共有物分割請求の権利濫用とは?実際の裁判例に基づき解説

共有不動産は、共有者全員の同意がなければ自由に売却・活用することができませんので、共有関係から離脱したいと考える方も少なくありません。このような不動産の共有状態から離脱する方法として、共有物分割請求があります。

しかし、共有物分割請求が権利の濫用にあたる場合には、共有物分割請求が認められないこともあります。裁判になると共有物分割請求に反対する被告から権利濫用の主張が出てくることもありますので、どのようなケースが権利濫用にあたるのかをしっかりと理解しておくことが重要です。

今回は、共有物分割請求の権利濫用について、実際の裁判例を紹介しながらわかりやすく解説します。

1、共有物分割請求とは

共有物分割請求とは、共有になっている不動産の共有状態を解消するための手続きです。

不動産が共有状態だと、以下のようなトラブルが生じる可能性がありますので、できる限り共有状態は解消した方が望ましいと考えられています。
・世代交代による権利関係の複雑化
・一部の共有者の反対による不動産の売却や活用の困難
・共有不動産の管理費用や税金の負担をめぐるトラブル
共有物分割請求をする場合には、まずは不動産を共有している当事者同士の話し合いを行います。当事者同士の話し合いであれば、お互いが合意しているのであれば、
・共有不動産を売却して対価を分ける
・共有者の一人に持分を売却または贈与する

など、どのような方法をとるかは基本的には自由です。

しかし、当事者間で合意が成立しない場合には、話し合いでの解決は困難ですので、裁判所に共有物分割請求訴訟を提起することになります。

2、共有物分割請求が権利濫用と判断されることもある

共有物分割請求訴訟では、裁判所により共有物分割請求が権利濫用と判断されて、請求が棄却されるケースもあります。以下では、共有物分割請求訴訟と権利濫用との関係について、説明します。

(1)権利濫用とは

権利濫用とは、形式的には正当な権利の行使と認められるものであっても、その目的や手段から社会通念上許容できないものである場合に、権利行使自体を制限することをいいます。権利濫用は、民法1条3項で定められている、私法の一般条項の一つです。

共有物分割請求は、共有状態から離脱するために共有者に認められている権利ですので、基本的には、共有者は自由に権利を行使することができます。共有状態は決して望ましいものではありませんので、共有物分割請求訴訟が提起された場合には、裁判所も共有状態の解消に向けて判断していくことになります。

しかし、共有者への加害目的で共有物分割請求が行われた場合や共有者に著しい不利益を与えることになる場合などでは、権利濫用にあたり、共有物分割請求権の行使が制限されることもあります

(2)共有物分割請求が権利濫用になるかの判断基準

共有物分割請求が権利濫用にあたるかどうかは、「分割することの不合理性」(客観面)と「請求者の加害目的や意思」(主観面)に基づいて判断します。しかし、主観面の要素については、請求者が自ら加害目的を有していることを明らかにすることはありませんので、主に、客観面に基づき判断していくことになります。

なお、客観面の判断要素の主なものとしては、以下のものが挙げられます。

①建物への居住の経緯・現状

共有建物が特定の共有者の居住を前提としてしたこと、今後も特定の共有者が生活の本拠として利用する予定であるという事情は、分割することの不合理性を肯定する事情となります。

②現在の使用者の意思

現在、共有不動産を利用している人が今後も使用を継続する意思があるという事情は、分割することの不合理性を肯定する事情となります。

③退去を強制される状況

現在の使用者の年齢、収入、労働能力などから退去を強制されたとしても転居先を確保することができないという事情があるときは、分割することの不合理性を肯定する事情になります。

