建物の朽廃とは?借地権の消滅理由である建物の朽廃について解説

借地借家法は、平成4年8月1日に施行されましたが、それよりも前に成立した借地権については、旧借地法が適用されます。旧借地法の適用のある借地契約においては、借地上の建物が朽廃した場合には、その時点で借地権が消滅してしまいます。そのため、地主からは、建物の朽廃による借地権消滅を理由として、建物収去土地明け渡し請求がなされることもあります。では、どのような場合に建物が「朽廃」しているといえるのでしょうか。

今回は、旧借地法での借地権の消滅理由である建物の朽廃についてわかりやすく解説します。

1、借地契約の存続期間

借地契約の存続期間はどのように定められているのでしょうか。

(1)借地借家法における普通借地権の存続期間

普通借地権とは、定期借地権以外の借地権であり、契約の更新が可能なものをいいます。借地借家法では、普通借地権の存続期間を一律で30年としていますが、当事者が契約により30年以上の期間を定めた場合には、その期間が普通借地権の存続期間となります。

また、更新後の普通借地権の存続期間は、最初の更新であるか、2回目以降の更新であるかによって更新後の存続期間が異なっています。
・最初の更新……20年(当事者がこれよりも長い期間を定めた場合はその期間)
・2回目以降の更新……10年(当事者がこれよりも長い期間を定めた場合はその期間)

(2)旧借地法での普通借地権存続期間

旧借地法では、堅固な建物(鉄筋コンクリート造の建物など)であるか、非堅固な建物(木造の建物など)であるかによって、普通借地権の存続期間が異なっています。

堅固な建物の存続期間は30年、非堅固な建物の存続期間は20年とされており、これよりも短い期間を定めたものまたは契約期間の定めのないものについては、堅固な建物の存続期間は60年、非堅固な建物の存続期間は30年とされています。

また、更新後の存続期間は、借地借家法のように初回と2回目以降の更新で区別されておらず、更新後の存続期間は当初の存続期間と同様とされています。

2、借地上の建物の朽廃により借地権は消滅する

旧借地法が適用される借地契約においては、借地上の建物の朽廃が借地権の消滅理由とされています。以下では、旧借地法における建物の朽廃について説明します。

(1)建物の朽廃とは

借地契約は、上記のように長期間の存続期間が定められており、正当な理由なく地主は契約の更新を拒否することができませんので、借地人が希望する限り、借地契約は半永久的に続くことになります。そのため、地主は、借地を取り戻したいと思っても、非常に難しいのが現状です。

しかし、旧借地法が適用される借地契約で存続期間の定めがない場合においては、建物の朽廃により借地契約が終了すると定められています(旧借地法2条1項)。そのため、長期間の借地契約により借地上の建物が朽廃しているといえる場合には、地主から建物の朽廃を理由に借地契約の終了を主張される可能性がありますので注意が必要です。

(2)建物の朽廃の判断基準

朽廃とは、自然に生じた腐食損傷などにより、建物としての利用に耐えず、建物としての社会経済上の効果効用を喪失した状態を指す言葉です。判例では、朽廃とは、建物が自然の経過に伴い腐朽頽廃し、全体として観察した場合に建物としての社会的経済的効用を失った場合をいうとされています(大審院昭和9年10月15日判決)。そして、朽廃の有無は、建物を全体的に観察し、特に柱、桁、梁、基礎、土台などの構造部分に腐朽損傷があるかどうかなどを中心に、建物保全のための通常の修繕によっては存続が不可能になっていないかどうかを検討して判断することになります。

①朽廃を肯定した裁判例

【東京地裁平成12年6月29日判決】
建築後60年が経過し、雨漏りが10年間放置されたため、主要構造部分に相当程度の腐食が認められ居住できるような状態でなかった

【東京地裁平成2年9月27日判決】
壁も床面もなく、屋根も雨を凌げる状態ではなく、建物全体が傾いていて、一見して人が居住できる状態ではなかった

【東京高裁平成5年8月23日判決】
建築後40年が経過した無人の建物であり、基礎など建物の構造部分にほぼ全面的な補修をしなければならず、新築同様の費用が必要になるような状態だった

【東京高裁昭和52年8月29日判決】
建築後約30年経過し、約10年間無人の状態であったバラック建物であり、修理には新築に近い改造が必要であり、柱などの建物の骨格部分もそのまま使用できないような状態だった

②朽廃を否定した裁判例

【東京地裁令和2年1月31日判決】
昭和38年5月に建築された木造3階建ての建物で、6年間使用されておらず、基礎や土台は著しく劣化・腐朽が認められるものの、一部露出したコンクリート壁に大きな劣化はなく建物の利用価値が皆無であるとまではいえない

【東京地裁令和2年1月17日判決】
築後56~61年が経過した木造建物であり、柱や床に少なからず傾斜が認められるものの、目視できる限りでは建物倒壊に至るような大きな損傷などは確認できない

【東京地裁平成30年4月25日判決】
建物は老朽化しており、雨漏り、屋根や窓ガラスの一部損傷などが認められるものの、自力によって屋根を支え、独立して地上に存在しており、現在も賃借人が居住している

