共有物分割請求訴訟とは?競売を命じる判決が出た後の流れを解説

裁判所に共有物分割請求訴訟を提起すると、裁判所により「現物分割」、「賠償分割」、「競売分割」のいずれかの分割方法が命じられます。競売分割を命じる判決が確定した場合には、競売手続きにより共有不動産を売却することになりますが、自動的に競売手続きがスタートするわけではありません。そのため、競売分割が命じられる可能性がある場合には、競売分割の流れやメリット・デメリットなどを押さえておくことが大切です。

今回は、共有物分割請求訴訟において、競売を命じる判決が出た後の流れについてわかりやすく解説します。

1、共有物分割請求訴訟とは

そもそも共有物分割請求訴訟とはどのような手続きなのでしょうか。以下では、共有物分割請求訴訟の概要について説明します。

(1)共有物分割請求訴訟の概要

共有物分割請求訴訟とは、裁判により共有状態の解消を図る手続きです。

不動産が共有状態になっていると、共有者全員の同意がなければ売却することができず、不動産の利用または活用が著しく制約されてしまいます。また、世代交代により共有者が増え、権利関係が複雑化するなどのデメリットも指摘されています。

共有状態の解消を図る方法には、共有者同士の話し合いによる方法がありますが、共有者全員の合意がなければ話し合いによる解決はできません。話し合いによる共有物分割請求が難しい場合に選択されるのが、共有物分割請求訴訟になります。

(2)共有物分割請求訴訟での3つの分割方法

共有物分割請求訴訟では、裁判所が以下の分割方法のいずれかを命じることになります。

①現物分割

現物分割とは、共有物を物理的に分割し、共有者がそれぞれ単独で所有できる状態にする方法です。

たとえば、AとBの2人で共有している土地を、2分の1ずつ分筆して、単独所有の状態にするのがこの現物分割の方法です。ただし、土地の形状や大きさによっては、現物分割により利便性が低下するおそれもありますので、注意が必要です。

②賠償分割(全面的価格賠償)

賠償分割とは、共有者のうちの1人が共有物の全部を取得し、その代償として、他の共有者に代償金の支払いをする方法です。このような賠償分割を「全面的価格賠償」を呼ぶこともあります。

たとえば、AとBの2人が土地(2000万円)を2分の1ずつの持分で共有している場合、
Aが土地を取得する代わりに、Bに対して代償金として1000万円を支払うという方法がこの賠償分割です。ただし、賠償分割では、代償金の支払いをする共有者にある程度の資力が必要になります。

③競売分割(換価分割)

競売分割とは、競売により目的物を売却し、競売代金を分配する方法です。競売分割は、現物分割および賠償分割では共有物の分割ができない場合または分割により価格が著しく減少するおそれがある場合に選択される方法です。

2、競売を命じる判決が出た後の流れ

裁判所により競売分割を命じる判決が言い渡された場合、その後の手続きの流れとしては、以下のようになります。

(1)形式的競売の申立てが必要

共有物分割を求めた裁判所の訴訟手続きは、判決が出て確定すれば終了します。しかし、共有不動産の競売を行うためには、その後、あらためて不動産競売の申立てをする必要があります。

不動産競売は、一般的に債権者が債権回収を目的として行う民事執行の手続きになりますが、共有物分割を目的とした競売は、債権回収を目的としたものではありませんので、一般的に「形式的競売」と呼ばれています。

(2)形式的競売の手続きの流れ

共有不動産を強制的に売却する「形式的競売」は、以下のような流れで進んでいきます。

①開始決定

競売を命じる判決が確定したら、共有不動産の所在地を管轄する地方裁判所に形式的競売の申立てを行います。形式的競売の申立てにあたっては、以下の書類が必要になります。
・競売申立書
・不動産登記事項証明書
・公課証明書
・固定資産評価証明書
・共有持分権者全員の住民票の写し
・競売を命じる確定判決の正本
・公図の写し
・建物図面
・地図などの物件案内図
・不動産競売の進行に関する照会書

形式的競売の申立てが受理された後は、裁判所により形式的競売の開始決定および対象物件の差押えが宣言されます。

②現況調査命令、評価命令の発令

形式的競売の開始決定後、裁判所は、執行官に対して、不動産の形状・占有関係その他現況に関する調査を命じます。また、裁判所は、評価人(不動産鑑定士)に対して、対象不動産の評価を命じます。

③現況調査報告書・評価書の提出

執行官による現況調査の結果は、「現況調査報告書」に、評価人による評価は、「評価書」にまとめられ、裁判所に提出されます。

④物件明細書作成、売却基準価格決定、売却実施命令

裁判所では、現況調査報告書および評価書を踏まえて、物件明細書の作成を行い、対象不動産の売却基準額を決定します。

物件明細書とは、裁判所書記官が作成する書面で、以下の内容が記載されています。
・物件の表示
・売却により成立する法定地上権の概要
・買受人が負担することになる他人の権利
・物件の占有状況等に関する特記事項

