違法建築の契約不適合責任と不動産仲介業者の調査・説明責任について

取引された建物が違法建築だった場合、買主は売主へ契約不適合責任を問えるのでしょうか?

建築基準法は建物の安全性や居住性などを守るための法律です。こうした規定に反するような建物は、通常建物が有すべき性質を備えているとはいえないので契約不適合責任を問えると考えるべきです。

また不動産仲介業者としても違法建築の疑いがある場合、調査や説明義務を果たさねばなりません。

この記事では違法建築の場合の契約不適合責任や不動産仲介業者の調査・説明義務について解説します。

1.違法建築や具体例

違法建築とは、建築基準法などの法令によって要求される建物の要件を満たさない建築物です。違法建築物、とも言われます。建築基準法や条例などに違反する建物と理解するとよいでしょう。

建物を建築する際には建築確認をしなければならないので通常は違法建築が発生しにくいのですが、増改築の際に違法状態となってしまうケースもよくあります。

1-1.違法建築の具体例

ひとことで違法建築といっても、さまざまなものがあります。以下ではどういったパターンの違法建築があるのかみてみましょう。
●建ぺい率や容積率がオーバーしている
●耐火建築物違反となっている
●一戸一棟式の戸建てであるにもかかわらず、隣の長屋と一緒に建築確認を受けており適式な建築確認を受けていない
●当初の建築確認申請図面と異なる施工が行われた
●建築許可を受けた用途と異なる利用方法をしている

1-2.違法建築でも売買は可能

違法建築であっても売買できないわけではありません。

取引自体は可能なので、購入した建物が違法建築だった、という事態がありえます。

違法建築を購入すると後に行政による指導を受けることとなる可能性がありますし、建て替え時や増改築時に制限があったり、取引時にローンがおりにくくなったりする問題もあります。

このように、違法建築物を購入してしまうとさまざまなデメリットを受ける可能性があるので、十分に注意が必要です。

2.違法建築と契約不適合責任

違法建築物が売買された場合、買主は売主へ契約不適合責任を問える可能性があります。

契約不適合責任とは、売買の対象物が契約目的に合致していない場合に売主が買主に対して負う責任です。

契約不適合責任が発生すると、買主は売主に対して以下のような請求ができます。

2-1.修補請求

修補請求権は、物件の抱える欠陥を修理するよう求める権利です。たとえば違法状態を是正して適法な状態に戻すよう請求できます。

2-2.代金減額請求

代金減額請求権は、欠陥によって対象物の価値が減少した分、買主が売主へ売買代金の減額を求める権利です。違法建築の場合、適法な建築物より価値が低いので、買主はその分売主へ代金の減額を求められる可能性があります。

2-3.解除

解除は契約の解除権です。物件の修補が不可能な場合や売主が対応しない場合などに買主は契約を解除できます。

2-4.損害賠償請求

買主が違法建築の購入によって損害を受けた場合、売主へ損害賠償請求ができます。ただし損害賠償請求するには売主に故意や過失が必要となります。

3.違法建築の場合、契約不適合責任が発生する

建築基準法や条例などに違反する違法建築の場合、売買されると契約不適合責任が発生するのでしょうか?

基本的には違法建築の場合、契約不適合責任が発生すると考えるべきです。特に建築基準法における、建物の安全性や居住性に関する「単体規定」に違反する欠陥がある場合、契約不適合となると考えられています。

建築関係の法令によって定められる基準は、建物の居住性や安全性を確保するための最低限を定めた内容です。買主としては当然「建物は法令の定める基準をクリアしている」と考えて契約を締結するでしょう。当事者が「違法建築でないこと」を当然の前提としているので、万一違法建築だった場合には契約目的に合致しているとはいえません。

契約書などによってはっきり「この建築物は適法建築である(違法建築ではない)」などと定めていなくても、法令を遵守している状態は契約の内容になっているといえます。

よって違法建築の取引が行われた場合には、基本的に契約不適合責任が発生すると考えましょう。

4.不動産仲介業者の調査・説明義務について

違法建築の売買が行われた場合、買主は不動産仲介業者に対しても損害賠償請求できる可能性があります。不動産仲介業者には対象物件について調査を行い、依頼者や買主に内容を説明すべき義務があるからです。

