共有不動産を不法占拠された場合の対処法をわかりやすく解説

共有不動産が第三者により不法占拠されている状態では、共有者自ら不動産を利用することができず、賃貸物件であれば新たな借り手を見つけることもできません。このような第三者による不法占拠があった場合には、不法占拠者に対する明け渡し請求により問題の解決を図ることができます。

今回は、第三者により共有不動産を不法占拠された場合の対処法について、わかりやすく解説します。

1、不法占拠とは

不法占拠とは、正当な占有権限がないにもかかわらず、不動産を占有している状態をいいます。たとえば、賃貸借契約が終了したにもかかわらず、賃借人が賃貸物件に居座っているケース、第三者が勝手に資材置き場として土地を利用しているケースなどが不法占拠の例として挙げられます。

不法占拠は、刑法上の不動産侵奪罪(刑法235条の2)に該当する可能性もありますが、悪質な事案を除いては、基本的には警察は介入してくれません。そのため、共有不動産を第三者により不法占拠された場合には、共有者が民事上の手続きによって解決する必要があります。

2、共有者は単独で明け渡し請求が可能

共有不動産が不法占拠された場合には、共有者が不法占拠者に対して明け渡し請求をすることができます。

(1)不法占拠者に対する明け渡し請求は保存行為

共有不動産に関する事項については、決定しようとする行為の内容によって、必要な共有者の同意が異なってきます。
●変更行為、処分行為……共有者全員の同意が必要
●管理行為……共有者の持分価格の過半数の同意が必要
●保存行為……各共有者が単独で行える

不法占拠者に対する明け渡し請求は、上記の分類のうち「保存行為」に該当しますので、各共有者が単独で行うことが可能です。保存行為とは、共有不動産の物理的な現状を維持し、他の共有者に不利益を及ぼさない性質の行為をいいます。共有不動産が不法占拠されている状態を放置していると、共有不動産の有効活用が困難になり、共有者全員の不利益となります。共有不動産の明け渡し請求は、共有者全員のメリットになる行為ですので、共有者による単独での請求が認められています。

(2)占有者が共有者の場合には明け渡し請求はできない

共有不動産を占有しているのが第三者ではなく、共有者であった場合には明け渡し請求はできるのでしょうか。

共有者には、共有持分があり、持分割合に応じて共有不動産の全部を使用する権利が認められています。他の共有者に比べて少ない持分割合だったとしても、共有不動産全体を使用できることには変わりありませんので、原則として、共有者に対する明け渡し請求は認められません。

このように占有者が第三者であるか共有者であるかによって、結論が変わってきますので、その点を誤解しないように注意してください。

3、不法占拠者への明け渡し請求の方法と流れ

不法占拠者によって共有不動産が占有されている場合には、以下のような方法によって、明け渡し請求を行います。

(1)不法占拠者との交渉

共有不動産に不法占拠者がいる場合には、すぐに訴訟提起することもできますが、まずは不法占拠者との交渉により明け渡しを求めるのが基本となります。訴訟では、解決するまでに時間と労力を要することになりますので、話し合いで解決できるのであればその方が時間も労力も節約することができるからです。

不法占拠者が話し合いに応じるようであれば、期限を定めて任意の明け渡しを求めていきましょう。いきなり明け渡しを求めても転居先の確保などが困難で明け渡しには応じられません。不法占拠者だからといって、強硬な姿勢で対応してしまうと、相手も態度を変えて、交渉に応じてくれない可能性もあります。うまく交渉をまとめるには、明け渡し期限の猶予や損害金の一部免除などの交渉材料を使うのがコツです。

不法占拠者との間で、共有不動産の明け渡しの合意ができた場合には、明け渡し期日、残置物の処分、損害金の支払いなどについての事項を定めた合意書を残しておくようにしましょう。

(2)占有移転禁止の仮処分

不法占拠者との交渉では、明け渡しの合意に至らなかった場合には、裁判所に明け渡し請求訴訟の提起の前に、占有移転禁止の仮処分の申立てが必要になります。

占有移転禁止の仮処分とは、占有を他人に移転させることを禁止し、占有が移転されたとしても元の占有者に対して明け渡し請求ができるようにする手続きです。不法占拠者への明け渡し請求が裁判で認められたとしても、裁判手続き中に不法占拠者が第三者に占有を移してしまうと、新たな占有者に対して改めて裁判を起こさなければならず、元の裁判はすべて無駄になってしまいます。

