民法には「契約不適合責任」の規定があります。
不動産取引を行うときにも目的物に欠陥があると、契約不適合責任が発生する可能性があります。
ただし契約不適合責任は、当事者同士の合意によって制限できます。たとえば契約不適合責任の通知期間を短くしたり免除したりもできます。
個人同士の中古マンションの売買では、契約不適合責任を制限するケースが少なくありません。
この記事では契約不適合責任を制限する規定の有効性について、弁護士が解説します。
これから不動産取引などを行いたい方はぜひ参考にしてみてください。
目次
契約不適合責任とは、売買契約の売主や請負契約の請負人などが買主や注文者に対して負う責任です。
売買契約の場合、目的物が契約内容に合致していないと売主に契約不適合責任が発生します。
契約不適合責任が発生する場合、買主は売主に対して以下のような請求ができます。
瑕疵(欠陥)のない完全なものの請求ができます。壊れている部分の修理を依頼する場合などが該当します。
欠陥によって物件の価値が落ちる分、代金減額を請求できます。
物件の欠陥によって買主に損害が発生すると、損害賠償請求も可能です。
契約目的物に欠陥がある場合、契約の解除も可能となります。
契約不適合責任は民法に定められる売買や請負のルールです。
当事者同士が何の約束もしていなくても、当然に適用されます。わざわざ契約で「契約不適合責任が発生する」などと規定する必要はありません。
ただ契約不適合責任は任意規定なので、当事者が自分たちで話し合って内容を制限するのは自由です。
たとえば以下のような制限が可能です。
民法の原則によると、契約不適合責任の通知期間は「契約不適合を知ってから1年間」です。
ただし当事者同士の合意により、これを「物件の引き渡し後3か月間」などに短縮できます。
当事者の合意により、契約不適合責任自身を免除することも可能です。
この場合、完全に免除されるので、物件に欠陥があっても売主に契約不適合責任が発生しません。
契約不適合責任を免除する場合、契約書へその内容を盛り込まねばなりません。
契約書における表現方法を確認しましょう。
以下で契約不適合責任を免除する場合の例文をご紹介します。
売主は買主に対し、本契約に関して一切の契約不適合責任を負わない。買主は売主に対して、契約目的物の種類、品質または数量が本件契約に適合しないことを理由として、履行の追完や売買代金の減額、損害賠償請求及び本契約の解除をできないものとする。
すべてのケースにおいて契約不適合責任を制限できるわけではありません。
民法以外の法律により、契約不適合責任の制限が認められない場合があります。以下で契約不適合責任を制限できない場合をみてみましょう。
宅地建物取引業者(宅建業者)が売主になる場合、契約不適合責任を制限できる範囲が制限されます。
宅建業者は不動産業のプロであるのに対し一般の消費者は立場が弱く、一般消費者を保護する必要があるからです。
宅建業者が売主になり一般の消費者が買主となる場合、契約不適合責任の通知期間を2年以上とする場合をのぞいて契約不適合責任を軽減する特約ができません。
つまり宅建業者が売主になってそれ以外の人が買主になる場合、契約不適合責任の通知期間は最低でも引渡後2年になります(民法の原則に従うことは可能)。この条項に違反する特約を締結しても無効になるので注意しましょう。
なお宅建業者同士の取引の場合には、この規定は適用されません。
売主が事業者で買主が消費者の場合、「消費者契約法」による制限を受けます。
消費者契約法は、事業者に比べて弱い立場になりがちな消費者を守るための法律です。
売主が事業者、買主が消費者の場合、消費者契約法が適用されて買主が守られます。
たとえば売主の契約不適合責任を全部免除する特約などが無効となります。
新築住宅の分譲の場合にも契約不適合責任の責任免除に制限が及びます。
この場合「品確法(住宅の品質確保の促進等に関する法律)」が適用されるからです。
品確法とは、適正な品質をもった住宅が提供されるようにするための法律です。
新築住宅の場合、契約不適合責任の特則がもうけられています。
すなわち通常の場合、契約不適合責任の期間は「不適合を知った時から1年」とされます。
しかし新築住宅の請負契約や売買契約の場合の瑕疵担保責任の期間は「引き渡しから10年」とされています。
なお品確法上の「瑕疵担保責任」は民法上の「契約不適合責任」と同じものと理解してかまいません。よって品確法が適用される新築住宅の場合、契約不適合責任を「引き渡し時から10年」以下には制限できません。
なお品確法で契約不適合責任が発生するのは新築住宅の「構造耐力上主要な部分」と「雨水の浸入を防止する部分」に限定されます。
民法によっても契約不適合責任の制限が無効になる場合があります。
1つには、売主が契約不適合を知っているのにあえて買主に告げなかった場合です。
契約不適合を知りながら相手に告げないような売主は極めて不誠実であり、契約不適合責任を免責して保護する必要がないためです。
こういったケースでは契約不適合責任を免除する特約は適用されません。
売主自身の行為によって契約不適合が発生した場合にも、契約不適合責任の免除が認められません。たとえば売主が自分で第三者のために抵当権などの権利を設定したり、第三者に権利を譲渡したりした場合などです。
対象物が契約不適合となった原因について、売主の責任が大きいので契約不適合責任の免除が認められなくなります。
当事者同士の特約で契約不適合責任を免除する場合、よくあるトラブルの類型があります。
以下で契約不適合責任免除について起こりがちなトラブルのパターンをみてみましょう。
契約不適合責任は、いつでも免除できるものではありません。
たとえば消費者契約法や宅建業法により、必ず契約不適合責任を置かねばならないケースもあります。
そういったケースにおいてまで契約不適合責任を免除する特約が入っていると法律違反なので、後にトラブルになる可能性が高まります。
法律上、契約不適合責任の制限が禁止されるケース以外では、契約不適合責任を当事者同士の合意によって制限できます。
しかし買主が常に契約書を全部読んでから契約書にサインするとは限りません。
契約不適合責任の制限に気づかないまま、契約書に署名押印してしまうケースもよくあります。その場合でも、原則的に契約書の記載内容は両者を拘束します。
不動産取引で契約書にサインする前には、契約書の内容をしっかりチェックしておくべきといえるでしょう。「見落としが生じるのではないか?」と不安な場合、事前に弁護士に相談するようおすすめします。
ダーウィン法律事務所では不動産取引のサポートに力を入れています。契約不適合責任の制限に関してご不明点がありましたら、お気軽にご相談ください。
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