不動産売買で知っておきたい仲介業者の調査・説明義務

法律相談カテゴリー
C.媒介契約
該当する業者タイプ
売買仲介・媒介 賃貸仲介・媒介 

 宅建業者として、媒介業務を実施するにあたり、物件調査が必要となりますが、対象物件に予定されていなかった契約不適合状態(瑕疵)が発見された場合に、宅建業者としてはどこまで責任を負うのかについて解説いたします。

 なお、2020年4月より改正民法が施行され、これまで瑕疵と表現されてたものが、契約不適合として表現されることとなりました。

1 媒介業者の調査説明義務

(1)調査義務の根拠と中身

委託者と媒介業者との間で締結する媒介契約は準委任契約と考えられています(最高裁昭和44年6月26日)。そのため、媒介業者は、委託者に対して、善良なる管理者の注意をもって媒介業務を処理する義務を負います(民法656条、644条)。また、宅建業法においても、誠実義務を負います(宅建業法第31条1項)。
さらに、宅建業者は、媒介契約を締結していない買主側(借主側)に対しても、行動仲介として取引に関与している場合には、直接の媒介契約を締結していなくても、業務上の注意義務を負うことがある点には注意が必要です(最高者昭和36年5月26日)。

媒介業者の説明義務に関する規定としては、下記通りです。

  •  ・業務処理の原則(宅建業法31条1項)
  •  ・重要事項説明義務(宅建業法第35条)
  •  ・重要な事項の不告知・不実告知の禁止(宅建業法第47条)

 

例えば、対象物件に雨漏りがあるなどのの状況について宅建業法第35条での重要事項説明事項の対象ではない事項については、宅建業者は、説明を前提とした積極的な調査義務までは負いませんが、通常の業務としてのヒアリングや現地調査等を通じてこれらの事実が明らかとなった場合は、さらに売買契約締結において重大な影響を当たる事項については、宅建業法47条1項の規制から、正確に説明を行う義務があることとなります。

なお、宅建業法第47条の違反については、業務停止処分のほか、「2年以下の懲役もしくは300万円以下の罰金に処せされる」(宅建業法65条2項2号、79条の2)こととなりますので、注意して業務にあたる必要があります。

 

(2)取引の相手方の確認、代理権の確認

媒介業者は、重要事項の説明の一環として、宅建業法第35条1項1号には「登記された権利の首里及び内容並びに登記名義人等」を説明する義務を負っておりますので、誰が権利者であるかについては、当然に調査義務があることとなります。
したがって、権利者の確認や代理権限の確認を怠った場合には、媒介業者には注意義務違反が認められることとなります。

裁判例では、売主を勘違いして内金をだまし取られた事案(地面師詐欺)において、本人名義の印鑑証明書や白紙委任状、さらに司法書士に確認しただけでもあっても、本人確認としては不十分と判断し、直接本人接触して同一性を確認することが専門的な知識及び経験を有する宅地建物取引業者に必要と判断しています(東京地裁 昭和34年12月16日)

また、賃貸借の事例で、賃貸人が適切に賃貸する権限を有しているかについては、宅建業者は、賃貸仲介に際して、不動産の権利関係が1ヶ月の間に変動することがしばしばあり、しかも容易に登記簿で権利関係を調査することができるにも関わらず、本件店舗の再調査をせず、そのために本件店舗の真の所有者に気がつかなかった点は、仲介行為に過失があると判断しています(東京地裁昭和59年2月24日)。

(3)当事者の与信能力

例えば、媒介実施後に、賃貸物件借主が即座に滞納に陥り、そもそもの申込書の職業乱闘に虚偽の事実が発覚した場合や、売買物件の買主に購入の資力が無かった場合に、媒介業者たる宅建業者としてはいかなる責任を負うだろうか。
この点についても、前述の通り、与信審査まで行うべき法理的な義務はないものの、ヒアリングや調査の結果、合理的に不審に感じる点があり容易に調査すれば明らかとなったのにこのような調査を行わなかった場合には、不動産取引の専門家として善管注意義務違反にあたる可能性はあります。