このような事態を防ぐためにも、占有移転禁止の仮処分が必要です。

(3)明け渡し請求訴訟の提起

占有移転禁止の仮処分が認められた後は、共有不動産の明け渡し請求訴訟を提起します。

明け渡し請求訴訟では、共有者が共有不動産に関する権利を有していることおよび不法占拠者により共有不動産が占有されていることの主張立証が必要になります。不法占拠者を相手にする裁判では、不法占拠者が争ってくることが少ないため、一般的な民事裁判に比べると簡単な裁判であることが多いといえます。

共有者の請求が裁判所に認められた場合には、不法占拠者への明け渡しを命じる判決が言い渡されます。

(4)強制執行の申立て

不法占拠者への明け渡しを命じる判決が確定したとしても、不法占拠者が任意で共有不動産を明け渡してくれない場合には、強制執行の申立てが必要になります。

強制執行の申立てを行うと、催告日が決められ、執行官が当該物件に赴いて明け渡しの催告が行われます。期限内に明け渡しが行われない場合には、執行官が執行補助者とよばれる業者を連れて物件に赴き、荷物を強制的に排除して、明け渡しが完了となります。

4、不法占拠者への明け渡し求める際の注意点

共有不動産の不法占拠者に対して明け渡しを求める場合には、以下の点に注意が必要です。

(1)自力救済は禁止

不法占拠者は、正当な占有権限なく共有不動産を占有していることから、裁判という面倒な手続きによらず強制的に追い出してしまえばよいと考える方も少なくありません。

しかし、正当な権利者であっても、裁判などの適切な手続きを行うことなく、実力行使により権利の実現をすることは禁止されています。これを「自力救済禁止の原則」といいます。

そのため、共有建物を不法占拠する元賃借人を追い出すために、勝手に鍵を開けて荷物を運び出してしまうと、元賃借人から損害賠償請求をされるリスクが生じます。また、このような行為は、住居侵入罪や器物損壊罪に問われるリスクもあります。

そのため、不法占拠者だからといって、実力行使により追い出すのは避けて、必ず、法的手続きにより問題の解決を図るようにしましょう。

(2)強制執行には多額の費用がかかる

明け渡しを命じる判決が確定しても任意に明け渡しをしない不法占拠者に対しては、強制執行の申立てが必要になります。この強制執行には、多額に費用がかかるという点にも注意が必要です。

強制執行をするためには、裁判所への予納金、鍵の解錠にかかる費用、荷物の搬出にかかる費用、荷物の保管にかかる費用、荷物の廃棄処分費用などさまざまな費用がかかります。荷物の量にもよりますが、執行費用として数十万円から100万円以上の費用がかかることもあります。

これらの費用は、明け渡しを求める共有者が負担しなければなりません。

(3)不法占拠者への損害賠償請求も可能

不法占拠者は、共有不動産を占有することによって不当に利益を得ていますので、共有者は、不法占拠者に対して、損害賠償請求または不当利得返還請求をすることができます。そのため、共有不動産の明け渡し請求をするときは、損害賠償請求も一緒に行うとよいでしょう。

5、まとめ

共有不動産が不法占拠者によって占有されている場合には、各共有者は、自らの共有持分に基づいて、単独で明け渡し請求をすることができます。不法占拠者への明け渡し請求をする際には、実力行使による追い出しは禁止されていますので、不法占拠者との交渉、明け渡し請求訴訟、強制執行などの正当な手続きにより権利を実現していくようにしましょう。

ダーウィン法律事務所では、共有不動産の取り扱いに力を入れています。共有不動産についてお悩みがある方は、当事務所までお気軽にご相談ください。

この記事を監修した弁護士

荒川香遥
  • 弁護士法人 ダーウィン法律事務所 代表弁護士

    荒川 香遥

    ■東京弁護士会
    ■不動産法学会

    相続、不動産、宗教法務に深く精通しております。全国的にも珍しい公正証書遺言の無効判決を獲得するなど、相続案件について豊富な経験を有しております。また、自身も僧籍を有し、宗教法人法務にも精通しておりますので、相続の周辺業務であるお墓に関する問題も専門的に対応可能です。

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