間制限をしっかりと確認する

購入する物件によっては、契約不適合責任の免責や期間制限が設けられているものもあります。このような特約が設けられている物件は、相場よりも金額が安く設定されているなど買主にとってもメリットのある物件です。

しかし、契約不適合責任を免責または制限する条項があるということは、購入後の保証がないことを意味します。そのため、そのような物件を購入する場合には、将来生じる可能性のあるさまざまなリスクを理解したうえで、購入を検討する必要があります。

(3)購入予定の物件を事前に調査する

契約不適合責任の免責が設けられている物件を購入する際には、インスペクションという不動産の事前調査を行うことにより、欠陥住宅を購入するリスクを減らすことができます。

インスペクションでは、建築士の資格を持つ専門の検査員により住宅の現状検査が行われます。それにより問題がないことがわかれば安心して購入手続きを進めることができますし、万が一欠陥が見つかったとしても契約の取りやめや物件の値下げを要求することができます。

インスペクションには費用がかかりますが、契約後に重大な欠陥が判明した場合の補修費用などを考えれば必要な出費といえるでしょう。

5、まとめ

購入した物件に契約内容に適合しない欠陥が判明した場合には、売主に対し、契約不適合責任を追及することができます。もっとも、契約不適合責任は、免責の特約を設けることが認められていますので、契約時にはそのような特約の有無および内容をチェックすることが重要です。

万が一、契約不適合責任を免責する条項があったとしても、消費者契約法や宅建業法などにより免責が無効または制限されるケースもありますので、まずは弁護士に相談するとよいでしょう。
不動産に関するトラブルは、不動産に詳しい弁護士に相談することが大切です。ダーウィン法律事務所では、不動産トラブルの解決に力を入れています。不動産についてお悩みがある方は、当事務所までお気軽にご相談ください。

この記事を監修した弁護士

荒川香遥
  • 弁護士法人 ダーウィン法律事務所 代表弁護士

    荒川 香遥

    ■東京弁護士会
    ■不動産法学会

    相続、不動産、宗教法務に深く精通しております。全国的にも珍しい公正証書遺言の無効判決を獲得するなど、相続案件について豊富な経験を有しております。また、自身も僧籍を有し、宗教法人法務にも精通しておりますので、相続の周辺業務であるお墓に関する問題も専門的に対応可能です。

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