共有物分割請求訴訟ではどのような方法で共有不動産を分割する?

不動産が共有状態だと自由に売却や処分ができず、管理方法などをめぐって共有者同士でトラブルが生じることも少なくありません。このようなトラブルに直面した場合には、共有物分割請求により共有状態の解消を図ることができます。

当事者同士の話し合いでは解決が難しい場合には、裁判所に共有物分割請求訴訟を提起することになりますが、裁判ではどのような方法で共有不動産を分割することになるのでしょうか。

今回は、共有物分割請求訴訟における共有不動産の分割方法についてわかりやすく解説します。

1、共有物分割請求訴訟とは

共有物分割請求訴訟とは、裁判所の手続きを利用して共有状態を解消する手段です。

共有とは、複数の人が一つの物を共同して所有する状態をいいます。このような共有物は、単独所有に比べて、物の利用や改善において、十分な配慮がなされない状態に置かれることがあります。また、共有者間では共有物の管理や変更をめぐって意見の対立や紛争が生じやすくなっています。

そのため、このような弊害を除去する目的で、共有物分割請求が行われます。共有物分割請求は、まずは共有者同士の話し合いにより共有状態の解消を図ります。しかし、共有者間で意見の一致が得られない場合には、話し合いでの解決は困難といえますので、最終的に共有物分割請求訴訟を提起することになります。

2、共有物分割請求訴訟における3つの分割方法

共有物分割請求訴訟では、以下の3つの分割方法が認められています。

(1)現物分割

現物分割とは、共有物を物理的に複数に分け、共有者がそれぞれの物を単独で所有するという方法です。たとえば、Xという土地をAとBの2人で共有している場合、まずは土地Xに線を引き、土地Yと土地Zに分けます。このままだと土地Yについて、AとBの共有、土地ZについてAとBの共有状態ですので、土地YのB持分と土地ZのA持分とを交換(または売買)して、土地YをAの単独所有、土地ZをBの単独所有にします。

もっとも、実際の土地では、土地の形状・位置または分割後の管理・利便性などを考慮しなければならず、上記の例のようにきれいに線引きをすることは難しいケースが多いです。そのような場合には、一部の共有者に共有持分の価格以上の現物を取得させたうえで、その共有者に対して、共有持分の価格に満たない共有者に超過分の対価を支払わせて、権利関係の調整をすることも認められています。これを「部分的価格賠償」といいます。

(2)賠償分割(全面的価格賠償)

賠償分割とは、共有者の1人が他の共有者に代償金を支払って共有物全部を取得し、単独所有とする方法です。これを「全面的価格賠償」と呼ぶこともあります。たとえば、土地X(2000万円)をAとBが2分の1の持分で共有している場合、AがBに対して、Bの持分に相当する土地の価格である1000万円を支払うことで、Aは土地Xを単独所有することができます。

賠償分割の方法については、以前は民法に規定がなく、否定的な見解もありましたが、最高裁で「全面的価格賠償の方法による分割をすることも許される」との判断が示されて以降は、賠償分割は、共有物分割のための方法として一般的に用いられています。

なお、現在では、民法改正により賠償分割の方法も明文で規定されるようになりました(民法258条2項2号)。

(3)競売分割(換価分割)

競売分割とは、共有物を競売にかけて売却し、競売代金を共有者の共有持分に応じて分配する方法です。競売分割は、現物分割や賠償分割により共有物を分割することができないとき、または、分割によりその価格が著しく減少するおそれがある場合に命じられます。

共有物分割請求訴訟は、裁判所が競売分割を命じる判決が出て、それが確定すれば終了します。そのため、実際に競売を行うためには、その後改めて、不動産競売の申立てをしなければなりません。不動産競売の申立てにより、不動産を売却する手続きが行われ、買受人から代金の支払いがなされると、売却代金を共有者に分配する手続きが行われます。競売手続きの開始から売却実施までに要する期間は、6~7か月とされています。

3、3つの分割方法はどのように決められるの?

共有物分割請求訴訟では、共有物を分割する3つの方法にはどのような優先関係があるのでしょうか。

(1)現物分割と価格賠償について優劣関係はない

現行民法では、民法258条2項において、以下のように現物分割と価格賠償の方法を定めています。
・共有物の現物を分割する方法(民法258条2項1号)
・共有者に債務を負担させて、他の共有者の持分の全部または一部を取得させる方法(民法258条2項2号)

この規定からも明らかなように、現物分割と価格賠償の方法には優劣関係はなく、裁判所が事案に応じて適切な方法を選択することができます。

改正前民法では、価格賠償の方法が明文で規定されていなかったため、現物分割と価格賠償の優先順位について争いがありました。しかし、民法改正により、上記のように現物分割と価格賠償は並列関係にあることが明記されましたので、このような争いもなくなりました。

