売買の対象となった土地が土壌汚染されていたり地盤沈下や液状化が起こりやすい軟弱地盤だったりすると、買主が不利益を受けてしまいます。
その場合、買主は売主へ「契約不適合責任」を問える可能性があります。
ただし土壌汚染や地盤沈下、液状化のすべてのケースで契約不適合責任を問えるわけではありません。
この記事では取引対象地に土壌汚染や地盤沈下、液状化などの問題があった場合に契約不適合責任を問えるのか、弁護士が解説します。
目次
契約不適合責任とは、売買の対象となったものが契約目的に合致しない場合に買主が売主に対して負う責任です。
不動産売買を行う際には、買主は売買の対象物が一定の品質を満たしているものと期待しているものです。売買価格もその期待を反映したものとするのが一般的でしょう。
ところが物件に欠陥があり、契約の前提となった品質が認められないケースもあります。そんなときに売主に契約不適合責任が発生するのです。欠陥のことを法律上「瑕疵(かし)」といいます。
契約不適合責任が発生すると、買主は売主へ以下のような請求ができます。
物件の瑕疵を修理するよう請求できます。
瑕疵の修補を要求しても売主が応じない場合、買主は売主に対し、瑕疵がある分、売買代金の減額を請求できます。
相当期間を定めて催告しても売主が契約の本旨に応じた履行をしない場合、契約の解除が可能です。
買主は物件の瑕疵によって被った損害について、賠償請求ができます。
土地の売買を行う場合、通常は土地上に建物を建築しようと想定しているでしょう。
しかし土地が土壌汚染されていたり軟弱地盤で地盤沈下や液状化問題が起こりそうだったりする場合には、思うように建物を建築できません。
よって土壌汚染や軟弱地盤による地盤沈下、液状化問題が生じる場合には瑕疵(契約不適合)となりえます。
裁判例では、土壌汚染や軟弱地盤の問題があったケースにおいて、民法改正前の瑕疵担保責任(契約不適合責任類似の責任)が認められたケースも多数あります。
以下でどのような場合に土壌汚染や軟弱地盤で契約不適合責任や瑕疵担保責任が認められるのか、具体的にみていきましょう。
ひとことで土壌汚染といってもさまざまな汚染の種類やパターンがあります。
以下では土壌汚染が瑕疵として認められた例を挙げます。
●鉛による土壌汚染(東京地裁平成24年12月13日)
●油による汚染(東京地裁平成14年9月27日)
●石綿、特定有害物質による汚染(東京地裁平成20年9月24日)
●高濃度の油による汚染(東京地裁平成21年3月19日)
●土壌汚染と地中杭があったケース(東京地裁平成25年11月21日)
法定の基準値を上回る値の土壌汚染がある場合、買主は費用をかけて汚染除去や土壌改良をしなければなりません。汚染物質が含まれていることを前提とした売買代金額が設定されていないと、基本的には契約不適合責任が発生すると考えられます。
つまり「土壌汚染がないことを前提とした契約」で「法定の基準値を上回る土壌汚染」が発覚すると、売主には契約不適合責任が発生するのです。
法定基準値を超えている場合、買主は汚染除去などの対応をしなければならないので対象物が契約不適合と認められやすくなります。
では汚染の程度が環境基準値を下回る場合には契約不適合にはならないのでしょうか?
裁判例では、汚染の程度が環境基準値を下回る場合でも瑕疵となる可能性があると示されています。
以下で環境基準値を下回る土壌汚染のケースで瑕疵担保責任が認められた裁判例をみてみましょう。
買主が売主から購入した土地はオイルによって汚染されており、雨が降ると悪臭を放っていました。買主は瑕疵担保責任を主張して損害賠償請求を行ったところ、売主側は「環境基準値を下回っている」として瑕疵に当たらないと主張しました。
本件で裁判所は以下のように判断し、買主の主張を認めました。
●売買目的物の瑕疵の判断については、オイル類の処分を買主が行わねばならないかという法的な義務の存否ではなく、対象物が取引通念上有すべき性質を有しているかどうかで決するべきである
●マンション建設が予定されている土地に大量のオイル類が存在していると、土地の安全性や快適性に疑念を生じさせ、購買意欲や価格のマイナス要因となるので取引通念上有するべき性質があるとはいえない
以上より本件では土地に瑕疵があり、買主が汚染を除去したのは土地の欠陥を補正するために当然必要な処理だったとして、裁判所は買主による損害賠償請求を一部認めました。
土壌にヒ素が含まれている場合、危険度が高いので土地活用のためには汚染除去をしなければなりません。ただヒ素には人の活動によってもたらされるものと自然由来のものがあります。そのどちらも土地の瑕疵となりうるのでしょうか?
結論的に、人の活動由来のものであっても自然由来のものであってもヒ素が含まれていると瑕疵となりえます。
現在の土壌汚染対策基本法では、人の活動由来のものであっても自然由来のものであっても、両方とも規制対象となっています。確かに改正前の土壌汚染対策基本法の場合には人の活動由来のものしか規制対象となっていませんでしたが、平成22年4月1日に施行された改正土壌汚染対策基本法では、自然由来のヒ素による土壌汚染も搬出運搬処理に関する規制の対象となりました。
こういった規制が及ぶことから、現在では自然由来のヒ素の場合にも瑕疵に該当すると考えられます。
法改正前の自然ヒ素による土壌汚染のケースでも、瑕疵と認めた裁判例があります(仙台高裁平成22年1月22日)。ヒ素が含まれている場合、自然由来であっても人の活動によるものであっても危険度は変わらないからです。
以上より、土地にヒ素による汚染がある場合には契約不適合責任が発生する可能性が高いといえるでしょう。
土地が軟弱地盤の場合、そのまま建物を建築すると地盤が不同沈下して建物に亀裂が入るなどの不具合が生じます。地盤補強工事が必要となって費用がかかるので、特段の合意がない限りは瑕疵に当たると考えるべきです。
軟弱地盤となるには、さまざまな要因があります。以下では軟弱地盤の原因ごとに瑕疵が認められた例をご紹介します。
●地中にゴミが堆積していて土地が軟弱となっていた(秋田地裁平成10年11月20日)
●腐植土層が存在して水分が多く含まれていたために土地が軟弱となっていた(東京地裁平成13年6月27日)
地震などが発生して地盤沈下や液状化が表面化したことにより、軟弱地盤が発覚するケースも多々あります。
ただし極端に大きな地震が発生すると軟弱でなくても地盤沈下などの問題が生じるので、土地に原始的な瑕疵があるといえるのは小さな地震でも地盤沈下や液状化が起こってしまった場合であるといえるでしょう。
こういったケースでは、以下のような要素が考慮されて、土地に原始的な瑕疵があったかどうかが判断されます。
●従来発生した地震の回数や頻度、規模や程度
●その時代で法令上要求される地上地下構築物の強度、地質、地形など
土壌汚染や地盤沈下、液状化などが問題となると当事者だけでは解決できないケースも多々あります。お困りの際にはお気軽に弁護士までご相談ください。
まずお電話で相談希望を受付後、担当スタッフ、弁護士から折り返しいたします。
立場を明確にしていただく必要がありますので、ご連絡時、下記情報お伝えください