共有不動産が差押えられたらどうなる?強制執行の影響と対処法を解説

借金の返済ができないと債権者から債務者が所有している不動産を差押えられることがあります。では、債務者が所有している不動産が債務者の単独所有ではなく、共有不動産であった場合にはどうなるのでしょうか。

この場合には、債務者の共有持分が差し押さえられ、競売にかけられてしまいますので、他の共有者にも少なからず影響が生じます。

今回は、共有不動産が差し押さえられてしまった場合の影響とその対処法について解説します。

1、共有不動産の強制執行とは

共有不動産の強制執行とは、どのようなものなのでしょうか。

(1)強制執行とは

強制執行とは、債務者が債務の履行をしてくれない場合に、債務名義などを有する債権者からの申立てにより、裁判所が強制的に権利の実現を行う手続きのことをいいます。たとえば、お金を貸しているにもかかわらず、債務者が期限までに返済をしてくれないという場合には、債務者の財産(預貯金、給料、不動産など)を差押えて強制的に貸したお金の回収を行うことができます。

(2)共有不動産では共有者の持分が差し押さえられる

債務者が所有している不動産が単独所有であれば、不動産全体が差押えの対象になります。しかし、共有不動産であった場合には、債務者の財産は、あくまでも共有持分の部分に限られますので、強制執行による差押えの対象は、債務者の共有持分となります。

「共有持分を差押えても意味があるの?」と思う方もいるかもしれませんが、共有持分も独立した権利であり、金銭的な価値がありますので、差押えの対象になります。

2、共有不動産が強制執行されるケース

共有不動産が強制執行されるケースとしては、以下の3つのケースが考えられます。

(1)抵当権に基づく強制執行

共有不動産の共有持分に抵当権が設定されている場合には、抵当権に基づいて強制執行を行うことができます。これを「担保不動産競売」といいます。

たとえば、住宅ローンの借り入れをする際には、不動産に抵当権を設定しますが、債務者が住宅ローンの返済ができなくなると金融機関は抵当権を実行し、競売によって得た代金から未払いの住宅ローンを改修することができます。

抵当権に基づく強制執行は、後述する一般債権者による強制執行とは異なり、債務名義が不要という特徴があります。

(2)一般債権者による強制執行

一般債権者が債務者の財産である共有不動産を差押えるためには、まずは債務名義を取得する必要があります。債務名義とは、債権の存在とその範囲を公的に証明した文書のことをいい、以下のようなものが挙げられます。
●確定判決
●仮執行宣言付判決
●和解調書
●調停調書
●執行認諾文言付公正証書
●仮執行宣言付支払督促

たとえば、債務者が借金を滞納している場合、債権者は、裁判所に訴訟を提起し、支払いを命じる判決をもらいます。そして、判決が確定後、それを債務名義にして債務者の財産を差押え、競売にかけます。このような一般債権者による競売を「強制競売」といいます。

(3)税金などの滞納処分

債務者が税金や各種保険料などを滞納していると、国や地方自治体により滞納処分が行われます。滞納処分とは、税金などを滞納している人の意思にかかわらず、滞納している税金などを徴収するために、財産の差押えや差し押さえた財産の公売を行い、強制的に回収する手続きです。
一般債権者による強制執行のように債務名義の取得は必要ありませんので、税金などの滞納があれば直ちに滞納処分による差押えが可能です。

3、共有不動産が強制執行された場合の影響

共有不動産の共有持分が差し押さえられてしまった場合には、どのような影響が生じるのでしょうか。

(1)他の共有者には原則として影響はない

共有者の共有持分が差し押さえられたとしても、差押えや競売(公売)の対象になるのは、あくまでも共有者の共有持分に限られます。他の共有者の持分や共有不動産全体を差押えられるわけではありませんので、ご安心ください。

また、競売により共有持分が落札されたとしても、落札者から共有不動産の明け渡しを求められるということもありません。そのため、共有持分が差し押さえられたとしても、基本的には、他の共有者には影響は生じないといえるでしょう。

ただし、競売によりまったく知らない第三者との共有状態になりますので、今後の共有不動産の管理や処分がやりづらくなるという面はあるかもしれません。

(2)落札者から持分の買い取りや譲渡を求めてくる

競売物件を落札するのは、不動産業者だけでなく一般の方もいます。相場よりも安く不動産を手に入れることができますので、一般の方でも競売を利用するケースは少なくありません。

