借地上の建物を競売で落札する場合の注意点を弁護士が解説

競売により借地上の建物を競落したとしても、それだけでは建物が建っている土地を利用することができません。土地を利用するためには、借地権を取得する必要がありますが、そのためには地主の承諾が必要になります。

しかし、地主によっては借地権者が交代することを嫌い、承諾を拒むケースもあります。このように地主と交渉をしても地主が承諾してくれないという場合には、裁判所に許可を得ることによって、借地権を取得することができます。

今回は、借地上の建物を競売で競落する場合の注意点についてわかりやすく解説します。

1、借地上の建物が競売になるケース

借地上の建物が競売になるケースとしては、以下の3つのケースが考えられます。

(1)抵当権の実行による競売(担保不動産競売)

一般的に建物を建てる際には、住宅ローンを利用することになりますが、お金を貸した金融機関は、住宅ローンの対象となる不動産に「抵当権」という担保権を設定します。住宅ローンの返済が滞った場合には、債権者である金融機関は、抵当権を実行することによって、不動産を強制的に換価・処分し、債権回収を図ることができます。このような担保権に基づく競売を担保不動産競売といいます。

借地上の建物を建てる際に住宅ローンを利用し、借地人がローンの返済ができなくなったようなケースでは、担保不動産競売により借地上の建物が競売にかけられることになります。

(2)不動産に対する強制執行としての競売(強制競売)

債務者が債務の返済ができなくなると、債権者は、債務の返済を求めて裁判所に訴えを提起することになります。裁判所により債権者の訴えが認められると支払いを命じる判決が言い渡されることになりますが、それでも債務者からの支払いがないときは、債務者の財産を対象として強制執行の申立てをすることができます。強制執行の対象が不動産である場合には、競売手続きにより換価・処分が行われますが、このように債務名義に基づき債務者の所有する不動産を強制的に換価・処分する手続きを「強制競売」といいます。

借地権者が債務の返済ができなくなり、債権者が債務名義を取得したときは、強制競売により借地上の建物が競売にかけられることになります。

(3)共有物分割請求による形式競売

不動産が共有状態になっているときは、共有者の話し合いにより共有状態の解消を図ることができますが、話し合いで合意に至らないときは裁判所に共有物分割請求訴訟を提起することができます。裁判所が共有状態の解消方法として、換価分割を選択したときは、不動産の競売を命じる判決が言い渡されます。このような債権回収を目的としない競売のことを「形式競売」といいます。

借地上の建物が共有状態になっている場合には、形式競売により建物が競売にかけられることがあります。

2、建物の競売と借地権との関係

借地上の建物が競売にかけられた場合、借地権はどうなってしまうのでしょうか。以下では、借地上の建物の競売と借地権との関係について説明します。

(1)借地権は建物の買受人に移転する

借地上の建物に抵当権が設定されている場合には、借地権にも抵当権の効力が及びます。また、抵当権が設定されていない場合でも、強制執行により建物が差し押さえられた場合には、差押えの効力は建物だけではなく借地権にも及びます。そのため、借地上の建物が競売にかけられて競落された場合には、建物とともに従たる権利である借地権も買受人に移転することになります。

(2)借地権を主張するには地主の承諾が必要

借地権の譲渡があった場合には、地主の承諾がなければ譲渡の効力は生じず、借地契約の解除原因となります。これは、地代を支払う資力がない賃借人に借地権が譲渡されたり、使用態様の悪い賃借人に借地権が譲渡されたりすると地主が不利益を被ることになりますので、借地権の譲渡の際に地主の承諾が要件とされています。

競売により借地権が移転する場合も「借地権の譲渡」にあたりますので、地主の承諾が必要になります。そのため、競売により借地上の建物を競落した買受人は、地主との話し合いにより借地権譲渡の承諾を得なければなりません。

3、地主の承諾が得られないときは借地非訟手続きを利用

地主との話し合いでは借地権譲渡の承諾が得られないときは、借地非訟手続きにより地主の承諾に代わる許可を求めることができます。

(1)競売に伴う土地賃借権譲受許可申立事件とは

借地上の建物を競売により競落したとしても、地主の承諾が得られなければ借地権の無断譲渡にあたり、借地契約が解除されてしまいます。そうなれば借地上の建物は存立基盤を失い、買受人は、建物を収去し、土地を明け渡さなければなりません。これでは借地上の建物を競落する人はあらわれず、競売の実効性が失われてしまいます。

そこで、借地借家法20条では、競売による買受人が借地上の建物を取得後に、裁判所に対して、地主の承諾に代わる許可を求めることを認めています。これが「競売に伴う土地賃借権譲受許可申立事件」と呼ばれる借地非訟手続きになります。

