建物買取請求権とは、普通借地権の存続期間が満了して契約が更新されない場合などに、借地人が地主に対して借地上の建物等を「時価」で買い取るよう請求できる権利です(借地借家法13条1項)。
借地契約が終了すると、原則として借地人は借地上の建物を収去して土地を地主へ返還する必要があります。しかし、まだ利用価値のある建物を取り壊すことは、借地人にとって投下資本を失うことになるだけでなく、社会経済的にも損失となります。
そこで、借地借家法は一定の場合に、借地人が地主へ建物を時価で買い取るよう請求できる「建物買取請求権」を認めています。
【弁護士監修】建物買取請求権のポイント
また、建物買取請求権には、借地期間満了時の借地人に認められる借地借家法13条の権利とは別に、借地上の建物を取得した第三者に認められる同法14条の「第三者の建物買取請求権」があります。
この記事では、建物買取請求権の成立条件、買取価格の考え方、請求が認められないケース、第三者の建物買取請求権、2026年8月の最高裁判決について解説します。
目次
借地契約が終了した場合、建物買取請求権などが認められない限り、借地人は原則として借地上の建物を収去し、土地を地主へ返還する必要があります。
借地権とは、建物の所有を目的とする地上権または土地の賃借権をいいます(借地借家法2条1号)。
借地人は、借地権に基づいて土地上に住宅、店舗、事務所などの建物を所有することができます。
しかし、借地契約が終了すれば土地を使用する権原も失われるため、原則として、借地人は自己所有の建物を収去して土地を地主へ返還しなければなりません。
この原則をそのまま適用すると、借地人が多額の費用を投じて建築した建物がまだ使用できる状態であっても取り壊される場合があります。
そこで借地借家法は、一定の条件を満たす場合に、借地人が地主へ建物等を買い取るよう請求できる建物買取請求権を設けています。
借地借家法13条の建物買取請求権とは、借地権の存続期間が満了し契約が更新されない場合に、借地人が地主へ建物その他土地に附属させた物を時価で買い取るよう請求できる権利です。
建物買取請求権とは、借地契約が期間満了によって終了し更新されない場合に、借地人が地主へ借地上の建物等を時価で買い取るよう請求できる制度です(借地借家法13条1項)。
借地借家法13条1項
借地権の存続期間が満了し契約の更新がない場合、借地権者は、借地権設定者に対して建物等を時価で買い取るよう請求することができます。
建物買取請求権には、主に、借地人が建物へ投下した資本を回収する機会を確保することと、利用可能な建物が取り壊される社会経済的損失を回避するという目的があります。
建物買取請求権は形成権であるため、成立要件を満たしていれば、地主の同意がなくても借地人が買取請求の意思表示をすることによって建物の売買と同様の法律関係が生じます。
したがって、地主が「建物は必要ないので買わない」と一方的に拒否するだけで建物買取請求権を消滅させることはできません。
普通借地権では、借地借家法13条の建物買取請求権について借地人に不利な特約を設けても、借地借家法16条により原則として無効となります。
借地借家法16条
借地借家法13条などに反する特約で、借地権者または転借地権者に不利なものは無効とされています。
たとえば、普通借地権の契約書に「契約終了時には必ず建物を収去し、建物買取請求権を一切行使しない」などと定めても、借地人に不利な範囲ではその効力が否定される可能性があります。
ただし、後述するとおり、定期借地権については別のルールがあります。
借地借家法13条の建物買取請求権を行使するためには、主として①借地権の存続期間が満了したこと、②契約が更新されないこと、③借地上に買取対象となる建物等が存在すること、④借地人が地主へ買取請求の意思表示をすることが必要です。
借地借家法13条の建物買取請求権は、借地権の「存続期間が満了した場合」を対象とする制度です。
したがって、地代不払いなどの債務不履行によって契約期間の途中で解除された場合とは、法律上の場面が異なります。
