所在等不明共有者の持分取得制度とは?

不動産の共有者の所在がわからなかったり、氏名などを特定できないような場合には、共有不動産の管理や処分に支障が生じることがあります。このような問題に対応するために、民法改正により所在等共有者の持分の取得が可能になりました。今後は、この制度を利用することにより、所在等不明共有者がいる場合でも不動産の適切な管理や処分が可能になります。

今回は、所在等不明共有者の持分取得制度について、わかりやすく解説します。

1、共有者が所在不明または特定できない場合の弊害


弁護士
荒川 香遥
どのような問題が生じるでしょうか。

共有者の所在がわからなかったり、氏名などが特定できない場合には、以下のような弊害が生じます。

(1)共有不動産の管理に支障が生じる

共有不動産を処分するためには、共有者全員の同意が必要になります。また、共有不動産を第三者に賃貸するには、共有者の持分の過半数の同意が必要になります。そのため、共有者のなかに所在がわからない人がいると、共有物の管理や処分をする際に必要となる同意が得られず、共有不動産を適切に管理・処分することができなくなってしまいます。

このような状態が続くと、共有不動産が放置されたままになってしまい、所有者不明土地の問題が生じる大きな原因になってしまいます。

(2)共有物分割請求では予測が困難

所在不明の共有者がいる場合には、共有物分割請求訴訟という方法により、共有状態を解消することができます。しかし、共有物分割請求訴訟では、具体的な分割方法の決定が裁判所の裁量に委ねられていますので、必ずしも当事者が希望する分割方法になるとは限りません。

また、訴訟手続きになると、すべての共有者を当事者としなければなりませんので手続き上の負担が大きく、 判決までに相応の時間と手間がかかるという点も大きな負担となっていました。

(3)共有者が特定できないと共有物分割請求はできない

共有者の所在がわからないという場合には、共有物分割請求訴訟を利用することで共有状態を解消することができますが、所在不明者の氏名までわからないという場合には、共有物分割請求訴訟を利用することはできません。

そのため、共有者の氏名などが特定できないケースでは、今までの制度では共有状態を解消する手段がないことになります。

2、所在等不明共有者との共有関係を解消する制度の創設


弁護士
荒川 香遥
制度の概要についてご説明します。

上記のような弊害に対応するために、民法改正により所在等不明共有者との共有関係を解消する制度が創設されました。以下では、同制度の概要について説明します。

(1)所在等不明共有者の持分取得制度

所在等不明共有者の持分取得制度とは、共有者が他の共有者を知ることができず、またはその所在を知ることができない場合に、裁判所の判断により、当該所在等不明共有者の持分を共有者に取得させることができる制度です。

共有不動産に関して所在等不明共有者がいると、共有不動産が放置されたままになってしまうという状況が多発し、所有者不明土地の問題が生じる大きな原因になっていました。そこで、民法改正により、令和5年4月1日から裁判により、所在等不明共有者の持分をそれ以外の共有者が金銭を供託して取得することができる制度が施行されました。

これにより、A、B、Cの3人が共有する不動産について、Bが所在等不明共有者である場合、Bの意思によることなく、Aの申立てによりAがBの持分を取得することが可能になりました。

(2)所在等不明共有者の持分譲渡権限付与制度

所在等不明共有者の持分譲渡権限付与制度とは、共有者が他の共有者を知ることができず、またはその所在を知ることができない場合に、裁判所の判断により、所在等不明共有者以外の共有者全員が第三者に対して、持分全部を譲渡することを条件に所在等不明共有者の持分を譲渡する権限を与えることができる制度です。

共有者が持分を第三者に売却する方法には、

①共有者全員が持分を同じ第三者に売却する方法

②共有者の一人の持分だけを第三者に売却する方法

の2つがあります。このうち、②の方法では、共有不動産全体を売却した場合に比べて、買い取り価格が低くなりますので、共有者としては、①の方法により共有持分を売却するのが望ましいといえます。

しかし、所在等不明共有者がいる場合には、売却に関する同意が得られませんので、①の方法をとることができません。所在等不明共有者の持分取得制度を利用して、所在等不明共有者の持分を他の共有者に移転してから共有物全体を売却することも考えられますが、迂遠な方法であり、手間や費用が無駄になります。

そこで、民法改正により、令和5年4月1日から所在等不明共有者の持分について、所在等不明共有者以外の共有者に対して、これを譲渡する権限を付与する裁判の仕組みが設けられました。

これにより、A、B、Cの3人が共有する不動産について、Bが所在等不明共有者である場合、裁判によりAにBの持分の譲渡権限が付与されれば、AとCだけで共有不動産全体を売却することが可能になります。

