目次
祖父母や親から相続を受けた土地や建物を売却しようと思った時に、古い抵当権(担保権)が現在も残ったままのことがあります。
これは明治時代、大正時代、昭和時代の何十年も前の時からついていて、放置された古い抵当権(担保権)のことで、抵当権を持っている抵当権者(担保権者)が誰なのか?どこにいるのか?借りたお金を完済しているのか?がわからないケースがあります。貸し手や借り手がすでに亡くなっているケースもあり、不動産物件の所有者が借りていたことも知らなかったということも耳にします。
この古い抵当権(担保権)のことを、休眠抵当権(休眠担保権)と言います。
休眠抵当権はたとえば債権額が100円、損害金は日歩が8銭、債権者の住所が昔の町の名前で記載されていることもあります。すでに貸し手や借り手が亡くなっているケースも多いため、当時の状況を知る人がいないので、完済しているのかどうかもわからず、困ってしまったということになってしまいます。
売却したい不動産物件に休眠抵当権がついていると、売却を行うことが難しいか、買いたたかれてしまうことがあります。
不動産物件を売却する際には、原則として、「売主による負担の抹消」を行う義務があり、不動産物件に休眠抵当権がついていると、この抹消を行いませんと売却が難しく、例外的に、抹消の負担無く売買が可能な場合であっても、抹消の負担を買主が負うことになるため、買い叩かれることがあるからです。
したがって、これから売却する不動産物件に抵当権がついている場合、売却する不動産物件についている抵当権等の担保権の抹消を行うことが原則として必要となり、売買の決済が行われるまでにこの抵当権を外すための抵当権抹消登記手続きを行う必要があります。
不動産物件を売却しようと不動産屋に相談しにいったら、「抵当権(担保)がついていて売ることができない」と言われたり、相続手続きの時や遺言書の作成時に不動産登記簿の調査の時に弁護士や司法書士に指摘を受けて初めて気づくケースもあります。
不動産物件に抵当権がついたままですと、本来の不動産市場価値よりも低い価値になってしまいます。
また、休眠抵当権抹消登記の手続きはとても複雑ですので、いざ売却しようと思っても、抵当権抹消登記を行うための十分な時間が取れず、売却のチャンスを逃してしまったりします。
休眠抵当権は本来は抹消されるべきですので、そのままにしてまい時間が経てば経つほど、後々処理が余計に面倒になってしまう可能性があるので、所有している不動産物件の休眠抵当権は、抹消登記を行っておくことが望ましいでしょう。
所有する不動産物件に抵当権がついているかどうかは、法務局で発行される、登記事項証明書を確認することで分かります。 別名不動産登記簿謄本とも言います。
登記事項証明書は登記記録の全てが記録された証明書のことで、 その不動産の状態や権利に関する情報などが載っています。 この登記事項証明書の登記記録を確認することで、その不動産に抵当権が付いているかどうかが分かります。
登記事項証明書は登記所又は法務局証明サービスセンターの窓口での交付請求、郵送による交付請求が利用可能です。
また、ご自宅や会社のパソコンからオンラインによる、登記事項証明書の交付請求を行うことも可能です。
結論、休眠抵当権がついたまま不動産物件が売却されることは基本的にはできません。
「2.休眠抵当権がついているとどうなるの?」に記述した通り、不動産物件を売却する際には必ず「売主による負担の抹消」を行う義務があるからです。
休眠抵当権はかなり古い抵当権で「今も抵当権者が存在するのか?」、「全ての債務を返済し終えているのか?」ということがわからない状況になっていることがほとんどです。
これから不動産物件を購入しようと考えている人がいる場合、休眠抵当権がついたままの不動産物件は普通は購入したくないことでしょう。
休眠抵当権がついている不動産物件の所有者は、不動産物件を売却する際は必ず抵当権抹消登記を行いましょう。
休眠抵当権がずっとついたまま不動産物件を所有していて、もし万が一後から債権者が現れると、返済を求められたり、抵当権を実行されてしまうこともあり得まし、相続が繰り返されることで利害関係人が増え、より抹消までに費用と時間がかかることにもなります。
また、金融機関から融資を受ける時、抵当権がずっとついたままの不動産物件を担保に入れるのでは、担保価値が下がってしまいますし、金融機関からすると、第一抵当権でないと敬遠されたりしますので、融資を受けるのに不利に働いてしまいます。
その他不動産物件の相続時や譲渡時にも、抵当権抹消登記を済ませた状態でなければなりませんので、所有移転を行う直前に焦って煩雑な手続きをしなければならなくなるというデメリットもあります。
本来、抵当権抹消登記は不動産物件所有者と抵当権者との共同申請で行います。
抵当権者に連絡が付けば、通常の方法で共同申請で抵当権を抹消することができます。
しかし、休眠抵当権のある不動産物件では抵当権者と連絡がつかず行方不明であることが多々ありますし、判明したとしても、関係者が多すぎて抹消に必要な書類関係の取り寄せが難しいと思われるケースもあります。
抵当権者を調査して、連絡がつかず行方不明の場合や相続人多数で手続きが難しい場合、不動産物件所有者は単独で休眠抵当権の抹消登記申請を行うことが可能です。その場合、4つの方法があります。