建物買取請求権が成立するためには、借地権の期間が満了するだけでなく、借地契約が更新されずに終了することが必要です。
普通借地権では、期間が満了しても一定の場合には契約が更新されるため、「契約書に記載された期間が終わった」という事実だけで建物買取請求権が当然に発生するわけではありません。
たとえば、地主が借地人からの更新請求を拒絶する場合には、地主側に正当事由が認められるかが問題になります。
借地契約の更新期間や更新料、更新後の建物再築などについては、「借地権の譲渡・更新・建て替えの注意点と方法」でも詳しく解説しています。
建物買取請求権の対象は、借地人が権原に基づいて土地に附属させた建物その他の物であり、借地権そのものを地主へ買い取らせる制度ではありません。
典型的な対象は借地上の建物です。
建物以外の工作物や附属物についても、借地借家法13条の要件を満たす場合には買取対象となる可能性がありますが、家具や通常の動産まで当然に対象となるわけではありません。
建物買取請求権は、借地人が地主に対して「建物を時価で買い取るよう請求する」という意思表示をすることによって行使します。
法律上、必ず内容証明郵便でなければならないわけではありません。
しかし、建物買取請求権をいつ行使したのかは、買取価格の基準時や訴訟上の争点となる可能性があります。
そのため、実務上は内容証明郵便など、意思表示の内容と到達を証拠として残せる方法を利用することが重要です。
建物買取請求権の成立要件を満たしている場合、地主は単に「建物を買いたくない」という理由だけで買取りを拒否することはできません。
建物買取請求権は地主との合意によって成立する通常の売買契約とは異なり、借地人の意思表示によって法律関係を形成する権利だからです。
ただし、地主は、そもそも建物買取請求権の成立要件を満たしていないことや、買取価格について争うことができます。
実務上は、「建物を買い取るか否か」という問題よりも、建物買取請求権が成立するのか、時価はいくらなのかが争点になることが少なくありません。
建物買取請求権の買取価格は、建築費や更地価格の一定割合ではなく、買取請求権を行使した時点における建物等の「時価」を基準として決まり、建物の構造・築年数・状態・用途や場所的な利益などによって変動します。
借地借家法13条1項は、地主が買い取る価格を「時価」と定めています。
ここでいう時価は、建物を取り壊して廃材として処分した場合の価格だけを意味するものではありません。
建物買取請求権における時価には借地権価格そのものは含まれませんが、建物がその場所に存在することによる場所的な利益を考慮して評価することが認められています。
そのため、築年数が古い建物についても、建物本体の物理的価値だけから直ちに「買取価格は0円」と判断できるとは限りません。
一方で、場所的利益を更地価格の一律10%や12%などと機械的に計算するルールもありません。
建物の買取価格が争われる場合には、不動産鑑定等を利用して時価を評価することがあります。
借地契約が終了すれば常に建物買取請求権を行使できるわけではなく、債務不履行解除、合意解約、定期借地権の有効な特約などの場合には、借地借家法13条の建物買取請求権が認められないことがあります。
地代不払い、無断譲渡・無断転貸などの債務不履行によって借地契約が解除された場合には、原則として借地借家法13条の建物買取請求権は認められません。
借地借家法13条は、「借地権の存続期間が満了した場合において、契約の更新がないとき」の建物買取請求権を定めた制度です。
したがって、契約期間満了ではなく、借地人の債務不履行によって契約が途中で解除された場合は、13条が予定する場面とは異なります。
最高裁も、借地の一部について無断転貸があり、それを理由として土地賃貸借契約全体が解除された事案で、借地人に建物買取請求権を認めていません。
借地契約を地主と借地人との合意によって終了させる場合には、建物を誰が取得するか、建物を収去するか、金銭を支払うかを合意内容として明確に定める必要があります。
