共有物分割と離婚の関係

夫婦が自宅不動産を共有しているケースは多数あります。
夫婦が離婚する場合には、共有不動産を清算しなければなりません。
一般的には不動産を「財産分与」の方法で分けますが、共有物分割による方法もとることが可能です。
夫婦が自宅などの不動産を共有している場合、財産分与によるべきか共有物分割請求を行うべきか、どちらを選択すべきか検討しなければなりません。

この記事では共有不動産の分割と離婚の関係について、弁護士がお伝えします。
離婚の際に自宅が共有になっている場合などにはぜひ参考にしてみてください。

1.財産分与とは

財産分与とは、夫婦が婚姻中に積み立てた財産について、離婚時に清算して分け合うことをいいます。財産分与の対象になるのは、婚姻中に夫婦が協力して積み立てたすべての財産です。
自宅不動産だけではなく、他の預貯金や保険、株式などの資産もまとめて財産分与対象になります。

財産分与の割合は、基本的に夫婦が2分の1ずつとなります。
共有不動産があって夫名義が10分の7、妻名義が10分の3などであっても基本的には夫婦で2分の1ずつに分割します。

以上が財産分与の概要です。

2.共有物分割とは

共有物分割とは、共有物をそれぞれの共有者に分割する手続きです。
たとえば不動産がAとBの共有になっているとしましょう。持分はAが10分の7、Bが10分の3とします。
この場合、共有物分割請求を行うとAとBの共有状態を解消できます。
共有物分割請求をする場合の清算割合は共有持分に従います。
たとえば先の例でAが不動産を取得して代償分割する場合、AはBへ10分の3に相当する代金を払わねばなりません。
不動産が3000万円の価値のある物件であれば、AはBへ900万円を払う必要があります。

3.財産分与と共有物分割の違い

以下では財産分与と共有物分割の違いを確認していきましょう。

3-1.包括的な財産の分割か個別的な共有物の分割か

財産分与と共有物分割では、対象となる財産の範囲が異なります。
財産分与の場合、夫婦共有財産のすべてが対象になります。
自宅不動産のみが対象になるわけではありません。

財産分与の対象になるのは以下のような財産です。
●現金、預貯金
●保険
●不動産
●車
●株式、投資信託、債券
●貴金属や時計などの動産類
財産分与の場合、上記のような夫婦共有財産をまとめて清算します。

一方、共有物分割請求の場合には個別的な財産しか清算できないので、自宅不動産であれば自宅不動産のみを清算します。

3-2.特有財産は財産分与から外れる

財産分与と共有物分割では「特有財産」についての考え方も異なります。
財産分与の場合、夫婦の片方における特有財産は分与対象になりません。
特有財産とは、夫婦の一方の単独所有と認められる財産です。たとえば夫婦の一方が結婚前から所有していた物件や、夫婦の婚姻中に親から譲り受けたり相続したりした物件は特有財産となるので、財産分与対象から外れます。

一方、共有物分割請求の場合には、特有財産の考え方はありません。自宅不動産が共有名義になっていれば、その財産が夫婦の一方の親から譲り受けたものであっても夫婦のどちらから独身時代から持っていたものであっても共有物分割請求の対象になります。

3-3.清算方法

財産分与と共有物分割請求では、対象物の精算方法(分割割合)についても異なります。
財産分与の場合には、すべての共有財産について夫婦で2分の1ずつに分けるのが基本です。共有名義になっている場合でも、名義の割合による影響は受けません。たとえば自宅が共有になっている場合、夫名義が10分の7、妻名義が10分の3であっても夫婦で2分の1ずつに分け合います。

一方共有物分割請求の場合には、共有持分に応じて分割するのが原則です。夫名義が10分の7、妻名義が10分の3であれば、実際の分割割合についても夫が10分の7、妻が10分の3となります。

3-4.期限

財産分与請求には期限がありますが、共有物分割請求には期限がありません。
財産分与請求ができるのは、離婚後2年間のみです。2年をすぎると財産分与の請求はできません。
一方共有物分割請求の場合は期限がないので、共有状態にしている限りいつまででも当事者は共有物分割請求ができます。

