高齢化社会の進行に伴い、今後も認知症になる高齢者の数も増えていくことが予想されます。そうすると、不動産の共有者のうちの一人が認知症になってしまうケースも増えてくるかもしれません。共有不動産は、それだけでも単独所有の不動産に比べて管理や処分が大変にもかかわらず、共有者が認知症になってしまうとさらに問題が複雑になります。
共有者の一人が認知症になってしまった場合には、他の共有者はどのように対応すればよいのでしょうか。
今回は、共有不動産の共有者の一人が認知症になってしまった場合の問題とその対処法について、わかりやすく解説します。
目次
認知症には、物忘れが多くなるという軽度の認知症から身近な人が誰であるかわからないという重度の認知症までさまざまな程度があります。重度の認知症になってしまった場合には、自分の行為の結果を判断することができませんので、法的には意思能力がないと判断されます。
法律行為をするためには意思能力が必要になりますので、重度の認知症になってしまった場合には、法律行為を行うことができなくなってしまいます。不動産の売買や賃貸といった行為も法律行為に含まれますので、共有不動産の共有者の一人が認知症になってしまうと、共有不動産の売却や賃貸ができなくなるという問題が生じます。
たとえば、親が認知症になり施設に入れるための資金を得るために、実家の土地を売却しようと思っても、共有者の一人である親が認知症になっていれば、それもできません。
認知症の共有者がいる場合には、以下のような方法により共有不動産の処分などが可能になります。
成年後見制度とは、認知症、精神障害、知的障害などの理由で判断能力が十分でない人の財産管理や身上監護をサポートする制度です。成年後見制度には、本人の状態に応じて、以下の3つの制度があります。
後見……判断能力が欠けている状態
保佐……判断能力が著しく不十分な状態
補助……判断能力が不十分な状態
成年後見制度を利用すると裁判所によって選任された後見人、保佐人、補助人が本人に代わって、財産管理や法律行為などを行うことになります。そのため、重度の認知症により意思能力がない共有者がいたとしても、その人に代わって後見人が売買などの手続きを行ってくれます。これにより認知症の人がいたとしても共有不動産の処分が可能になります。
後述するとおり成年後見人制度を利用した場合には、原則として本人が死亡するまで後見業務が続きます。共有者としては、共有不動産の売却ができればよいという考えですので、そこまで負担が生じるとなれば成年後見制度の利用を躊躇してしまいます。
そのような場合には、裁判所に共有物分割請求訴訟を提起して、認知症の共有者については特別代理人を選任するという方法も考えられます(民事訴訟法35条1項)。特別代理人とは、訴訟行為に対応するために一時的に選ばれる法定代理人のことをいいます。特別代理人は、成年後見人と同様に認知症になった本人の代理人として、訴訟行為を行うことができますので、共有物分割請求訴訟により共有状態の解消を図ることが可能です。
ただし、特別代理人を選任する要件の一つに「遅滞のため損害を受けるおそれがあること」という要件があります。共有者のなかに認知症となった共有者の親族がいる場合には、その人により容易に成年後見人の選任申立ができますので、特別代理人の選任は否定される可能性があります。
共有者に認知症の人がいて、成年後見制度の利用をする場合には、以下の点に注意が必要です。
共有者としては、共有不動産を売却するために成年後見制度の利用を考えているかもしれませんが、成年後見人が選任されると原則として本人が死亡するまで後見業務が継続することになります。当初の目的である共有不動産の売却が終わったとしても、成年後見人を解任することはできませんので注意が必要です。
親族が後見人になる場合には、報酬請求をしないケースも多いですが、弁護士や司法書士などの専門職が後見人になる場合には、本人の財産から後見報酬の支払いが必要になります。
後見人への報酬額は、後見業務の内容や本人の資産内容によって変わってきますが、月額2~6万円程度の費用が発生する可能性があります。
後見業務が20~30年も続くと、後見人に支払う報酬額も高額になり、本人の財産が目減りしてしまうというデメリットが生じます。
成年後見人選任申立ての際には、申立人の側で申立書に後見人候補者を記入することができます。しかし、誰を後見人にするかは最終的には裁判所が判断しますので、必ずしも後見人候補者から選任されるとは限りません。
本人の資産内容や予定している後見業務の内容から親族後見人では不適切だと判断される場合には、弁護士や司法書士といった専門職後見人が選任される可能性もあります。
裁判所によって成年後見人が選任された後は、後見人との間で共有不動産の売却などの話し合を進めていくことになります。
しかし、後見人が選任されたとしても不動産の売却などの財産処分については、原則として家庭裁判所の許可が必要になります。売却金額や売却金額の分配方法が被後見人(認知症の共有者)にとって、不利な内容である場合には裁判所の許可は下りないでしょう。
認知症になる前であれば、共有者全員が同意していれば、どのような方法でも可能でしたが、後見人が選任された後は不平等な内容での共有状態の解消は認められません。
高齢の共有者がいる場合には、認知症になる前の事前の対策も有効な手段となります。
共有者の一人が認知症になってしまうと共有不動産の売却は、著しく困難になりますので、認知症になる前に早めに共有不動産の売却を進めるようにしましょう。
共有不動産は、管理や処分が面倒などの理由から長期間放置された状態になっていることが多いです。そのままの状態では、建物の老朽化や塀などの倒壊のリスクが生じたり、草木が生い茂ることによる近隣への迷惑が生じる可能性があります。共有不動産を放置すればするほどそのようなリスクは高くなりますので、早めに共有状態の解消に向けて動き出すことが重要です。
自分だけでは、共有不動産の売却に向けた交渉が進まないという場合には、専門家である弁護士のサポートを受けながら進めていくとよいでしょう。
共有不動産の売却にあたっては、共有者全員の同意が必要になります。共有者のうち一人でも売却に反対している人がいる場合には、共有不動産の売却はできません。
そのような場合には、自分の共有持分を他の共有者または第三者に譲渡することで、不動産の共有関係から離脱することが可能です。まずは、他の共有者に共有持分の買い取りに応じてほしい旨打診し、買い取りに応じてくれない場合には、共有持分の買い取りを専門にしている不動産業者に相談してみるとよいでしょう。
高齢の共有者から共有持分の贈与を受けることで、将来認知症により共有不動産の処分ができなくなるリスクを回避することができます。
ただし、共有持分の贈与を受ける場合には、受贈者に贈与税が課税される場合がありますので注意が必要です。贈与税には、基礎控除がありますので、年間110万円を超える贈与があった場合には、超える部分に対して贈与税が課税されます。
共有持分に信託を設定することで、所有者と管理者を分けることができ、認知症による管理不能状態を解消できます。
高齢化社会の進行により、共有者が認知症になるというケースも増えてくることが予想されます。共有者が認知症になってしまうと、成年後見制度などを利用しなければ共有不動産の売却ができなくなり、非常に手間がかかります。このような負担を少しでも軽減するためにも、早めに共有状態の解消に向けて動くことが大切です。
共有不動産をお持ちの方で共有状態の解消をお考えの方は、まずは、弁護士に相談することをおすすめします。ダーウィン法律事務所では、不動産に強い弁護士が、共有不動産の取り扱いに力を入れています。共有不動産についてお悩みがある方は、当事務所までお気軽にご相談ください。