合意解約は、期間満了によって当然に終了する場合とは異なります。
そのため、「合意解約した後で当然に借地借家法13条の建物買取請求権を行使できる」と考えるべきではありません。
借地契約を合意解約するときには、建物の処理、明渡し時期、解決金その他の条件を合意書で明確にすることが重要です。
一般定期借地権や事業用定期借地権等では、法律上の要件を満たす契約により、期間満了時に借地借家法13条の建物買取請求権を行使しない旨を定めることができます。
普通借地権では、借地人に不利な建物買取請求権排除特約は借地借家法16条により原則として無効です。
しかし、一般定期借地権について定める借地借家法22条は、一定の要件のもとで、
を特約することを認めています。
したがって、「建物買取請求権を放棄する特約はすべて無効」という理解は正確ではありません。
建物買取請求権を検討するときは、まず対象となる借地権が普通借地権なのか、一般定期借地権や事業用定期借地権等なのかを確認する必要があります。
第三者の建物買取請求権とは、借地上の建物等を取得した第三者が土地賃借権の譲渡・転貸について地主の承諾を得られない場合に、地主へ建物等を時価で買い取るよう請求できる権利です(借地借家法14条)。
借地借家法13条と14条は、いずれも「建物買取請求権」と呼ばれますが、発生する場面が異なります。
13条は「借地期間が満了して更新されない場合」、14条は「借地上の建物を取得した第三者が土地賃借権の譲渡等について地主の承諾を得られない場合」の制度です。
| 比較項目 | 借地借家法13条 | 借地借家法14条 |
|---|---|---|
| 主な権利者 | 借地人 | 借地上の建物等を取得した第三者 |
| 問題となる場面 | 借地期間満了後に契約が更新されない場合 | 賃借権の譲渡・転貸について地主が承諾しない場合 |
| 買取対象 | 建物その他土地に附属させた物 | 取得した建物その他の対象物 |
| 価格 | 時価 | 時価 |
13条と14条の最大の違いは、13条が借地契約の期間満了を契機とするのに対し、14条は借地上の建物の譲渡と地主の譲渡承諾拒否を契機とする点です。
借地権付き建物をこれから第三者へ売却する場合には、無断で譲渡して14条の建物買取請求権を利用するのではなく、まず地主の承諾または借地借家法19条の代諾許可を検討することが重要です。
土地の賃借権を第三者へ譲渡するには、原則として地主の承諾が必要です。
地主が承諾しない場合でも、一定の条件を満たせば、借地借家法19条に基づき裁判所へ地主の承諾に代わる許可を求めることができます。
借地権の売却方法、譲渡承諾料、地主の承諾が得られない場合の代諾許可については、「借地権は売却できる?地主の承諾が必要な理由・承諾料の相場・承諾が得られないときの借地非訟を弁護士が解説」をご覧ください。
借地権譲渡の代諾許可を含む借地非訟全般については、「借地非訟とは?利用すべきケースや手続きの流れをわかりやすく解説」で詳しく解説しています。
最高裁判所は2026年8月28日、借地上の建物の「持分」のみを取得した第三者について、借地借家法14条の建物買取請求権は成立しないと判断しました(最高裁令和8年8月28日第二小法廷判決)。
この事件では、借地上にある区分所有建物の専有部分について、その持分4分の3を取得した第三者が、土地賃借権の持分の譲渡について地主の承諾を得られなかったため、借地借家法14条に基づいて建物持分の買取りを求めました。
最高裁は、建物持分について建物買取請求権を認めると、地主が自己の意思によらず建物の共有関係に入るなど重大な不利益を受けるおそれがあることや、持分の取得者には共有物分割による投下資本回収の方法があることなどを考慮しました。
その上で最高裁は、賃借権の目的である土地上の建物の持分については建物買取請求権は成立せず、区分所有建物の専有部分の持分であっても結論は同じであると判断しました。
したがって、借地上の建物について全部ではなく共有持分だけを取得する取引では、「地主の承諾が取れなければ14条の建物買取請求権を使えばよい」という前提で取引を進めることはできません。
