【休眠抵当権抹消】行方不明であることの証明とは?

1.行方不明(所在不明)の概念について

休眠抵当権抹消を行う際に出てくる代表的な問題の1つが、不動産物件の抵当権者が行方不明の場合の休眠抵当権抹消登記申請についてです。

通常は抵当権抹消登記は不動産物件所有者と抵当権者との共同申請で行います。

しかし、不動産物件の抵当権者が行方不明の場合は、共同申請で抵当権抹消登記を行うことができません。

行方不明とは、所在不明とも言いますが、休眠抵当権の抹消手続きに関する不動産登記法第70条に定められている概念です。

抵当権者が行方不明の場合に利用できる特例が、この不動産登記法第70条の条文によって定められています。

抵当権者(担保権者)が行方不明かどうかというのは、この不動産登記法第70条に当てはまる行方不明かどうかで判断をしますが、自然人か法人かで、行方不明の判断基準が異なります。

今回の記事では、休眠抵当権の抵当権者が行方不明だった場合の、抵当権者が自然人の場合と法人の場合それぞれの判断基準と調査方法について説明していきます。

また、この特例によって、弁済証書による抹消方法、供託による抹消方法、除権決定による抹消方法という抵当権抹消登記申請の方法も選択できるようになっています。

休眠抵当権のパターンと、それぞれの休眠抵当権抹消の対応方法については「休眠抵当権の確認と抵当権抹消の対応方法について」に記述したので、あわせてご確認ください。

2.抵当権者が自然人の場合の行方不明の判断基準について

自然人とは、簡単に言うと、法人ではなく個人のことだと理解してください。

自然人の場合の行方不明(所在不明)とは、抵当権(担保権)の登記の名義人がどこにいるのかという現在の所在も、すでに亡くなっているかどうかの死亡の有無も、全くわからず不明な場合を指します。

また、抵当権者の相続関係が不明である場合には、相続人がたとえ判明していたとしても、その相続人が行方不明だった場合には、不動産登記法第70条に定められている行方不明の概念に当てはまります。

相続人全員か、相続人のうち1人でも、行方不明だった場合には、共同申請によって休眠抵当権の抹消登記申請ができないためです。

自然人の場合の行方不明について、所在がわからず、死亡の有無も不明とは、どのようなことを指すのか、もう少し詳しく説明したいと思います。

条文には、「第70条 1 登記権利者は、登記義務者の所在が知れないため…」と記載がありますが、登記権利者が登記義務者の所在が知れないというのは、単に登記権利者が登記義務者の所在を知らないというだけでは、所在が知れないということにはなりません。

抵当権者が自然人の場合の行方不明というのは、戸籍簿や住民票の調査や、国や役場など地方公共団体へしっかりと聞き込み調査を行い、かなりの捜索手段を行ったうえで、それでも行方が不明であることを言います。

ただし、登記義務者が現実的に考えて、死亡している可能性が極めて高い場合には、登記義務者が登記簿上の住所に居住していないことを証明する書類の添付があれば、相続人を確認する必要がないという、法務省の具体的な見解もあります。

また、抹消したい休眠抵当権が設定された受付年月日、債権契約、設定契約の年月日等から考えても、登記義務者の年齢がかなり高齢で、現実的に考えて、死亡している可能性が極めて高い場合にも、供託利用の特例による休眠抵当権抹消登記申請を行うことができます。

3.抵当権者が自然人の場合の行方不明の調査方法について

抵当権者が自然人の場合の行方不明というのは、しっかりと調査を行い、かなりの捜索手段を行ったうえで、それでも行方が不明であることを言うとご説明しましたが、これまでの裁判所の事例や見解を見る限り、実際にはどこまで調査や捜索を行えば良いのかなど、曖昧な部分も多いというイメージです。

そのためこの記事では、ここまでやればほとんどの場合大丈夫という、抵当権者が自然人の場合の行方不明の調査方法で代表的なものをご紹介いたします。

①市区町村の役場での調査

まず、自然人の抵当権者が行方不明かどうかで確実に調査を行うことになるのは該当の市区町村の役場への調査です。

役場では、不在住証明書を請求します。不在住証明書とは、現時点で証明書の住所に住民票がないことを証明するもので、この証明書によって、少なくとも抵当権者がそこには住んでおらず、役場からは行方がわからないということを証明することができます。

②民生委員への調査依頼

民生委員とは、民生委員法に基づいて、厚生労働大臣からの委嘱を受けて活動を行っているボランティアの組織です。

抵当権者の行方不明について、民生委員に依頼し、該当する住所に抵当権者が居住しているかどうかを調査してもらい、抵当権者が該当する住所に居住していないという証明書を発行してもらうことができます。

ただし、あくまで民生委員は、福祉の調査など取り扱い業務が限られておりますので、行方不明者の情報の調査という利用目的では調査を断られる場合もありますので、まずは、お近くの自治体に相談してみることが必要です。