不動産仲介業者が調査や説明義務を怠って買主に損害を与えた場合、買主は不動産仲介業者に対し、債務不履行責任や不法行為責任を追及できます。

4-1.宅建業法35条1項2号との関係

宅建業法35条1項2号には、以下の内容について不動産仲介業者に説明義務を課しています。

2 都市計画法、建築基準法その他の法令に基づく制限で契約内容の別(当該契約の目的物が宅地であるか又は建物であるかの別及び当該契約が売買若しくは交換の契約であるか又は貸借の契約であるかの別をいう。以下この条において同じ。)に応じて政令で定めるものに関する事項の概要

条文上「建物が違法建築かどうか」については直接的に規定されていません。ただし売買対象の建築物が容積率違反などの違法建築の場合、不動産仲介業者は信義則上、その事実について説明義務を負うと考えられています。

4-2.売主にも説明義務がある

違法建築である事実の説明義務は、不動産仲介業者だけではなく売主にも認められます。

一般的に取引の対象となる建物は適式に建築確認を経ているのが通常で、最低限の強度が確保された物件であることが前提となっています。

それにもかかわらず建物が適法な建築確認を受けていない場合、売主は把握している事実を買主へ説明しなければなりません。

4-3.不動産仲介業者の説明義務に関する最高裁判所の判例

土地の売買が行われたケースです。建物建築後に土地の一部を売却すると容積率制限を超過してしまう違法状態となり、土地を購入した人も敷地の二重使用状態になってしまって建築確認取得に問題が生じることが予想できる状態でした。

この事例では、建築会社と銀行が「土地の一部を売却するのが困難である」と説明しなかったことが説明義務違反と認められました(最高裁平成18年6月12日)。

このように、売買契約締結時には違法建築でなくても、将来の土地売買によって違法建築状態となってしまうケースもあります。そういったことが予想される場合にも、不動産仲介業者としては買主に説明をしなければなりません。

5.調査や説明義務が否定された事例

違法建築の取引が行われる場合でも、必ずしも不動産仲介業者に説明義務が課されるとは限りません。事案ごとの個別事情により、説明義務が否定されるケースもあります。

たとえば以下の事例では、不動産仲介業者の説明義務が否定されました。

●東京地裁平成25年3月6日

建物建築時には車庫があって容積率の緩和を受けていたけれども、売買契約当時には車庫がなくなっていたため増改築や再建築の場合には今の建物と同等の建物を建てられなかったケースです。建ぺい率についても、測量によって違反状態であることが確認されていました。なお買主は複数の中古不動産を購入して不動産賃貸業を営む法人で、特に不動産仲介業者などに質問をして答えを求めることはしませんでした。

このケースにおいて裁判所は、不動産仲介業者の説明(増改築や再建築の際には今と同規模の物件を建築できない可能性がある)によって買主が容積率違反について認識できたはずなどの理由により、不動産仲介業者によるそれ以上の調査・説明義務を否定しました。

契約不適合責任については弁護士までご相談ください。

違法建築が売買されるケースは意外とあるものです。トラブルに巻き込まれてしまったとき、スムーズに解決するには法律の専門知識が必要となるでしょう。契約不適合責任や不動産仲介業者の責任についてご不明な点がありましたら、お気軽にダーウィン法律事務所の弁護士までご相談ください。ダーウィン法律事務所では、東京都新宿区四谷と東京都立川市にオフィスを構えております、埼玉、神奈川、千葉からのご相談も広く受け付けております。

この記事を監修した弁護士

荒川香遥
  • 弁護士法人 ダーウィン法律事務所 代表弁護士

    荒川 香遥

    ■東京弁護士会
    ■不動産法学会

    相続、不動産、宗教法務に深く精通しております。全国的にも珍しい公正証書遺言の無効判決を獲得するなど、相続案件について豊富な経験を有しております。また、自身も僧籍を有し、宗教法人法務にも精通しておりますので、相続の周辺業務であるお墓に関する問題も専門的に対応可能です。

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