【休眠抵当権抹消】供託利用の特例と供託金額の計算方法

供託利用の特例を活用して休眠抵当権の抹消登記申請を行う場合、最も大変なことは、供託金額を計算することです。

おそらくほとんどの方が、休眠抵当権の抹消登記申請は弁護士や司法書士に手続の代行を依頼すると思いますし、このような煩雑で専門的な知識が必要な手続は手続代行を依頼することが、時間も節約できストレスも軽減できるので、正解だと思います。

この記事を読んで、実際に自分自身で供託金額の計算を行おうという方は少ないと思いますので、この記事では、供託金額の計算の基本と、供託金額の計算にはどのような要素が関わってくるのかについて解説したいと思います。

供託利用の特例の活用に関する基本的な解説は、「休眠抵当権抹消登記申請の供託利用の特例について」に解説していますので、ご参照ください。

1.供託金額の計算方法の基本

供託金額の計算は、基本は「債権額」「利息」「損害金」の3つの金額を足すことで求めることができます。

また、供託金額を算出するには「弁済期」という言葉の意味を理解することも重要です。

まずは1つ1つ、言葉の意味から解説します。

■債権額

債権額とは、貸し借りしているお金のことですが、登記簿に記載されている元本のことを言います。

債権額は返済の進行によって徐々に減っていくので、実際に残っている債権額のことを残債と言います。

ただ、供託利用の特例では債権額とは、まだ返済されていない実際に残っている残債のことではなく、登記簿に記載されている元本のことを指しています。

■利息

利息とは、借りたお金の使用料として、借りた人に支払うお金のことで、利子とも言います。

借りたお金の使用料に対して一定でかかる利子の割合を利率と言います。

通常、現代では利率の単位は「%」が使用されていますが、休眠抵当権の場合、明治・大正時代の利率には「割・分・厘」が使用されていました。

■損害金

損害金とは、債務の不履行によって生じた損害の全額に相当する金額のことを言います。

つまり遅延損害金のことです。

供託利用の特例の活用では、弁済期の翌日から供託する日までを計算し、損害金とします。

■弁済期

弁済期とは、弁済期日とも言いますが、債務者が債務の弁済を行なわなければならない期限のことを指します。

債務が金銭で弁済期が確定している場合には、支払期日と言うことの方が多いです。

以上が供託金額の計算に出てくる基本的な言葉の意味です。

次に供託金額の計算の基本について解説します。

まず、供託金額の計算は、日本円でしか行いません。

外国の貨幣の単位では供託することができません。

供託金額の合計金額は、実際に支払って残っている残債の金額ではなく、不動産登記簿に記載されている、「債権額」「利息」「損害金」の3つの金額を全て足すことで求めた金額となりますので、この点は注意が必要です。

では利息と損害金はいつからいつまでの利息と損害金を計算すれば良いのでしょうか。

まず、利息に関しては、債権の契約が始まった日から、債務者が債務の弁済を行なわなければならない期限である弁済期までの利息で計算を行います。

そして、損害金に関しては、弁済期の翌日から供託する予定の供託日までを損害金が発生する対象日として計算を行います。

これら「債権額」「利息」「損害金」の全てを合計すると、供託金額となります。

かなり古い時代の休眠抵当権の場合、「債権額」「利息」「損害金」の合計金額に1円未満の金額がでてくる場合があります。

供託金額の合計金額を計算する際、1円未満の端数の金額が出た場合は、50銭以上の端数が発生した場合には1円に切り上げ、50銭未満の端数が発生した場合には切り捨てて計算を行います。

この端数の金額の切り上げ・切り下げ計算に関しては、必ず「債権額」「利息」「損害金」を全てを合計してから後から切り上げ・切り下げ計算を行います。

供託金額の合計金額を算出する際、「債権額」「利息」「損害金」それぞれを合計する前に切り上げ・切り下げ計算を行ってはいけません。

「債権額」「利息」「損害金」それぞれを合計する前に切り上げ・切り下げ計算を行ってしまうと、合計金額に誤差がでてしまい、間違った供託金額になってしまいます。

また、日本の貨幣が明治時代、大正、昭和時代と比べ同じ金額でも、インフレの影響で貨幣の価値が過去と現在で異なるので、貸した側と借りた側で、不公平感が生じるのではないかと思われるかもしれません。

しかし、法律的には昔の相場と現代の相場を比べて換算することはしなくても良いということになっています。

そのため、明治時代や大正時代から続く債権であったとしても、供託金額が高額にならずに済んでいます。

以上が供託金額の計算の基本でした。

2. 債権が金銭以外のもので登記されている場合

休眠抵当権のように、明治・大正時代に登記がされた債権の場合、債権が金銭ではなく、お米や穀物の場合もあります

登記された債権がお米や穀物だった場合に、通常登記簿にはお米や穀物を金銭に換算した金額が記載され、登記されています

その場合、金銭に換算して記載され登記されている金額を、債権額として計算を行います。

しかし、時々債権であるお米や穀物を、金銭に換算して金額が記載されているはずの登記簿に、その債権額の金額が記載されていない場合があります。

このように、登記簿に金銭に換算された金額が記載されていない場合、供託を行うこと自体ができませんので、供託利用の特例を活用して休眠抵当権の抹消登記申請を行うことができなくなります。

そのため、債権が金銭ではなく、お米や穀物の場合は、必ず債権額が金銭に換算された金額で記載されているかどうかを確認してください

3.弁済期や債権成立日の記載がないなどの記載が特殊な場合

供託金額の計算で利息と損害金を計算するためには、必ず弁済期と債権成立日の記載を確認する必要があります。

しかし、明治時代以降の登記簿を確認すると、弁済期や債権成立日の記載がないパターンがあり、弁済期が記載されていないものもあれば、現在のような西暦ではなく旧暦での記載があったりします。

