借地人による契約違反があったとしても、それだけでは借地契約を解除することはできません。借地契約のような継続的な契約では、一定の信頼関係が存在することを前提としていますので、信頼関係が破壊されたといえる事情が必要になります。これを「信頼関係破壊の法理」といいます。
借地契約では、どのような事情があれば契約の解除が可能になるのでしょうか。
今回は、借地契約における信頼関係破壊の法理について、裁判例を踏まえてわかりやすく解説します。
目次
信頼関係破壊の法理とはどのようなものなのでしょうか。また、借地契約を解除するためには、どのような法的手続きが必要になるのでしょうか。
借地契約は、売買契約のような一度きりの契約とは異なり、契約締結をすると一定期間、契約関係が存続する継続的契約にあたります。このような継続的契約では、契約当事者間に一定の信頼関係があることを前提としていますので、軽微な契約違反があったときに常に契約解除ができるとすると、住居や事業の拠点を失うことになる借地人に酷な結果になります。
そこで、借地人に債務不履行があったとしても、それが信頼関係を破壊しない程度のものであれば、地主は、借地契約を解除することはできないとされています。これを「信頼関係破壊の法理」といいます。
借地人による債務不履行により信頼関係が破壊されたといえる事情があれば、借地契約の解除が可能になります。そのようなケースでは、以下のような手続きによる契約の解除を進めていきます。
借地契約を解除するには、地主から借地人への契約解除の意思表示が必要になります。そのため、まずは、解除通知と呼ばれる書面を借地人に送付します。
解除通知については、後日書面を受け取ったかどうかなど無用な争いが生じることを防ぐためにも、 配達証明付き内容証明郵便の形式で送付するのがよいでしょう。
解除通知を送付しても、借地人が任意に明け渡しに応じない場合には、地主を原告、借地人を被告として、土地の明け渡しを求める民事訴訟を提起する必要があります。訴訟では、土地の明け渡しだけでなく、未払いの賃料などの金銭債務の請求もできますので、連帯保証人が設定されている場合には、連帯保証人への請求も検討します。
なお、裁判で判決が言い渡されたとしても、判決に不服がある当事者は、控訴、上告といった手続きを行うことができますので、解決までには相応の時間がかかります。
土地の明け渡しを命じる判決が確定しても、借地人が土地を明け渡さないときは、強制執行の申立てを行います。通常は、申立てから2週間程度で執行官が物件を訪れ、1か月以内の具体的な日を強制執行の実施日と定め、借地人に告知します。その日までに借地人が明け渡さない場合、執行官は、職務権限により、明け渡しを強制的に実現させることができます。
借地人による無断転貸や無断譲渡の事案では、どのような事情があれば借地契約の解除が認められるのでしょうか。
無断転貸とは、借地人が地主の承諾を得ることなく、第三者に借地を貸すことをいいます。無断譲渡とは、借地人が地主の承諾を得ることなく、借地権を第三者に譲渡することをいいます。
地主にとって、誰が土地を利用するのかは重大な関心事になりますので、地主の承諾なく借地の転貸や賃借権の譲渡があった場合には、 借地契約を解除できるとされています(民法612条2項)。その際には、信頼関係の破壊の有無が考慮されることになりますが、当事者間の信頼関係を前提とする借地契約では、無断転貸・無断譲渡は、強い背信性を持つ行為と考えられています。
そのため、無断転貸・無断譲渡があった場合には、借地契約の解除が認められやすいといえるでしょう。
無断転貸・無断譲渡を理由として、借地契約の解除が認められた裁判例としては、以下のものが挙げられます。
【東京地裁平成19年8月9日判決】
無断転貸・無断譲渡があっても借地契約の解除が認められなかった裁判例としては、以下のものが挙げられます。
【東京地裁平成19年4月25日判決】
【東京地裁平成16年10月18日判決】
借地人による賃料等不払いの事案では、どのような事情があれば借地契約の解除が認められるのでしょうか。
賃料の支払いは、借地契約において最も基本的かつ重要な要素になりますので、借地人による賃料不払いがあった場合には、借地契約の解除事由になります。
ただし、借地契約では、信頼関係破壊の法理が適用されますので、借地契約の解除が認められるかどうかは、 賃貸借契約の長短、賃料不払いの程度、不払いに至った事情など個々の事情を総合考慮して判断されます。
賃料等不払いを理由として、借地契約の解除が認められた裁判例としては、以下のものが挙げられます。
【東京地裁平成16年2月23日判決】
【東京地裁平成16年11月8日】
賃料等不払いがあっても借地契約の解除が認められなかった裁判例としては、以下のものが挙げられます。
【東京地裁平成18年1月30日判決】
借地人による用法義務違反の事案では、どのような事情があれば借地契約の解除が認められるのでしょうか。
借地契約では、無断増改築禁止特約、用途制限特約などさまざまな特約が設けられることがあります。用法義務違反とは、このような借地契約で定められた特約に違反する行為をいい、借地契約の解除事由にあたります。
ただし、信頼関係破壊の法理が適用されますので、解除が認められるかどうかは、用法義務違反の態様、程度、経緯などを総合して判断することになります。
用法義務違反を理由として、借地契約の解除が認められた裁判例としては、以下のものが挙げられます。
【大阪地裁平成22年4月26日判決】
用法義務違反があっても借地契約の解除が認められなかった裁判例としては、以下のものが挙げられます。
【東京地裁平成18年8月10日判決】
借地契約のような継続的契約では、当事者間の信頼関係を基礎としていますので、契約違反があっただけではなく、信頼関係を破壊するに足りる事情がなければ借地契約の解除は、認められません。
契約解除が認められるかどうかは、法的判断が必要になりますので、借地人による契約違反があってお困りの地主の方や地主から借地契約の解除を求められてお困りの借地人の方は、まずは弁護士に相談するようにしましょう。ダーウィン法律事務所では、借地などの不動産に関する案件の取り扱いに力を入れております。不動産トラブルでお困りの方は、当事務所までお気軽にご相談ください。
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