借地契約が成立すると、借地人は、借地契約で定めた借地条件に従って、土地を利用しなければなりません。しかし、長期間の土地の利用を前提とする借地契約においては、その後の状況の変化などにより、借地条件の変更が必要になるケースもあります。そのような場合には、地主との協議によって借地条件の変更を求めることができますし、地主の許可が得られないときは、裁判所に借地条件の変更を申し立てることができます。
今回は、借地条件の変更申立ての手続き方法と注意点についてわかりやすく解説します。
目次
借地条件とは、借地期間、借地上の建物の種類・用途・構造・規模、借地上の建物の増改築の可否、地代等の額、支払い方法、借地権譲渡の可否など借地契約に関する一切の内容を指します。このような借地条件は、必ずしも借地契約の要素ではありませんので、一般的には、借地契約締結時または存続期間中に、借地契約の特約として定められます。
借地権は、建物所有を目的とする地上権または賃借権ですので、借地上にどのような建物を建てるのかは、本来借地人の自由です。しかし、借地上にどのような建物が建てられるかにより、地主の利害に大きな影響が生じますので、借地条件の定めも有効と考えられています。
ただし、借地借家法に反する特約で借地権者に不利な借地条件については無効になります(借地借家法9条、16条、21条)。
借地人が借地条件に違反した場合にはどのような影響があるのでしょうか。
借地人は、土地を契約または目的物の性質により定まった用法に従い使用収益する義務を負っています。このような義務を「用法遵守義務」といいます。借地契約において有効な借地条件が定められた場合には、借地人は、それに従って土地の利用をしなければなりませんので、借地条件に違反した場合には用法遵守義務違反による債務不履行となります。
もっとも、借地契約は、長期にわたる継続的な契約ですので、借地人による債務不履行があったからといって、直ちに借地契約が解除されるわけではありません。借地契約は、借地人にとっては、生活や事業の基礎となるものであり、契約が解除された場合の影響は甚大なものとなります。そのため、借地契約を解除するためには、地主と借地人との間の信頼関係が破壊されたといえる事情が必要になります。
では、どのようなケースが地主と借地人との間の信頼関係が破壊されたといえるのでしょうか。以下では、借地人の借地条件違反により借地契約の解除が認められる可能性があるケースと認められないケースについて説明します。
・非堅固約定の違反があるケース
借地契約において、借地上に所有する建物の種類が「非堅固建物」に限定されることがあります。非堅固建物であるか堅固建物であるかは、借地権の存続期間にも影響を及ぼすほどの重要な意味を有していますので、非堅固約定が定められていながら、堅固建物の建築がなされた場合は、信頼関係が破壊されたといえ、借地契約の解除が認められる可能性があります。
・用途制限の違反があるケース
建物の用途を制限する旨の借地条件は、その変更も比較的容易ですので、用途制限に違反したというだけでは、一般的に信頼関係の破壊までは認められません。たとえば、借地契約において、「木造建物所有に限る」旨の特約が定められていた場合に、木造の店舗を建てるとともに、借地の一部を駐車場として利用していたとしても、用法遵守義務違反には当たりません。ただし、土地の全部を有料駐車場として利用することは用法遵守義務違反に該当しますので、土地の形状変更の程度、地主からの異議の有無などの諸般の事情によっては、信頼関係が破壊されたとして、解除が認められる可能性もありますので注意が必要です。
借地契約で定められた借地条件は、その後の状況の変化によって、従前の内容では不相当にあることがあります。このような場合には、以下のような方法により借地条件の変更を求めることができます。
借地条件に違反する建物を建築した場合、違反の内容や程度によっては、借地契約の解除原因になってしまいます。このようなリスクを回避するには、当初の契約で定められた借地条件を変更する必要があります。借地条件の変更は、まずは、地主と借地人との間で協議を行い、地主の承諾を得ることが基本となります。
もっとも、地主としては、借地条件が変更されることにより、借地権の存続期間が延びてしまったり、借地契約終了時に建物買取請求があったときの建物の価額が高騰したりするおそれがありますので、無償で借地条件の変更に応じてくれることはほとんどありません。地主が借地条件の変更に応じてくれる場合には、一般的に借地条件変更承諾料が請求されます。
地主と借地人との間で、借地条件の変更についての協議が折り合わない場合には、借地条件変更の裁判をする必要があります。この裁判手続きは、「借地非訟」と呼ばれる手続きで、一般的な民事訴訟とは異なり、職権探知主義がとられており、審理は非公開とされています。
このような借地条件変更の裁判をするためには、以下の形式的要件を満たす必要があります。
・借地権が存在すること
・建物の種類、構造、規模または用途を制限する旨の借地条件があること
なお、建物の種類とは、居宅、店舗、倉庫など建物の主たる用途からみた建物の種別をいいます。建物の構造とは、建物の主たる部分の構成材料、屋根の種類および階数による種別をいい、旧借地法における堅固建物と非堅固建物の区別はここに含まれます。建物の規模とは、建物の高さ、床面積など建物の大きさによる種別をいいます。建物の用途とは、建物の用法に関する種別をいいます。
借地条件変更の裁判をする際には、以下の点に注意が必要です。
裁判所が借地条件を変更することができるのは、借地条件変更が相当といえる場合でなければなりません。すなわち、法令の変更や周辺土地の利用状況の変化により、仮に現時点で借地権を設定していた場合、現状の借地条件とは異なる建物を建てたであろう場合をいいます。
また、裁判所は、借地権の残存期間、土地の状況、借地に関する従前の経過その他一切の事情を考慮しなければなりません。
・借地権の残存期間……借地権の残存期間が短いことは条件変更を認めない方向に働く要因になります
・土地の状況……土地の広さや形状などの目的土地に関する個別事情です
・借地に関する従前の経過……借地権設定の経緯、経過した契約期間、更新料授受の有無、目的土地の利用状況とその推移など借地に関する従前の事実関係をいいます
・その他一切の事情……条件変更の必要性の有無、程度、条件変更をした場合の両当事者の利益など一切の事情をいいます。
裁判所は、条件変更の申立てを認容する場合、当事者間の利益の衡平を図る必要があるときは、条件変更の決定に付随して財産上の給付を命じることができるとされています。これを一般的に「借地条件変更承諾料」といいます。
財産上の給付としてどの程度の金額が定められるのかについては、決められた基準があるわけではありませんので、具体的な事案に応じて個別に検討されることになります。
ただし、旧借地法における非堅固建物所有目的から堅固建物所有目的へと借地条件の変更を行う際には、土地の更地価格の10%が承諾料の相場とされています。さらに、非堅固建物所有目的よりも堅固建物所有目的の方が土地の利用効率が上がるため、条件変更の効力が生じた日から地代の増額を命じられることもあります。
借地契約において借地条件が定められた場合には、借地人は、借地条件に従って土地の利用をしなければなりません。しかし、時の経過に伴い従前の借地条件では不相当な事態になった場合には、地主との協議または借地非訟手続きにより借地条件の変更を求めることができます。
借地条件の変更にあたっては、さまざまな事情を考慮する必要がありますので、一人で対応するのが不安だという方はまずは弁護士に相談することをおすすめします。ダーウィン法律事務所では、借地などの不動産案件の取り扱いに力を入れています。不動産に関するトラブルでお困りの方は、当事務所までお気軽にご相談ください。
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