建物買取請求権では、権利の成立自体だけでなく、建物の時価、場所的利益、土地明渡し、建物の占有者、登記などについて紛争になることがあります。
建物買取請求権で最も大きな争点の一つは買取価格であり、地主と借地人の査定額に開きがある場合には、不動産鑑定等を踏まえて時価を判断する必要があります。
建物の築年数だけで買取価格が決まるわけではありません。
建物の構造、維持管理状況、用途、収益性、場所的な利益その他の事情が問題となります。
また、借地権価格そのものをそのまま加算する制度ではないため、「更地価格×借地権割合」で建物買取価格を算出することも適切ではありません。
地主側が、契約は期間満了ではなく債務不履行解除で終了した、契約は更新されている、対象が定期借地権であるなどと主張し、建物買取請求権の成立そのものが争われることがあります。
そのため、建物の価格だけを査定しても問題は解決しません。
まず、借地契約書、更新契約書、地代の支払状況、更新請求・異議の経緯、契約終了の原因などを確認して、そもそも建物買取請求権が成立するかを判断する必要があります。
普通借地権と定期借地権では期間満了時の建物買取請求権の扱いが異なるため、借地契約の種類を誤ると法的結論も大きく変わります。
契約書に「定期借地」と記載されているだけでなく、契約期間、契約方式、特約内容などを確認して、法定要件を満たす定期借地権であるかを検討する必要があります。
建物買取請求権を弁護士に相談するメリットは、権利の成立要件を確認した上で、建物の時価、地主との交渉、内容証明による権利行使、必要に応じた訴訟まで一貫して対応できることです。
建物買取請求権の判断では、借地契約が終了したという事実だけでなく、終了原因、更新の有無、借地権の種類、建物の所有関係などを確認する必要があります。
特に、普通借地権と定期借地権の違い、期間満了と債務不履行解除の違い、借地借家法13条と14条の違いによって結論が変わります。
借地人自身でこれらを区別せずに地主へ建物買取請求をすると、存在しない権利を前提に交渉を進めてしまう可能性があります。
弁護士に依頼すれば、建物の時価や場所的利益について必要な資料・鑑定を検討した上で、地主との買取価格交渉を進めることができます。
建物買取請求権が成立しても、法律が具体的な買取金額まで自動的に決めてくれるわけではありません。
地主と借地人の査定額が大きく異なる場合には、不動産鑑定士等の専門家とも連携しながら価格を検討する必要があります。
建物買取請求権の成立や買取価格について地主との合意ができない場合には、最終的に訴訟によって解決することがあります。
訴訟では、借地契約が終了した原因、更新の有無、建物買取請求の意思表示、建物の時価などについて主張・立証する必要があります。
借地トラブルを弁護士に依頼するメリット、弁護士費用、相談時に準備すべき資料については、「借地に関するトラブルを弁護士に依頼する3つのメリット」もあわせてご覧ください。
普通借地権の存続期間が満了して契約が更新されない場合には、借地人は借地借家法13条に基づき、地主へ借地上の建物等を時価で買い取るよう請求できる可能性があります。
建物買取請求権は借地人による一方的な意思表示で行使できる強い権利ですが、借地契約が終了すれば常に認められるわけではありません。
特に、次の点を確認する必要があります。
また、借地上の建物を第三者へ売却したい場合には、期間満了時の建物買取請求権とは別に、地主の譲渡承諾や借地非訟の問題が生じます。
借地権の売却については、「借地権は売却できる?地主の承諾が必要な理由・承諾料の相場・承諾が得られないときの借地非訟を弁護士が解説」をご覧ください。
地主の承諾に代わる裁判所の許可を求める借地非訟については、「借地非訟とは?利用すべきケースや手続きの流れをわかりやすく解説」で詳しく解説しています。
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