借地契約では、物件の所在地、契約期間、地代などの基本事項のほかに、「特約」と呼ばれる特別な契約条項が設けられることがあります。契約自由の原則から、特約を設けること自体は問題ありませんが、特約の内容によっては特約の効力が認められない場合もありますので注意が必要です。
今回は、借地契約における各種特約の効力について、わかりやすく解説します。
目次
借地契約における特約とは、どのようなものなのでしょうか。以下では、特約の意義と特約の限界について説明します。
借地契約は、法定の要件を満たすことにより成立します。その際に、借地契約の成立要件以外の契約条項を設けていなかったとしても、民法や借地借家法の規定が適用されます。トラブルが発生した場合には、民法や借地借家法の規定に従って解決していくことになりますので、特約がなかったとしても何も解決基準がないというわけではありません。
しかし、民法や借地借家法の解決基準は、一般的な解決基準に過ぎませんので、地主または借地人にとって不利な内容であることもあります。法律上の解決基準が自己に不利だと感じる場合には、 借地契約に特約を設けることを検討する必要があります。
契約の基本的な原則として、「契約自由の原則」が存在します。これは、 誰と契約をするのか、どのような内容の契約をするのかを契約当事者が自由に決定できるという原則で、私的自治の原則に基づく、契約の基本的な原則になります。
しかし、法律とは異なる特約を設ける場合、どのような特約でも無制限に認められるわけではありません。特約には、以下のような限界がありますので、それを理解した上で有効な特約を設けることが大切です。
当事者間で合意した内容であったとしても、公の秩序または善良の風俗に反する内容の合意については、法的効力は認められません(民法90条)。
たとえば、あまりにも多額の違約金を相手に課すような特約は、公序良俗違反として無効になる可能性が高いといえます。そのため、自己に有利な特約条項を設ける際には、公序良俗に反する内容でないかどうかを確認することが大切です。公序良俗違反にあたるかどうかは、多くの裁判例が判断を示していますので、判例調査などにより特約の有効性を確認するとよいでしょう。
法令の中には公の秩序に関する規定が盛り込まれているものがあります。このような公の秩序に関する規定がある場合、当事者がこの規定と異なる合意をしたとしても、その効力は認められません。このような規定を「強行法規」といいます。
借地契約では、借地借家法や消費者契約法が強行法規にあたりますので、特約を設ける際には、これらの法律に違反する内容でないかどうかを確認することが大切です。
「更新料支払い特約」とはどのような特約なのでしょうか。以下では、更新料支払い特約の有効性と特約を設ける際のポイントについて説明します。
更新料とは、借地契約の期間が満了し、契約を更新する際に借地人から地主に対して支払われる金銭です。
借地の更新料については、民法や借地借家法などの法律で支払いが義務付けられた金銭ではありませんので、地主が借地人に対して、更新料を請求するためには、借地契約で更新料支払い特約を設けておく必要があります。
なお、更新料支払い特約としては、一般的に、以下のような条項が設けられます。
「本契約が法定更新を含め更新される場合には、借主は、貸主に対して、更新料として金○○万円を契約更新時に支払う」
借地人が消費者である場合には、借地契約に消費者契約法が適用されます。更新料支払い特約は、借地人である消費者の義務を加重するものとして、消費者契約法に反して無効ではないかが争われることがあります。
しかし、更新料支払い特約は、特約の内容が明確であり、更新料の金額が契約期間や地代に照らして過大でないといえる場合には、借地人に不測の損害や不利益をもたらすものではないため、消費者契約法には反しないと考えられています。
そのため、特約の内容にもよりますが、更新料支払い特約を設けたとしても、直ちに無効になるわけではありません。
更新料支払い特約を設ける際には、以下のポイントを押さえておくとよいでしょう。
最高裁昭和51年10月1日判決では、更新料支払い特約がなく、賃貸人の請求があれば当然に更新料支払い義務が生じる旨の商慣習に基づいて、更新料の支払いを求めた事案について、そのような商慣習が存在するとは認められないと判示しています。
そのため、地主が借地人に対して更新料の支払いを求めるためには、事前の合意が必要になります。
更新料支払い特約が法定更新の場合にも適用されるのかについては、裁判例でも判断が分かれています。
更新料の支払い特約は、法定更新の場合には適用されないと借地人から言われないようにするためにも、「 法定更新の場合も含む」と明記しておくことが大切です。
地主が事業者、借地人が個人の場合には、借地契約においても消費者契約法が適用されます。
そのため、更新料の支払い特約が不明確な内容であったり、更新料の額が高額であるなどの事情がある場合には、更新料の支払い特約は、消費者契約法10条に反して無効になるリスクがあります。
