不動産の共有者に相続人がいない場合は誰に共有持分が帰属するの?

共有者が死亡した場合、共有者の持分は、相続財産となりますので共有者の相続人に引き継がれることになります。では、亡くなった共有者に相続人がいない場合には、共有者の持分はどのようになるのでしょうか。

今回は、共有不動産の共有者に相続人がいない場合の共有持分の帰属について、わかりやすく解説します。

1、共有者に相続人がいないケース

亡くなった共有者に相続人がいないケースとしては、以下の3つのケースが考えられます。

(1)そもそも法定相続人がいない

法定相続人とは、民法で定められた遺産相続の権利が認められている人のことをいいます。民法では、以下の範囲の人を法定相続人と定めています。
●配偶者(常に相続人になる)
●子ども(第1順位の相続人)
●両親(第2順位の相続人)
●兄弟姉妹(第3順位の相続人)

亡くなった共有者に上記の法定相続人に該当する人が誰もいない場合には、相続人不存在となります。

(2)相続放棄により相続人がいない

亡くなった共有者に法定相続人に該当する人がいたとしても、その人が相続放棄をすることで相続人不存在になることがあります。

相続放棄とは、遺産相続に関する一切の権利を放棄する手続きで、相続放棄により当初から相続人でなかったものとみなされます。たとえば、被相続人の子どもが相続放棄をすれば、相続権は両親に移り、両親が相続放棄をすれば相続権は兄弟姉妹に移り、兄弟姉妹も相続放棄をすれば、遺産相続の権利のある法定相続人は誰もいなくなります。

このような相続放棄は、被相続人に多額の借金があるようなケースや相続争いに巻き込まれたくないというようなケースで利用される手続きです。

(3)相続欠格・廃除により相続人がいない

相続欠格とは、相続人が民法891条の相続欠格事由に該当する場合に、法律上当然に相続権が失われる制度です。また、相続廃除とは、被相続人への虐待や重大な侮辱、その他著しい非行があった場合に家庭裁判所への申立てにより、当該相続人の相続権を失わせる制度です。

相続欠格または相続廃除となった相続人については、遺産相続の権利はありませんので、その他に相続人がいなければ相続人不存在となります。

2、相続人がいない場合、共有持分はどうなるのか?

相続人がいない場合、共有者の共有持分はどうなってしまうのでしょうか。

(1)遺言により指定された人が引き継ぐ

亡くなった共有者が生前に遺言書を作成していた場合には、遺言書の内容に従って、相続財産が引き継がれます。そのため、共有者に法定相続人がいなかったとしても、お世話になった知人や友人に遺贈という形で共有持分を引き継がせることが可能です。

遺贈により面識のない第三者が共有不動産の新たな共有者になりますが、他の共有者の共有持分には特に影響が生じることはありません。

(2)特別縁故者への財産分与

特別縁故者への財産分与とは、被相続人の生前に特別の縁故があった人に対して、裁判所の決定により相続財産の分与をすることができる制度です。被相続人の相続財産は、基本的には被相続人の法定相続人が相続することになりますが、相続人が不存在のケースでは、特別縁故者からの申立てにより、特別縁故者に引き継がれる可能性があります。

特別縁故者にあたる人としては、以下の人が考えられます。
●被相続人と生計を同じくしていた人
●被相続人の療養看護につとめた人
●その他被相続人と特別密接な関係にあった人

ただし、特別縁故者への財産分与を認めるかどうかは、裁判所の判断になりますので、特別縁故者からの申立てがあったとしても、すべての相続財産が分与されるとは限りません。

(3)他の共有者への帰属

相続人不存在の場合の被相続人の財産は、最終的には国庫に帰属することになります。しかし、被相続人の財産に共有不動産の持分が含まれている場合、国庫への帰属ではなく、他の共有者に持分が帰属します(民法255条)。

共有者が複数いる場合には、亡くなった共有者の持分は、その他の共有者の共有持分の割合に応じて帰属することになります。たとえば、A、B、Cの3人で不動産を共有していて、それぞれの共有持分が3分の1ずつだったとします。この事例でAが亡くなり、相続人が不存在の場合、Aの持分は、BとCに引き継がれ、BとCの共有割合は、それぞれ2分の1ずつとなります。