また、本来は不動産物件所有者と抵当権者との共同申請により行われる抵当権抹消登記ですが、不動産物件所有者の単独による休眠抵当権抹消登記申請を行うことができる根拠は、以下の第70条に記載があります。
この第70条により、休眠抵当権抹消登記申請を不動産物件所有者が単独で行うことができるようになっています。単独による登記申請には、必ず抵当権者が行方不明である必要があったりと、細かい条件もあるので、後半でより詳しくご説明いたします。
ここに、第70条の条文を記載しておきます。
単独による休眠抵当権の抹消登記申請方法は下記の4つです。
①弁済証書による抹消方法
②供託による抹消方法
③除権決定による抹消方法
④判決による抹消方法
①弁済証書による抹消方法について
弁済証書とは、完済したという証拠書類を法務局に提出する方法のことを言います。
具体的には債権証書、債権及び最後の2年分の利息その他の定期金の受取証書等、弁済を証明する領収書等を提出し、現在の所有者から抹消登記を申請します。
書類が全て残っている場合、この弁済証書による抹消が最もスムーズで時間も費用もかかりませんので良いのですが、かなり昔の話ですので完済した書類が保管されているということはほとんどありません。
②供託による抹消方法について
債権・利息・遅延損害金の全額を法務局に供託する方法です。
弁済期から20年以上経っていないと、この方法は使えません。
明治・大正時代の抵当権の場合は債権額が金50円や100円であったりと、供託金額が低いのですが、昭和時代の抵当権で高額の場合は、供託金額が何十万円、何百万円もになることがあり、法律的には供託ができたとしても、現実的にはかなり厳しい方法です。
万が一、後から抵当権者が出てきて返済を求められたとしても、法務局に供託した供託金から弁済を受けていただく仕組みになっています。
また、供託による休眠抵当権の抹消には、抵当権者の所在が不明で、行方不明であることも必須の条件となります。
【供託による休眠抵当権抹消のための必要条件】
【1】抵当権者が行方不明であること
【2】弁済期から20年以上経過していること
【3】登記された債権及び利息・損害金の全額を供託すること
行方不明であることの証明については、抵当権者が行方不明であることを証明するための方法は、抵当権者が法人(会社)と個人の場合で異なります。行方不明であることの証明についてはこちらの記事に詳しく記述しましたので、是非こちらをお読みください。
「行方不明であることの証明について」
③除権決定による抹消方法について
抵当権者に名乗り出てもらうよう、裁判所を通じて公示催告の申立を行うことを、除権決定といいます。
徐権決定を受けるためには、抵当権が消滅している必要があります。
抵当権者が名乗り出てこなければ、除権判決(抵当権消滅)を得ることができ、その後現在の不動産物件所有者が単独で休眠抵当権抹消登記の申請を行うことができます。
この方法には数カ月の期間がかかるのが通常です。
④判決による抹消方法について
法務局への供託による抹消方法が困難な時や抵当権者が判明したとしても抵当権抹消登記申請に協力してもらえない時には、判決による抹消を行う必要があります。
抵当権抹消登記手続請求訴訟を起こし勝訴判決を受け、その勝訴判決に基づいて抵当権末梢登記を行うことになります。この場合、抵当権者の相続人を調査して現住所の確認など行うことから調査だけで半年程度かかることも多くあります。
さらに、訴訟を起こし、休眠抵当権の登記の抹消を行うには、さらに、最低数か月かかります。
裁判には必ず時間がかかりますので、余裕をもって手続きを進めていく必要があります。
休眠抵当権の抹消登記の代理申請は弁護士か司法書士に依頼することができます。
その際、弁護士でも司法書士でも、代理で引き受けてくれる手続き内容は全く変わりません。
依頼できる内容は以下の通りです。
■相談と最適な形での申請を提案してもらう
■抵当権の調査と申請書類の作成代行
■相続人の調査、戸籍謄本等の取寄せ請求、及び、現住所の確認作業
■登記申請業務
■裁判提起(抵当権抹消裁判)
休眠抵当権抹消登記申請は、全ての作業を一括で弁護士か司法書士に依頼するケースがほとんどです。
また、弁護士でも司法書士でも、基本的には休眠抵当権抹消登記申請の手続きや調査作業など、内容は全く変わりませんが、司法書士に依頼する場合は注意が必要です。
司法書士の場合、裁判での請求金額が、140万円までの紛争は弁護士と同様に代理人として活動できます。
簡易裁判所での訴訟活動に関しても訴訟代理人になることができますが、140万円以上の紛争に関しては弁護士が対応する必要があります。
この140万円についての考え方は、抵当権(根抵当権)では、その登記されている金額(債権額、極度額)、所有権に関する仮登記では、固定資産税評価額の2分の1になります。具体的な計算はご相談くださいませ。
このあたり、気になる方はダーウィン法律事務所にご連絡いただければ、詳しくご説明いたします。
いかがでしたでしょうか。
この記事では、休眠抵当権の抹消登記の基本的なこと関してご説明させていただきました。
その他の記事では手続き等、より具体的な説明をさせていただきます。
是非併せてご一読ください。
まずお電話で相談希望を受付後、担当スタッフ、弁護士から折り返しいたします。
立場を明確にしていただく必要がありますので、ご連絡時、下記情報お伝えください