④請求者側の必要性

請求する側に共有物分割をしなければならないような経済的理由や動機がない場合には、分割することの不合理性を肯定する事情になります。

3、共有物分割請求が権利濫用と判断された裁判例

以下では、共有物分割請求が権利濫用と判断された裁判例を紹介します。

(1)大阪高裁平成17年6月9日判決

この事案は、妻および子どもが居住している夫婦の共有名義の不動産について、別居中の夫が妻に対して、共有物分割請求訴訟を提起したというものです。

裁判所は、以下のような理由から、夫による共有物分割請求は権利濫用にあたると判断し、共有物分割請求は認められませんでした。
・夫婦名義の不動産は、夫婦の共有財産であり、本来であれば離婚時の財産分与によって処理されるべきものである
・財産分与により処理することで妻が単独で不動産を取得する可能性がある
・夫には妻や子どもの居所を確保する義務があり、夫は相当額の収入を得ている
・不動産が競売になると妻と子どもは自宅を出ていかなければならず、経済的に苦しい状況に陥る
・夫には早期に不動産を売却しなければならない理由もない

この事件では、共有物分割請求をする夫側は、共有物分割請求をしなければならない必要性がほとんどありませんでした。それに対して、妻側は、子どもが病気で看病の必要性があり、十分に働くことができないため共有物分割請求が認められると著しい不利益を被ることから、権利濫用にあたると判断されたものと考えられます。

(2)東京高裁平成25年7月25日判決

この事案は、母と子どもが共有しているマンションについて、子どもが母に対して共有物分割請求訴訟を提起したというものです。

裁判所は、以下のような理由から、子どもによる共有物分割請求は権利濫用にあたると判断し、共有物分割請求は認められませんでした。
・子どもは外語専門学校に入学するための資金取得の必要性を主張するが、生活歴からは安定した通学は困難である
・本件マンションは母親が余生を送ることを前提として遺産分割協議により取得した
・母親には子どもからの価格賠償に応じるだけ資力がない
・競売になると母親は住む場所を失ってしまう

この事件では、母親が長年マンションの管理や維持費などの支払いをしてきたという事情もあり、今後も住み続ける必要性が高いことから、子ども側の必要性を上回ると判断し、権利濫用を認めました。

4、権利濫用と判断された場合の対処法

共有物分割請求が権利濫用と判断されてしまったとしても、以下のような方法で共有状態の解消を図ることができます。

(1)自分の持分を売却する

共有者の共有持分については、他の共有者の同意がなかったとしても、共有者が単独で処分することができます。そのため、自分の共有持分を売却することで共有状態から離脱することが可能です。

共有持分の売却は、他の共有者への売却以外にも第三者に売却することもできます。ただし、一般の方では、共有持分だけの購入を希望する人はいませんので、共有持分の買取を専門にしている業者への売却を検討するとよいでしょう。

(2)共有持分を放棄する

共有持分の売却が難しい場合には、共有持分の放棄をすることで共有状態の解消を図ることもできます。共有持分の放棄は、共有者だけ意思で行うことができますので、売買のように相手方を探す必要はありません。そのため、いつでも共有状態から離脱できるというメリットがあります。

ただし、売買のように対価をもらうことはできませんので、無償で共有持分を手放さなければならないのがデメリットになります。

5、まとめ

不動産の共有状態の解消を図る場合には、共有物分割請求という方法があります。共有者同士の話し合いで共有状態の解消を目指しますが、それが難しいという場合には、裁判所に共有物分割請求訴訟を提起します。共有者は、いつでも共有物の分割を求めることができるとされていますので、基本的には、共有物分割の訴えは認められますが、例外的なケースでは、権利濫用と判断され、請求が棄却されるおそれもあります。

どのようなケースが権利濫用に該当するかは個別事情を踏まえた判断になりますので、まずは弁護士に相談してみるとよいでしょう。ダーウィン法律事務所では、共有不動産の取り扱いに力を入れています。共有不動産についてお悩みがある方は、当事務所までお気軽にご相談ください。

この記事を監修した弁護士

荒川香遥
  • 弁護士法人 ダーウィン法律事務所 代表弁護士

    荒川 香遥

    ■東京弁護士会
    ■宗教法制研究会

    相続、不動産、宗教法務に深く精通しております。全国的にも珍しい公正証書遺言の無効判決を獲得するなど、相続案件について豊富な経験を有しております。また、自身も僧籍を有し、宗教法人法務にも精通しておりますので、相続の周辺業務であるお墓に関する問題も専門的に対応可能です。

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