共有不動産は売却できる?共有不動産を売却する方法や注意点を解説

共有名義の不動産をお持ちの方の中には、「どのように売却すればよいのだろうか」とお悩みの方もいるかもしれません。一つの不動産を複数人で所有している場合には、一人で所有している場合に比べて、不動産の売却にあたってさまざまな制約を受けることになります。

スムーズに不動産の売却を進めるためにも、共有不動産を売却する方法を理解しておくことが大切です。

今回は、共有不動産を売却する方法や注意点などを解説します。

1、共有名義の不動産とは

共有名義の不動産とは、複数人で不動産を所有(共有)している状態をいいます。たとえば、夫婦でマイホームを購入する場合や遺産である土地を相続人が共有分割で相続する場合などに、共有名義の不動産が生じます。

共有名義の不動産では、共有者が共有持分に応じた権利・義務を有しており、各共有者は、それぞれ共有物全部を使用する権利を有しています。そのため、共有者は、共有持分の範囲でしか、共有不動産を利用できないというわけではありませんので注意が必要です。

2、共有不動産を売却する方法

共有不動産を売却する場合には、以下のような方法で行います。

(1)共有者全員の同意を得て共有不動産を売却

共有不動産を売却することを、「共有物の変更・処分行為」といいます。民法では、共有物の変更・処分をするためには、共有者全員の同意が必要であると定められています(民法251条1項)。そのため、共有不動産を売却するには、自分以外の共有者全員の同意を得る必要があります。

共有者全員が共有不動産の売却に納得している場合には、売却することはそれほど難しくはありません。しかし、共有者の人数が多かったり、連絡が取れない共有者がいたり、一部の共有者が売却に反対しているようなケースでは、全員の同意を得たうえで、共有不動産を売却するのは難しいといえます。

(2)自分の共有持分のみを売却

共有者が有する共有持分も一つの権利として売買の対象になります。共有不動産全体を売却するには、共有者全員の同意が必要になりますが、共有持分の売却であれば他の共有者の同意・不同意にかかわらず、共有者が単独で売却することが可能です。

ただし、不動産の購入する人の多くは、完全な所有権の取得を希望していますので、共有持分のみの売却では、一般の買い手が見つからないことが多いです。共有持分の買い取りに応じてくれるのは、多くの場合、専門の買い取り業者に限られてしまい、売却価格も相場よりも低い金額になってしまいますので注意が必要です。

(3)他の共有者に共有持分を買い取ってもらう

共有持分を第三者に売却するのではなく、他の共有者に自分の共有持分を買い取ってもらうという方法もあります。他の共有者が共有持分を買い取り、完全な所有権を取得することができれば、単独で不動産を利用または処分することも可能となりますので、他の共有者にとってもメリットのある方法です。

他の共有者が共有不動産全体の売却に反対する理由が、現在当該不動産を利用しているという理由である場合には、他の共有者の資力次第では、共有持分の買い取りに応じてくれる可能性があります。

3、共有不動産を売却する流れと必要書類

共有不動産全体を売却する場合には、一般的に、以下のような流れで進めていきます。

(1)共有者全員を把握する

共有不動産を売却する際には、まずは、誰が共有者であるかを把握することが大切です。

共有名義の不動産の場合、共有者の死亡により相続が発生するなどして、知らないうちに共有者が増えていることもあります。共有不動産に関する権利関係をあらかじめ正確に把握しておかなければ、後になって新たな共有者が発覚し、売却手続きが最初からやり直しになってしまうリスクもありますので注意が必要です。

共有者が誰であるかは、不動産の登記事項証明書を取得することで確認することができます。不動産の登記事項証明書は、最寄りの法務局で取得することができますので、共有不動産の売却を決意したら、まずは法務局に行くようにしましょう。

(2)共有者全員を説得し、売却の同意を得る

共有不動産全体を売却するためには、共有者全員の同意が必要になります。不動産の共有者が誰であるかを把握したら、次は、各共有者に連絡をして、共有不動産の売却をしたい旨伝えます。

共有者が親族であれば連絡もしやすいですが、面識のない他人であった場合には、突然、不動産売却の提案の連絡が来ても警戒されてしまうおそれもあります。その場合には、不動産業者や弁護士に依頼して、他の共有者に連絡をしてもらうというのも有効な手段となります。

また、不動産売却にあたっては、以下のような費用が生じます。
●仲介手数料
●測量費
●抵当権抹消費用
●登録免許税
●印紙税
●譲渡所得税

このような費用負担についてもあらかじめ共有者同士で話し合いをして、決めておかなければ、後日トラブルになるおそれもあります。費用負担の方法としては、各共有者の持ち分割合に応じて負担するというのが一般的です。

