景観・眺望をめぐる近隣トラブルを徹底解説

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建物自体に欠陥がない場合であっても、近隣との関係でトラブルになることはあり得ます。一つの代表例が景観・眺望トラブルです。
新たに建物を建設しようとする際に、近隣の住民等から景観・眺望を損ねることについて抗議されるケースも考えられますし、完成された建物を売却した後に、新たに建設された建物によって景観・眺望が損なわれてしまったと抗議されるケースも考えられます。
景観・眺望は、建物自体の機能ではありませんから、現在の景観や眺望が常に法的に保護されるものとは言えません。一方で、一度、景観・眺望が損なわれてしまった場合には、従前の景観・眺望を取り戻すことはほぼ不可能となってしまいますから、できるかぎり景観・眺望トラブルのリスクは、事前に排除しておきたいところです。

1.景観・眺望に関する法律

景観や眺望について定めた法律として景観法が存在します。

景観法

(目的)
第1条
この法律は、我が国の都市、農山漁村等における良好な景観の形成を促進するため、景観計画の策定その他の施策を総合的に講ずることにより、美しく風格のある国土の形成、潤いのある豊かな生活環境の創造及び個性的で活力ある地域社会の実現を図り、もって国民生活の向上並びに国民経済及び地域社会の健全な発展に寄与することを目的とする。

(基本理念)
第2条
1項 良好な景観は、美しく風格のある国土の形成と潤いのある豊かな生活環境の創造に不可欠なものであることにかんがみ、国民共通の資産として、現在及び将来の国民がその恵沢を享受できるよう、その整備及び保全が図られなければならない。
2項 良好な景観は、地域の自然、歴史、文化等と人々の生活、経済活動等との調和により形成されるものであることにかんがみ、適正な制限の下にこれらが調和した土地利用がなされること等を通じて、その整備及び保全が図られなければならない。
3項 良好な景観は、地域の固有の特性と密接に関連するものであることにかんがみ、地域住民の意向を踏まえ、それぞれの地域の個性及び特色の伸長に資するよう、その多様な形成が図られなければならない。
4項 良好な景観は、観光その他の地域間の交流の促進に大きな役割を担うものであることにかんがみ、地域の活性化に資するよう、地方公共団体、事業者及び住民により、その形成に向けて一体的な取組がなされなければならない。
5項 良好な景観の形成は、現にある良好な景観を保全することのみならず、新たに良好な景観を創出することを含むものであることを旨として、行われなければならない。

(国の責務)
第3条
1項 国は、前条に定める基本理念(以下「基本理念」という。)にのっとり、良好な景観の形成に関する施策を総合的に策定し、及び実施する責務を有する。

(地方公共団体の責務)
第4条
地方公共団体は、基本理念にのっとり、良好な景観の形成の促進に関し、国との適切な役割分担を踏まえて、その区域の自然的社会的諸条件に応じた施策を策定し、及び実施する責務を有する。

(事業者の責務)
第5条
事業者は、基本理念にのっとり、土地の利用等の事業活動に関し、良好な景観の形成に自ら努めるとともに、国又は地方公共団体が実施する良好な景観の形成に関する施策に協力しなければならない。

(住民の責務)
第6条
住民は、基本理念にのっとり、良好な景観の形成に関する理解を深め、良好な景観の形成に積極的な役割を果たすよう努めるとともに、国又は地方公共団体が実施する良好な景観の形成に関する施策に協力しなければならない。

このように、景観法は、良好な景観が国民共通の資産であるものとしていますし、このような景観を守るために事業者や住民の責務も定めていますが、保護に値する景観の内容や、事業者や住民に課される義務の内容等について、具体的に定めているものではありません。
一方で、地方自治体は景観法が定める景観行政団体として、景観計画を定めることが可能ですし、景観に関する条例を制定することも可能で、この中で事業者に課される義務等については明確に定められています。
例えば、京都府京都市は、眺望景観創生条例を制定しており、眺望景観保全地域内における建物について、その高さやデザイン等について細かい基準を設けています。
そして、景観法には罰則規定も設けられています。

景観法

第101条
第17条第5項の規定による景観行政団体の長の命令又は第64条第1項の規定による市町村長の命令に違反した者は、1年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する。

第102条
次の各号のいずれかに該当する者は、50万円以下の罰金に処する。
1号 第17条第1項の規定による景観行政団体の長の命令又は第70条第1項の規定による市町村長の命令に違反した者
2号 第63条第1項の規定に違反して、申請書を提出せず、又は虚偽の申請書を提出した者
3号 第63条第4項の規定に違反して、建築物の建築等の工事をした者
4号 第77条第3項の規定に違反して、応急仮設建築物又は応急仮設工 作物を存続させた者

これらは景観法が定める罰則規定の一部を抜粋したものですが、例えば第101条は、良好な景観の形成のためになされた、建築物の設計の変更や必要な措置をとることを内容とする地方自治体の命令に違反した場合に、懲役刑を科すことができる旨を定めています。
賠償責任を負うだけではなく、刑事責任を負う可能性もある訳です。
したがって、景観・眺望のトラブルを避けるための大前提として、そのような条例の存否をまずは確認する必要があるものと言えます。