2 法令による制限に関する調査・説明義務

国土の狭い日本では、物件それぞれに全く異なる規制がかかっているといっても過言ではないです。そこで、宅建業法では、法令上の制限を重要事項と定めています(宅建業法35条1項2号、宅建業法施行令3条1項各号)が、専門的な業規制もありますが、依頼者として契約実現後にこうしたいという要望が明確な場合にはその要望に沿った結果となるかについてはきちんと各種法令規制を確認する必要があります。

以下の事例で、いずれも宅建業者の説明義務違反が認められています。

  • ・建築確認を受けた建物であるか否か(大阪高裁昭和50年7月15日)
  • ・接道要件を満たしておらず、再建築不可の物件などについてはきちんと販売時に説明を行わなかったこと(千葉地裁平成23年2月17日)
  • ・物件購入後に用途変更して業態を変更するにあたって購入後に過度の費用負担が発生することが明らかとなった事例
  • ・がけ条例についての説明義務(東京高裁平成12年10月26日)
  • ・宅地開発指導要綱、行政指導についての確認義務(東京地判平成26年3月26日)

 

3 契約不適合責任(瑕疵担保責任)について

法令上の制限ではなく、物件そのものに当事者が望む状態ではないことが発覚した場合(契約不適合)に媒介業者はどこまで調査説明義務があるのか。そもそも、媒介業者は、一般的には建築士でも不動産鑑定士などでは無く、専門的な検査能力を備えているわけではないため、特段知り得た場合は別として、通常は、目的物の現地見分するにあたって、通常の注意をもって現状を目視により観察し、その範囲で買主に説明すれば足りるとされており、これを超えての瑕疵の存否や内容についてまで調査説明すべき義務は負いません(大阪高判平成7年11月21日)。
宅建業法35条でも瑕疵の存否は重要事項説明の対象事項とはしていませんが、瑕疵の存否が購入の意思決定に大きく影響することから、取引実務では「物件状況報告書」を交付することも行われております。

以下、類型に分けて、宅建業者の責任を考察してみます。

(1)物理的な状態

  • ・軟弱地盤であっても通常の調査によって知り得なければ、売主の責任は別として宅建業者に責任はないとした事例
  • ・シロアリによる被害について、シロアリらしき死骸を発見するなどの疑念をいだいた状態で、シロアリの被害は発見していないと説明した事例では、宅建業者に責任はあるとした事例(大阪地判平成20年5月20日)
  • ・家庭菜園のため日当たりのよい土地を求めたところ、隣地に高架構造の道路が通ることを容易に知り得たのにこれを調査しなかった点で、宅建業者に調査説明義務違反を認めた事例(松山地判平成10年5月11日)

(2)地中埋設物、土壌汚染

  •  ・地下にタンクがあり撤去に時間と費用がかかるとして裁判例においても、通常の業務の中で埋設物やがれきの一部などをうかがわせる事情がない以上、宅建業者に説明義務違反はないとした事例(東京地判平成25年1月21日

 

(3)自殺、近隣トラブルなどの心理的瑕疵(事故物件)

  •  ・約1年前に取り壊された共同住宅で更地となっている場合、取り壊された建物に何らかの事件が発生していたか否かについてまで調査すべき義務については否定した事例(東京地判平成24年8月29日)。
  • ・マンションの一室で自殺した一棟売買において、契約当時、死亡したことは認識していたが、管理会社などのヒアリングから自然死として確認していた事例では、契約当時においてそれ以上の調査義務はないとして宅建業者の説明義務違反を否定した事例(東京地判平成25年7月3日)
  • ・20年以上前の自殺や自殺のあった建物が取り壊せれた場合であっても、宅建業者に説明義務違反を認めた事例(松山地判平成25年11月7日)
  • ・前入居者が風俗営業に用いられた居室の場合、その事実を知り得た以上、宅建業者に説明義務違反を認めた事例
  • ・隣人が騒ぎを起こして以前に別の顧客が購入を見送った物件について、宅建業者に隣人により購入を見送った事実について説明を行う義務違反があると認定した事例(大阪高判平成16年12月2日)

4 まとめ

以上のとおり、媒介業者としては、法令によって調査・説明が義務づけられている事項と、依頼者からの個別の要望に応じて調査説明が義務づけられている場合がありますが、いずれにせよ、依頼者が望む条件をきちんと整理して調査説明にあたることが重要といえます。
弊所では、媒介時の調査説明トラブルについてご相談を受け付けておりますので、お気軽にお問い合わせください。

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