築古物件・中古ビルで付帯設備に性能低下があった場合の契約不適合責任

中古ビルの築古物件ではエレベーターなどの付帯設備に性能低下が起こっているケースが多々あります。売買取引後に性能低下が発見されたとき、買主は売主へ契約不適合責任を問えるのでしょうか?

この記事では中古ビルの売買で付帯設備に性能低下があったとき、契約不適合責任が発生するのか解説します。

築古物件でエレベーターや空調などに不具合があってトラブルになった場合にはぜひ参考にしてみてください。

1.契約不適合責任が発生するかどうかの基準

契約不適合責任は、売買契約において対象となった商品に不良品や品違い、数量不足などの不備があったときに売主が買主に対して負う責任です。

民法第562条 引き渡された目的物が種類、品質又は数量に関して契約の内容に適合しないものであるときは、買主は、売主に対し、目的物の修補、代替物の引渡し又は不足分の引渡しによる履行の追完を請求することができる。ただし、売主は、買主に不相当な負担を課するものでないときは、買主が請求した方法と異なる方法による履行の追完をすることができる。

1-1.契約不適合責任が発生する3つのケース

契約不適合責任が発生するのは、以下の3種類のケースです。

目的物の種類が契約に適合しない

契約における目的物と、実際に引き渡された目的物の種類が異なる場合の契約不適合です。

たとえばビデオカメラの取引だったはずなのに写真しか撮影できないカメラが納品された場合などです。

目的物の数量が契約に適合しない

契約上の数量に対して、引き渡されたものの数量が過剰あるいは不足している場合の契約不適合責任です。

たとえば収納棚を5つ注文したのに3つしか設置されなかった場合などです。

目的物の品質が契約に適合しない

実際に引き渡された目的物の品質が契約目的とされたものより劣っている場合の契約不適合責任です。たとえば床材として使われた素材の品質が、予定されていた素材より低いものだったケースなどが該当します。

契約不適合責任が発生すると、売主は買主に対して対象物の修補や代金減額請求、解除や損害賠償請求が可能となります。

1-2.契約不適合責任が発生するかどうかの判断基準

契約不適合責任が発生するかどうかについては「そのものが通常有すべき性質・性能」を持つかどうかによって判断されます。

対象物が通常備えるべき性質を備えていれば契約不適合責任は発生しませんし、備えていなければ契約不適合責任が発生します。

2.中古物件における設備の性能低下と契約不適合責任の判断基準

中古ビルなどの築古物件では、エレベーターや空調などの設備に不調が生じているケースも少なくありません。このような場合「品質が契約に不適合」として買主は売主へ損害賠償請求できるのでしょうか?

この点については、以下のような要素を考慮して個別具体的に判断されます。
●設備性能の低下度合いが通常の経年劣化の範囲にとどまっているか
設備性能の低下度合いが通常の経年劣化の範囲にとどまっている場合、契約不適合責任は認められにくくなります。反対に、一般的に考えられるより著しい劣化が生じている場合には契約不適合責任が認められやすくなります。
●当事者が設備の性能低下について認識していたか
売買の当事者(特に買主)が設備の性能低下やその可能性について認識していれば、契約不適合責任が認められにくくなります。一方、買主がまったく性能低下に気づいていなかった場合や気づく余地がなかった場合などには契約不適合責任が認められやすくなります。
●設備の性能低下を考慮した代金設定となっていたか
売買代金の金額も契約不適合責任発生の有無に影響を及ぼします。物件価格が設備の性能低下を考慮したものとなっていれば契約不適合責任が認められにくくなりますが、性能低下を考慮しない高額な金額になっていれば契約不適合責任は認められやすくなります。

3.中古ビルの付帯設備の性能低下に関する裁判例

以上を前提に、実際の裁判例でどのように契約不適合責任が判断されているのか、みてみましょう。

3-1.中古ビルの付帯設備の性能低下(東京地判平成24年5月31日)

