【休眠抵当権抹消】除権決定による抹消について

1.除権決定による抹消とは

抵当権者が行方不明で連絡が取れず、共同申請による抵当権抹消の登記申請ができない場合に、抵当権者に名乗り出てもらうよう、裁判所を通じて公示催告の申立を行います。

裁判所を通じて公示催告の申立を行い、その結果抵当権者が名乗りでてこない場合には、休眠抵当権のついている不動産物件の持ち主である、登記権利者が単独による抵当権の抹消登記申請を行うことができるようになります。

これを除権決定と言います。

除権決定による休眠抵当権の抹消登記申請は、抵当権者が行方不明である場合に使われる抹消方法です。

この除権決定が利用できる重要な条件として、必ず抵当権の権利が消滅していることを証明しなければなりません。

この方法は、不動産登記法第70条第1項と第2項に定められていて、登記権利者が単独による休眠抵当権の抹消登記申請ができるようにする特例となっています。

不動産登記法第70条第1項と第2項

第70条
1 登記権利者は、登記義務者の所在が知れないため登記義務者と共同して権利に関する登記の抹消を申請することができないときは、非訟事件手続法(平成二十三年法律第五十一号)第九十九条に規定する公示催告の申立てをすることができる。
2 前項の場合において、非訟事件手続法第百六条第一項に規定する除権決定があったときは、第六十条の規定にかかわらず、当該登記権利者は、単独で前項の登記の抹消を申請することができる。

引用元:e-GOV法令検索

このように、不動産登記法第70条第1項と第2項の特例によって、休眠抵当権の所有者である登記義務者が行方不明で、かつ権利が消滅していることを証明することができる場合には、公示催告による申立を行い、除権決定を得て、登記権利者である不動産物件所有者が単独による抵当権の抹消登記申請を行うことができます。

公示催告の申立を行い除権決定を得るためには、実態の権利が消滅していることを証明し、完全に弁済(返済)したことを証明する書類を揃える必要がありますが、休眠抵当権はとても古い時代に設定された抵当権です。

とても古い時代に設定された抵当権のため、そもそも書類が残っていないことが多く、弁済したことを証明することが難しく、公示催告の申立により除権決定を受けること自体ができないため、実際にはあまり使われていない特例となります。

また、この方法には通常、数カ月から半年の期間がかかります。

2.除権決定を受けることができる条件とは

公示催告の申立を行い、除権決定を得るためには、以下の4つの条件を全て満たしている必要があります。

①抵当権の抹消登記申請を行う対象の不動産物件の登記の権利者であること

公示催告の申立を行い、徐権決定を受けることができるのは、必ず抵当権の抹消登記申請を行う対象の不動産物件の登記の権利者であることが必要です。

例えば、公示催告の申立を行うためには、相続を受ける予定の不動産物件などに関しては、先にその不動産物件の登記の権利者となる手続を行う必要があります。

②実態法上、抵当権の権利が完全に消滅していること

公示催告の申立を行うためには、抵当権の権利が完全に消滅していることが必須です。

実態法上という言葉がでてきましたが、法律的に抵当権の権利が完全に消滅している必要があるということです。

法律的に抵当権の権利が完全に消滅している状態とは、例えば、ローンを全て返済し終わっている状態であったり、抵当権の登記義務者がその登記設定を解除しているなどの状態のことを指します。

休眠抵当権はかなり古い抵当権ですので、時効になっていて、返済しなくても良いということもありますが、その場合は実態法上では抵当権の権利が消滅している状態ではありませんので、公示催告の申立を行うことができません。

その場合は、抵当権の登記義務者に対し、時効のため返済を行わないという旨の通知を行うことで、実態法上の抵当権の権利を完全に消滅させることが可能です。

③抵当権の登記義務者が行方不明であること

抵当権の登記義務者が行方不明というのは、抵当権(担保権)の登記の名義人がどこにいるのかという現在の所在も、すでに亡くなっているかどうかの死亡の有無も、全くわからず不明な場合を指します。

