相続した不動産を共有する場合「遺産共有」なのか「通常の共有」なのかという区別に注意する必要があります。遺産共有の場合には基本的に、一般の共有物分割請求ではなく遺産分割によって不動産を分割しなければなりません。ただし改正法により、長期間遺産分割されなかった物件については、通常の共有物分割請求によって遺産分割できるようになりました。
この記事では遺産共有と通常の共有の違いや改正民法の内容について、弁護士が解説します。相続によって土地や建物を共有している場合、参考にしてみてください。
目次
遺産共有とは、遺産分割が済んでいない相続財産を共有している状態です。
不動産などの遺産を相続しても遺産分割できていない場合に遺産共有となります。
遺産共有する場合の共有持分割合は「法定相続分」となります。
通常の共有とは、遺産共有以外の一般的な共有状態です。たとえば不動産を夫婦で購入して共有状態にした場合などには通常の共有状態になります。
遺産相続した物件も、遺産分割協議によって共有状態にした場合には、遺産分割が済んでいるので遺産共有になりません。通常の共有状態になります。
遺産共有と通常の共有とでは、共有になる原因が異なります。
遺産共有の原因となるのは、遺産相続のみです。
通常の共有は遺産相続以外の一般的な原因(不動産の共同購入など)によって生じます。
また遺産共有と通常の共有では、共有物の分割方法が大きく異なります。
遺産共有の場合、遺産分割によって共有物を分割しなければなりません。
一般的にはまずは遺産分割協議によって分割を試みるケースが多いでしょう。
遺産分割協議が成立すると遺産共有状態を解消できます。現物分割や代償分割であれば遺産分割協議書を作成して不動産の名義変更を行いますし、換価分割なら不動産を売却して売却金を相続人間で分配して不動産を分割します。
遺産分割協議が成立しない場合には、家庭裁判所で遺産分割調停を申し立てる必要があります。調停が成立すると、その内容で共有物が分割されるので、遺産共有状態が解消されます。
調停が不成立になれば手続きは自動的に遺産分割審判に移行し、審判官が遺産分割の方法を指定します。審判が確定した場合にも遺産共有状態は解消されます。
通常の共有の場合、共有状態を解消するには共有者同士で協議しなければなりません。
協議が整えば、合意した方法で共有物を分割できます。
協議をしても合意できない場合、地方裁判所で「共有物分割請求訴訟」をしなければなりません。
共有物分割請求訴訟では、裁判官が共有物の分割方法を決定します。
具体的には現物分割や代償分割が換価分割のいずれかの方法で共有物が分割されます。
遺産共有 | 通常の共有 | |
共有物分割の方法 | 遺産分割 | 共有物分割請求 |
裁判所の管轄 | 家庭裁判所 | 地方裁判所 |
対象の財産 | 遺産の全部または一部 | 特定の共有物 |
共有分割の有無 | あり | なし |
令和5年4月1日、民法改正によって遺産共有と通常の共有が併存している物件の共有物分割方法が変わります。
以下で改正内容をみてみましょう。
改正前の民法の規定では、遺産共有と通常の共有が併存している物件の場合、遺産共有の部分は遺産分割により、通常の共有の部分は共有物分割請求によって分割しなければなりませんでした。
たとえばAとBが土地を共有している状態でBが死亡し、CとDが相続したとしましょう。この場合、AとC、Dの共有状態となりますが、Aに関しては通常の共有となりC、Dについては遺産共有状態となります。
この物件を分割するには、C、Dについては遺産共有状態となるので、その部分については遺産分割協議を行うか、家庭裁判所で遺産分割調停や審判をしなければなりません。一方、Aとの関係では共有物分割請求をしないと、物件を最終的に分割できなかったのです。
しかしこのように2回の異なる手続きによってしか物件を分割できないと、非常に手間がかかってしまいます。
そこで一元的に処理できるようにする必要性が指摘されていました。
令和5年4月1日に施行される改正法では、遺産共有と通常共有が併存する場合でも、相続開始時から10年が経過していれば遺産共有関係の解消も一般の共有物分割訴訟でできるようになりました(新民法258条の2第2項、3項)。
相続開始後10年が経過していれば、家庭裁判所で遺産分割調停や審判を行わなくても地方裁判所で共有物分割請求をすると、不動産などの共有状態を解消できるようになったのです。
たとえば上記の具体例でも、相続開始後10年が経過すればCやDが遺産分割協議や調停・審判をしていなくても共有物分割請求訴訟によって物件を分割できます。
なお共有物分割によって物件を分割する場合、遺産共有持分は具体的相続分ではなく法定相続分又は指定相続分を基準に分割されます(新民法898条2項)。また相続人が共有物分割の方法で遺産共有部分を分割することに異議申出をした場合、通常の共有物分割請求による遺産共有部分の分割はできません。異議申出があると、従前の民法と同様に、遺産共有については遺産分割、通常の共有については共有物分割請求を行い、別個に手続をとらねば分割ができません。
なお相続人による異議の申出は、遺産分割請求が行われていることが前提となっています。また相続人が共有物分割訴訟の通知(訴状の送達)を受けた日から2か月以内に行う必要があります。
相続によって不動産が共有状態となり「遺産共有」している場合、共有者は共有持分を譲渡したり放棄したりできるのでしょうか?
共有持分の譲渡とは、第三者や他の共有者へ自分の共有持分を譲ることです。
譲渡した元共有者は共有持分を失うので、物件の共有者ではなくなります。
共有持分の放棄とは、一方的に自分の共有持分を放棄することです。
放棄された共有持分は他の共有持分権者へ帰属します。放棄した元共有者は共有持分を失うので、物件の共有者ではなくなります。
結論的に遺産共有状態の共有持分でも譲渡や放棄が認められます。
判例も遺産の譲渡を認めていますし(最高裁昭和38年2月22日)、特定財産の共有持分の放棄も認めています(大判大正5年12月27日)。
よって遺産共有している状態の物件でも、共有者(相続人)は共有持分の譲渡や放棄をすることによって共有関係からの離脱ができます。
相続した不動産の遺産共有については、一般的な通常の共有とは異なる状態と理解されています。遺産共有状態を解消するには、遺産分割をしなければなりません。遺産共有と通常の共有状態が併存している場合、通常共有部分については共有物分割請求によって分割する必要があります。
共有物分割請求を弁護士に依頼すると、弁護士が他の共有者と交渉するので手間がかかりません。他の共有持分権者との関係が悪化していてもストレスがかかりにくくなるのもメリットといえるでしょう。
法律家が間に入るのでスムーズに話し合いが進み、共有関係を解消しやすくなるメリットもあります。共有物分割調停や訴訟を行う際にも安心して任せられます。
ダーウィン法律事務所では共有不動産の取り扱いに力を入れております。共有不動産についてお悩みがある場合には、お気軽にご相談ください。ダーウィン法律事務所では、東京都新宿区四谷と東京都立川市にオフィスを構えております、埼玉、神奈川、千葉からのご相談も広く受け付けております。
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