3、共有者の相続人不存在の手続き

亡くなった共有者が遺言書を作成せず、また相続人も不存在という場合には、以下の手続きによって、亡くなった共有者の共有持分が引き継がれることになります。

(1)相続財産管理人の選任

他の共有者が亡くなった共有者の持分を引き継ぐためには、家庭裁判所に相続財産管理人選任申立をする必要があります。

相続財産管理人とは、被相続人の遺産を管理するために裁判所から選任された人のことをいいます。相続財産管理人は、被相続人の債権者への相続債務の支払い、特別縁故者への財産分与の手続きなどを行い、最終的に残余財産を国庫に帰属させる役割があります。

相続財産管理人選任の申立ては、利害関係人または検察官によってなされますが、共有不動産の共有者も利害関係人に含まれますので、申立てをすることができます。

裁判所により相続財産管理人が選任されると、そのことが官報によって公告されます。

(2)債権申立ての公告

相続財産管理人は、相続財産の債権者や受遺者を確認するための公告を行います。相続債権者や受遺者は、この期間内に申出をすることにより、相続財産から弁済を受けることができます。

(3)相続人捜索の公告

相続財産管理人は、本当に被相続人に相続人がいないのかを確認するために、6か月期間を定めて相続人捜索の公告を行います。この期間内に相続人が発見されなかった場合には、相続人不存在が正式に確定します。

(4)特別縁故者に対する相続財産分与

相続人不存在が確定後、3か月以内であれば、特別縁故者は、家庭裁判所に対して相続財産分与の申立てをすることができます。

裁判所により特別縁故者であると認められた場合には、相続財産の全部または一部が特別縁故者に引き渡されます。

(5)他の共有者への共有持分の移転

相続債権者・受遺者への弁済、特別縁故者への財産分与を終えても、相続財産に残余があり、そこに共有持分が含まれている場合には、相続財産管理人により、他の共有者に対して、共有持分の移転が行われます。

これにより、共有不動産の共有者は、亡くなった共有者の持分を引き継ぐことができます。

(6)残余財産の国庫帰属

すべての手続きを終えても相続財産に余りがある場合には、最終的に残余財産は国庫に帰属します。

4、相続人不存在により持分が帰属した人には相続税が課税される

共有不動産の共有者の1人が死亡し、その人に相続人がいない場合は、家庭裁判所によって選任された相続財産管理により、他の共有者が共有割合に応じて、亡くなった共有者の持分を取得することになります。

このような共有持分の取得は、遺贈により取得したものと扱われますので、相続開始時点の持分の評価額に応じて相続税が課税されます。そして、相続税の申告期限は、以下のように定められていますので、忘れずに申告するようにしましょう。
●特別縁故者による財産分与請求がない場合……特別縁故者の財産分与請求期限満了日の翌日から10か月以内
●特別縁故者による財産分与請求がある場合……財産分与の決定が確定したことを知った日の翌日から10か月以内

5、まとめ

共有不動産の共有者が死亡し、相続人がいない場合には、他の共有者は、相続財産管理人選任申立をすることにより、亡くなった共有者の共有持分を引き継ぐことができる可能性があります。相続財産管理人選任申立てやその後の手続きは、不慣れな方では難しい部分もありますので、手続きに不安がある場合には、専門家である弁護士に相談することをおすすめします。

ダーウィン法律事務所では、不動産に強い弁護士が、共有不動産の取り扱いに力を入れています。共有不動産についてお悩みがある方は、当事務所までお気軽にご相談ください。

この記事を監修した弁護士

荒川香遥
  • 弁護士法人 ダーウィン法律事務所 代表弁護士

    荒川 香遥

    ■東京弁護士会
    ■不動産法学会

    相続、不動産、宗教法務に深く精通しております。全国的にも珍しい公正証書遺言の無効判決を獲得するなど、相続案件について豊富な経験を有しております。また、自身も僧籍を有し、宗教法人法務にも精通しておりますので、相続の周辺業務であるお墓に関する問題も専門的に対応可能です。

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