共有不動産の時効取得の要件と時効取得できないときの対処法を解説

長い間、自分のものだと信じて居住していた不動産が実は共有不動産だったというケースがあります。このような場合、時効取得を主張して、自分だけの不動産だと主張することはできるのでしょうか。

時効取得の要件を満たせば、不動産を自分のものにすることができる可能性がありますが、共有不動産の場合には、要件を満たすのは難しいケースが多いです。

今回は、共有不動産の時効取得の要件と時効取得できないときの対処法について、わかりやすく解説します。

1、不動産の時効取得とは

時効取得とはどのような制度なのでしょうか。以下では、時効取得の要件などについて説明します。

(1)時効取得の概要

時効取得とは、一定期間、他人の物を占有した人がその物の所有権を取得することができる制度です(民法162条)。

不動産について時効取得が成立した場合、時効取得者が当該不動産の所有権を取得し、元の所有者は所有権を失うことになります。共有持分も独立した権利として時効取得の対象になりますので、時効取得の要件を満たす場合には、不動産の共有持分を取得することも可能です。

(2)時効取得の要件

時効取得が成立するためには、以下の要件を満たす必要があります。

①所有の意思

時効取得の要件である「所有の意思」とは、自分のものと認識していることをいいます。このような所有の意思をもった占有を「自主占有」といい、所有の意思のない占有を「他主占有」といいます。

自主占有の有無は、占有者の主観ではなく客観的外形的に判断されます。すなわち、占有者が「自分が所有者だ」と思い込んでいるだけでは足りず、所有者であれば通常行うべき固定資産税の支払いや移転登記などを行っているかどうかが重要となります。

②平穏かつ公然の占有

「平穏」とは、占有が暴行や脅迫などによるものではないことをいい、「公然」とは占有の事実を外部に表示していることをいいます。

そのため、不法占拠ではどれだけ長い期間占有していたとしても時効取得は成立しません。

③他人の物を占有

時効取得の対象は、他人の物です。自分の物については、どれだけ占有しても自分の物であることには変わりありませんので、原則として時効取得の対象外です。

共有不動産の場合、自分の持分については時効取得の対象にはなりませんが、他の共有者の共有持分であれば時効取得の対象になります。

④一定期間の継続した占有

時効取得が成立するためには、一定期間の継続した占有が必要になります。占有が善意無過失により開始した場合には10年間の占有、それ以外の場合には20年間の占有により時効取得が成立します。

⑤善意無過失

10年の短期取得時効を主張するためには、占有者が占有開始時に善意かつ無過失であることが必要です。善意とは、自分に所有権があると信じていること、無過失とは、自分に所有権があると信じたことに過失がないことをいいます。

2、共有持分を時効取得する際の流れ

共有持分を時効取得するためには、以下のような手続きが必要になります。

(1)時効取得の要件を確認

共有持分の時効取得を主張する前提として、まずは、時効取得の要件を満たしているかどうかを確認します。

共有持分の時効取得で特に問題になるのが、所有の意思を持った占有(自主占有)であるかという点です。共有不動産の場合には、他に共有者がいることを知っているのが通常ですので、その状態で占有を続けたとしても自主占有にはあたりません。自主占有であるといえるためには、以下の要素が必要になります。
●占有中の固定資産税の支払いをしてきた
●自分だけが不動産を独占的に利用し続けてきた
●親の単独所有の不動産だと信じて相続により引き継いだ

(2)共有者に対して時効援用

時効取得は、一定の期間経過により当然に所有権を取得する制度ではなく、所有権を取得するためには、時効の援用という手続きが必要になります。そのため、共有持分の時効取得の要件を満たすことが確認できたら、次は、共有者に対して、時効の援用を行います。

時効の援用とは、時効によって利益を受ける人が時効による効果の発生を相手に伝えることをいいます。時効の援用は、口頭での意思表示でも行うことができますが、時効の援用をしたという証拠を残すためにも配達証明付きの内容証明郵便を利用するのが一般的です。

(3)所有権移転登記

時効の援用が終わったら、最後は、時効により取得した共有持分の移転登記手続きを行います。共有持分の移転登記手続きは、共同申請になりますので、時効により持分を失う共有者の協力が必要になります。