(2)現物分割と価格賠償が不適切である場合は競売分割

現物分割と価格賠償には、優先関係はありませんが、「現物分割・価格賠償」と「競売分割」との間には明確な優先関係があります。すなわち、競売分割は、現物分割と価格賠償のいずれもが不適切である場合に採用される方法ですので、現物分割と価格賠償よりも優先順位は劣っています。

このような関係をまとめると、以下のようになります。
・現物分割(1位タイ)
・価格賠償(1位タイ)
・競売分割(3位)

なお、条文上は、現物分割によりその価格を著しく減少させるおそれがあるときは競売分割を選択するという読み方もできなくはありません。しかし、価格賠償により価格を著しく減少させることは通常生じませんので、現物分割により価格を著しく減少させるおそれがあるとしても、価格賠償をすることができるケースでは、競売分割が選択させることはありません。

4、共有物分割請求訴訟を利用する際の注意点

共有物分割請求訴訟を利用する際には、以下の点に注意が必要です。

(1)共有物分割が認められない可能性もある

共有者同士の話し合いで共有物の分割ができないときは、裁判所に共有物分割請求訴訟を提起することで、共有物の分割を実現することができます。基本的には不動産は、共有ではなく、単独所有が望ましいという考え方から、共有物分割請求訴訟を提起すれば、いずれかの方法により共有関係の解消が図られるといえます。

しかし、例外的に以下のケースに該当する場合には、共有物分割が認められない可能性もありますので注意が必要です。

①分割禁止の合意がある場合

民法では、5年を超えない期間内で分割をしない旨の契約をすることを認めています(民法256条1項)。このような分割禁止の合意がある場合には、共有物分割請求は認められません。

②権利濫用にあたる場合

共有物分割請求が権利の濫用にあたる場合には、共有物分割請求権の行使は認められません。

共有物分割請求が権利の濫用にあたるかどうかは、共有関係の目的、性質、共有者間の身分関係および権利義務関係、共有物分割請求権行使により行使者が得られる利益および行使された人が受ける不利益、共有物分割請求権を行使する人の意図と拒否する人の意図などを考慮して判断します。

たとえば、夫婦が共有する不動産に配偶者が居住しているにもかかわらず共有物分割請求がなされたケースや親子で共有する建物について共有物分割請求がされたことにより、どちらか一方が建物に居住できなくなるようなケースでは、権利濫用が認められる可能性があります。

(2)賠償分割では支払い確保の工夫が必要

賠償分割の方法をとるには、共有物を取得する人にその対価の支払い能力があることが要件とされています。しかし、代償金の支払い能力があるということと、実際に代償金が支払われることとは別問題ですので、賠償分割を選択する際には、代償金の支払い確保の工夫が必要になります。

具体的には、以下のような方法により支払いの確保を図るのが一般的です。

①持分権移転に伴う登記手続きと代償金の支払いを同時履行とする方法

②現物取得者が代償金を支払うことを条件として共有物を単独所有とする方法

②の方法では、代償金の支払いに期限を設け、期限までに代償金の支払いがなされない場合には競売の申立てをすることができます。

(3)手続きに不安があるときは弁護士に相談を

不動産の共有状態を解消するためには、共有物分割に関する知識や経験が不可欠になります。他の共有者が共有物の分割に応じてくれないという場合には、まずは弁護士にご相談ください。

弁護士であれば、ご本人の代理人として他の共有者と交渉を行うことができますので、適切な分割方法を提示することにより、共有物分割の合意が得られる可能性が高くなります。また、話し合いでの解決が困難な事案については、共有物分割請求訴訟を提起して解決を図ることもできます。

5、まとめ

共有物分割請求訴訟では、現物分割、価格賠償、競売分割という3つの方法により、不動産の共有状態の解消を図ることができます。いずれの方法を選択するかは、最終的に裁判所が判断することになりますが、当事者からの適切に主張立証を行うことで、希望する分割方法を実現できる可能性もあります。その際には、弁護士のサポートが必要になりますので、まずは弁護士にご相談ください。

ダーウィン法律事務所では、共有不動産の取り扱いに力を入れています。共有不動産についてお悩みがある方は、当事務所までお気軽にご相談ください。

この記事を監修した弁護士

荒川香遥
  • 弁護士法人 ダーウィン法律事務所 代表弁護士

    荒川 香遥

    ■東京弁護士会
    ■不動産法学会

    相続、不動産、宗教法務に深く精通しております。全国的にも珍しい公正証書遺言の無効判決を獲得するなど、相続案件について豊富な経験を有しております。また、自身も僧籍を有し、宗教法人法務にも精通しておりますので、相続の周辺業務であるお墓に関する問題も専門的に対応可能です。

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