借地非訟とは?利用すべきケースや手続きの流れをわかりやすく解説

「借地権を売却したい」、「借地上の建物の増改築をしたい」という場合には、地主の承諾を得なければなりません。しかし、借地権の売却や借地上の建物の増改築などは、地主に不利益が生じることもあるため、地主の承諾が得られないこともあります。

そのような場合に利用されるのが借地非訟手続きです。裁判所の許可があれば、地主の承諾がなくても借地権の売却や借地上の建物の増改築などを進めることが可能になります。

今回は、借地非訟手続きとは何か、どのようなケースで利用されるのかなどをわかりやすく解説します。

1、借地非訟とは

借地非訟手続きとは、借地契約に関する紛争について、裁判所が地主の承諾に代わる許可などを与える裁判手続きです。

借地は、地主から土地を借りている状態ですので、借地人は自由な利用・処分ができるわけではありません。借地権の売却や借地上の建物の増改築が必要になったとしても、契約内容によっては、地主の承諾が必要になりますので、承諾が得られなければ借地人の権利は著しく制約されてしまいます。このような場合は、借地人は裁判所に対し、地主の承諾に代わる許可を求めることができ、これが借地非訟手続きです。

2、借地非訟手続きの対象となる事件

借地非訟手続きの対象となる事件としては、以下の6つの類型が挙げられます。

(1)借地条件変更申立事件

借地契約において、建物の種類、構造、規模、用途などが制限されていた場合には、借地人は、それに従って建物を建築しなければなりません。このような借地条件の変更が必要になったときは、本来であれば、地主と借地人との話し合いによって解決を図るのが望ましいとされています。しかし、地主には借地条件の変更に応じる義務はありませんので、協議に応じてくれなかったり、合意に至らないケースも少なくありません。

そのような場合には、借地借家法17条1項に基づき借地条件変更申立てをすることで、裁判所が借地条件の変更を決定することができます。

(2)増改築許可申立事件

借地契約では、借地上の建物の増改築を禁止または制限する特約が設けられていることが多いです。このような特約があるケースでは、借地権者は、地主の承諾がなければ借地上の建物の増改築をすることができません。勝手に増改築やリフォームをしてしまうと、借地契約が解除されたり、借地権の消滅事由に該当するおそれがあります。

地主の承諾が得られないときは、借地借家法17条2項に基づき増改築許可申立てをすることで、裁判所が増改築の許可を決定することができます。

(3)契約更新後の建物再築許可申立事件

借地契約が更新された後に借地上の建物が滅失したとしても、借地契約の残存期間内だけ存続する建物を再築することは可能です。

しかし、実際には更新後の契約期間は短く設定されていますので、借地契約の残存期間内だけ存続する建物を建てるのは困難といえます。地主が借地契約の残存期間を超えて存続する建物を建てることに承諾してくれないときは、借地借家法18条に基づき建物再築許可申立てをすることで、裁判所が建物の再築許可の決定をすることができます。

(4)借地権譲渡または転貸の許可申立事件

借地人は、借地上で生活や営業を行うことを目的として借地契約を締結し、建物の建築資金などの資金を投下します。しかし、その後の状況の変化によっては、投下資本を回収する必要が生じることがあります。

借地上の建物は、借地人の所有ですので自由に処分することができますが、建物の譲渡には借地権の譲渡も伴います。借地権の譲渡にあたっては、地主の承諾が必要になりますので、地主の承諾が得られなければ、無断譲渡となり借地契約を解除されるリスクがあります。

このような場合には、借地借家法19条1項に基づき借地権譲渡または転貸の許可申立てをすることで、裁判所が借地権譲渡または転貸の許可決定をすることができます。

(5)競売または公売に伴う土地賃借権譲受許可申立事件

競売または公売より借地上の建物の所有権が買受人に移転すると、借地権も一緒の買受人に移転します。しかし、競売または公売による売却であっても、借地権の譲渡にあたっては、地主の承諾が必要人なりますので、地主の承諾が得られないとなると競売または公売の実効性が失われてしまいます。

このような場合には、借地借家法20条に基づき競売または公売に伴う土地賃借権譲受許可の申立てをすることで、裁判所が承諾に代わる許可を決定することができます。

(6)借地権設定者による介入権申立事件

「借地権譲渡または転貸の許可申立」や「競売または公売に伴う土地賃借権譲受許可申立」がなされた場合、裁判所が許可の決定をすると借地人が別の人に替わってしまいます。

このような借地人の入れ替わりを防ぐ手段として、地主には「介入権」が認められています。

地主は、介入権を行使することにより、自らに対し、賃借権の譲渡または転貸をするよう求めることが可能になります。介入権を行使するには、地主から裁判所への申立てが必要になり、これも借地非訟手続きの一種です。