「地代の改定に関する特約」とはどのような特約なのでしょうか。以下では、地代の改定に関する特約の有効性と特約を設ける際のポイントについて説明します。
借地の地代は、月額いくらという形で一定額を定めるのが一般的です。
しかし、借地契約は、長期間の契約になりますので、その後の地価の上昇・下落、固定資産税の増減などさまざまな事情により地代の変更が必要になることがあります。その都度、地代の変更に対応するのも煩雑ですので、一定期間地代を変更しない旨の特約や地価・固定資産税の変動に応じて自動的に地代を変更させる特約などを設けることがあります。
このような地代に関するさまざまな特約の総称が「地代の改定に関する特約」です。
地代の改定に関する特約の代表的なものとしては、「地代の不増額特約」と「地代の自動改定特約」の2つが挙げられます。
借地借家法11条1項では、地代の増減額請求権が定められており、同項ただし書で一定期間地代の増額をしないという特約も認められています。
そのため、地代の不増額特約を設けること自体は、特に問題はありません。ただし、急激な経済情勢の変動があった場合など地代の不増額特約を維持することが地主にとって著しく不合理といえる場合には、例外的に地代の不増額特約の解除が認められることもあります。
地代の改定に関して、一定期間ごとに消費者物価指数などの経済指標に応じて賃料をスライドさせる特約は、賃料の改定をめぐる当事者間の紛争を未然に防止するものとして有効と考えられます。
しかし、借地人には、借地借家法により賃料減額請求権が認められていますので、それを排除するような内容であった場合には無効になる可能性もあります。
地代の改定に関する特約を設ける際には、以下のポイントを押さえておくとよいでしょう。
借地契約の全期間について地代を不増額とする特約であったとしても、直ちに無効になるわけではありません。
しかし、経済情勢の変動があるにもかかわらず、地代不増額特約により地主を長期間拘束させるのは不合理だと考えられる場合にありますので、不増額期間は、一定程度の期間に限定しておいた方がよいでしょう。
地代の自動改定特約を設ける場合には、改定の頻度を定める必要があります。一般的には、公租公課が改定される期間に合わせて、「固定資産税の評価替えの基準年度ごと」または「3年ごと」にするケースが多いでしょう。
「借地上建物の用途制限特約」とはどのような特約なのでしょうか。以下では、借地上建物の用途制限特約の有効性と特約を設ける際のポイントについて説明します。
借地上建物の用途制限特約とは、借地上の建物の使用目的、規模、構造などを制限する旨の特約です。
地主と借地人との間で借地契約を締結する場合、地主にとっては借地人が当該土地をどのような目的で使用し、どのような規模・構造の建物を建てるのかは重大な関心事です。そこで、地主に不測の損害や不利益が生じないようにするために、借地上建物の用途制限特約が設けられます。
借地上建物の用途制限特約は、借地権の存続期間などを制限するものではありませんので、借地借家法9条の強行法規違反になることはなく、有効であると考えられます。
なお、最高裁昭和39年6月19日判決では、借地人による土地の使用目的などを制限する特約の有効性が問題となった事案について、使用目的などの制限は、強行法規違反にはあたらず有効であると判示しています。
借地上建物の用途制限特約を設ける際には、以下のポイントを押さえておくとよいでしょう。
借地借家法17条1項では、一定の場合には、地主または借地人からの申立てにより、裁判所が借地条件の変更ができると定められています。
これは強行法規ですので、借地上建物の用途制限特約を設けたとしても、裁判所の判断により特約の内容が変更される可能性もあります。
用途制限特約に違反した場合、借地契約を解除できるかどうかは、用途制限違反についての諸般の事情を考慮して、当事者間の信頼関係が破壊されたかどうかによって判断が異なってきます。
解除条項を設けたとしても、常に解除が認められるわけではありません。しかし、借地人に用途制限違反をさせないための抑止力にもつながりますので、用途制限特約に違反した場合の解除条項を設けておくとよいでしょう。
借地契約では、一般的な契約条項のほかに、さまざまな特約条項が設けられることがあります。契約自由の原則から当事者の合意があれば、特約を設けることも可能ですが、特約の内容によっては、公序良俗違反や強行法規違反により無効となるケースもあります。
そのため、有効な特約を設けるためには、裁判例や法令の知識や理解が不可欠となりますので、まずは弁護士に相談することをおすすめします。ダーウィン法律事務所では、借地などの不動産に関する案件の取り扱いに力を入れております。不動産トラブルでお困りの方は、当事務所までお気軽にご相談ください。
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