複数人で不動産を共有していると、共有物の利用や管理をめぐって共有者同士で意見の衝突が起き、共有不動産のトラブルが生じてしまいます。このような共有不動産のトラブルを回避するには、できる限り早めに共有状態を解消することが大切です。
今回は、共有不動産でトラブルが生じやすい理由と実際のトラブルの事例について、わかりやすく解説します。
目次
共有不動産では、主に以下のような原因でトラブルが生じます。
共有者は、それぞれ共有物全体を利用する権利があります。しかし、共有不動産は、物理的に分割することができませんので、同じ建物で共有者が生活する場合を除いて、誰が当該建物に居住するかを決めなければなりません。
共有者それぞれが共有不動産の利用を希望する場合には、意見がまとまらずに共有不動産が利用できずに放置されるおそれがあります。また、共有者の一人が勝手に利用を開始してしまうと、他の共有者から不満が出てくる可能性もあります。
最初は、兄弟や親子間の共有であったとしても、その後、相続が開始して世代交代が進んでいくと、面識のない人同士が共有者になることがあります。
お互いに顔が見える関係であれば、共有状態であっても共有不動産の処分や管理がしやすいですが、誰が共有者であるかわからない状態になると、共有不動産の処分や管理に支障が出てきてしまいます。世代交代が進めば進むほど関係性は複雑になりますので、早めに共有状態を解消する必要があります。
共有不動産から発生する固定資産税などの管理費用は、共有者の共有持分に応じて負担するのが原則です。
しかし、市区町村役場からの納税通知書は、共有者のうち代表者1人に届きますので、代表者が代わりに納税を行わなければなりません。代表者が支払った税金などは他の共有者に請求することができますが、支払いを拒む共有者がいるとトラブルの原因となります。
共有者の1人が共有不動産を独占的に利用している場合に、共有不動産の明け渡しを求めることはできるのでしょうか。以下では、最高裁昭和41年5月19日判決を紹介します。
Aは土地および建物を所有し、当初は、A夫婦と二男のY夫婦で同居していました。しかし、A夫婦は、転居することになったため、AとYとの間では、月2万円の仕送りをすることを条件に引き続き居住することが認められました。
しかし、Yは、数か月の仕送りをしただけでその後の支払いを滞るようになり、Aは、Yに対して、本件土地および建物の明け渡しを求めて訴えを提起しました。
なお、この訴訟の係属中にAが死亡したため、Aの妻X1、Aの子どもX2、X3とYが共同相続人になり、本件不動産を共有するに至りました。
共同相続に基づく共有者の一人であって、その持分の価格が共有物の価格の過半数に満たない者(少数持分権者)は、他の共有者の協議を経ないで当然に共有物を単独で占有する権原を有するものではない。
しかし、他のすべての相続人らがその共有持分を合計するとその価格が共有物の価格の過半数を超えるからといって(多数持分権者)、共有物を現に占有する少数持分権者に対し、当然にその明け渡しを請求することができるものではない。なぜなら少数持分権者は、自己の持分より、共有物を使用収益する権限を有し、これに基づいて共有物を占有するものと認められるからである。
上記の判例は、共有者には、自己の持分により共有物を使用収益する権限があるため、他の共有者は、当然には共有物の明け渡し請求ができないと判断しています。
ここで注意が必要なのは、「当然には」明け渡し請求ができないという点です。つまり、明け渡しを求める正当な理由があれば、共有者から他の共有者への明け渡し請求が認められます。たとえば、遺産共有のケースでは、具体的な使用方法を遺産分割協議で定めたのであれば、そのような合意を主張立証すれば、明け渡しが認められる可能性もあります。
別居中の夫が妻と子どもの住む共有建物の共有物分割請求をすることはできるのでしょうか。以下では、東京地裁令和3年3月9日判決を紹介します。
XとYは、夫婦であり、XY間には長男Aがいました。XとYは、住居として使用するマンションを共有しており、持分は、Xが73分の64、Yが73分の6、Z(Yの父親)が73分の3でした。