もっとも、共有持分が競売の対象になった場合には、落札するのは不動産業者がほとんどです。なぜなら、一般の方は自分で利用するために競売物件を落札するところ、共有持分を落札しただけでは、完全な所有権ではないため、自由な利用が制限されてしまうからです。

では、なぜ不動産業者は、競売で共有持分を落札するのでしょうか。
それは、他の共有者との交渉により落札した共有持分の買い取りや譲渡により利益を上げようとするからです。相場よりも安く手に入れた共有持分を共有者に高く売りつけることができれば利益になりますし、他の共有者から共有持分を取得して、完全な所有権として売りに出すことができれば、さらに多くの利益を上げることができます。

そのため、不動産業者との煩わしい交渉に巻き込まれるという影響が生じるといえます。

(3)共有物分割請求をされる

共有者が共有持分を手放さない場合には、共有持分を落札した不動産業者は、完全な所有権を取得することができません。そのまま共有持分を持っていたとしても意味はありませんので、共有者との交渉により解決できないと考えると、裁判所に共有物分割請求訴訟を提起する可能性があります。

共有物分割請求訴訟とは、共有状態を解消するための裁判手続きであり、裁判所が以下の方法から共有不動産の適切な分割方法を決定してくれます。
●現物分割
●賠償分割
●競売分割

そのため、共有不動産の強制執行により、将来面倒な裁判手続きに付き合わされる可能性が生じます。

4、共有者の持分が差し押さえられたときの対処法

共有者の持分が差し押さえられた場合に共有者ができる対処法としては、以下のものが挙げられます。

(1)共有者の持分を自分で落札する

共有持分の競売には、他の共有者も参加することができます。競売にかけられる物件は、相場よりも安い価格設定になっていますので、共有不動産に今後も住み続けるという場合には、競売にかけられている共有持分を取得するというのも有効な手段です。

共有持分を落札して完全な所有権にすることができれば、共有不動産としての管理や処分で煩わされることもありませんし、将来売却する際も自由に売却することが可能です。

(2)落札者と共同で共有不動産を売却する

共有不動産を手放す予定であるという場合には、共有持分を落札した落札者に連絡をして、一緒に共有不動産の売却を進めるとよいでしょう。

共有持分だけの売却だと、買い手がつかなかったり、著しく低い金額でしか売れないケースが多いですが、共有不動産全体の売却となれば相場での売却が見込めます。落札者は、多くの場合不動産業者ですので、売却交渉も容易でしょう。

(3)共有持分の買い取りまたは譲渡に応じる

共有持分を落札した不動産業者から共有持分の買い取りを打診された場合には、それに応じるというのも一つの手です。

共有持分を持ち続けていても、共有者全員の同意がなければ売却できず、世代交代により権利関係が複雑化するなどさまざまなデメリットがあります。この機会に共有持分を手放してしまえば、そのような煩わしさからは解放されるといえます。買い取り金額については、交渉の余地はありますが、共有持分を持ち続けることにこだわりがないのであれば、共有持分を手放すことも検討してみるとよいでしょう。

5、まとめ

共有者の持分が差し押さえられてしまうと「自分にも何か影響が生じるのではないか」と心配になる方も多いでしょう。しかし、基本的には、差押えの対象は共有者の共有持分に限られますので、他の共有者に影響が生じることはありません。

むしろ、共有持分を落札した不動産業者との交渉により、自分の共有持分を手放すことができるよい機会になるかもしれません。共有不動産にはさまざまな問題が生じますので、どのように対応すればよいか不安な方は、まずは弁護士に相談することをおすすめします。

ダーウィン法律事務所では、不動産に強い弁護士が、共有不動産の取り扱いに力を入れています。共有不動産についてお悩みがある方は、当事務所までお気軽にご相談ください。

この記事を監修した弁護士

荒川香遥
  • 弁護士法人 ダーウィン法律事務所 代表弁護士

    荒川 香遥

    ■東京弁護士会
    ■不動産法学会

    相続、不動産、宗教法務に深く精通しております。全国的にも珍しい公正証書遺言の無効判決を獲得するなど、相続案件について豊富な経験を有しております。また、自身も僧籍を有し、宗教法人法務にも精通しておりますので、相続の周辺業務であるお墓に関する問題も専門的に対応可能です。

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