2.景観・眺望に関する裁判例

また、そのような条例が制定されていない地域であれば、景観や眺望に関する事項を検討しなくていいかというとそういう訳ではありません。
最高裁平成18年3月30日判決(民集60巻3号948頁 国立高層マンション訴訟上告審判決)は、「良好な景観に近接する地域内に居住し、その恵沢を日常的に享受している者は、良好な景観が有する客観的な価値の侵害に対して密接な利害関係を有するものというべきであり、これらの者が有する良好な景観の恵沢を享受する利益(以下「景観利益」という。)は、法律上保護に値するものと解するのが相当である。」と判示しています。
つまり、景観利益という利益は、法律上保護に値するものであり、この利益を不当に侵害した場合には、不法行為(民法709条)が成立する可能性があるのです。

一方で、特定の地域に居住されている方に景観利益が認められるとしても、その方がその景観や眺望を購入した訳ではありません。東京高等裁判所昭和51年11月11日決定も、眺望利益について、「誰でもこれに接しうるものであって、ただ特定の場所からの観望による利益は、たまたまその場所の独占的占有者のみが事実上これを亨受しうることの結果としてその者に独占的に帰属するにすぎず、その内容は、周辺における客観的状況の変化によっておのずから変容ないし制約をこうむらざるをえないもの」だとしています。

では、どのような場合に、景観利益を侵害する行為が不法行為となってしまうのでしょうか。上記平成18年の最高裁判例は、「その侵害行為が刑罰法規や行政法規の規制に違反するものであったり、公序良俗違反や権利の濫用に該当するものであるなど、侵害行為の態様や程度の面において社会的に容認された行為としての相当性を欠くことが求められると解する」と判示しています。

「刑罰法規や行政法規の規制に違反するもの」又は「公序良俗違反や権利の濫用に該当するもの」という内容からすると、相当に悪質な内容でなければ不法行為にならないようにも感じますが、例えば、大阪地方裁判所平成4年12月21日(判例時報1453号146頁 木曽駒高原眺望権訴訟第一審判決)は、「被告は、第二建物を建築するにあたり、原告がそれまで享受していた眺望に対し配慮せず、容易に原告に対し事前の説明をすることができるのにこれをせず、従来、この地域にみられなかった高層の第二建物を建築し、その結果、第一建物からの眺望を著しく阻害した」として、10階建てのリゾートマンションを建築した行為について不法行為を成立させています。

当時、問題となった地域には、10階建てのリゾートマンションに類する建物が建設されていなかったという事情も、不法行為を成立させた背景には認められるようですが、「公序良俗違反や権利の濫用に該当する」という要件は、軽視していいほどハードルの高いものではないと考えておいた方がいいように思います。

3.景観・眺望を侵害した場合のリスク

(1)損賠賠償

景観・眺望を侵害してしまった場合に被るリスクとしてまず考えられるのは、侵害されてしまった方から損害賠償を求められることです。
景観や眺望が侵害されることによって生じる損害は、慰謝料として計算されることが多いようです。
これは、景観や眺望が失われたことによって、従前から存在していた建物や土地などの財産的評価が下落したことについての立証が難しいことに起因しているものと思われます。

しかしながら、このような財産的価値の下落についての賠償が認められた裁判例も存在します。先ほどご紹介した平成4年の大阪地方裁判所の判決では、財産的価値の下落が認められ200万円を超える賠償が認められています。
景観・眺望を侵害されたと主張されている方が、ホテル等を営業している場合においては、営業利益が減少することなども考えられますから、賠償金額が予想以上に高額になる可能性も否定できないのです。

(2)差止・撤去

損害賠償以上のものが命じられるケースは多くありませんが、景観・眺望を従前のものに戻すためには、建設計画を見直したり、既に完成している建物の一部を撤去する必要があります。
認められるケースは多くないものの、景観・眺望が侵害されたことを理由に訴訟を提起する方の多くは、損害賠償と共に、建物の一部を撤去するように求めることが多く、このような請求が認められてしまった場合には大きな損害を被ることになります。

4.まとめ

景観・眺望の問題は、建物自体が有する欠陥以上に、法的な責任が発生するかどうかの判断が難しいものという事ができます。一方で、このような問題が生じるかどうかについては、実際に工事に着手する前の段階から、近隣の状態や建設しようとしている建物の形状等から、ある程度想定することは可能なものと思われます。
記事の中で御紹介した木曽駒高原眺望権訴訟第一審判決の中では、被告が原告に対して事前に何らの説明をしていないことを、不法行為を成立させる一つの要素として考慮されています。

事前に、問題となる建物の建設の可否に関する条例等が存在しないことについて確認することは当然として、周囲に同様の建物が存在せず、事後的に近隣住民から景観・眺望に関する苦情が想定されるようなケースにおいては、建物を完成させて後戻りができなくなる前の段階で、近隣住民に対する説明を行うかどうかについて検討することが必要と言えるでしょう。

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