借地契約の締結の際には、借地人から地主に対して、「権利金」と呼ばれるお金が支払われます。権利金とは、どのような性質のお金で、そもそも支払う必要があるお金なのでしょうか。
また、権利金と似たものに、敷金・保証金・更新料といったものがあります。これらは、権利金とどのような違いがあるのでしょうか。
今回は、借地契約における権利金とは何か、敷金・保証金・更新料との違いなどについて解説します。
目次
借地契約における権利金とは、借地契約を締結する際に、借地権設定の対価として、借地人が地主に対して支払うお金のことをいいます。
借地権は、非常に強力な権利であり、借地権価格が土地の更地価格の30~90%になるなど高い財産的価値が認められています。そのため、借地契約において権利金が授受される場合には、借地権設定の対価という意味合いがあります。
このような権利金の性質上、基本的には借地契約が終了したとしても、地主から借地人に対して、権利金が返還されることはありません。
敷金とは、借地契約上の債務を担保する目的で、借地契約締結の際に、借地人から地主に対して支払われるお金です。敷金は、借地人の未払い賃料、借地の原状回復費用などを担保する預託金としての性質を有しています。このように敷金は、借地人が土地を明け渡すまでの借地人の債務を担保するという性質を有することから、敷金の返還と借地の明け渡しとは同時履行の関係には立たず、借地人による土地の明け渡しが先になされることになります。
権利金は、借地契約の対価として支払われるお金であるのに対して、敷金は、借地人による債務不履行を担保する預託金としての性質を有するという違いがあります。また、権利金は、返還不要なお金であるのに対して、敷金は、返還が必要なお金という違いもあります。
保証金とは、借地契約締結時に借地人から地主に対して支払われるお金ですが、その法的性質は契約ごとにさまざまです。そのため、保証金の法的性質については、当事者間の意思解釈などに委ねられています。
もっとも、保証金は、一般的に、将来の返還を要するものとして、預託金としての性格が与えられることが多いです。この場合、名目は「保証金」となっていたとしても、実質的には「敷金」としての性格を有していますので、民法622条の2の敷金の規定により処理されることになります。
なお、定期借地権が利用される場合には、土地の返還時期が確定しており、借地人は、その時点で借地上の建物を撤去し、これを地主に返還しなければなりません。そのため、定期借地権の期間満了時に借地上の建物を撤去して更地に戻すための資金としてプールすることを目的に、保証金という名目の金銭の預け入れが行われることも少なくありません。
更新料とは、借地契約の更新の際に借地人から地主に対して支払われるお金です。
更新料の支払い義務に関して、民法および借地借家法には特別な規定は設けられていません。また、判例でも「宅地賃貸借契約における賃貸期間の満了にあたり、賃貸人の請求があれば当然に賃貸人に対する賃借人の更新料支払義務が生ずる旨の商慣習ないし事実たる慣習が存在するものと認めるに足りない」と判示しています(最高裁昭和51年10月1日判決)。そのため、借地契約において更新料の支払いの合意がない場合には、更新料を支払う義務はありません。
権利金と更新料は、支払い時期が契約時であるか、更新時であるかという違いがありますが、法律上支払い義務がなく、返還も不要という点で共通しています。
譲渡承諾料とは、借地人が借地権を第三者に譲渡する際に、地主の承諾を得るために支払われるお金です。
借地人は、借地権を第三者に譲渡する際には、原則として地主の承諾を得ることが必要になります。そのため、借地権譲渡にあたっては、地主と協議を行うことになりますが、その際に、借地権の譲渡を承諾する条件として、地主から譲渡承諾料の支払いが求められるのが一般的です。譲渡承諾料の支払い義務を定めた法律はありませんが、地主から承諾が得られないときの借地非訟の手続きでも譲渡承諾料の支払いが命じられることから、基本的には支払いが必要なお金と考えておいた方がよいでしょう。
権利金と譲渡承諾料は、どちらの返還不要なお金であるという点では共通します。しかし、権利金は、借地契約などに支払いを義務付ける根拠がなければ支払う必要のないお金ですが、譲渡承諾料は、地主から承諾を得る場合には基本的には必要になるお金ですので、その点で違いがあります。
借地契約の権利金は、以下の計算式によって決定される借地権価格を参考に決められるのが一般的です。
たとえば、土地の価格が1億円で、借地権割合が60%であれば、借地権価格は6000万円ということになります。
権利金が借地権価格よりも高い場合には、権利金の金額設定が適切でない可能性があります。ただし、適正な権利金相場は、借地権価格だけでなく、地代の金額、地価の上昇などさまざまな要因を踏まえて決定されます。そのため、地主から請求された権利金が高いと感じた場合には、一度専門家である弁護士に相談してみるとよいでしょう。
借地契約の権利金の相場を求めるには、「土地価格」と「借地権割合」を理解する必要があります。
土地価格は、土地を更地として売買する際の取引価格(実勢価格)になります。正確な金額を知るためには、不動産鑑定士による鑑定が必要になりますが、それには20~30万円程度の費用がかかります。
そのため、費用を抑えたいという場合には、路線価や不動産業者の査定などを利用する方法もあります。ただし、路線価に基づき計算した土地価格は、実勢価格の8割程度に割り引かれているケースも多いため注意が必要です。
借地権割合は、国税庁のホームページで公開されている路線価図で確認することができます。路線価図には、土地が接している道路に数字とアルファベットが記載されていますので、それをみれば借地権割合を把握することができます。
路線価図に借地権割合が記載されていない場合には、国税庁のホームページにある評価倍率表で借地権割合を確認できます。
借地契約の際に権利金の支払いがなされるのが一般的ですが、法律上は、権利金の支払いを義務付ける規定は存在しません。そのため、借地契約に権利金の支払いに関する定めがなければ、そもそも権利金を支払う必要はありません。
地主から権利金の支払いを求められた場合、すぐに支払いに応じるのではなく、まずは借地契約書を確認して、権利金の支払い義務があるかどうかをチェックするとよいでしょう。
また、権利金の支払いが義務であったとしても、具体的な金額をいくらにするかは当事者間の交渉によって決まります。地主から請求された権利金の金額が相場を大幅に上回るような場合には、不当な権利金を請求されている可能性がありますので注意が必要です。
権利金の支払いの慣行のある地域において、権利金の支払いをせずに借地権の設定をすると借地権の認定課税が適用され、贈与税が発生する可能性があります。借地権の認定課税は、法人間の取引または同族関係者間での取引にのみ適用される制度ですが、対象となる方は、高額な贈与税の負担が生じる可能性もありますので注意が必要です。
借地契約の権利金は、基本的には地主から借地人に対して返還されることはありません。
しかし、期限の定めのある賃貸借契約が予定より短期間で合意解約などにより執行した場合で、権利金授受の目的が達せられなかったとして、その一部の返還を認めた判例もあります(浦和地裁昭和57年4月15日判決)。
そのため、一定の例外的なケースでは、権利金の一部の返還を受けられる可能性もあります。
借地契約においては、権利金をはじめとして、敷金・保証金・更新料などさまざまなお金が支払われることがあります。これらのお金は、支払い義務の有無、支払い時期、金額の相場、返還の有無などが異なりますので、それぞれの性質をしっかりと理解した上で支払いに応じるようにしましょう。
地主から不当な権利金の請求を受けていると感じる場合には、一人で対応するのは困難ですので、まずは弁護士にご相談ください。ダーウィン法律事務所では、借地などの不動産に関する案件の取り扱いに力を入れております。不動産トラブルでお困りの方は、当事務所までお気軽にご相談ください。