(3)不動産業者に売却の仲介を依頼する

個人では買い手を見つけることが困難ですので、不動産の売却をする際には、不動産業者に売却の仲介を依頼するのが一般的です。不動産業者に売却の相談をすると、不動産の売却価格を決めるために、不動産の査定が行われます。適切な売却価格を決めるためにも、複数の不動産業者に査定を依頼するのがおすすめです。

なお、不動産の価値を正確に査定するためにも、以下の書類を準備しておくとよいでしょう。
●権利証、登記識別情報
●固定資産税評価証明書、固定資産税納税通知書
●土地測量図
●登記事項証明書
●購入時の売買契約書、重要事項説明書

(4)共有者全員が契約に立ち会う

不動産業者の売却活動の結果、共有不動産の買い手が見つかった場合には、売主である共有者と買主との間で不動産売買契約を締結します。

売買契約の際には、以下のような書類が必要になります。
●共有者全員の印鑑証明書
●共有者全員の実印
●本人確認書類
●住民票(登記上の住所と現在の住所が異なる場合)

また、契約締結時には、共有者全員が立ち会い、契約書に署名・押印する必要があります。遠方に居住していたり、仕事の都合で立ち会うことができないという場合には、委任状を作成し、代理人に共有不動産の売却を任せることも可能です。

(5)売却代金を共有持分に応じて分配する

共有不動産の売却代金は、共有者の共有持分に応じて、各共有者に分配します。その際には、不動産売却にかかった仲介手数料などの費用を控除した上で、各共有者に支払いを行います。

4、共有不動産を売却する際の注意点

共有不動産を売却する際には、以下の点に注意が必要です。

(1)一部の共有者が売却に反対している場合には共有物分割請求を検討

共有不動産を売却するためには、すべての共有者の同意が必要になります。共有持分の売却もできず、他の共有者も持分の買い取りに応じてくれないという場合には、「共有物分割請求」を検討しましょう。

共有物分割請求とは、共有不動産の共有状態を解消する手続きです。不動産が共有状態になると、不動産の利活用が制約されたり、相続の発生により権利関係が複雑化するなどさまざまなデメリットが生じます。このようなデメリットや将来のトラブルを解消するためにも、共有不動産をお持ちの方は、早めに共有物分割請求を検討することをおすすめします。

なお、共有物分割請求には、主に以下の3つの方法があります。
●共有者同士の話し合い
●共有物分割請求調停の申立て
●共有物分割請求訴訟の提起

どのような方法で共有物分割請求を進めるのが最適であるかを判断するためにも、まずは、専門家である弁護士に相談するようにしましょう。

(2)不動産の売却後は確定申告が必要

共有不動産を売却した場合には、その後、確定申告が必要になるケースがある点に注意が必要です。

共有不動産を売却して利益が出た場合には、「譲渡所得」として所得税や住民税が発生しますので、確定申告が必要になります。また、共有不動産の売却で利益が出なかったとしても、譲渡損失の繰越控除や買い替え特例などの制度を利用する場合には、確定申告が必要になります。

確定申告が必要なケースであるにもかかわらず、確定申告を怠った場合には、無申告加算税や延滞税などのペナルティが課されることになりますので、忘れずに行うようにしましょう。

5、まとめ

不動産を単独所有しているケースに比べ、不動産を共有している場合には、不動産の売却にあたってさまざまな制約が生じます。他の共有者の同意が得られなければ、原則として、共有不動産の売却をすることはできません。

このような場合には、共有物分割請求を行うことによって、共有状態の解消を行うことができる可能性があります。共有物分割請求をするにあたっては、不動産に関する専門的知識や経験が不可欠となりますので、専門家である弁護士に依頼することがおすすめです。

ダーウィン法律事務所では、共有不動産の取り扱いに力を入れています。共有不動産についてお悩みがある方は、当事務所までお気軽にご相談ください。

この記事を監修した弁護士

荒川香遥
  • 弁護士法人 ダーウィン法律事務所 代表弁護士

    荒川 香遥

    ■東京弁護士会
    ■不動産法学会

    相続、不動産、宗教法務に深く精通しております。全国的にも珍しい公正証書遺言の無効判決を獲得するなど、相続案件について豊富な経験を有しております。また、自身も僧籍を有し、宗教法人法務にも精通しておりますので、相続の周辺業務であるお墓に関する問題も専門的に対応可能です。

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