借地権は、長期の契約を前提としていますので、契約途中に当事者が変わってしまうこともあります。地主が第三者に土地を譲渡してしまった場合、借地人は新たな土地所有者に対して借地権を主張することができるのでしょうか。
このような問題を法律上は、「借地権の対抗力」といいます。対抗要件を具備した借地権であれば第三者に対しても自分が借地人であることを主張することができますので、安心して土地を借り続けることができます。
今回は、借地権が対抗力を取得する要件と借地権の対抗要件が問題となる場面について、わかりやすく解説します。
目次
土地の所有権を有する地主は、その土地を全面的に支配していますので、土地を自由に処分することができます。当該土地に借地権が設定されていたとしても、地主は、借地人の承諾を得ることなく、土地を第三者に譲渡することが可能です。
しかし、借地人としては、自分が借りている土地が第三者に譲渡されてしまうと、「このまま土地を借り続けることができるのだろうか」、「新たな所有者から立ち退きを求められてしまうのではないか」など不安に感じることもあるでしょう。
実際、借地権付きの土地が第三者に譲渡されてしまった場合、借地権がどうなるのかという疑問は、借地権に関する法律相談でよく受ける内容の一つになります。借地人が新たな所有者に対して借地権を主張できるかどうかは、借地権が対抗要件を具備しているかによって結論が変わってきますので、次章からは借地権の対抗要件の問題についてみていきましょう。
借地権の対抗力とは、借地人が借地権の効力を第三者に対して主張することができる法律上の効力をいいます。
後述する対抗要件を具備した借地権には、法律上対抗力が認められますので、地主が土地を第三者に譲渡したとしても、新たな土地所有者に対して、借地権を主張することができます。すなわち、土地の所有者が変わったとしても、土地の明け渡しを求められることはないということです。
では、どのような場合に借地権に対抗力が生じるのでしょうか。借地権は、「借地権の登記」または「借地上の建物の登記」のいずれかの要件を満たせば認められます。このような対抗力を主張するための法律要件のことを「対抗要件」といいます。
以下では、それぞれの対抗要件について詳しく説明します。
借地権の対抗力は、借地権の登記をすることで発生します(民法177条、605条)。
借地権には、建物所有を目的とする地上権または土地の賃借権の2種類があります(借地借家法2条1号)。借地権が地上権であれば、物権にあたりますので、地主に対して、登記をするように求めることができます。そのため、地上権の場合は、借地権の登記により対抗要件を具備するのが一般的です。
しかし、土地の賃借権は、物権ではなく債権ですので、地上権のような登記請求権は認められていません。地主が合意してくれれば、土地の賃借権でも登記することができますが、地主側には登記に応じるメリットがありませんので、ほとんどのケースでは、土地の賃借権が登記されることはありません。
土地の賃借権が登記できないとなると対抗要件を具備することができなくなり、借地人の地位は著しく不安定なものになってしまいます。そこで、借地借家法では、土地の賃借権の登記がない場合でも、借地上の建物が登記されている場合には、借地権の対抗力を認めています(借地借家法10条1項)。
借地上の建物の登記により借地権が対抗力を有するためには、以下の要件を満たす必要があります。
借地人が地主から土地Aおよび土地Bという2筆の土地を借りて、土地Aのみに登記された建物を所有していたとします。この場合において地主が土地Bを第三者に譲渡した場合、借地人は、借地権の存在を新所有者に主張することができるのでしょうか。
借地上の建物の登記による借地権の対抗要件は、不動産登記簿と土地の外観により第三者が対抗要件の存在を確認できることを理由として対抗力が認められています。2筆の土地の一方のみに登記された建物があるケースでは、建物登記のない他方の土地については客観的に借地権の存在を把握することが困難といえます。そのため、建物登記のない土地について借地人は、原則として借地権の存在を主張することはできません。
ただし、土地Aと土地Bが一体的に利用されているなど外部から客観的に借地権の存在が明らかといえる場合には、新所有者からの土地の明け渡し請求は、権利の濫用と判断される可能性もあります。
借地権の登記または借地上の建物の登記がある場合、借地権には対抗力が認められます。しかし、借地権を第三者に主張できるかどうかは、対抗要件の優先関係も考慮して決めなければなりません。借地人と地主から土地を譲り受けた第三者の双方が対抗要件を具備している場合、両者の優先関係は、どちらが先に対抗要件を具備したかによって決められます。
そのため、地主から土地を譲り受けた第三者が所有権移転登記を行った後に借地人が借地権の登記または借地上の建物の登記をした場合には、借地人は第三者に借地権を主張することはできません。
借地権を第三者に主張するためには、借地権の対抗要件を具備していなければなりません。地上権であれば、登記請求権がありますので借地権の登記をすることが容易ですが、土地の賃借権だと借地権の登記は困難です。このような場合には借地上の建物の登記をすることで借地権の対抗力が認められますが、いくつか満たすべき条件があります。
借地権の対抗力の有無は、法的知識や経験がなければ正確な判断ができませんので、まずは弁護士に相談して、借地権の対抗要件に関するアドバイスを受けるとよいでしょう。
地主から土地の譲渡を受けた第三者から土地の明け渡しや建物の収去を求められたときは、借地人自身で第三者と交渉を行わなければなりません。しかし、不慣れな方ではうまく交渉を進めることができません。
このような第三者との交渉は、専門家である弁護士にお任せください。対抗要件を具備した借地権であれば、相手の請求には正当な理由がない旨伝えて、不当な請求とやめさせることが可能です。また、借地権が対抗要件を具備していない場合でも、第三者が登記の缺欠を主張する正当な利益を有する第三者でない場合には、そのことを理由に明け渡しなどを拒むこともできます。
第三者との交渉には、専門的な知識と経験が不可欠ですので、まずは弁護士に相談するようにしましょう。
地主が第三者に土地を譲渡したとしても、借地人が借地権の対抗要件を具備していれば、新たな土地所有者に対して借地権を主張することができます。対抗要件の有無や土地の明け渡しを求める新所有者が正当な利益を有する第三者にあたるのかについては、法律の知識や経験がなければ判断が難しい事項になります。ご自身では判断が難しいと感じるときは、早めに弁護士に相談することをおすすめします。
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