不動産の売買契約や賃貸借契約の媒介(仲介)を行う場合に、宅建業者である媒介業者(仲介業者)は、依頼者に対して、報酬を請求することとなりますが、依頼者が何らかの理由をつけて報酬を支払わない場合や、直接取引された場合についてのどのように対処をするべきかをご説明いたします。以下、宅地建物取引業法を宅建業法といい、宅地建物取引業法施行規則を宅建業法施行規則といいます。
目次
①不動産取引仲介契約(報酬支払合意)の成立
②①契約の仲介行為により当該不動産取引が成立したこと
通常は標準約款において報酬額については、下記表のとおり、国土交通省告示において定められていますが、仮に報酬額を定める合意がない場合であっても、仲介を業として営む者は商人として扱われ(商法4条1項、商法512条)、相当の報酬を請求することができると定められています。
もっとも、相当の報酬とは、この国土交通省告示の報酬限度額が認められるには合理的根拠が必要とされと考えられており、限度額を4割(横浜地判平成21年11月27日判時2070号150頁)や、2割強(東京高判平成23年3月9日金判1384号59頁)とした裁判例もあります。
したがって、急ぎの不動産売買契約の案件であっても、口約束で済ますような事が無いように、きちんと仲介契約を締結することが重要ですし、契約を締結するときも、約定報酬額を空欄にすることなくきちんと埋めることが必要となります。
宅建業者の報酬は受け取る事のできる限度が決まっています(宅建業法第46条1項)。仮に、この告示を超えて報酬を受領する行為は、100万以下の罰金に処せられますし(宅建業法82条2号)、告示を超えて不当に高額の報酬を請求すること自体(実際に受領していなくても)が違法行為となり業務停止処分のほか、1年以下の長兄若しくは100万以下の罰金に処されるおそれがあります(宅建業法65条2項2号、80条)。
以下、売買の場合と賃貸借の場合です。
【国土交通省告示(昭和45年10月23日建設省告示第1552号、最終改正平成26年2月28日国土交通省告示第172号】
売買価格(本体価格) | 媒介報酬(消費税別) |
---|---|
低廉な空き家等の売買で調査に費用がかかる場合 | 18万円 |
200万円以下 | 5%以内 |
200万円を超えて400万円以下 | 4%以内 |
400万円を超える場合 | 3%以内 |
例えば、1000万円の不動産を仲介した場合の上限額は、
A)200万円の部分として、200万円×5%=10万円
B)200万円~400万円の部分として、200万円×4%=8万円
C)400~1000万円の部分として、600万円×3%=18万円
=36万円(税別)と計算されます。
したがって、400万円を超える物件については、売買価格×3%+6万円として上限額を速算できます。
物件種別 | 報酬額(消費税別) | |
---|---|---|
貸主 | 借主 | |
依頼者の承諾がある場合には、いずれか一方から賃料の一ヶ月分以内を受けることができるが、この場合、全体の報酬額の合計が賃料の1ヶ月分を超えてはならない。 | ||
その他の物件 | 全体の報酬額の合計が賃料の1ヶ月分以内であれば良い。 |
居住用不動産の仲介報酬の支払いを巡り、大手仲介会社が事前の合意なく借主から仲介報酬1ヶ月分を受領した事案について、裁判所は、仲介会社に0.5ヶ月分の返還を命じることとなりました(東京高判令和2年1月14日(2020WLJPCA01146001))。借主から仲介報酬を0.5ヶ月分以上受領するときには慎重に意思確認と合意が必要となることを示した裁判例です。
以上の報酬告示は、一方当事者からの報酬限度額を定めたものですので、両当事者との間で仲介契約を締結した場合には、2倍を限度とした金額まで受け取れることとなります。これを両方の取引を行うということで両手仲介と言われています。
これまで考察したように、仲介報酬は、不動産の売買契約成立をもって発生することになりますが、売買契約後に何らかの事情で契約が解除された場合においても仲介報酬の請求が可能となるかを以下ご説明します。
宅建業者が自ら売主となる不動産の売買においては、買主は、一定期間クーリングオフ解除が可能です(宅建業法37の2)。この場合には、売買契約は遡及的に効力を失うこととなるため、仲介契約も遡及的に効力を失うこととなる結果、仲介報酬は請求できませんし、既に受領している場合には返還することとなります。
解除条件がついていても、一応は不動産売買契約は成立していますが、やはり、解除により遡及的に不動産売買契約の効力が失う以上、仲介契約も遡及的に効力を失うと考えるの一般的です。
もっとも、不動産締結に至るまでの仲介業者の努力等もありますから、仲介契約書を締結する場合に、不動産売買契約において解除条件が定められているときは、仲介契約にもその旨を定めるなどの紛争予防を講じるなどしてトラブルを回避することが考えられます。
なお、買主に違約が有る場合の解除については、仲介報酬を請求することはできますが、この場合、合意金額満額が認められないケースもありケースバイケースです。
手付け解除するかどうかは、買主(手付け放棄)、売主(手付けの倍返し)の事情によりますので、仲介会社としては買主や売主が手付け解除を希望する場合にはその結果に応じるほかないです。そのため、せっかく契約締結まで尽力したにもかかわらず不動産の売買契約が白紙になったからといって、仲介報酬を請求できないとするのは酷とともいえます。
これまでの裁判例では、事案に応じて仲介報酬の満額が認められた事例からある程度減額された事例など、判断されています。
以上のとおり、媒介業者としては、仲介報酬請求にあたっては、きちんと事前の説明が必要であることや、事後的に契約が解除された場合について、どの程度仲介報酬が請求できるかを説明いたしました。
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