3、所在等不明共有者の持分取得制度の手続きの流れ


弁護士
荒川 香遥
手続きの流れについてご説明します。

所在等不明共有者の持分取得制度の手続きを利用する場合には、以下のような流れになります。

(1)所在等不明共有者持分取得申立て

所在等不明共有者の持分取得制度を利用する場合、まずは、不動産の所在地を管轄する地方裁判所に、「所在等不明共有者の持分取得の申立て」を行います。

(2)公告と催告期間の経過

持分取得の裁判は、所在等不明共有者の意思にかかわらずその人の権利を奪うものですので、所在等不明共有者に重大な影響を及ぼします。そのため、所在等不明共有者の持分取得の裁判には、公告の手続きが設けられています。裁判所は、持分取得の裁判の申立てがあった場合には、以下の5つの事項を公告しなければなりません。

(3)所在等不明共有者以外の共有者に対する通知

裁判所は、上記の①から⑤までの公告をしたときは、遅滞なく登記簿上、氏名・名称が判明している共有者に対して、公告した事項を通知しなければなりません。
ただし、所在等不明共有者に対する通知は、不要です。

(4)供託命令

持分取得の裁判をする前提として、裁判所は、申立人に対して、一定期間内に裁判所が定める額の金銭を供託するよう命じます。供託命令は、持分取得の裁判により持分を喪失することになる所在等不明者の損失を補填するものになります。そのため、供託金の額は、喪失することになる持分の時価相当額です。

(5)持分取得の裁判

裁判所は、公告期間が経過し、申立人から供託がなされた場合、持分取得の裁判をします。

持分取得の裁判に不服がある場合には、裁判の告知を受けた日から2週間以内に即時抗告をする必要があります。期間内に即時抗告がなければ、持分取得の裁判は確定し、所在等不明共有者の持分は、申立人が取得します。

4、所在等不明共有者の持分譲渡権限付与制度の手続きの流れ


弁護士
荒川 香遥
手続きの流れについてご説明します。

所在等不明共有者の持分譲渡権限付与制度の手続きを利用する場合には、以下のような手続きになります。

(1)所在等不明共有者持分譲渡権限付与の申立て

所在等不明共有者の持分譲渡権限付与制度を利用する場合、まずは、不動産の所在地を管轄する地方裁判所に、「所在等不明共有者持分譲渡の権限付与の申立て」を行います。

(2)公告と届出期間の経過

所在等不明共有者の持分譲渡権限付与の裁判では、所在等不明共有者の意思にかかわらず、当該持分を第三者に譲り渡すことになりますので、所在等不明共有者の権利に重大な影響を及ぼします。そのため、所在等不明共有者の持分譲渡権限付与の裁判には、公告の手続きが設けられています。裁判所は、持分譲渡の権限付与の裁判の申立てがあった場合、以下の3つの事項を公告しなければなりません。
①持分譲渡権限付与の裁判の申立てがあったこと
②持分譲渡権限付与の裁判に異議があるときは、一定期間内に届出をすべきこと
③②の届出がないときは、持分譲渡権限付与の裁判がされること

(3)供託命令

持分譲渡権限付与の裁判の前提として、裁判所は、申立人に対して、一定期間内に裁判所が定める額の金銭を供託するよう命じられます。供託命令は、持分譲渡権限付与の裁判により持分を喪失することになる所在等不明者の損失を補填するものになります。そのため、供託金の額は、喪失することになる持分の時価相当額です。

(4)持分譲渡権限付与の裁判

裁判所は、公告期間が経過し、申立人から供託がなされた場合、持分譲渡権限付与の裁判をします。

持分譲渡権限付与の裁判に不服がある所在等不明共有者は、申立人が裁判の告知を受けた日から2週間以内に即時抗告をする必要があります。期間内に即時抗告がなければ、持分譲渡権限付与の裁判は確定し、申立人は、所在等不明共有者の持分を譲渡する権限を取得します。

(5)譲渡行為

持分譲渡権限付与の裁判があってもそれだけでは所在等不明共有者の持分が第三者に移転するわけではありません。

持分譲渡権限付与の裁判が確定した後は、2か月以内に所在等不明共有者の持分を含むすべての持分を第三者に譲渡する必要があります。

5、まとめ


弁護士
荒川 香遥
お気軽にご相談ください!

所在等不明共有者がいたとしても、新設された持分取得制度または持分譲渡権限付与制度を利用して、共有持分の取得や共有不動産の処分が可能になります。適切な管理ができず放置されている共有不動産をお持ちの方は、この機会に同制度の利用を検討してみるとよいでしょう。

ダーウィン法律事務所では、共有不動産の取り扱いに力を入れています。共有不動産についてお悩みがある方は、当事務所までお気軽にご相談ください。

この記事を監修した弁護士

荒川香遥
  • 弁護士法人 ダーウィン法律事務所 代表弁護士

    荒川 香遥

    ■東京弁護士会
    ■不動産法学会

    相続、不動産、宗教法務に深く精通しております。全国的にも珍しい公正証書遺言の無効判決を獲得するなど、相続案件について豊富な経験を有しております。また、自身も僧籍を有し、宗教法人法務にも精通しておりますので、相続の周辺業務であるお墓に関する問題も専門的に対応可能です。

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