(2)競売による賃借権譲渡の許可の要件

競売による借地権譲渡の許可を得るためには、以下の要件を満たす必要があります。

①借地上の建物の取得

競売による借地権譲渡の許可の申立てをすることができるのは、第三者が借地上の建物を競売により取得した場合です。仮登記担保権者や譲渡担保権者は、担保権を行使することにより借地上の建物を取得したとしても、「競売により取得」したとはいえませんので、地主による承諾が得られなかったとしても、裁判所に許可を求めることはできません。

なお、借地上の建物を競落した時点で、すでに借地権が存在しなかった場合には、裁判所に許可を求める利益が失われますので、申立ては却下されてしまいます。

②借地権設定者に不利になるおそれの不存在

競売による借地権譲渡の許可は、地主に不利になるおそれがない場合に認められます。地主に不利になるおそれの有無は、競売による買受人の地代支払い能力と人的信頼性の両面から判断されます。

たとえば、競落人に地代を継続的に支払う十分な資力が認められたとしても、競落人が暴力団関係者であるようなケースでは、地主との信頼関係を構築することが困難だといえますので、裁判所による許可は認められない可能性があります。

③借地権設定者が賃借権譲渡の承諾をしないこと

地主による賃借権譲渡の承諾があれば、裁判所に許可を求める必要性がありませんので、地主が賃借権譲渡の承諾をしないことも要件となります。

(3)競売による借地権の譲渡許可の際には承諾料が必要

地主が賃借権譲渡の承諾を拒んでいるにもかかわらず、裁判所が承諾に代わる許可を与えることは、地主に対して不利益を強いることになりますので、許可にあたって裁判所は、借地条件の変更や財産上の給付が命じることができるとされています。

財産上の給付としては、一般的に承諾料として借地権価格の10%相当額の支払いが命じられるケースが多いです。また、買受人には旧借地人が差し入れた敷金が引き継がれませんので、許可の条件として敷金の差し入れが命じられることもあります。

4、借地非訟手続きにより譲渡許可を求める際の注意点

借地上の建物の競落人が借地非訟手続きにより、裁判所に譲渡許可の申立てをする際には、以下の点に注意が必要です。

(1)地主の承諾に代わる許可の裁判の申立てには期間制限がある

借地上の建物の競落人が地主による借地権譲渡の許可を得ることができない場合には、裁判所に申立てをすることにより、地主の承諾に代わる許可を求めることができます。

しかし、いつまでも承諾に代わる許可の裁判の申立てができるとすると、地主の地位が不安定になることから、このような裁判の申立てには期間制限が設けられています。建物の競落人は、建物の代金を支払った後、2か月以内に地主の承諾に代わる許可の裁判の申立てをしなければなりませんので、早めに手続きを進めていくことが必要です。

(2)地主により介入権の行使がなされることもある

競落人により地主の許可に代わる裁判の申立てがなされた場合には、地主は、介入権を行使することにより競落人から建物と借地権を買い取ることが認められています。

この場合の買取価格は、裁判所の鑑定委員会の意見に基づいて裁判所が決めることになりますが、場合によっては競売代金よりも介入権の金額が下回り、競落人が不利益を被る可能性もあります。そのため、借地上の建物を競落する際には、地主による介入権の行使がなされる可能性も念頭に置いて、競落代金を検討することが大切です。

5、まとめ

借地上の建物を競売により競落すると、従たる権利である借地権も一緒に移転します。しかし、地主からの承諾がなければ、無断譲渡にあたり借地契約の解除事由となってしまいます。

そうするとせっかく競落した建物を利用することができなくなってしまいますので、地主との話し合いにより承諾を得ることができないときは、裁判所に地主の許可に代わる裁判の申立てをする必要があります。このような借地非訟手続きにあたっては、専門家である弁護士のサポートが必要になりますので、まずは弁護士に相談するようにしましょう。

ダーウィン法律事務所では、借地などの不動産案件の取り扱いに力を入れています。不動産に関するトラブルでお困りの方は、当事務所までお気軽にご相談ください。

この記事を監修した弁護士

荒川香遥
  • 弁護士法人 ダーウィン法律事務所 代表弁護士

    荒川 香遥

    ■東京弁護士会
    ■不動産法学会

    相続、不動産、宗教法務に深く精通しております。全国的にも珍しい公正証書遺言の無効判決を獲得するなど、相続案件について豊富な経験を有しております。また、自身も僧籍を有し、宗教法人法務にも精通しておりますので、相続の周辺業務であるお墓に関する問題も専門的に対応可能です。

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