他人に貸している不動産を共有している場合、不動産の管理方法について共有持分者間で調整が必要になります。たとえば賃料増額請求や借地権の譲渡承諾を行う場合、どの範囲の共有持分権者の合意が必要となるのでしょうか?
この記事では他人に共有不動産を貸している場合の管理方法について、前回に引き続いて弁護士がお伝えします。
なお1回目の記事は「他人に貸している不動産を共有している場合の管理についてその1」をご参照ください。
目次
賃借人から賃借権の譲渡の承諾を求められたら、賃貸人としては承諾するかどうかを決めなければなりません。無視していると、賃借人から裁判で賃借権の譲渡承諾に代わる許可を求められてしまう可能性もあります。
不動産を共有している場合に賃借権の譲渡を承諾する場合、共有持分のどのくらいの割合による賛成が必要となるのでしょうか?
共有物に関する意思決定を要する事項は以下の3種類に分けられます。
●保存行為
物件の現状を保存するための行為です。各共有持分権者が単独でできます。
●管理行為
物件を管理するための行為です。共有持分の過半数をもって決する必要があります。なお共有持分権者の過半数(人数)ではなく「共有持分の過半数」が必要なので、間違えないように注意しましょう。
●変更行為
物件を処分、変更するための行為です。共有持分権者全員の合意が必要です。
賃借権の譲渡承諾は、基本的に「管理行為」と理解されています(東京地判平成8年9月18日)。
よって賃借権の譲渡承諾は、共有持分の過半数の合意があればできます。
共有者全員の承諾までは必要ありません。
賃借権の譲渡が承諾されるには、過半数の共有持分権者の合意が必要です。しかしときには過半数の合意がないのに各共有持分権者が勝手に譲渡承諾の通知をしてしまうケースもあります。
そんなとき、譲渡承諾していない共有持分権者はどのような主張ができるのでしょうか?
この場合、そもそも過半数の共有持分権者による譲渡承諾が行われていないので、譲渡承諾は無効です。
よって譲渡承諾を行っていない共有持分権者ができる対応としては、以下のようなものが考えられます。
●賃借権譲受人に対する明渡し請求
●賃借権譲受人との賃貸借契約の解除
また賃借権譲受人による建物買取請求への対応も必要となる可能性があります。以下でそれぞれについてみていきましょう。
賃借権の譲渡承諾をしていない共有持分権者としては、まずは賃借権の譲受人へ物件の明渡し請求する対処方法が考えられます。
そもそも賃借権の譲渡には共有持分権者の過半数の合意が必要であるにもかかわらず過半数の合意は得られていないので、譲渡は無効です。よって賃借権の譲受人は無権限で物件を占有しているといえます。
無権限の占有者を退去させるのは「保存行為」に該当するので、各共有持分権者が単独でできると解釈できます。
以上より、譲渡承諾していない共有持分権者は賃借権譲受人に対し、単独で明渡し請求できると考えるのが妥当でしょう。
ただし上記とは異なる考え方もあります。そもそも共有持分権者は、それぞれが単独で物件を使用できます。賃借権の譲受人についても同様と考えると、賃借権の譲受人は単独で物件を利用できる結論になってしまいます。すると、必ずしも退去請求が有効になるとは限りません。
現在、どちらの考え方が有効かについては統一的な見解がありません。個別具体的な判断が必要となります。
次に賃借権の譲渡承諾をしていない共有持分権者としては、賃貸借契約を解除する対処方法も考えられます。解除すれば、賃貸借契約は効力を失うので賃借権の譲受人を退去させられます。
賃貸借契約の解除は「管理行為」なので、共有持分の過半数の合意が必要です。もしも譲渡承諾をしていない共有持分権者が過半数の共有持分を取得していれば、賃貸借契約の解除ができるでしょう。一方、過半数を取得していない場合には解除はできません。
借地権が無断譲渡されて地主の承諾を得られない場合、借地権の譲受人は地主へ建物買取請求権を行使できる余地があります。
建物買取請求権を行使された場合、賃借権の譲渡を承諾していなかった共有持分権者は買取を拒否できるのでしょうか?
この点については否定的に理解されています。建物買取請求権は、地主の譲渡承諾を得られない場合に譲受人を保護し、建物を保全するために法律上認められた権利です。
地主である共有持分権者が賃借権の譲渡を承諾しないなら、建物買取請求権を行使されてもやむを得ません。承諾を拒否する共有持分権者は建物を買い取らざるを得なくなります。賃貸借契約の特約による建物買取請求権の排除もできません。
不動産を賃貸している場合、賃料を変更するケースも珍しくありません。
賃貸借契約を締結してから長い時間が経過して賃料が不相当となった場合などに、賃貸人と賃借人が話し合って賃料を改定するのです。
共有不動産を賃貸している場合、賃料改定には共有持分のどの割合の合意が必要となるのでしょうか?
一般的な賃貸借契約において、賃料改定の合意は「管理行為」と理解されています(東京地判平成14年7月16日など)。
よって基本的には共有持分の過半数を有する共有持分権者の合意があれば、賃料改定の合意ができると考えられます。
同様に、賃貸人による賃料増額請求についても管理行為と考えられています(東京地判平成28年5月25日)。賃料増額請求とは、景気や経済事情などによって従来の賃料が低すぎる状態になったときに賃貸人が賃借人へ賃料の増額を求めることです。
共有不動産の賃料を増額したい場合、共有持分権者が話し合って過半数が合意すれば、賃借人に対して有効に賃料増額請求ができます。
マスターリース契約の場合、賃料変更の合意をするときに共有持分権者の過半数の合意でできるのでしょうか?
マスターリース契約とは、不動産をマスターリース業者が一括で借り上げて、個別の賃借人へ賃貸する方法です。大家と賃借人との間にマスターリース会社が入ります。入居者は大家から見ると「転借人」となります。
マスターリース契約は、一般的には「サブリース」とよばれるケースが多いので、そちらの呼び名の方がわかりやすい方もいるでしょう。
マスターリース契約の場合、賃料の変更合意は管理行為ではなく「変更行為」となります。よって共有持分権者全員が合意しなければ、有効に賃料の変更ができません(東京地判平成14年7月16日)。
マスターリース契約では、大家の権利内容はほとんど賃料を収受する権利のみです。「唯一」ともいえる重大な権利に根本的な影響を及ぼすので、賃料変更は変更行為とみなされます。
マスターリース契約においても、賃料増額請求は賃貸人側に不利益になるものではありません。よって変更行為というほどのものではなく、管理行為と理解されています。賃料増額請求は共有持分の過半数の共有者の合意によってできます。
共有不動産の管理に際しては、さまざまなトラブルが発生するケースがあります。困ったときには、不動産の共有物分割に強いダーウィン法律事務所までお気軽にご相談ください。ダーウィン法律事務所では、東京都新宿区四谷と東京都立川市にオフィスを構えております、埼玉、神奈川、千葉からのご相談も広く受け付けております。
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