なお、他の共有者が移転登記手続きに協力してくれないという場合には、共有持分の移転登記請求訴訟を提起する必要があります。請求が認められ、判決が確定すれば、時効取得者が単独で移転登記申請を行うことができます。

3、共有持分の時効取得ができないときの対処法

時効取得の要件を満たさないなどの理由で共有持分の時効取得ができない場合には、以下のような対処法が考えられます。

(1)共有持分の買い取り

長年にわたり不動産を利用してきた人は、これからも自分だけで利用していきたいと考える人も多いと思います。

しかし、共有持分の時効取得が認められない場合には、他の共有者から共有不動産の利用料を請求される可能性があります。また、共有状態だと将来、修繕や売却が必要になったとしても、自分の意向だけでは進めることができません。

このような場合には、他の共有者から共有持分を買い取るという方法が考えられます。他の共有者から共有持分を買い取ることができれば、自分の単独所有の形にすることができますので、時効取得と同様の効果が得られます。ただし、買い取るためには、代金の支払いが必要になりますので、ある程度の資金を準備する必要があります。

(2)共有不動産の一括売却

共有者との関係が面倒に感じる場合には、共有不動産を手放すという方法が考えられます。

共有不動産を売却するためには、共有者全員の同意が必要になりますが、長年共有不動産に無関心だった共有者であれば、売却するにあたって反対する人も少ないといえるでしょう。

なお、共有者の同意が得られず、共有不動産の一括売却ができないという場合でも、ご自身の共有持分のみの売却も可能です。ただし、共有持分のみの売却では、利用価値が乏しいため相場よりも低い金額でしか売却できない可能性もありますので注意が必要です。

(3)共有物分割請求訴訟

他の共有者が共有持分に応じてくれなかったり、共有不動産の一括売却に応じてくれない場合には、裁判所に共有物分割請求訴訟を提起することで、希望を実現できる可能性があります。

共有物分割請求訴訟とは、裁判所が共有状態の解消のための適切な方法を決定してくれる手続きです。裁判所は、以下のいずれかの方法により共有状態の解消を命じてくれます。
●現物分割
●賠償分割
●競売分割

4、共有不動産の時効取得をお考えの方は弁護士に相談を

長い間、不動産を占有し利用している人のなかには、時効により不動産の所有権を取得できるのではないかとお考えの方もいるかもしれません。

たしかに、一定期間継続して占有している事実があれば、不動産の所有権を時効取得できる可能性がありますが、時効取得が成立するためには、その他にも必要な要件があります。特に共有不動産の場合には、自主占有が争点になることが多いため、外形的客観的に所有の意思に基づく占有であったことを主張立証していくことが重要です。

このように共有不動産の時効取得を主張するには、時効取得制度に関する正確な理解と経験が不可欠になりますので、経験豊富な弁護士に相談することをおすすめします。共有不動産に詳しい弁護士であれば、万が一時効取得が成立しない場合であっても、共有物分割請求などの方法により、共有状態の解消に向けた手続きを進めてもらうことが可能です。

5、まとめ

一定期間継続して共有不動産を占有することにより、共有持分を時効取得し、当該不動産を単独所有の状態にすることが可能です。時効取得を主張するためには、時効取得の要件を満たしていることを確認しなければなりませんので、まずは経験豊富な弁護士に相談することをおすすめします。

ダーウィン法律事務所では、不動産に強い弁護士が、共有不動産の取り扱いに力を入れています。共有不動産についてお悩みがある方は、当事務所までお気軽にご相談ください。

この記事を監修した弁護士

荒川香遥
  • 弁護士法人 ダーウィン法律事務所 代表弁護士

    荒川 香遥

    ■東京弁護士会
    ■不動産法学会

    相続、不動産、宗教法務に深く精通しております。全国的にも珍しい公正証書遺言の無効判決を獲得するなど、相続案件について豊富な経験を有しております。また、自身も僧籍を有し、宗教法人法務にも精通しておりますので、相続の周辺業務であるお墓に関する問題も専門的に対応可能です。

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