弁済期の記載方法にはいくつかのパターンと処理方法があるので、いくつかを解説いたします。

①弁済期の記載がない場合

休眠抵当権の場合、弁済期の記載がない登記簿があります

この場合は登記簿に記載の債権成立日を弁済期にします

②弁済期と債権成立日の記載がない場合

弁済期と債権成立日の両方の記載が登記簿にない場合は、担保権成立日を債権成立日そして弁済期とし、供託金額の計算を行います

③債権成立日が弁済期の場合

債権成立日が弁済期の場合、債権成立日を弁済期とすることができますので、そのまま1日分を利息の発生するものとして計算を行います

④弁済期が担保権設定日よりも以前で記載されている場合

稀にありますが、弁済期が担保権設定日よりも以前で記載されている場合、担保権設定日を債権成立日として、債権成立日を弁済期とすることができます。

⑤弁済期や債権成立日が旧暦で記載されている場合

弁済期や債権成立日が、現在の西暦ではなく、旧暦で記載されている場合には、旧暦自体を現在の西暦に置き換えて、債権成立日や弁済期の計算を行います

4.利息と損害金の計算方法について

利息も損害金の計算に関しても、基本的な計算方法はほとんど同じです。

利息金額の計算は、

元金✖利息の金利✖債権成立日から弁済期までの期間

損害金額の計算は、

元金✖損害金の金利✖弁済期の翌日から供託日までの期間

です。

昔の債権には日利や月利の記載がありましたが、これらは年利に直さずに、そのまま日歩か月利で計算を行います。

月利とは、借りた元金に対して1か月にかかる利息のことをいいます。

日歩とは、借りた元金に対して1日分にかかる利息のことをいいます。

5.損害金の利率が年利6%に満たない場合

利息と損害金のそれぞれの利率は、通常は登記簿に定められている内容に沿って計算を行います。

しかし、損害金に関しては、登記簿に記載の損害金の利率にて計算した時に、もし年利6%に満たない場合は、損害金の利率を年6%で計算を行い、損害金の金額を算出することになっています。

6.利息や損害金の計算は過去の利息制限法に則って計算する必要があります

過去の債権に関する利息や損害金の計算を行う際、必ず利息制限法が関わってきます。

古い登記簿の場合、利息や損害金の利率が利息制限法に違反していたとしても、登記簿にはそのまま利息制限法に違反した利率で記載されています。

しかし、供託利用の特例による休眠抵当権抹消を行うためには、利息制限法に違反した利率のまま、利息や損害金の計算を行うことはできません。

利息制限法は、時期によって上限の利率が定められているので、利息や損害金の計算を行う場合には、時期によって定められた利息制限法に違反した利率になっていないかを確認します。

もしも利息制限法に違反している場合には、利息制限法に規定されている利率にて利息と損害金の計算を行います。

7.抵当権者が複数名いる場合の供託金額の計算について

抵当権者が共同で相続を受けている場合、債権を複数名で分割することになります。

そのような場合には、供託金額は共同で相続を受けた人ごとに、それぞれの債権額から供託金額を計算することになります。

この方法は面倒と感じるかもしれません。

債権額の合計は一人でも複数名で共同でも、どちらも変わらないから一度に供託金額を計算して供託金額を割り出した方が良いと思う方も多いかと思います。

一人一人計算するのは手間に感じるかもしれません。

しかし、実際には供託金額の計算で、「債権額」「利息」「損害金」を足した合計金額から1円未満の端数は切り上げ・切り下げ計算を行いますので、抵当権を共同で相続した一人一人の債権額から供託金額を算出しないと、誤差が生じて、供託することができなくなってしまいます。

そのため、抵当権者が複数名いる場合の供託金額の計算は、一人一人それぞれの債権額に応じて計算を行う必要があります。

8.最後に

いかがでしたでしょうか。

供託利用の特例の供託金額の計算方法について解説しましたが、供託金額の計算に必要な基本事項は理解できたでしょうか。

この記事ではできる限り簡単にわかりやすく供託金額の計算の基本について解説させていただきました。

休眠抵当権は、明治時代以降の古い不動産登記簿を取り扱いますので、実際は手書きで書かれていて登記簿の内容がよくわからなかったり、計算に必要な情報がどこを探してもなかったり、何の情報なのかがわからないというケースもあります。

私自身の考えとしては、供託利用の特例による休眠抵当権抹消登記申請をなさる場合には、専門の弁護士か、司法書士に依頼して、少しでも申請にかける手間を省き、時間の節約と心理的負担から解放され、本業やプライベートの時間にあてていただくのが一番良いと考えています。

休眠抵当権抹消登記申請の煩わしい作業から解放されて、余った時間を活用していただけると良いかと思います。

休眠抵当権抹消登記申請や、供託金額の計算方法で何かわからないことや、ご相談などございましたら、いつでも弁護士法人ダーウィン法律事務所にお気軽にお問い合わせください。

この記事を監修した弁護士

荒川香遥
  • 弁護士法人 ダーウィン法律事務所 代表弁護士

    荒川 香遥

    ■東京弁護士会
    ■不動産法学会

    相続、不動産、宗教法務に深く精通しております。全国的にも珍しい公正証書遺言の無効判決を獲得するなど、相続案件について豊富な経験を有しております。また、自身も僧籍を有し、宗教法人法務にも精通しておりますので、相続の周辺業務であるお墓に関する問題も専門的に対応可能です。

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