【東京地裁平成26年12月12日判決】
建築後約60年の建物で、雨漏りが続いており屋根瓦に損傷などがあるものの、骨格部分における腐食、損傷はそれほど大きなものではない

(3)建物が滅失しても借地権は消滅しない

旧借地法では、建物の「朽廃」と「滅失」を区別しており、建物の滅失に関しては借地権の消滅理由とはされていません。

建物の朽廃は、時の経過により自然に建物の効用が失われる場合をいい、建物の滅失は、建物が物理的に消滅する場合をいいます。火災や地震などにより建物が失われたとしても、借地権が消滅することはありませんので区別して理解しておくようにしましょう。この場合には、借地人は、建物を再建築することができ、地主は借地人に承諾料を請求することができます。

3、借地人が大修繕を行った場合の朽廃の認定時期

借地人が借地上の建物について大修繕を行った結果、建物の朽廃時期が延びることがあります。このような場合、建物朽廃による借地権の消滅にはどのような影響があるのでしょうか。

(1)地主の承諾があった場合

地主が借地人による建物の大修繕を承諾していた場合または異議を述べなかった場合には、建物の大修繕による朽廃時期の先送りを認めていたといえます。そのため、このような場合には、地主は、建物が修繕されなかった場合における建物の朽廃すべき時期における借地権消滅の効果を主張することは認められません。

(2)地主の承諾がなかった場合

借地人による建物の大修繕が地主に無断で行われ、地主がこれに反対していた場合には、地主は、建物の朽廃時期の先送りを認めていたとはいえません。なぜなら、このような場合にまで朽廃時期の先送りを認めてしまうと、借地人は大修繕を強行することで、容易に建物の朽廃による借地権消滅を回避することができてしまうからです。

そのため、このようなケースでは、大修繕が行われていなかったのであれば当該建物が朽廃したであろう時期をもって借地権が消滅すると考えられています。

4、建物の朽廃と借地権譲渡許可の関係

建物が朽廃しているような状態で借地権の譲渡をする場合には、どのような影響があるのでしょうか。

(1)借地上の建物譲渡にあたっては地主の承諾が必要

借地人は、借地上の建物を第三者に譲渡することにより投下資本の回収を図ることができます。しかし、地主にとっては、身元の分からない第三者が借地人になることにより、不利益を被るおそれがあることから、借地上の建物の譲渡にあたっては、地主の承諾が必要になります。

そのため、まずは、地主との間で協議を行い、借地上の建物譲渡に関して承諾をしてもらえるよう交渉していきましょう。

(2)地主の承諾が得られないときは承諾に代わる許可の申立

地主が借地上の建物譲渡に承諾をしてくれない場合には、借地人は、裁判所に借地非訟の申立てを行い、地主の承諾に代わる裁判所の許可を求めることができます。裁判所は、地主が不利になるおそれがないと認められる場合には、地主の許可がなかったとしても代わりに許可を与えることが可能です。

なお、裁判所が地主の承諾に代わる許可の裁判をするにあたっては、承諾料の支払いも一緒に定められるのが通常です。

(3)建物が朽廃に近い状態での裁判所の判断

借地上の建物が朽廃に近い状態にある場合、裁判所による許可が得られたとしても、その後、短期間で建物が朽廃し、借地権が消滅する可能性があります。また、建物を譲り受けた人は、朽廃による借地権消滅を阻止するために、大修繕を行おうとしますが、朽廃が間近である場合、地主や裁判所は増改築の許可に消極的であるのが通常です。

そのため、借地上の建物の譲渡が認められたとしても、実際には短期間の利用しかできないという状況に陥ることになります。そのため、借地上の建物が朽廃に近い状態である場合には、裁判所が地主の承諾に代わる許可をしない可能性があります。つまり、建物が朽廃状態であるかどうかは、地主の承諾に代わる許可を求める裁判においても、考慮されるということです。

5、まとめ

旧借地法の適用のある借地契約においては、建物の朽廃が借地権の消滅事由とされています。しかし、実際の裁判例を踏まえると建物の朽廃が認められるケースは多くなく、建物がいまだ使用できる状態であれば朽廃に至らないと判断されています。そのため、地主から朽廃を理由に土地の返還を求められたとしても、しっかりと争っていくことが大切です。それには弁護士のサポートが必要になりますので、まずは弁護士に相談するようにしましょう。

ダーウィン法律事務所では、借地などの不動産案件の取り扱いに力を入れています。不動産に関するトラブルでお困りの方は、当事務所までお気軽にご相談ください。

この記事を監修した弁護士

荒川香遥
  • 弁護士法人 ダーウィン法律事務所 代表弁護士

    荒川 香遥

    ■東京弁護士会
    ■不動産法学会

    相続、不動産、宗教法務に深く精通しております。全国的にも珍しい公正証書遺言の無効判決を獲得するなど、相続案件について豊富な経験を有しております。また、自身も僧籍を有し、宗教法人法務にも精通しておりますので、相続の周辺業務であるお墓に関する問題も専門的に対応可能です。

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