3、借地非訟の手続きの流れ

借地非訟手続きは、以下のような流れで進んでいきます。

(1)裁判所への申立て

借地非訟事件は、借地権の目的である土地を管轄する地方裁判所に申立てを行います。その際には、以下のような書類が必要になります。
・申立書
・資格証明書(申立人または相手方が法人の場合)
・土地および建物の固定資産評価証明書
・現場の住宅地図
・賃貸借契約書

申立てが受理されると、第1回目の審問期日が指定されます。

相手方は、第1回審問期日までに、答弁書を作成して提出しなければなりません。

(2)審問期日

審問期日では、裁判官が出頭した当事者から意見の聴取を行います。一般的な訴訟手続きは、公開の法廷で行われますが、借地非訟手続きは非公開で行われるという特徴があります。

当事者の主張に争いがある場合には、必要に応じて審問期日を重ねていくことになります。

(3)鑑定委員会の意見聴取

借地非訟手続きでは、鑑定委員会制度が採用されています。

借地非訟事件では、申立てを認めるかどうか、申立てを求める場合に承諾料としていくらが適正なのかを判断するにあたっては、専門的な知識が必要となります。そこで、裁判所は、弁護士、不動産鑑定士、建築士などから選ばれた鑑定委員によって構成される鑑定委員会の意見を聞かなければならないとされています。

裁判所は、鑑定委員会から提出された「意見書」に基づいて、最終的な決定を下すことになります。

(4)和解または決定

審問期日の途中で、話し合いで解決したいという意向が出てきたときは、裁判所が間に入って和解の手続きが進められます。当事者間で和解が成立すれば、その時点で借地非訟手続きは終了となりますが、和解に至らない場合には、最終的に裁判所が決定を出します。

なお、裁判所の決定に不服があるときは、決定書を受け取ってから2週間以内に即時抗告という不服申し立ての手続きをとることができます。

4、借地非訟手続きは弁護士にお任せください

借地非訟手続きの利用をお考えの方は、弁護士にご相談ください。

(1)交渉による早期解決が期待できる

借地非訟手続きの申立てから終局までは、一般的に7~9か月程度の期間がかかるといわれています。借地権に関する問題は、生活や営業に直結する問題ですので、できる限り早期に解決するのが望ましいといえるでしょう。

弁護士であれば、借地人に代わり地主との交渉を担当することができますので、交渉による早期解決が期待できます。地主から不当な承諾料を求められたとしても、弁護士であれば適正な承諾料の相場を把握していますので、不利な条件で合意するリスクもありません。

借地人の方が一人で地主と交渉を進めるのは精神的にも大きな負担となりますので、まずは弁護士に相談することをおすすめします。

(2)複雑な借地非訟手続きも安心して任せられる

借地非訟手続きは、一般的な民事訴訟とは異なる特別な裁判手続きになります。知識や経験がない方では、適切に手続きを進めることができませんので専門家である弁護士に任せるのが安心といえます。

弁護士であれば、借地人の状況に応じて適切な手段を選択し、少しでも有利な内容で解決できるよう法的観点から主張立証を行うことができます。借地問題で困ったときは、すぐに弁護士に相談するようにしましょう。

5、まとめ

借地契約においては、地主の承諾が必要になるケースがいくつか存在しています。地主との交渉によって承諾が得られればよいですが、地主が承諾してくれない、または不当に高額な承諾料を要求してきたという場合には、借地非訟手続きを利用する必要があります。

借地非訟手続きは、非常に専門的な手続きになりますので、知識や経験のない方では対応するのが困難といえます。借地問題でトラブルが生じた際には、弁護士のサポートを受けるのがよいでしょう。

ダーウィン法律事務所では、借地などの不動産案件の取り扱いに力を入れています。不動産に関するトラブルでお困りの方は、当事務所までお気軽にご相談ください。

この記事を監修した弁護士

荒川香遥
  • 弁護士法人 ダーウィン法律事務所 代表弁護士

    荒川 香遥

    ■東京弁護士会
    ■不動産法学会

    相続、不動産、宗教法務に深く精通しております。全国的にも珍しい公正証書遺言の無効判決を獲得するなど、相続案件について豊富な経験を有しております。また、自身も僧籍を有し、宗教法人法務にも精通しておりますので、相続の周辺業務であるお墓に関する問題も専門的に対応可能です。

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