その後XとYは、裁判により離婚が成立し、Xは本件マンションを出て単独で生活を始めました。マンションには、離婚したYと引きこもりのAが住んでいました。
離婚後、Yから財産分与の申立てがあり、これに対して、Xは、YおよびZを被告として、共有物分割の訴えを提起しました。
夫婦共有財産の清算について共有物分割請求訴訟を提起すること自体は許容されるものの、それが権利の濫用にあたるか否かは別途検討する必要があるとし、権利濫用にあたるか否かは、以下の要素を考慮して判断するのが相当であるとしました。
・共有関係の目的、性質
・共有者間の身分関係、権利義務関係
・共有物分割権の行使により行使者が受ける利益と行使されたものが受ける不利益
・共有物分割を求めるものの意図とこれを拒む者の意図
そして、本件では、以下のような理由からXによる共有物分割請求は権利の濫用にあたり認められないと判断されました。
・夫婦の共有関係の清算については、本来であれば財産分与の対象
・共有物分割請求が認められなかったとしてもXには特段不利益は生じない
・YがAの扶養に加えて転居に伴う金銭的負担を負うことになる不利益は大きい
共有状態を解消する手段として利用されるのが共有物分割請求です。共有物分割請求は、共有者の権利として認められていますが、権利の濫用は許されません。
夫婦の共有財産についても共有物分割請求は可能であり、夫婦の共有だからという理由だけでは共有物分割請求は否定されません。しかし、共有物分割請求により生じる利益と不利益という客観的事情と当事者意図という主観的事情を考慮して、権利の濫用と認められる場合には、共有物分割請求をすることはできません。
遺産共有と通常の共有が併存する場合、どのような方法で不動産の共有状態を解消すればよいのでしょうか。以下では、最高裁平成25年11月29日判決を紹介します。
X1、Z、Aは、本件土地を共有していました。その後、Aが亡くなり、Aの相続人であるX1、X2、Y1、Y2がAの共有持分を相続し、4人による遺産共有の状態となりました。
X1、X2、Zは、Y1とY2との間で土地の分割に関する協議がまとまらないため、共有物分割請求訴訟を提起しました。
なお、X1、X2、Zは、Aの共有持分をZが取得し、ZがAの共同相続人に対して価格賠償する方法による分割を希望していました。
裁判所は、共有物について、遺産分割前の遺産共有の状態にある共有持分(遺産共有持分)と他の共有持分とが併存する場合、共有者が遺産共有持分と他の共有持分との間の共有関係の解消を求める方法として裁判上採るべき手続きは、民法258条に基づく共有物分割請求訴訟であると判断しました。
また、共有物分割の判決により遺産共有持分権者に分与された財産は、遺産分割の対象になり、この財産の解消については、民法907条に基づく遺産分割によるべきであると判断しました。
本件では、共有物分割請求によることが認められ、ZがAの共同相続人に対して価格賠償を行い、本件土地は、X1とZとの共有となりました。
共有関係を解消するための手続きには、遺産共有に関する遺産分割手続きと通常の共有に関する共有物分割手続きの2つがあります。上記判例は、遺産共有と通常の共有が併存する場合の共有関係の解消方法を明らかにしたものですので、今後は、上記判例に従った取り扱いがなされていくものと考えられます。
なお、上記判例を前提としても、遺産共有となっている共有持分について遺産分割を行った後に共有物分割手続きを行うという手順でも共有関係を解消することも可能です。
共有不動産では、共有者同士の利害の衝突が生じることでさまざまなトラブルが生じます。そのようなトラブルを回避するためにも早めに共有状態の解消に向けて動くようにしましょう。
ただし、共有状態を解消する際には、権利の濫用にあたらないようにしなければならないなどいくつか注意すべきポイントがあります。適切に権利を行使するためにも、まずは弁護士に相談するのがおすすめです。
ダーウィン法律事務所では、共有不動産の取り扱いに力を入れています。共有不動産についてお悩みがある方は、当事務所までお気軽にご相談ください。
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