買主が売主から築後28年の中古ビルを購入した事例です。

契約時には売主が物件の設備について一切の修理義務を負わない旨の特約がつけられていました。重要事項説明書には、本件物件が検査済証を取得していないこと、建物設備については経年劣化にともなう性能低下やキズ汚れがあることなどが記載されていました。

買主は物件に付帯するエレベーターなどに性能低下があるとして、売主へ瑕疵担保責任(旧民法における契約不適合責任に相当する責任)として損害賠償請求を行いました。

裁判所は以下のように述べて本件中古ビルには瑕疵がない(契約不適合にならない)と判断しました。
●対象物件の瑕疵とは、売買契約当事者の合意内容や契約の趣旨に照らし、通常または特別に予定されていた品質や性能を欠く場合をいう
●本件売買では、物件は共同住宅や事務所としての利用が予定されていた
●本件場いない当時、物件は築後28年が経過していたので経年劣化による一定程度の損傷があることを前提に取引したといえる
●買主は不動産会社から物件について性能低下が起こっている可能性のあることについて、説明を受けていた

以上より売主にはエレベーターの修復義務は認められず、エレベーターには瑕疵もない、と判断されました。

3-2.築後30年の物件の空調設備について(東京地判平成26年5月23日)

買主が築後30年の物件のうち2階と3階の専有部分を購入した事例です。

引き渡しを受けた後に漏電があったので買主が調査すると、屋上に設置された水冷式空調設備の室外機に問題があることが発覚しました。

そこで買主は「空調設備の老朽化や修理不能な損害」が発生したとして、売主に対して瑕疵担保責任にもとづく損害賠償請求を行いました。

裁判所は以下のように述べて買主による瑕疵担保責任の主張を排斥しました。
●本件空調設備は、業務用エアコンの法定耐用年数である15年を大幅に超える約30年を経過している
●本件空調設備は老朽化が進んでおり経年劣化によって消費電力が増大し、新品時のような冷暖房効率は発揮できない
●本件建物のように新築時から時間が経過した物件の場合、付帯する空調設備が経年劣化していることは容易に想定できる
●買主は本件マンションに空調設備が付帯することを知っており、売主から空調設備について一定の品質を保証した経緯なども存在しない

以上より、本件建物が売買契約当時に予定されていた品質・性能を欠いていたとはいえないとして瑕疵担保責任を否定しました。

3-3.非常用電源設備の整備不良(東京地方裁判所平成26年7月25日)

築後29年の収益物件の売買が行われた事例です。

買主は物件購入後、屋上に設置された非常用電源設備に整備不良があることを発見し交換しました。そして売主へ瑕疵担保責任にもとづいて損害賠償請求を行いました。

裁判所は以下のように述べて瑕疵担保責任を否定しました。
●本件の非常用電源設備は昭和58年製の相当古いものである
●当事者も経年劣化が起こっていることを十分に認識していた
●瑕疵があるといえるには、非常用電源装置が起動しない場合など、性能低下が経年劣化の範囲にとどまらない場合に限られる
●本件の非常用電源設備には経年劣化にとどまらない程度の性能低下は認められないので、瑕疵担保責任は発生しない

築古物件では、単に経年劣化のみによって設備に性能低下が起こっても、契約不適合責任が認められにくいといえます。契約不適合責任が発生するかどうかについては、専門的な見地から判断しなければなりません。不動産取引でトラブルに巻き込まれた場合には、お気軽に弁護士までご相談ください。

この記事を監修した弁護士

荒川香遥
  • 弁護士法人 ダーウィン法律事務所 代表弁護士

    荒川 香遥

    ■東京弁護士会
    ■不動産法学会

    相続、不動産、宗教法務に深く精通しております。全国的にも珍しい公正証書遺言の無効判決を獲得するなど、相続案件について豊富な経験を有しております。また、自身も僧籍を有し、宗教法人法務にも精通しておりますので、相続の周辺業務であるお墓に関する問題も専門的に対応可能です。

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