抵当権の登記義務者の行方不明の種類には2つあります。

1つは自然人(個人)の行方不明、もう1つは法人の行方不明です。

行方不明については「【休眠抵当権抹消】行方不明であることの証明とは?」にて解説しておりますので、あわせてご確認ください。

④抵当権の抹消登記申請であること

公示催告の申立を行うためには、抵当権の抹消登記申請である必要があります。

設定登記や変更登記など、その他の登記には、公示催告の申立ができません。

3.除権決定による抹消登記申請の手順

除権決定による抹消登記申請の手順は、条件の確認、公示催告の申立と手続開始、最後に除権決定してから官報の公告という流れとなります。

①条件が満たされているかどうかの確認

除権決定による休眠抵当権の抹消は、実態法上、抵当権の権利が完全に消滅していることを証明することが難しいため、ほとんど使われることはありません。

公示催告の申立を行う前に、まずはそもそも条件を満たしているかどうかを確認する必要があります。

公示催告の申立を行うための条件を満たしているかどうかは、前章の「2.除権決定を受けることができる条件とは」を参考にしてください。

②書類準備

抵当権の権利が完全に消滅していることを証明する書類、抵当権の登記義務者が行方不明であることを証明する書類、公示催告申立書などを準備していきます。

③裁判所に対し、公示催告の申立を行う

公示催告の申立は、簡易裁判所に対して行います。

④公示催告手続の開始

公示催告手続を進めていく上で、まず書類などの審査があります。

審査の結果、追加の提出書類や書類の内容の修正など、再提出を求められることがあります。

審査後、修正や追加書類なども対応し、全て問題がないことが確認された後、官報に公告が掲載されます。

⑤公示催告決定の告知

無事審査が完了しましたら、官報公告掲載料金の納付を確認した上で、公示催告手続開始の決定及び、公示催告決定が下されます。

公示催告決定に関しては、申立人にその旨を記載した通知書が届きます。

⑥公示催告の公告

抵当権の権利義務者が、裁判所が指定する申述の終期(期限)までに申し出を行わなければ、その抵当権の権利を無効とするという旨を、官報に公告を掲載します。

官報への公告は、公示催告が決定してから2週間から1か月程度後に、官報に公示催告決定が掲載されます。

公示催告は官報に公告を2回掲載します。

1回目は公示催告決定時で、2回目は除権決定時です。

⑦権利の届出期限(終期)

公示催告決定の内容を、官報に公告として、掲載された日から終期(期限)まで掲載し続けます。

公示催告決定の官報への公告掲載は少なくとも掲載された日から数えて2か月の期間が必要です。

東京簡易裁判所では、諸事情を考慮した上で、公示催告決定から終期までの期間を約4か月半に設定しています。

⑧除権決定

公示催告決定の官報への公告掲載を、簡易裁判所にて定められた期間行い、終期までに抵当権の権利義務者から申し出がない場合には、除権決定がされます。

公示催告の申立人に除権決定の正本が送付されます。

この除権決定の結果、申立人は権利義務者に対して、権利を行使することができるようになります。

⑨官報の公告

裁判所が除権決定をしてから、2週間から1か月くらい後に、官報に除権決定した旨の公告が掲載されます。

⑩公示催告・除権決定

除権決定の旨が官報に掲載後、即時抗告という不服の申立がなければ、除権決定が確定します。

参考:裁判所のウェブサイト「公示催告手続の流れ

これらの手続は全体で約半年程度かかってきます。

4.まとめ

いかがでしたでしょうか。

公示催告による除権決定を活用した休眠抵当権の抹消登記申請は、実際はほとんど使われていませんが、条件が揃えば活用することができます。

休眠抵当権がついている不動産物件をもたれている方は、まずはその休眠抵当権がどのような状況で、書類が存在しているかどうか、権利義務者は行方不明かどうかなどを調べてみましょう。

休眠抵当権の抹消登記申請の方法には様々な種類がありますので、その休眠抵当権の状況に合わせて、抹消方法を選んでいきましょう。

休眠抵当権のパターンと、それぞれの休眠抵当権抹消の対応方法については、「休眠抵当権の確認と抵当権抹消の対応方法について」にて解説していますので、あわせてご覧ください。

また、ダーウィン法律事務所は休眠抵当権の抹消登記申請を専門的に取り扱っています。

休眠抵当権の抹消登記申請でお悩みの方がいらっしゃいましたら、まずはダーウィン法律事務所までお気軽にご連絡ください。

この記事を監修した弁護士

荒川香遥
  • 弁護士法人 ダーウィン法律事務所 代表弁護士

    荒川 香遥

    ■東京弁護士会
    ■不動産法学会

    相続、不動産、宗教法務に深く精通しております。全国的にも珍しい公正証書遺言の無効判決を獲得するなど、相続案件について豊富な経験を有しております。また、自身も僧籍を有し、宗教法人法務にも精通しておりますので、相続の周辺業務であるお墓に関する問題も専門的に対応可能です。

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