3-5.制限される場合

財産分与の場合には特有の処理方法が適用される可能性もあります。
特に自宅不動産に住宅ローンが残っている場合、一定期間、財産分与が行われずに「様子を見るべき」と判断される可能性があります。
たとえば財産分与請求が行われた事例で、「今後の債務の弁済状況等をみないと適切な判断ができない」という理由で財産分与請求自体が却下された裁判例があります(東京高裁平成7年3月13日)。
また長期間様子を見る方法として、却下ではなく「共有状態にしておく」方法も提唱されています。

一方共有物分割の場合には、基本的に上記のような理由による制限は行われません。ただし当事者同士で「共有物分割禁止特約(不分割特約)」を締結していれば、共有物の分割が禁止されます。

【財産分与と共有物分割の違い 一覧表】

 

財産分与 共有物分割
分割対象 夫婦共有財産全体 個別的な共有財産
特有財産の考え方 あり なし
清算方法 夫婦が2分の1ずつにするのが原則 共有持分に従う
期限 離婚後2年間 期限なし
制限される場合について さまざまな事情により制限される可能性がある 当事者が共有物分割禁止特約(不分割特約)を締結していたら分割が制限される

4.財産分与できる場合でも共有物分割請求が可能

夫婦が離婚するときに自宅不動産が共有になっている場合、一般的には財産分与請求によって清算します。ただし場合によっては共有物分割請求によって分割してもかまいません。
このように離婚の場合、財産分与請求と共有物分割請求は選択的です。
どちらを先行させなければならないという決まりはありません。

離婚に伴う財産分与よりも共有物分割請求を優先すべきケースとしては、以下のような場合が考えられます。
●相手が離婚を拒否している
●こちらが有責配偶者であり、離婚請求しても棄却される可能性が高い
●共有不動産を夫婦がいずれも使用していない
●相手が共有不動産の売却を拒否している
●住宅ローンの負担がある

上記のような場合、離婚成立までに時間がかかってしまい、その間住宅ローンなどの負担がかかり続ける可能性があります。
そこで共有物分割請求を行って共有不動産である自宅の売却を進め、負担を軽減する方法が優先的に検討されます。

5.共有物分割請求が権利の濫用となって否定されるケース

夫婦で自宅不動産などを共有している場合、夫婦のどちらも共有物分割請求できるのが原則です。ただし共有物分割請求が「権利の濫用」として否定されるケースもあります。

たとえば自宅が共有になっているケースで夫はすでに家から退去し、妻と子どもが住んでいるとしましょう。この場合に夫が住宅ローンの整理のために妻子を家から退去させる目的で共有物分割請求を行うと、権利の濫用として請求が認められない可能性があります。
実際に夫婦間の共有物分割請求が権利濫用として否定された事例もあります(大阪高裁平成17年6月9日)。

まとめ

夫婦間で自宅不動産などを共有している場合、離婚の際にトラブルになるケースが非常によくあります。困ったときには専門知識を持った弁護士へ相談しましょう。
ダーウィン法律事務所では共有不動産の取り扱いに力を入れております。共有不動産についてお悩みがある場合には、お気軽にご相談ください。ダーウィン法律事務所では、東京都新宿区四谷と東京都立川市にオフィスを構えております、埼玉、神奈川、千葉からのご相談も広く受け付けております。

この記事を監修した弁護士

荒川香遥
  • 弁護士法人 ダーウィン法律事務所 代表弁護士

    荒川 香遥

    ■東京弁護士会
    ■不動産法学会

    相続、不動産、宗教法務に深く精通しております。全国的にも珍しい公正証書遺言の無効判決を獲得するなど、相続案件について豊富な経験を有しております。また、自身も僧籍を有し、宗教法人法務にも精通しておりますので、相続の周辺業務であるお墓に関する問題も専門的に対応可能です。

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