⑤売却日時・場所等の通知・公告

現況調査報告書、評価書、物件明細書のいわゆる3点セットが完成し、売却基準価格が定められた後は、売却のスケジュールとして、以下の日程が定められます。
・記録閲覧開始日
・入札開始日
・入札終了日
・開札期日
・売却決定期日

また、売却実施命令が出されると、買受可能価額や売却スケジュールなどが裁判所の掲示板に公告され、当事者にも通知されます。

⑥入札または競り売り

形式的競売は、基本的には入札または競り売りの方法によって行われます。

⑦売却許可決定

入札または競り売りの方法により落札者が決まったら、裁判所は、売却決定期日を開いて売却許可決定を行います。

⑧落札者による代金納付

裁判所による売却許可決定の確定後、裁判所が代金納付期限を定めますので、落札者は、納付期限までに代金を納付しなければなりません。

落札者による代金納付により、対象不動産の所有権が落札者に移転します。

⑨配当手続

裁判所は、買受人からの代金納付後、配当期日において配当方法を決定します。不動産の共有者に対する配当の完了をもって共有物分割に関する形式的競売は終了となります。

3、競売分割のメリットとデメリット

競売分割には、以下のようなメリットとデメリットがあります。

(1)競売分割のメリット

競売分割は、共有不動産全体を売却して、売却代金を分け合う方法ですので、共有持分割合に応じた公平な分割を実現できるというメリットがあります。裁判所の判決によって競売が命じられれば、売却に反対する共有者がいたとしても強制的に共有不動産を売却することができます。

(2)競売分割のデメリット

競売分割では、共有物分割請求訴訟という裁判手続きに加え、形式的競売という強制執行の手続きも行わなければなりません。共有物分割請求訴訟で判決が出るまでには、事案にもよりますが、半年から1年程度の期間がかかり、形式的競売も競売手続きの開始から売却実施までには、6か月から8か月程度の期間がかかります。そのため、解決する前にある程度の時間がかかるという点がデメリットといえるでしょう。

また、競売による売却は、任意売却による方法と比べると、売却価格が低くなる傾向があります。少しでも高く売りたいという場合には、共有者全員の合意のもとで任意売却を進めていった方がよいでしょう。

4、共有物分割請求をお考えの方は弁護士に相談を

共有物分割請求をお考えの方は、弁護士に相談することをおすすめします。

(1)弁護士が代理人として交渉してくれる

不動産の共有状態を解消する場合、まずは、共有者全員の話し合いを行います。しかし、共有者同士の関係性や共有不動産に対する考え方によっては、お互いの意見の対立が生じ、話し合いが難しいケースもあります。

このような場合には、弁護士に依頼することをおすすめします。弁護士であれば、本人の代理人として他の共有者と交渉をすることができますので、共有状態を維持することのデメリットや共有状態を解消する方法などを丁寧に説明することで、他の共有者の理解を得られる可能性が高くなります。

弁護士に交渉を任せれば、本人の精神的負担も大幅に軽減されるといえるでしょう。

(2)裁判になった場合の対応も任せることができる

共有者同士の話し合いでは、共有状態の解消の結論が出ないときは、共有物分割請求訴訟を提起します。共有物分割請求訴訟では、裁判所が共有状態を解消する方法を選択することになりますが、当事者においても適切な主張立証をしていく必要があります。また、競売分割となった場合には、判決確定後に形式的競売の申立ても必要になります。

このような複雑な手続きを進めていくためには、弁護士のサポートが必要になりますので、まずは弁護士に相談するようにしましょう。

5、まとめ

共有状態の不動産を放置しているとさまざまなデメリットが生じますので、早めに共有状態を解消することが大切です。共有状態を解消するには、まずは話し合いを行うことになりますが、話し合いで解決できないときは、裁判所に共有物分割請求訴訟を提起する必要があります。このような共有物分割請求の手続きは、知識や経験がなければ適切に進めることが困難ですので、まずは弁護士にご相談ください。

ダーウィン法律事務所では、共有不動産の取り扱いに力を入れています。共有不動産についてお悩みがある方は、当事務所までお気軽にご相談ください。

この記事を監修した弁護士

荒川香遥
  • 弁護士法人 ダーウィン法律事務所 代表弁護士

    荒川 香遥

    ■東京弁護士会
    ■不動産法学会

    相続、不動産、宗教法務に深く精通しております。全国的にも珍しい公正証書遺言の無効判決を獲得するなど、相続案件について豊富な経験を有しております。また、自身も僧籍を有し、宗教法人法務にも精通しておりますので、相続の周辺業務であるお墓に関する問題も専門的に対応可能です。

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