③警察署への調査依頼

もし、警察署に対して「行方不明者届出」(昔は「捜索願」と表記しました)が提出されているケースもありますので、警察署へ出向き、この行方不明者届出が提出されていないか、確認することも調査として行うことがあります。

④受領催告書を送り、宛先不明で返って来たものを添付する

受領催告書とは、債権者に対し、債務者がこれから債権を返済しますという意思表示を債権者に対して行うための書類のことです。

休眠抵当権に関しては、抵当権者が行方不明かどうかを証明するために、この受領催告書を抵当権者の該当する住所に送付し、宛先不明で郵便局から返ってきたものを、そのまま行方不明の証拠書類として提出することができます。

ただし、弁済の意思を示すことにもなりますので、債権額が多い場合には、慎重な判断を要しますので、必ず行うものではないため、きちんと専門家へのご相談が必要です。

⑤現地の近隣住民への聞き込み調査

休眠抵当権で抵当権者が行方不明かどうかを証明する方法として、現地の聞き込み調査を行うという方法があります。

休眠抵当権はかなり昔に設定された抵当権ですので、行方不明者を探索する時に該当する住所に行ってみたり、聞き込み調査までは行わないケースもあります。

調査内容としては、該当する住所に抵当権者の自宅が存在するかどうかの確認や、近隣住民に対し聞き込み調査を行い、抵当権者の行方について確認したりします。

4.抵当権者が法人の場合の行方不明の判断基準について

抵当権者が法人の場合の法人の行方不明の判断基準は、自然人の行方不明の判断基準と比べると、とてもシンプルです。

法人の場合は、まず登記簿の記載がなく、閉鎖登記簿がすでに廃棄されていれば、行方不明ということになります。

法人の登記が今も廃棄されずに存在している場合、例えその法人がすでに清算がされていて、実態がなかったとしても、行方不明の法人とはなりません。

法人の解散が行われ、清算が完了して、完全に法人がなくなる状態になったことを清算結了と言います。

法人が清算結了すると、登記簿謄本は閉鎖登記簿という扱いになり、閉鎖した日から20年間は保存されます。

閉鎖した日から20年の保存期間が経つと、閉鎖登記簿は登記記録を廃棄しても良いということになっています。

しかし、法的には20年の保存期間を経た閉鎖登記簿は廃棄処分しても良いのですが、廃棄されずに戦前から閉鎖登記簿の登記記録が残ってしまっているケースがあります。

20年以上経過した閉鎖登記簿だったとしても、閉鎖登記簿の登記記録が残ってしまっていると、その法人については行方不明とはなりません。

そのため、閉鎖登記簿の登記記録が残ってしまっている法人が抵当権者だった場合には、供託利用による休眠抵当権の抹消登記申請を行うことができませんので、注意が必要となります。

また、法人の行方不明に関しては、その会社の代表者が行方不明かどうかについては関係ありませんので、法人の行方不明の判断基準にはなりません。

5.抵当権者が法人の場合の行方不明の調査方法について

まず、法人の場合の行方不明について調査する場合、大きく分けて次の3点の調査を行います。

①登記事項証明書・閉鎖登記簿を調査

②代表者の調査

③現地の調査

①登記事項証明書・閉鎖登記簿を調査

登記事項証明書と閉鎖登記簿は管轄の法務局にて請求を行います。

それぞれの登記事項証明申請書に、該当する法人が存在しない、見つからないという旨が記載されて戻ってきた場合、この書類を法人の行方不明の証明書類として使用します。

発行の請求を出す登記事項証明書・閉鎖登記簿に記載の本店所在地がすでにない地名や区画になっている場合、現在の住所を登記事項証明申請書に記載し、それぞれの書類を請求します。

その際は住宅地図などの写しも取得しておきます。

②代表者の調査

抵当権設定の契約書類から、抵当権者である法人の代表の情報がわかる場合は、代表者に関しても調査を行います。

まず代表者の不在住証明書を取得します。

代表者の住所がすでにない地名や区画になっている場合、現在の住所の不在住証明書を取得します。

また、代表者の住所にて、現地調査を行い、住所地の写真や代表者に関する情報を、近隣住民に聞き取りなども行います。

③現地の調査

法人があったとされる本店所在地の住所の撮影を行います。その時にその法人名が記載されたものが周辺にないかどうか調査を行います。

建物があれば建物の写真を撮影し、近隣住民から法人に関する聞き込み調査も合わせて行います。

この記事を監修した弁護士

荒川香遥
  • 弁護士法人 ダーウィン法律事務所 代表弁護士

    荒川 香遥

    ■東京弁護士会
    ■不動産法学会

    相続、不動産、宗教法務に深く精通しております。全国的にも珍しい公正証書遺言の無効判決を獲得するなど、相続案件について豊富な経験を有しております。また、自身も僧籍を有し、宗教法人法務にも精通しておりますので、相続の周辺業務であるお墓に関する問題も専門的に対応可能です。

    所属弁護士・事務所詳細はこちら